※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第25話 待てない夜

 あと一日、待てばいい。

 

 電話を切ってから何度そう言い聞かせても、士郎は眠れなかった。

 

「……分かった。じゃあ、おやすみ、桜。しっかり休むんだぞ」

 

 耳の奥には、自分の声だけが残って離れない。

 

 桜はいつもどおり丁寧に答えた。

 

 けれど、静かすぎた。

 

 店を出てきた時も、今夜の電話でも、何かを飲み込んだような間があった。大丈夫だと口にするたび、逆に何かを隠しているように見えた。

 

 士郎は暗い天井を睨み、寝返りを打った。

 

「くっ……」

 

 頬と脇腹の傷が引きつれる。

 

 金曜日は学校を休み、打撲へ湿布を貼り、できる限り身体を休めた。それでも黒服に殴られた箇所はまだ熱を持ち、肩を動かせば背中まで鈍く痛んだ。

 

 桜はそんな自分を見て、謝りかけた。

 

 その桜こそ、一晩帰らず、朝に店から出てきたのだ。

 

 日曜日になれば遠坂に会えるかもしれない。

 

 桜が守ろうとしている約束を、こちらから壊すべきではない。

 

 分かっている。

 

 だが、時刻も場所も知らされていない約束を信じて、もう一日寝て待つのか。

 

 遠坂からは連絡がない。

 

 桜は何かを隠している。

 

 そして二人とも、助けを求める代わりに自分で抱え込む人間だ。

 

(待っているだけで、本当にいいのか)

 

 日曜になってから、約束が嘘だったと分かったら。

 

 その時、取り返せるのか。

 

「……待てるわけ、ないだろ」

 

 士郎は毛布をはねのけた。

 

   ◇

 

 土曜日、午前二時。

 

 キャバクラの看板は消え、表のシャッターも下りていた。

 

 雨上がりの路地に、向かいのネオンだけが油の膜のように滲んでいる。昼間の人声も車音も消え、排水溝を流れる水の音だけが耳についた。

 

 士郎は表通りを一度通り過ぎた。

 

 誰もいないことを確かめ、建物の裏へ回る。

 

 壁沿いに並ぶ窓を、一つずつ調べた。

 

 一つ目。

 

 動かない。

 

 二つ目。

 

 鍵が掛かっている。

 

 腕を伸ばすたび、脇腹が痛んだ。呼吸を浅くし、三つ目の窓へ指をかける。

 

 窓は、抵抗もなく数センチ持ち上がった。

 

「……開いてる?」

 

 鍵が、かかっていない。

 

 閉店後の店で、裏窓だけが無施錠になっている。

 

 偶然なのか。

 

 誰かが閉め忘れたのか。

 

 それとも——。

 

 考えても答えは出ない。

 

 遠坂へつながる手掛かりがあるとすれば、ここしかなかった。

 

 士郎は窓を押し上げた。

 

 両手を窓枠へ掛け、痛む身体を持ち上げる。右脚を先に入れ、腹を庇いながら上体を滑り込ませた。

 

 靴底が床へ触れる直前、体勢が崩れる。

 

「っ……!」

 

 脇腹の傷が鋭く疼いた。

 

 声を噛み殺し、片膝を床へつく。入ってきた窓を元の位置まで静かに下ろした。

 

 店内は暗い。

 

 酒と香水、それに清掃用の薬品が混じった匂いが残っている。客のいない店は、同じ場所とは思えないほど広く、冷たかった。

 

 スマホのライトを最小に絞る。

 

 細い光で足元だけを拾い、客席から廊下へ進んだ。

 

 扉を一枚ずつ確かめる。

 

 更衣室。

 

 倉庫。

 

 どこにも人影はない。

 

 最後の扉を押すと、机とキャビネットが白い光の中へ浮かんだ。

 

 事務所だ。

 

 ここなら、客や従業員の記録があるかもしれない。遠坂や桜へつながる名前が残っているかもしれない。

 

 士郎がスマホを握り直した瞬間、背後で床が、きし、と鳴った。

 

「——誰だ」

 

 振り返るより早く、後頭部へ鈍い衝撃が落ちた。

 

「——っ!」

 

 白い閃光が視界を塗り潰す。

 

 スマホが手を離れ、硬い音を立てて床を転がった。

 

 かつん、かつん。

 

 光が遠ざかる。

 

 士郎は膝から崩れながら右手を伸ばした。

 

 指先は、光へ届かなかった。

 

   ◇

 

 最初に戻ったのは、痛みではなかった。

 

 身体が、自分のものではないように重い。

 

 士郎は浅く息を吸った。

 

 喉の奥が妙に苦く、舌には知らない甘さがへばりついている。まぶたを開けると、天井の裸電球が二重に滲んで見えた。

 

 窓のない、狭い部屋だった。

 

 正面には灰色の壁。

 

 左に一枚の扉。

 

 床はむき出しのコンクリート。

 

 立ち上がろうとして、背後で金具が鳴った。

 

 がちゃっ。

 

「……な」

 

 両手は椅子の背に回され、手首をきつく固定されている。金具へ食い込んだ皮膚が痛む。

 

 足首も、左右の椅子脚へ一本ずつ括られていた。膝は肩幅ほどに開かれ、両脚を閉じることも、椅子ごと立つこともできない。

 

 服と靴は着けたままだ。

 

 だが、ポケットにあるはずのスマホがない。

 

「……誰かいるのか」

 

 返事はなかった。

 

 士郎は手首を捻り、金具の緩みを探る。

 

 力を込めたつもりなのに、腕がひどく鈍い。殴られただけなら、ここまで全身が熱く、重くなるだろうか。

 

 喉に残る苦い甘さ。

 

 腹の芯から広がる、落ち着かない熱。

 

(気絶している間に、何か飲まされたのか)

 

 薬かどうかも分からない。

 

 ただ、自分の身体がいつもと違うことだけは明らかだった。

 

 扉が開いた。

 

 士郎は顔を上げる。

 

 入ってきたのは、二十代ほどの女だった。

 

 大きな胸を、乳首まで露出した衣装で包んでいる。裸に近い姿なのに、その顔には羞恥も笑みもない。

 

 士郎を見ても、まばたき一つしなかった。

 

「……おい。俺のスマホはどこだ」

 

 女は答えない。

 

「桜を知ってるのか。遠坂はどこにいる」

 

 やはり、返事はない。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 靴音だけを響かせ、女は真正面まで来た。

 

「聞こえてるんだろ。何か——」

 

 女は無表情のまま士郎の腿へ跨がった。

 

 両膝が、開かれた士郎の脚の外側へ落ちる。首の後ろへ腕を回し、身体を密着させた。

 

「待て。何を——」

 

 唇を塞がれた。

 

「ん……っ!」

 

 ぬるりと舌が割り入り、口の中を深く掻き回す。

 

 顔を背けようとしても、女の手が後頭部を押さえて逃がさない。濡れた舌が絡むたび、くちゅ、ちゅぷ、と水音が狭い部屋へ響いた。

 

「んっ……やめ、ろ……!」

 

 拒む声まで舌に潰される。

 

 息苦しさとは別の熱が、腹の底へ集まった。

 

 ズボンの中でペニスが硬くなっていく。

 

 そんな場合ではない。

 

 目の前の女へ欲情したわけでもない。

 

 それなのに露出した乳房が胸へ押しつけられ、舌が口内を擦るだけで、身体の反応が異常な速さで跳ね上がった。

 

「やめ……っ」

 

 女はキスを続けたまま、右手を士郎の腰へ下ろした。

 

 ジッパーを下ろす。

 

 下着を押しずらし、勃起したペニスを外へ引き出した。

 

 冷えた空気へ晒された直後、温かい指が根元を握る。

 

 ぬち、ぬちっ。

 

 包皮ごと、ゆっくり扱き上げられた。

 

「く……っ」

 

 亀頭へ親指がかかるたび、背筋が椅子から浮きそうになる。

 

 士郎は腰を引こうとした。

 

 だが足首は椅子脚へ固定され、腿には女が跨がっている。手首も背後へ回されたまま、逃げる方向が一つもない。

 

「やめろ……聞いてるのか……っ」

 

 女は唇を離し、士郎の目を見た。

 

 無表情のまま、手だけを速める。

 

 ぬちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゅっ。

 

「っ、あ……!」

 

 ぞくぞくと射精の予感が根元へ集まった。

 

 早すぎる。

 

 普段ならあり得ない速度で熱がせり上がり、腰が勝手に前へ出る。

 

「待て、出る——」

 

 その瞬間、指が止まった。

 

 根元を握ったまま、完全に。

 

「……は、ぁ……?」

 

 行き場を失った熱が、じくじくと亀頭の奥で疼く。

 

 女は苦しむ士郎を見るでもなく、腿から下りた。

 

 床へ膝をつく。

 

 次の瞬間、熱い口が亀頭を呑み込んだ。

 

「く……っ!」

 

 ぬちゅ、と唇が亀頭の段差を越える。

 

 口内に溜めた唾液が竿へ溢れ、女の手の中までぬるぬる伝った。

 

 舌先が裏筋へ貼りつく。

 

 根元から先端まで、筋を押し潰すように舐め上げられた。亀頭へ戻ると、今度は尿道口を舌の腹でねっとり擦られる。

 

「う、ぁ……そこ、やめ……っ」

 

 女は唇をきつく窄めたまま、ずるっ、ぬぷっ、と深く沈んでは引き上げた。

 

 頬の内側から吸いつく圧力が加わる。

 

 じゅるっ、じゅぽっ。

 

 唾液と先走りが混じり、湿った音が裸電球の下へ響く。

 

 士郎の腿が痙攣した。

 

 腰を引こうとしても、開いた足首と椅子の背に阻まれ、身体はむしろ女の口へ押し返される。

 

 手より遅い。

 

 それなのに寸前で止められた身体には、舌のざらつきも喉の熱も一往復ごとに鋭すぎた。

 

 もう一度、射精感がせり上がる。

 

「だめだ、また……出る……!」

 

 士郎が息を詰めた瞬間、ちゅぽん、と女の口が離れた。

 

「っ、あ……!」

 

 亀頭と唇の間で、唾液が細い糸を引く。

 

 射精寸前のペニスだけが、空中で脈打った。

 

「わざと……なのか」

 

 問いにも答えず、女は立ち上がる。

 

 自分の下着をずらした。

 

 指を濡れた割れ目へかけると、膣口いっぱいに詰まっていた異物の根元が現れる。

 

「何だ、それ……」

 

 女は異物を掴み、ゆっくり引き抜き始めた。

 

 じゅぷっ、ぐぽっ。

 

 膣口が太い胴を咥えたまま押し広げられる。

 

 黒々としたバイブが、まだ半分、さらにその奥からも続いて出てきた。ようやく先端まで抜けると、士郎のペニスより明らかに太く長い全体が露わになる。

 

 透明な愛液が表面を覆い、先から内腿へ糸を引いて垂れた。

 

「な……っ。そんなものを、ずっと入れてたのか……?」

 

 あれだけの太さで塞がれていたはずなのに、女は眉一つ動かさない。

 

 そのことが、露出した衣装より、何も答えない沈黙よりも不気味だった。

 

 女は黒いバイブを床へ置いた。

 

 もう一度、士郎へ向き直って跨がる。

 

「やめろ。それ以上は——!」

 

 女の右手がペニスを立てた。

 

 熱を持った亀頭が、濡れた膣口へ押し当てられる。

 

 止める間もなく、女の腰が落ちた。

 

 ずぶり。

 

 濡れた肉が割れ、根元まで一息に呑み込まれる。

 

「あ、っ——!」

 

 寸止めを重ねられたペニスを、熱い膣壁が隙間なく締め上げた。

 

 女が腰を一度、深く沈め直す。

 

 それだけで、堪えていたものが弾けた。

 

 どくっ、どくっ。

 

 精液が噴き上がる。

 

「や……め、ろ……っ、まだ……!」

 

 止まらない。

 

 遠坂の顔が浮かんだ。

 

 どこかに閉じ込められ、助けを待っているかもしれない恋人。

 

 その手掛かりを探しに来たはずなのに、自分は見知らぬ女の膣内へ射精している。

 

 拘束されている。

 

 何かを飲まされた可能性がある。

 

 望んでいない。

 

 それでも身体が女を満たしている事実だけは、目の前から消えてくれなかった。

 

(——ごめん、遠坂)

 

 声にすらできない謝罪が、次の射精に押し流される。

 

 どくっ、どくんっ。

 

 一度脈打つたび、子宮の近くへ押しつけられた亀頭から、また熱が抜かれていった。

 

 女は射精中も腰を小さく捻る。根元まで締めたまま、残りを搾る。

 

「やめ……もう、終わって……っ」

 

 普通なら、とっくに終わっている。

 

 なのに腹の奥が痙攣するたび、どく、どく、と新しい精液が送り出された。

 

 何かを飲まされたせいなのか。

 

 そう考えることしかできない。

 

 自分の身体が、自分の拒絶を無視して女の中へ吐き出し続けている。

 

 ようやく脈が弱まる。

 

 女は膣を締めたまま腰を上げた。

 

 ずるり。

 

 ペニスが抜ける。

 

「はぁ……っ、は……」

 

 口を開いた膣の奥には、いま吐き出した白い精液がたっぷり溜まっていた。女が立つだけで、白濁がぬるく波打つ。

 

 一筋だけが膣口から溢れ、内腿へゆっくり伝った。

 

 女は表情を変えない。

 

 床の太いバイブを拾い、精液で満ちた膣口へ先端を当てる。

 

「何を——」

 

 ぐちゅり。

 

 バイブが白い液を奥へ押し戻しながら沈んでいった。

 

 行き場を失った精液が縁から少しだけ溢れ、太い胴と内腿を汚す。それでも女は止めない。抜く前と同じ深さまで押し込み、膣口を塞ぐように収めてから下着を戻した。

 

 中へ溜めたまま、蓋をした。

 

(なぜだ)

 

 何のために、自分の精液を女の中へ留める必要がある。

 

 疑問が恐怖へ変わるより早く、女は士郎の前へ膝をついた。

 

 精液に濡れたペニスへ顔を寄せる。

 

「もう、やめろ……」

 

 返事の代わりに、亀頭を口へ含まれた。

 

 ちゅぷっ。

 

「っ……!」

 

 びくりと腰が跳ねる。

 

 射精直後の痛いほどの敏感さを、舌がゆっくり撫でていく。萎えかけたはずのペニスへ、また血が集まった。

 

 自分の身体が再び硬くなる。

 

 その異常さに、快感より先に恐怖がこみ上げた。

 

 扉が、二度目の音を立てて開く。

 

 今度は三十代ほどの、少し色黒の女だった。

 

 一人目とよく似た、乳首を晒す衣装。大きな胸。表情のない顔。

 

「お前たちは……誰なんだ」

 

 二人は目も合わせない。

 

「遠坂はどこにいる。桜に何をした」

 

 色黒の女が士郎の横へ膝をつき、一人目と並んだ。

 

 左右から舌が触れる。

 

「くっ……」

 

 一人目が根元を握り、ペニスを上向かせた。

 

 色黒の女が亀頭へ唇を被せる。

 

 ちゅぷっ。

 

 先端だけを吸い込み、舌で亀頭の縁を一周した。

 

 その下では一人目の舌が、陰嚢のすぐ上から裏筋へ沿って、ぬるりと長く這い上がってくる。

 

「やめ、ろ……っ」

 

 二つの舌が亀頭の裏でぶつかった。

 

 片方が尿道口を舐め、もう片方が亀頭の段差へ舌先を潜り込ませる。すぐ役目を入れ替え、じゅるっ、ぬちゅっ、ちゅぷっ、と唾液を啜る音だけを重ねていった。

 

 竿全体が二人分の唾液で濡れる。

 

 伝った雫が陰嚢へ落ちた。

 

 片方の口に亀頭を吸われたまま、もう片方の舌で根元から先端までしごかれる。吸引と舌圧が同時に来るたび、腰の奥が勝手に跳ねた。

 

 一人目の舌が裏筋から離れる。

 

 その手が、士郎のシャツをまくり上げた。

 

 色黒の女が亀頭を吸い続ける横で、一人目は士郎の乳首を指で摘む。

 

「な、に——」

 

 爪で擦られ、そのまま熱い口へ含まれた。

 

 ちゅうっ。

 

「っ、は……あ……!」

 

 胸を吸われる。

 

 下では亀頭が、じゅぽ、じゅぽ、と口内へ引かれる。

 

 乳首を解放した一人目が顔を戻すと、また舌が根元から這い上がり、二人分の舌が亀頭の裏で重なった。

 

「やめ、ろ……!」

 

 拒んだはずの声が、甘い吐息に崩れる。

 

 胸から下腹へ、幸せと錯覚しそうな痺れが走った。

 

 四肢の力が抜け、頭の芯までじんと温かくなる。

 

 無理やり口で弄ばれている。

 

 逃げなければならない。

 

 そう分かっているのに、二つの舌で包まれた場所だけが、何も考えなくていいような甘い快感を送り込んできた。

 

「違う……俺は……っ」

 

 士郎はその感覚を拒むように、手首の金具へ力を込めた。

 

 椅子ががたつき、金属が鳴る。

 

 がたっ、がちゃっ。

 

 それでも女たちは口を離さない。

 

 亀頭を吸い上げる頬がへこみ、裏筋を舐める舌が速くなる。

 

「だめ……それ以上、は……っ」

 

 腹の底がきゅっと縮む。

 

 痺れる幸福感の中心へ熱が集まり、射精の予感へ形を変え、根元から一気にせり上がった。

 

 また出る。

 

 そう悟った瞬間、ちゅぽっ、ぬるっ、と二人の口が同時に離れた。

 

「……また、か……っ」

 

 射精寸前のペニスだけが、空中で脈打っている。

 

 搾り取るつもりだ。

 

 目的までは分からない。

 

 それでも、この停止と交代が偶然でないことだけは分かった。

 

「何を……集めてる」

 

 答えはない。

 

 色黒の女が立ち上がり、士郎へ背を向けた。

 

 下着をずらし、膣から太いバイブを引き抜く。

 

 じゅぽっ。

 

 ぽた、ぽた、と愛液が床へ落ちた。

 

 大きな尻が、士郎の視界を塞ぐ。

 

「待て……もう、やばい……!」

 

 女は背面からペニスを掴み、濡れた割れ目へ導いた。

 

 腰が下がる。

 

 ずぶっ、と亀頭が呑まれた。

 

 続けて根元まで深く埋まる。

 

「ぐ……っ!」

 

 一人目の時とは違い、女はすぐに腰を動かした。

 

 尻が士郎の腿へぶつかる。

 

 ぱん、ぱんっ。

 

 前後に擦る動きが亀頭を膣奥へ押しつけ、次には膣壁が根元から先端まで精液をしごく。

 

 射精後の鈍い痛みと、新しい快感が混ざった。

 

 息を整える隙もない。

 

「やめろ……遠坂に、何を……っ、あ……!」

 

 問いは最後まで言葉にならなかった。

 

 女が腰を深く沈め、内側を絞る。

 

 寸止めで溜め込まれた熱が、逃げ場ごと潰された。

 

「だめだ、出る……出るっ!」

 

 どくん、とペニスが跳ねた。

 

 二度目の射精が始まる。

 

 どくっ、どくっ、どくっ——。

 

 空になったはずの身体から、また異常な量が吸い出されていく。

 

 女は止まらない。

 

 背を向けたまま腰を擦りつけ、射精のたびに膣を締め、奥へ吐き出させる。

 

「あ、あぁ……っ、もう……」

 

 拒む声さえ、途中から形を失った。

 

 視界の端が暗くなる。

 

 指先の感覚が薄い。

 

 椅子に縛られているのに、身体だけが遠くへ沈んでいく。

 

 女がゆっくり立ち上がる。

 

 ずるりと抜けた膣口から白い精液が溢れ、色黒の腿を伝った。

 

 ぽたっ。

 

 床へ落ちる雫を見て、士郎はようやく、自分が何一つ掴めないまま捕まったのだと理解した。

 

 遠坂の場所も、桜が隠していたことも分からない。

 

 助けるどころか、自分まで戻れなくなった。

 

 その時、扉が三度目の音を立てた。

 

 戸口に、別の女が立っている。

 

 三人目。

 

(顔を見なければ)

 

 何か一つでも覚えて、伝えなければ。

 

 士郎は重いまぶたを持ち上げようとした。

 

 輪郭が滲む。

 

 裸電球の白さと女の影が溶け合い、もう区別できない。

 

 凛の場所も。

 

 桜の秘密も。

 

 何一つ掴めないまま、士郎の意識は、そこで途切れた。

 

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