眠ろうと息を殺すたび、粘体は桜の絶頂を最初からやり直した。
金曜の深夜。
桜は自室のベッドへ仰向けになり、布団の中で両膝をきつく閉じていた。
腿に力を込める。
腰を動かさないよう、シーツへ背中を押しつける。
それでも、施錠された貞操帯の内側に逃げ場はなかった。
半透明の肉が、絶頂を終えたばかりのクリトリスへぬるりと巻きつく。
「っ、ぅ……!」
薄い先端が舌のように平たくなり、ひどく敏感な蕾を下から撫でた。
くちゅっ。
吸われる。
「んっ……や、ぁ……!」
閉じていた膝がびくりと浮いた。
太腿が金属の外側へ押しつけられる。内側で圧迫された粘体は潰れ、ぬるりと二手に形を変えた。
一部はクリトリスを包んだまま。
もう一部は膣口の縁を伝い、尻の割れ目へ回り込む。
冷たく濡れた先が、アナルの窄まりをつついた。
「そこ、は……だめ……っ」
桜は踵をシーツへ突き立てた。
ぬるっ、くぷっ。
先端が浅く潜る。
締め出そうと力を入れるほど、柔らかな先は内壁に沿って太くなった。浅い場所をこり、こり、と擦り、前ではクリトリスを吸い上げる。
くちゅっ、くちゅっ。
「んぅ……っ、やめ、て……」
悲鳴を殺すため、桜は枕の端を引き寄せて口へ押し当てた。
噛んだ布へ熱い息が染みる。
けれど、声を塞いでも下腹を駆け上がる波は止まらない。
前の吸引が一段強くなった。
同時に、後ろの先端が内壁の同じ場所を細かく擦る。
「んんっ……!」
腰が跳ねた瞬間、再生した膜の奥で残留した精液が、たぷん、と遅れて揺れた。
出すことのできない重みが、子宮の底へぶつかる。
内側からの生温い揺れまで快感へ変えられ、桜は枕へ顔を押しつけた。
「んっ、んん……あ、ぁ……っ!」
太腿が細かく痙攣する。
膣口は膜に閉ざされたままなのに、その上のクリトリスだけを執拗に吸われる。アナルの内側まで脈打つように刺激され、また絶頂が身体を貫いた。
びくっ、びくっ。
ベッドが小さく軋む。
波が引いた。
桜は浅い息を何度も継いだ。
(今度こそ、眠れる……)
しかし、粘体は離れなかった。
絶頂直後の蕾をぬるぬると舐め回し、触れられるだけで悲鳴が出そうな箇所へ吸いつき直す。
くちゅ、くちゅっ。
「ひっ……も、う……」
涙の滲んだ目で時計を見る。
午前三時を過ぎていた。
(明日じゃない。姉さんに会えるのは、日曜日……)
まだ土曜日が丸ごと残っている。
「……もう、やめて……」
懇願に返事はない。
粘体が言葉を聞いているのかさえ分からない。
ただ湿った音だけが布団の中で続き、桜の身体は、夜が明けるまで何度も小さく跳ねた。
◇
朝の光は、眠っていない目に白すぎた。
桜は枕から顔を上げた。
いつの間にか、窓の外では鳥が鳴いている。
顔を洗っても、頭の芯には熱が残った。鏡の中の頬は上気し、目の下には薄い影が落ちている。
水を飲もうと、ベッドの縁から足を下ろす。
寝巻きの裾で貞操帯が隠れていることを確かめ、一歩踏み出した。
ぬるり。
帯の内側で粘体がクリトリスの裏を擦る。
「っ……」
桜は壁へ右手をついた。
膝から力が抜けそうになるのを堪え、何度も息を整える。
こんな状態でも、今日一日を普通に過ごさなければならない。
日曜の約束を壊さず、姉さんに会う。
そのためなら——。
居間の電話が鳴った。
桜は息を呑んだ。
もしかしたら、姉さんからかもしれない。
期待に急かされ、廊下を歩く。腿を動かすたびに帯内が擦れたが、受話器へ先に手を伸ばした。
「……もしもし」
「よく眠れましたか」
聞き覚えのある、穏やかな男の声だった。
昨日、店を出る前に名乗った男。外国人風の男。
ジェイク。
姉からの電話ではない。
胸へ浮かんだ期待が、冷たく萎んだ。
「……眠れるわけ、ないでしょう……」
責めたかった。
けれど、寝不足で掠れた声には力が入らない。男は謝りも、貞操帯の中で何が起きているのかを説明もしなかった。
「明日のことですが、隣町の公園の入口に昼の十二時でお願いします」
桜は受話器を握り直した。
明日。
隣町の公園。
十二時。
輪郭のなかった約束へ、初めて場所と時刻が与えられた。
「……そこで、姉さんに会えるんですか」
一拍だけ、沈黙があった。
「お待ちしています」
答えになっていない。
「姉さんは——」
問いを重ねかけ、桜は唇を噛んだ。
機嫌を損ねて場所を変えられたら。
約束そのものを消されたら。
姉へ続くかもしれない細い道を、自分から閉ざすことはできない。
「……分かりました」
通話が切れる。
つう、という音が耳の奥へ残った。
場所は分かった。時刻も分かった。
明日の昼まで耐えればいい。
他にしなければならないことはない。
桜は受話器に置いた手を、しばらく離せなかった。
◇
自分の部屋へ戻り、ベッドの縁へ腰を下ろした。
明日の十二時。
その数字を心の中で繰り返すと、張りつめていたものがようやく少し緩んだ。
桜は左腕へ右手の指を滑らせた。
再構成された肌には、乱暴に掴まれた痕も、痛みもない。
指の腹を押し返す、みずみずしい弾力だけがある。
下腹へは触れられない。
金属の帯が閉ざし、その奥には男たちの精液が残っている。
それでも、膣口そのものは取り戻した。
そのすぐ内側には薄い膜があり、指一本さえ入らないことを昨夜、自分で確かめている。
小さい頃、自分の意思と関係なく奪われたもの。
それが今は、先輩へ渡せる形で戻っている。
(明日、姉さんに会って。中のものも消して。これも外してもらえたら……)
そこまで考えると、胸が熱くなった。
桜の指先が寝巻きの襟へ入り、乳房の丸みを撫でる。
「ん……」
昨夜から焦らされ続けた身体には、自分の指の腹さえ熱かった。
乳房を下からすくい、柔らかな重みを掌へ載せる。
親指で乳首の先をそっと擦った。
「んっ……」
もう一度。
今度は親指と人差し指で摘まみ、こり、と転がす。
「あ……っ、んぅ……」
これは、自分の意思で触れている。
誰かに押さえつけられたわけでも、粘体に動かされたわけでもない。
そう確かめながら、右の乳首を摘まみ、左の乳房を寝巻き越しに揉んだ。
白い肉が指の間から柔らかく逃げる。
布に擦れた左の乳首が、ぷる、と震えた。
「は……ぁ……」
胸の奥から下腹へ、細い痺れが落ちていく。
気持ちいい。
それなのに、貞操帯の内側は静かなままだった。
クリトリスは熱を持ち、膣口も濡れているはずなのに、金属に遮られて指一本届かない。
桜は腰を前へずらし、腿を擦り合わせた。
金属が皮膚へ押し返されるだけだった。
胸の快感が下へ落ちるほど、欲しい刺激だけが来ない。
「ん……お願い……」
誰に頼んでいるのか分からない。
それでも桜は乳首を強く摘まみ、もう一度、腿へ力を込めた。
「動いてよぉ……!」
口からこぼれた直後、貞操帯の内側がうにょうにょと蠢いた。
「あ——」
粘体がクリトリスの根元を二つに分かれて挟む。
左右から持ち上げ、先端へ柔らかな口を作った。
くちゅっ。
「あぁっ!」
桜の腰が跳ねた。
もう一つの細い先端は、尻の穴へぬるりと潜った。
昨夜より浅く、ゆっくりと。
けれど内壁の同じ場所をくり、くり、と擦られるたび、乳首を摘まむ指まで勝手に強くなる。
くちゅっ、くちゅっ。
ぬる、くぷっ。
自分の指と粘体の動きが重なる。
「そこ……っ、もっと……あ、だめ、違……っ」
求めたのは、指の届かない焦れを終わらせることだった。
前後から好きに弄ばれることではない。
拒む言葉の途中で、クリトリスへの吸引が速くなる。
膣の奥が、きゅうっ、と収縮した。
閉じた膜の向こうで残留した精液が、たぷ、たぷ、と揺れる。
生温い重みが子宮の底を内側から撫で、そのたびに腰が粘体へ押しつけられた。
自分は処女に戻った。
なのに腹の中は男たちの精液で満たされ、股間では得体の知れないものへ身体だけが縋っている。
「こんなの……先輩に、見せられな……っ、あぁっ!」
最初の絶頂が身体を貫いた。
乳首を摘まんだまま背中が反り、両膝が内側へ折れる。
びくっ、びくっ。
クリトリスを吸う粘体が痙攣へ合わせて細かく震え、アナルへ入った先端まで同じ速さで脈打った。
ベッドの縁が、ぎしっ、と鳴る。
「あっ、あ……っ!」
終わる前に、次の吸引が始まった。
「ま、待って……まだ、そこ……敏感で……ひぁっ!」
桜は粘体を止められない。
それなのに、乳首から指も離せなかった。
自分で右を摘まめば、前の吸引が深くなる気がした。左を転がせば、後ろの先端が押し返す気がした。
確かな因果など分からない。
ただ、止めたい意思とは別に、指が次の刺激を探してしまう。
「や……っ、もう……やめて……」
掠れた声の直後、二度目の波が来た。
腿が硬く閉じ、金属が肌へ食い込む。
その圧迫で粘体の形が変わり、クリトリスを下から強く擦り上げた。
「ひぁあっ!」
三度目は、数える前に重なった。
泣きそうな声でやめてと頼み、次の瞬間には腰を押しつける。
汗ばんだ乳房を自分で揉み、硬くなった乳首を引っぱる。そのたび、粘体が応えたようにクリトリスを吸い上げた。
応えているのか、偶然なのかは分からない。
分かるのは、自分の身体が次の吸引を待ち始めていることだけだった。
「いや……わたし、こんなの……っ」
何度達したのか分からなくなった。
カーテンの隙間から差す光が、白から金色へ変わっていた。
途中、膀胱の奥が耐えきれず緩んだ。
熱いものが尿道を下りる失禁の感覚に、桜は息を詰める。
「だ、め……汚れ……」
しかし、一滴も寝巻きへ広がらない。
愛液も尿も、膣口と尿道の前で待っていた粘体へ、じゅるっ、と吸い込まれて消えていく。
濡れているのは汗ばんだ肌だけだった。
シーツは、何もなかったように綺麗なままだ。
「……わたし、こんな……」
桜は乱れた呼吸を整えながら上体を起こした。
胸元ははだけ、乳房には自分の指の跡が赤く残っている。
先輩にふさわしくない。
そう思うのに、貞操帯の内側で鳴るくちゅくちゅという音へ、身体がまた小さく震えた。
◇
夕食は、味がよく分からなかった。
桜は箸を持つ手を止めないようにし、一人分を食べきる。
食器を洗う。
湯を沸かす。
いつもしていることを順番どおりに繰り返せば、自分までいつもどおりに戻れる気がした。
シャワーでは、湯を浴びながら金属の縁を洗った。
外側から指を掛けても外れない。
粘体は湯の下でも、クリトリスをゆるく撫で続けている。
「……明日まで、だから」
誰へともなく言い、タオルで身体を拭いた。
鏡に映る自分は、いつもの寝巻きを着れば何も変わっていないように見えた。
明日の十二時までは、眠ってしまえばいい。
昨夜からほとんど眠れていない身体をベッドへ横たえ、桜は布団を胸まで引き上げた。
(姉さんに会う。明日こそ——)
目を閉じた、その時だった。
貞操帯の縁で、何かが擦れた。
する、するっ。
冷たい筋が内腿を離れ、寝巻きの内側を這い上がってくる。
「……え?」
桜は目を開け、布団をめくった。
半透明の細い触手が、金属の隙間から外へ伸びている。
昨日までは、貞操帯の内側だけにいたはずだった。
触手は腹の上を這い、臍を越え、乳房の下へ回り込んだ。
「ひゃっ——な、に……!?」
一本が乳房の丸みへ巻きつき、柔らかな肉を下から持ち上げる。
むにゅっ。
もう一本は寝巻きの襟を内側から押し広げ、硬くなった乳首へ先端を被せた。
くちゅっ。
「あっ!」
吸われた。
同時に、帯内で太い部分がクリトリスを摘まむ。
アナルへ残っていた先端は、今度は奥へ向かってぬるりと伸びた。
「んぁあっ!」
胸、前、後ろ。
三か所から一息に快感を突き上げられ、桜の腰が布団を跳ね上げた。
乳房へ巻いた触手が、むにゅ、むにゅ、と肉を揉みしだく。
乳首を吸う口は先端を細く引っぱり、ぷるん、と弾いてから、また吸いついた。
「やっ……外、まで……来ないで……っ」
ここは、自分で触れると決めた場所だった。
自分の指で、先輩を思いながら触れた場所だった。
そこへまで、粘体が勝手に入り込んでくる。
桜は右手で触手を掴んだ。
ぬるりと指の間で潰れ、逃げる。
左手も重ねて握り込むと、千切れたように見えた先がすぐつながり、反対の乳首へ巻きついた。
くちゅっ。
「あっ、あぁっ……!」
全身が大きく痙攣した。
クリトリスを吸われ、アナルの内側を往復する先端が速くなる。
胸へ巻いた触手まで痙攣へ合わせて締まり、乳房を押し潰すように揉んだ。
むにゅっ、くちゅっ。
「や、やぁ……っ、もう……!」
力が抜ける間もない。
乳首を吸う触手が細かく震え、股間の動きと重なる。余韻と次の高まりの境目が消え、桜の身体は布団の上で跳ね続けた。
「だめ……」
それ以上、言葉をつなぐ息がない。
視界が白く滲む。
触手を掴んでいるはずの指にも、もう力が入らない。
膜の奥で胎内の重みがたぷんと揺れ、その感覚まで遠くなっていく。
貞操帯の内側だけなら、隠して明日を迎えられると思っていた。
けれど粘体は、もうそこに収まってはいなかった。
乳首を吸う湿った音だけが、白く閉じていく意識の中まで追ってくる。
くちゅっ——。
桜は明日の時刻を思い出そうとした。
十二時、という数字さえ形になる前に、意識が途切れた。