※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第27話 車中の奉仕と姉の場所

 目を開けた瞬間、桜は静かすぎることに気づいた。

 

 昨夜、寝巻きの内側を這い上がり、乳房へ巻きつき、乳首を吸いながら意識を奪ったものが、今はどこにも触れてこない。

 

 枕元の時計は十時七分を示していた。

 

「……っ!」

 

 姉との約束まで、二時間もない。

 

 桜は跳ね起きかけ、下腹部の重みに腰を止めた。膜の奥に閉じ込められたものが、たぷん、と身体の動きから遅れて傾く。完全に閉じた処女膜も、腰を覆う貞操帯も、そのままだった。

 

 寝巻きの裾から手を入れ、冷たい金属の縁へ指を沿わせる。

 

 半透明の粘体は貞操帯の内側へ戻っていた。クリトリスを包み、細い一部をアナルへ残している。

 

 だが、昨夜まで絶え間なく続いていたクリトリスへの吸いつきも、擦り上げる動きもない。粘体生物は、動いていない。金属越しに指で押しても、ぷに、と形を変えるだけだ。

 

(どうして、急に……)

 

 分からない。

 

 動かないことに安堵していいのかさえ分からない。だが、考えているうちに十二時を過ぎれば、姉へ会えるかもしれない唯一の機会を失う。

 

 桜はベッドから降りた。足裏が床へついた拍子に、胎内の重みがもう一度揺れた。

 

 トイレへ入り、便座へ腰を下ろす。尿意がほどけても便器へ落ちる音はしない。股間の奥でぬるい感触が広がり、すぐに消えた。

 

 動かなくても、排泄物を処理する働きだけは残っているらしい。

 

「……まだ、外れないんですね」

 

 返事などない。

 

 桜は顔を洗い、鏡を見た。目の下には薄い影がある。けれど、昨夜あれほど絶頂させられた身体に傷も疲労も残っていない。それが少し眠れたからなのか、作り直された身体のせいなのか、判断できなかった。

 

 動きやすい服へ着替え、スマホを握る。

 

 士郎の番号を押した。

 

 呼び出し音が一度、二度と続く。

 

「先輩……出てください」

 

 五度。八度。十度。

 

 応答はない。

 

 一度切り、もう一度かける。それでも同じだった。

 

 金曜の夜、何かあれば必ず言え、と士郎は約束してくれた。その声を思い出すほど、返事のない呼び出し音が胸へ刺さった。

 

(寝ているだけ……ですよね)

 

 そう思おうとした。だが、姉を助けるためなら自分の傷を後回しにする人だ。日曜まで待つという約束を守れず、一人で何かをしようとした可能性もある。

 

 それ以上は、何も分からない。

 

 桜はメッセージ画面を開いた。

 

『今日の十二時、公園の入口です。姉さんに会えるか確かめてきます。来られなくても大丈夫です。場所だけ、残しておきます』

 

 送信したあと、最後の二文を見つめた。

 

 大丈夫ではない。

 

 先輩に来てほしい。声を聞きたい。けれど、返事を待って約束に遅れるほうが怖かった。

 

 パンを半分、お茶で流し込む。喉を通る感触さえ落ち着かない。ここへ何が通るのか、このときの桜はまだ知らなかった。

 

 十一時五分、家を出た。

 

   ◇

 

 指定の公園の入口へ着いたのは十一時五十分だった。

 

 休日の昼前。親子連れが遊歩道を横切り、犬を連れた老人が信号を待っている。冬の薄い日差しの下、見慣れた日常だけが続いていた。

 

 その中で、桜だけが行き先の見えない場所へ立っている。

 

 スマホに返信はない。

 

 十一時五十九分。

 

 桜は入口から動かず、通りへ目を凝らした。

 

 十二時ちょうど、黒塗りのバンが歩道へ寄せて止まった。

 

 運転席は見えない。後部のスライドドアが、がらら、と横へ開いた。

 

「よぉ。時間ぴったりだな、桜ちゃん」

 

 身を乗り出した金髪の男を見て、桜の足が止まった。

 

 キャバクラのオーナー。あの夜、店の中で桜を値踏みしていた男だ。

 

「……どうして、あなたが」

 

「迎えだよ。お姉さんのとこ、行くんだろ」

 

 姉妹だと知っている。

 

 桜の警戒を見て、金髪男が車内を親指で示した。

 

「乗らないなら帰るけど?」

 

 開いた扉の向こうは暗い。ジェイクの姿はない。凛がいる証拠も、この車がそこへ向かう保証もない。

 

 それでも、ここで扉が閉じれば次の手掛かりはなかった。

 

 桜はスマホを強く握り、バンへ足を掛けた。

 

「姉さんに会わせてください。約束は、それだけです」

 

「はいはい。いい子にしてりゃな」

 

 背後で扉が閉まった。

 

 外の音が遠のく。

 

 窓には黒いカーテン。前方も厚い布で仕切られ、運転手の姿さえ見えない。桜が腰を下ろした横向きの座席の向かいには、男が二人、足を広げて座っていた。

 

 逃げ道を確かめるより先に、バンが動き出す。

 

「あれ? この子、店にいた子っすよね」

 

「そう。おっさん相手に手ぇ動かしてた桜ちゃん」

 

 金髪男が隣へ腰を下ろした。肩が触れそうな距離まで寄られ、桜は扉側へ身を詰める。

 

「あの客さ、次の日も来てたぜ。桜ちゃんいないの、すげえ残念がってた」

 

「本気で働けばいいのに。処女のくせに手コキ上手いとか、絶対売れますって」

 

「やめてください」

 

 膝の上で握った手へ爪が食い込む。

 

 金髪男の口元が、桜の反応を待っていたように吊り上がった。

 

「へえ。処女ってとこは否定しないんだ?」

 

 しまった、と思ったときには遅かった。

 

「貞操帯までつけて、大事に守ってんだってな。凛ちゃんの妹は清純だねえ」

 

「どうして……それを」

 

 店で見られたのは、再構成される前の身体だ。処女へ戻ったことも、今の貞操帯も、男たちが知るはずはない。

 

 車内にいる全員が、同じ情報を渡されている。

 

 誰から、と考えた瞬間、ジェイクの穏やかな声が脳裏をよぎった。

 

「ジェイクさんは、どこですか」

 

「ジェイク?」

 

 金髪男は向かいの二人へ顔を向けた。

 

「知ってる?」

 

「いや。誰すか、それ」

 

 三人が笑った。

 

 本当に知らないのか、口裏を合わせているのか。桜には見分けられない。

 

「でも凛ちゃんのことなら知ってるぜ。気ぃ強くてさ。どんだけやっても、最後までこっち睨んでんの」

 

「中に出すなって言いながら締めてくんの、すごかったっすよね」

 

「……姉さんに、何をしたんですか」

 

 抑えたつもりの声が震えた。

 

「聞きたい?」

 

「答えてください」

 

「じゃ、桜ちゃんも俺らを楽しませてよ」

 

 金髪男がベルトへ手を掛けた。

 

 金具の外れる音に、桜は扉の取っ手へ手を伸ばす。引いても動かない。走行中だからではない。最初から内側では開かないようにされている。

 

「いやです」

 

 振り返り、はっきり言った。

 

「姉さんのところへ連れていく約束でしょう」

 

「俺らは頼まれて運んでるだけ。桜ちゃんが感じ悪かったら、途中で降ろすかもな」

 

「そんな……」

 

「行けなくてもいいなら、別にいいよ?」

 

 軽い声だった。

 

 だからこそ、本当に桜だけを置き去りにできる男だと分かった。

 

 姉の居場所を知らないまま、唯一の道を失う。

 

 桜は唇を噛んだ。

 

 自分から従いたいのではない。選べる形を残されただけで、選んでよい答えは一つしかない。

 

「……わかりました」

 

 金髪男は返事の代わりに、下ろしたズボンからペニスを取り出した。半ば勃起したそれが、桜の目の前で持ち上がる。

 

「まず俺。ほら、下」

 

 桜は座席の間の狭い床へ膝をついた。

 

 車の細かな振動が膝から骨へ伝わる。金髪男の正面へ身体を向けると、向かいの二人が桜を見下ろしていた。

 

 手を伸ばしかける。

 

「手は禁止」

 

 金髪男が両膝を叩いた。

 

「ここに置いとけ。口だけでやってみろよ」

 

 桜は左右の手を男の膝へ置いた。

 

 顔を近づけると、汗と体臭が鼻へ入る。

 

 誰にも知られていない形へ戻った唇を、最初に待っていたのは、好きな人とのキスではなかった。

 

「……ん」

 

 目を閉じ、先端へ唇を触れさせる。

 

 熱い。舌へ塩気が移る。

 

 口を開き、亀頭を含んだ。太い縁が唇を押し広げる。舌先で裏側をなぞり、浅く吸う。

 

 ちゅっ、ぬる……。

 

 自分の唾液が男の皮膚を濡らす音が、閉ざされた車内に大きく響く。

 

 桜は両手を膝へ置いたまま、ゆっくり首を引いた。また亀頭だけを咥え、時間を掛けて舌を回す。

 

 車が先に着けば、この行為も途中で終わるかもしれない。

 

「おい。わざと遅くしてるだろ」

 

 髪を掴まれ、桜の肩が跳ねた。

 

「……んぅ」

 

「もっと深く。頬へこむくらい吸え」

 

 頭を押される。ペニスが舌の上を滑り、喉の手前まで入った。

 

「んんっ……!」

 

 吐き気に首を引こうとしても、髪を掴む手が許さない。鼻から短く息を吸い、頬を窄める。

 

 ずちゅっ、と唾液が押し出された。

 

「そう。亀頭へ舌巻いて」

 

 桜は指示どおり、太い先端へ舌を沿わせた。首を動かすたび、男の膝へ置いた掌に力が入る。

 

「そうだ。凛ちゃんに何したか、だっけか」

 

 さっきの問いを、金髪男は今になって思い出したように口にした。

 

 桜が顔を上げようとすると、後頭部を押さえ込まれる。聞きたければ続けろとでもいうように、亀頭を舌へ押しつけられた。

 

「まあ、簡単に言えばマワしただけさ」

 

「ん……っ!」

 

「たっぷり中出しして、家でも、公衆トイレでもやったな。バイブで蓋して、桜ちゃんみたいに貞操帯つけてな」

 

 男の膝へ置いた指が強張った。

 

(姉さんも……)

 

 金属の重みと、自分の胎内に閉じ込められたものが、男の軽口一つで姉の姿に重なった。

 

 咥えたままでは問い返せない。桜は鼻に掛かった声を漏らし、亀頭の裏へ舌を押し当てた。

 

「そういや、舌使いは姉ちゃんとそっくりだな。なかなか上手いぞ」

 

「ホームレスにやらせちゃったの、勿体なかったんじゃないすか? まだ楽しめたのに」

 

 向かいの男が、惜しい品物の話でもするように言う。

 

「しゃあねぇだろ。とにかく大量に中出しさせろって言われたんだから」

 

 誰に言われたのか。

 

 桜は目だけで金髪男を見上げた。男は答えず、口の動きが止まったことだけを咎めるように腰を突き出した。

 

「ほら、聞きたかったんなら口も止めんな」

 

「んぐっ……!」

 

 喉口へ亀頭が当たり、息が詰まる。

 

 姉のことを知るには、このまま聞くしかない。

 

 桜は涙の滲む目を閉じ、舌を動かした。

 

「唾、溜めろよ。乾いてんぞ」

 

 唾液を飲み込まず、口の中へ集める。ペニスを抜かれると、濡れた糸が唇から先端へ伸びた。

 

 ぬちゃ、ちゅぷっ。

 

 もう一度、ゆっくり咥える。

 

「まだ時間稼ぐ気か。言っとくけど、三人イカせるまで目的地には着かないから」

 

「……っ」

 

 動きが止まりかけた桜の横で、カーテンが一気に開いた。

 

 真昼の光が差し込む。

 

「ちょ、ルート見せるなって言われてるんじゃ」

 

 後席の男が身を起こした。

 

「まだ近場だしいいだろ。それより桜ちゃんに外見せてやろうぜ」

 

 繁華街だった。

 

 歩道を買い物客が行き交い、信号待ちの列が車のすぐ横にある。ガラスへ顔を向けた誰かが、膝をつく桜へ気づいてもおかしくない。

 

「このまま知らない人に見てもらう?」

 

 金髪男が後頭部を掴み、腰を前へ出した。

 

 ペニスが喉へ押し込まれる。

 

「んぐっ……! んんーっ!」

 

 両手を膝から離して押し返そうとした瞬間、向かいの男に手首を掴まれた。

 

「手ぇ使うなって言われただろ」

 

 掌を男の膝へ戻される。

 

 外から見える。逃げようと顔を上げれば、そのぶん桜の姿が窓へ近づく。

 

「ほら、人来たぞ。見つかる前に気持ちよくして」

 

 桜は目尻に滲んだ涙を堪え、首を動かした。

 

 ずちゅっ、ぬちゅっ。

 

 先ほどまでの遅さを捨て、喉の手前まで咥えては抜く。舌で亀頭の裏を擦り、頬を窄めて強く吸う。

 

「んっ、んぅ……んんっ……!」

 

 苦しい声が漏れるたび、三人が笑った。

 

 通行人の影が窓を横切る。

 

 気づかないで。

 

 そう願いながら、自分から男のペニスを激しく吸っている。

 

「ああ、いい。そろそろ出るぞ。喉、開けとけ」

 

 桜は首を振ろうとした。

 

 髪を掴む手が強まり、亀頭が舌の奥へ押しつけられる。

 

「んぐぅっ!」

 

 どくっ、とペニスが脈打った。

 

 熱く粘る精液が舌の奥へ飛ぶ。次が上顎へ当たり、三度目は直接喉へ流れ込んだ。

 

 どくっ、どくっ。

 

 口を離せない。溜まった量に息が詰まり、桜の喉が反射的に上下した。

 

「そう、全部飲め」

 

 ごくっ。

 

 飲み下すたび、濃い塩気が喉へまとわりつく。

 

 最後の一滴まで舌へ落とされてから、ようやく頭を放された。

 

 桜は咳き込み、男の膝へ置いたままの手を震わせた。

 

 カーテンが閉まる。暗さが戻っても、見られる恐怖は胸から消えない。

 

「次、俺いいすか」

 

 向かいの男が立った。

 

 金髪男に顎を向けられ、桜は膝立ちのまま身体の向きを変えた。

 

 二人目は最初から硬くなっていた。

 

 桜は自分の腿へ両手を置く。震える指で布を掴み、舌を出した。

 

「ちゃんと根元まで舐めて」

 

 陰嚢の近くから濡れた舌を上へ這わせる。汗の苦みと、先ほど飲まされた精液の味が口の中で混じった。

 

 ぺちゃっ、ちゅっ。

 

 亀頭まで舐め上げて咥える。

 

「さっきみたいに吸えよ」

 

 後頭部へ手を添えられただけで、桜の身体が怯えて強張る。押される前に深く含み、頬を窄めた。

 

「んぅっ……んっ、んん……」

 

 男は桜の恐怖を確かめるように浅い動きを何度か繰り返したあと、急に腰を突き出した。

 

 亀頭が喉口へ当たる。

 

「おっ、締まる。吐くなよ」

 

 桜は鼻から短く息を吸った。顎が疲れ、口を開き続けるだけで痛い。それでも止めれば、またカーテンを開けられる。

 

 姉へ続く道も閉ざされるかもしれない。

 

 腿を掴む手に力を込め、自分から頭を上下させた。

 

「んっ……ふぅっ、んぐっ……!」

 

 ずちゅ、ずちゅっ、と速度が上がる。唾液が口角から顎へ垂れた。

 

「そういえば、凛ちゃんマワしたとき撮影したやつ、あれ売るんすか? 電車の中とかのも」

 

「まだ止められてる。良い編集ができたんだけどなぁ」

 

 金髪男が残念そうに答えた。

 

「色んなとこで撮りましたしね。大作っすよ」

 

 二人目が口惜しそうに続ける。

 

 撮影されていた。少なくとも、男たちはそう話している。

 

 姉が男たちにされたことが、映像として残されているという。

 

(売るって……そんな……)

 

 誰が止めているのか。何のために残しているのか。

 

 桜が目を見開いたまま動きを鈍らせると、二人目が後頭部を掴んだ。

 

「止まるな」

 

「んぐぅっ……んっ……!」

 

 腰を押しつけられ、二人目が桜の口内で短く脈打った。

 

「出る」

 

 どくっ。

 

 精液が頬の内側へ広がる。一人目より少ない。けれど、飲み込む前にもう一度腰を押しつけられ、残りを喉へ塗り込まれた。

 

「んぐっ……ごくっ……」

 

 桜が精液を飲み下すあいだに、二人目は満足そうに座席へ戻った。

 

 入れ替わった三人目は、すでにズボンを開いている。

 

 休ませる気はない。

 

「ほら。俺で最後」

 

「少し、待って……ください」

 

「待ったら着くの遅れるけど?」

 

 桜は目を閉じた。

 

 顎の痛みも、喉の熱も、口いっぱいに残る他人の味も、姉へ近づくための代償だと言い聞かせる。

 

 三人目のペニスを咥えた。

 

「んむっ……」

 

 この男は頭を押さえず、桜に動かせた。

 

 それが自由なのではない。止まれば金髪男の指がカーテンへ伸び、車がどこかで桜を降ろす。

 

 ちゅぷっ、ぬるっ、ぴちゃっ。

 

 桜は舌を裏筋へ押し当て、首を振るように亀頭を舐め回した。吸って、抜いて、唾液を絡め、また奥まで含む。

 

「この子、嫌がってるわりに覚えるの早いな」

 

「天然だからな」

 

 聞こえないふりをする。

 

 身体が反応を覚えたのではない。どうすれば早く終わるかを、奪われながら選んでいるだけだ。

 

「もっと速く」

 

 姉へ続く道を失わないため、桜は従った。

 

 顎が震え、喉から苦しい声が漏れる。男の呼吸が荒くなるほど、首の動きを速めた。

 

「あ、出る……そのまま」

 

 陰嚢が縮み、亀頭が舌の上で膨らむ。

 

 どくっ、びゅっ。

 

 粘い精液が口蓋へ飛び、唇の隙間から一筋こぼれた。

 

「こぼすなよ」

 

 指で口角を塞がれる。

 

 桜は目を潤ませたまま、口内の精液を二度に分けて飲み込んだ。

 

 ごくっ、ごくっ。

 

 空になった口にも塩辛さだけが残る。

 

 これで終わる。

 

 そう思って顔を離した桜の前へ、また金髪男が座った。

 

「よくできました。じゃ、着くまで仕上げな」

 

「三人、終わったはずです」

 

「俺はもう一回出せなんて言ってないよ。舐めてろってだけ」

 

 勝手に決めた条件は、男たちにとって約束ですらなかった。

 

 桜は睨み上げた。

 

 金髪男は笑い、膝を叩く。

 

「その顔のままでいいから、手ぇ置いて」

 

 桜は再び両手を男の膝へ置いた。

 

 一度射精したペニスはまだ濡れ、精液と唾液の匂いを残している。唇で先端を挟み、舌を当てた。

 

 ぺろっ、ちゅっ。

 

 動く車内で、いつ終わるかも分からないまま舐め続ける。

 

 顎が痛い。喉が熱い。飲み下した三人分が胃の中にあると意識するたび、吐き気が込み上げる。

 

 男の膝に爪を立て、怒りをそこだけへ逃がしながら、桜は舌を這わせ続けた。

 

 やがてペニスが再び硬さを取り戻した頃、車の速度が落ちる。

 

「お。着いたな」

 

 ブレーキに身体が傾いた。

 

 金髪男の膝を掴んで堪え、桜はようやく口を離した。

 

 唇と顎についた精液を手の甲で拭う。どれだけ拭っても、喉の奥へ貼りついた味までは消えなかった。

 

   ◇

 

 スライドドアが開くと、白い昼光が目に刺さった。

 

「気持ちよかったよ、桜ちゃん。また店来てくれよな」

 

 桜は答えない。

 

 立ち上がる。狭い床へついていた膝が痺れていた。段差を降りた拍子に胎内の重みが揺れ、服の下の貞操帯が股間へ食い込む。粘体だけは最後まで動かなかった。

 

 振り返り、男たちを睨む。

 

「姉さんにしたことを、忘れません」

 

「こわ。凛ちゃんにそっくり」

 

 笑い声とともに扉が閉まった。

 

 黒塗りのバンは、桜だけを残して走り去る。

 

 目の前にあったのは、ホテルのように広いエントランスだった。

 

 磨き上げられた床。深い赤の絨毯。壁際には角の大きな鹿や、牙を剥いた獣の剥製が並ぶ。宿泊客も係員も見えない。大きな施設なのに生活音がなく、高級というより、所有する力を見せつけるための空間に思えた。

 

 スマホを確かめる。

 

 士郎からの返信は、まだない。

 

 自動ドアへ近づくと、音もなく左右へ開いた。

 

 外の排気と精液の匂いを押し流すように、花とも香木ともつかない甘い香りが流れてくる。

 

 その奥に、スーツ姿の男が立っていた。

 

「お疲れ様です、桜さん」

 

 穏やかな声。

 

 土曜の朝、電話で時刻だけを告げたジェイクだった。

 

「ジェイク……さん」

 

 桜は歩み寄り、痛む顎を上げた。

 

「さっきの男たちは、あなたが寄越したんですか」

 

「道中のことは存じません」

 

 ジェイクは困ったように眉を下げる。

 

「私も、ただの召使のような存在ですので」

 

 謝罪も、驚きもなかった。

 

 知らないと言いながら、桜がその車でここへ着くことだけは知っていた。

 

「……姉さんは、ここにいるんですか」

 

 ジェイクは答えず、奥へ続く扉へ手を向けた。

 

「こちらへどうぞ」

 

 背を向けて歩き出す。

 

 桜はその背中を睨んだ。

 

 口と喉には三人分の精液の味が残っている。胎内にも別の男たちが残したものが閉じ込められ、腰には外せない金属がある。好きな人には何も告げられず、その人からの返事もない。

 

 それでも、扉の向こうに姉がいる可能性だけは捨てられなかった。

 

 ジェイクが通った扉が、ゆっくり閉まり始める。

 

 桜はスマホを握り直し、その隙間へ身体を滑り込ませた。

 

「姉さん……」

 

 答えの代わりに、扉が背後で閉じた。

 

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