※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第26話 土曜日の粘体

 眠ろうと息を殺すたび、粘体は桜の絶頂を最初からやり直した。

 

 金曜の深夜。

 

 桜は自室のベッドへ仰向けになり、布団の中で両膝をきつく閉じていた。

 

 腿に力を込める。

 

 腰を動かさないよう、シーツへ背中を押しつける。

 

 それでも、施錠された貞操帯の内側に逃げ場はなかった。

 

 半透明の肉が、絶頂を終えたばかりのクリトリスへぬるりと巻きつく。

 

「っ、ぅ……!」

 

 薄い先端が舌のように平たくなり、ひどく敏感な蕾を下から撫でた。

 

 くちゅっ。

 

 吸われる。

 

「んっ……や、ぁ……!」

 

 閉じていた膝がびくりと浮いた。

 

 太腿が金属の外側へ押しつけられる。内側で圧迫された粘体は潰れ、ぬるりと二手に形を変えた。

 

 一部はクリトリスを包んだまま。

 

 もう一部は膣口の縁を伝い、尻の割れ目へ回り込む。

 

 冷たく濡れた先が、アナルの窄まりをつついた。

 

「そこ、は……だめ……っ」

 

 桜は踵をシーツへ突き立てた。

 

 ぬるっ、くぷっ。

 

 先端が浅く潜る。

 

 締め出そうと力を入れるほど、柔らかな先は内壁に沿って太くなった。浅い場所をこり、こり、と擦り、前ではクリトリスを吸い上げる。

 

 くちゅっ、くちゅっ。

 

「んぅ……っ、やめ、て……」

 

 悲鳴を殺すため、桜は枕の端を引き寄せて口へ押し当てた。

 

 噛んだ布へ熱い息が染みる。

 

 けれど、声を塞いでも下腹を駆け上がる波は止まらない。

 

 前の吸引が一段強くなった。

 

 同時に、後ろの先端が内壁の同じ場所を細かく擦る。

 

「んんっ……!」

 

 腰が跳ねた瞬間、再生した膜の奥で残留した精液が、たぷん、と遅れて揺れた。

 

 出すことのできない重みが、子宮の底へぶつかる。

 

 内側からの生温い揺れまで快感へ変えられ、桜は枕へ顔を押しつけた。

 

「んっ、んん……あ、ぁ……っ!」

 

 太腿が細かく痙攣する。

 

 膣口は膜に閉ざされたままなのに、その上のクリトリスだけを執拗に吸われる。アナルの内側まで脈打つように刺激され、また絶頂が身体を貫いた。

 

 びくっ、びくっ。

 

 ベッドが小さく軋む。

 

 波が引いた。

 

 桜は浅い息を何度も継いだ。

 

(今度こそ、眠れる……)

 

 しかし、粘体は離れなかった。

 

 絶頂直後の蕾をぬるぬると舐め回し、触れられるだけで悲鳴が出そうな箇所へ吸いつき直す。

 

 くちゅ、くちゅっ。

 

「ひっ……も、う……」

 

 涙の滲んだ目で時計を見る。

 

 午前三時を過ぎていた。

 

(明日じゃない。姉さんに会えるのは、日曜日……)

 

 まだ土曜日が丸ごと残っている。

 

「……もう、やめて……」

 

 懇願に返事はない。

 

 粘体が言葉を聞いているのかさえ分からない。

 

 ただ湿った音だけが布団の中で続き、桜の身体は、夜が明けるまで何度も小さく跳ねた。

 

   ◇

 

 朝の光は、眠っていない目に白すぎた。

 

 桜は枕から顔を上げた。

 

 いつの間にか、窓の外では鳥が鳴いている。

 

 顔を洗っても、頭の芯には熱が残った。鏡の中の頬は上気し、目の下には薄い影が落ちている。

 

 水を飲もうと、ベッドの縁から足を下ろす。

 

 寝巻きの裾で貞操帯が隠れていることを確かめ、一歩踏み出した。

 

 ぬるり。

 

 帯の内側で粘体がクリトリスの裏を擦る。

 

「っ……」

 

 桜は壁へ右手をついた。

 

 膝から力が抜けそうになるのを堪え、何度も息を整える。

 

 こんな状態でも、今日一日を普通に過ごさなければならない。

 

 日曜の約束を壊さず、姉さんに会う。

 

 そのためなら——。

 

 居間の電話が鳴った。

 

 桜は息を呑んだ。

 

 もしかしたら、姉さんからかもしれない。

 

 期待に急かされ、廊下を歩く。腿を動かすたびに帯内が擦れたが、受話器へ先に手を伸ばした。

 

「……もしもし」

 

「よく眠れましたか」

 

 聞き覚えのある、穏やかな男の声だった。

 

 昨日、店を出る前に名乗った男。外国人風の男。

 

 ジェイク。

 

 姉からの電話ではない。

 

 胸へ浮かんだ期待が、冷たく萎んだ。

 

「……眠れるわけ、ないでしょう……」

 

 責めたかった。

 

 けれど、寝不足で掠れた声には力が入らない。男は謝りも、貞操帯の中で何が起きているのかを説明もしなかった。

 

「明日のことですが、隣町の公園の入口に昼の十二時でお願いします」

 

 桜は受話器を握り直した。

 

 明日。

 

 隣町の公園。

 

 十二時。

 

 輪郭のなかった約束へ、初めて場所と時刻が与えられた。

 

「……そこで、姉さんに会えるんですか」

 

 一拍だけ、沈黙があった。

 

「お待ちしています」

 

 答えになっていない。

 

「姉さんは——」

 

 問いを重ねかけ、桜は唇を噛んだ。

 

 機嫌を損ねて場所を変えられたら。

 

 約束そのものを消されたら。

 

 姉へ続くかもしれない細い道を、自分から閉ざすことはできない。

 

「……分かりました」

 

 通話が切れる。

 

 つう、という音が耳の奥へ残った。

 

 場所は分かった。時刻も分かった。

 

 明日の昼まで耐えればいい。

 

 他にしなければならないことはない。

 

 桜は受話器に置いた手を、しばらく離せなかった。

 

   ◇

 

 自分の部屋へ戻り、ベッドの縁へ腰を下ろした。

 

 明日の十二時。

 

 その数字を心の中で繰り返すと、張りつめていたものがようやく少し緩んだ。

 

 桜は左腕へ右手の指を滑らせた。

 

 再構成された肌には、乱暴に掴まれた痕も、痛みもない。

 

 指の腹を押し返す、みずみずしい弾力だけがある。

 

 下腹へは触れられない。

 

 金属の帯が閉ざし、その奥には男たちの精液が残っている。

 

 それでも、膣口そのものは取り戻した。

 

 そのすぐ内側には薄い膜があり、指一本さえ入らないことを昨夜、自分で確かめている。

 

 小さい頃、自分の意思と関係なく奪われたもの。

 

 それが今は、先輩へ渡せる形で戻っている。

 

(明日、姉さんに会って。中のものも消して。これも外してもらえたら……)

 

 そこまで考えると、胸が熱くなった。

 

 桜の指先が寝巻きの襟へ入り、乳房の丸みを撫でる。

 

「ん……」

 

 昨夜から焦らされ続けた身体には、自分の指の腹さえ熱かった。

 

 乳房を下からすくい、柔らかな重みを掌へ載せる。

 

 親指で乳首の先をそっと擦った。

 

「んっ……」

 

 もう一度。

 

 今度は親指と人差し指で摘まみ、こり、と転がす。

 

「あ……っ、んぅ……」

 

 これは、自分の意思で触れている。

 

 誰かに押さえつけられたわけでも、粘体に動かされたわけでもない。

 

 そう確かめながら、右の乳首を摘まみ、左の乳房を寝巻き越しに揉んだ。

 

 白い肉が指の間から柔らかく逃げる。

 

 布に擦れた左の乳首が、ぷる、と震えた。

 

「は……ぁ……」

 

 胸の奥から下腹へ、細い痺れが落ちていく。

 

 気持ちいい。

 

 それなのに、貞操帯の内側は静かなままだった。

 

 クリトリスは熱を持ち、膣口も濡れているはずなのに、金属に遮られて指一本届かない。

 

 桜は腰を前へずらし、腿を擦り合わせた。

 

 金属が皮膚へ押し返されるだけだった。

 

 胸の快感が下へ落ちるほど、欲しい刺激だけが来ない。

 

「ん……お願い……」

 

 誰に頼んでいるのか分からない。

 

 それでも桜は乳首を強く摘まみ、もう一度、腿へ力を込めた。

 

「動いてよぉ……!」

 

 口からこぼれた直後、貞操帯の内側がうにょうにょと蠢いた。

 

「あ——」

 

 粘体がクリトリスの根元を二つに分かれて挟む。

 

 左右から持ち上げ、先端へ柔らかな口を作った。

 

 くちゅっ。

 

「あぁっ!」

 

 桜の腰が跳ねた。

 

 もう一つの細い先端は、尻の穴へぬるりと潜った。

 

 昨夜より浅く、ゆっくりと。

 

 けれど内壁の同じ場所をくり、くり、と擦られるたび、乳首を摘まむ指まで勝手に強くなる。

 

 くちゅっ、くちゅっ。

 

 ぬる、くぷっ。

 

 自分の指と粘体の動きが重なる。

 

「そこ……っ、もっと……あ、だめ、違……っ」

 

 求めたのは、指の届かない焦れを終わらせることだった。

 

 前後から好きに弄ばれることではない。

 

 拒む言葉の途中で、クリトリスへの吸引が速くなる。

 

 膣の奥が、きゅうっ、と収縮した。

 

 閉じた膜の向こうで残留した精液が、たぷ、たぷ、と揺れる。

 

 生温い重みが子宮の底を内側から撫で、そのたびに腰が粘体へ押しつけられた。

 

 自分は処女に戻った。

 

 なのに腹の中は男たちの精液で満たされ、股間では得体の知れないものへ身体だけが縋っている。

 

「こんなの……先輩に、見せられな……っ、あぁっ!」

 

 最初の絶頂が身体を貫いた。

 

 乳首を摘まんだまま背中が反り、両膝が内側へ折れる。

 

 びくっ、びくっ。

 

 クリトリスを吸う粘体が痙攣へ合わせて細かく震え、アナルへ入った先端まで同じ速さで脈打った。

 

 ベッドの縁が、ぎしっ、と鳴る。

 

「あっ、あ……っ!」

 

 終わる前に、次の吸引が始まった。

 

「ま、待って……まだ、そこ……敏感で……ひぁっ!」

 

 桜は粘体を止められない。

 

 それなのに、乳首から指も離せなかった。

 

 自分で右を摘まめば、前の吸引が深くなる気がした。左を転がせば、後ろの先端が押し返す気がした。

 

 確かな因果など分からない。

 

 ただ、止めたい意思とは別に、指が次の刺激を探してしまう。

 

「や……っ、もう……やめて……」

 

 掠れた声の直後、二度目の波が来た。

 

 腿が硬く閉じ、金属が肌へ食い込む。

 

 その圧迫で粘体の形が変わり、クリトリスを下から強く擦り上げた。

 

「ひぁあっ!」

 

 三度目は、数える前に重なった。

 

 泣きそうな声でやめてと頼み、次の瞬間には腰を押しつける。

 

 汗ばんだ乳房を自分で揉み、硬くなった乳首を引っぱる。そのたび、粘体が応えたようにクリトリスを吸い上げた。

 

 応えているのか、偶然なのかは分からない。

 

 分かるのは、自分の身体が次の吸引を待ち始めていることだけだった。

 

「いや……わたし、こんなの……っ」

 

 何度達したのか分からなくなった。

 

 カーテンの隙間から差す光が、白から金色へ変わっていた。

 

 途中、膀胱の奥が耐えきれず緩んだ。

 

 熱いものが尿道を下りる失禁の感覚に、桜は息を詰める。

 

「だ、め……汚れ……」

 

 しかし、一滴も寝巻きへ広がらない。

 

 愛液も尿も、膣口と尿道の前で待っていた粘体へ、じゅるっ、と吸い込まれて消えていく。

 

 濡れているのは汗ばんだ肌だけだった。

 

 シーツは、何もなかったように綺麗なままだ。

 

「……わたし、こんな……」

 

 桜は乱れた呼吸を整えながら上体を起こした。

 

 胸元ははだけ、乳房には自分の指の跡が赤く残っている。

 

 先輩にふさわしくない。

 

 そう思うのに、貞操帯の内側で鳴るくちゅくちゅという音へ、身体がまた小さく震えた。

 

   ◇

 

 夕食は、味がよく分からなかった。

 

 桜は箸を持つ手を止めないようにし、一人分を食べきる。

 

 食器を洗う。

 

 湯を沸かす。

 

 いつもしていることを順番どおりに繰り返せば、自分までいつもどおりに戻れる気がした。

 

 シャワーでは、湯を浴びながら金属の縁を洗った。

 

 外側から指を掛けても外れない。

 

 粘体は湯の下でも、クリトリスをゆるく撫で続けている。

 

「……明日まで、だから」

 

 誰へともなく言い、タオルで身体を拭いた。

 

 鏡に映る自分は、いつもの寝巻きを着れば何も変わっていないように見えた。

 

 明日の十二時までは、眠ってしまえばいい。

 

 昨夜からほとんど眠れていない身体をベッドへ横たえ、桜は布団を胸まで引き上げた。

 

(姉さんに会う。明日こそ——)

 

 目を閉じた、その時だった。

 

 貞操帯の縁で、何かが擦れた。

 

 する、するっ。

 

 冷たい筋が内腿を離れ、寝巻きの内側を這い上がってくる。

 

「……え?」

 

 桜は目を開け、布団をめくった。

 

 半透明の細い触手が、金属の隙間から外へ伸びている。

 

 昨日までは、貞操帯の内側だけにいたはずだった。

 

 触手は腹の上を這い、臍を越え、乳房の下へ回り込んだ。

 

「ひゃっ——な、に……!?」

 

 一本が乳房の丸みへ巻きつき、柔らかな肉を下から持ち上げる。

 

 むにゅっ。

 

 もう一本は寝巻きの襟を内側から押し広げ、硬くなった乳首へ先端を被せた。

 

 くちゅっ。

 

「あっ!」

 

 吸われた。

 

 同時に、帯内で太い部分がクリトリスを摘まむ。

 

 アナルへ残っていた先端は、今度は奥へ向かってぬるりと伸びた。

 

「んぁあっ!」

 

 胸、前、後ろ。

 

 三か所から一息に快感を突き上げられ、桜の腰が布団を跳ね上げた。

 

 乳房へ巻いた触手が、むにゅ、むにゅ、と肉を揉みしだく。

 

 乳首を吸う口は先端を細く引っぱり、ぷるん、と弾いてから、また吸いついた。

 

「やっ……外、まで……来ないで……っ」

 

 ここは、自分で触れると決めた場所だった。

 

 自分の指で、先輩を思いながら触れた場所だった。

 

 そこへまで、粘体が勝手に入り込んでくる。

 

 桜は右手で触手を掴んだ。

 

 ぬるりと指の間で潰れ、逃げる。

 

 左手も重ねて握り込むと、千切れたように見えた先がすぐつながり、反対の乳首へ巻きついた。

 

 くちゅっ。

 

「あっ、あぁっ……!」

 

 全身が大きく痙攣した。

 

 クリトリスを吸われ、アナルの内側を往復する先端が速くなる。

 

 胸へ巻いた触手まで痙攣へ合わせて締まり、乳房を押し潰すように揉んだ。

 

 むにゅっ、くちゅっ。

 

「や、やぁ……っ、もう……!」

 

 力が抜ける間もない。

 

 乳首を吸う触手が細かく震え、股間の動きと重なる。余韻と次の高まりの境目が消え、桜の身体は布団の上で跳ね続けた。

 

「だめ……」

 

 それ以上、言葉をつなぐ息がない。

 

 視界が白く滲む。

 

 触手を掴んでいるはずの指にも、もう力が入らない。

 

 膜の奥で胎内の重みがたぷんと揺れ、その感覚まで遠くなっていく。

 

 貞操帯の内側だけなら、隠して明日を迎えられると思っていた。

 

 けれど粘体は、もうそこに収まってはいなかった。

 

 乳首を吸う湿った音だけが、白く閉じていく意識の中まで追ってくる。

 

 くちゅっ——。

 

 桜は明日の時刻を思い出そうとした。

 

 十二時、という数字さえ形になる前に、意識が途切れた。

 

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