扉が、桜の背後で閉じた。
外の光も車の排気音も、それきり途絶える。
薄暗い廊下の奥へ、ジェイクの靴音だけが遠ざかっていった。
「待ってください」
呼び止めても、男は歩調をわずかに緩めるだけで振り返らない。
桜は唇を結び、その背中を追った。
毛足の長い絨毯が二人の足音を吸っている。壁には金の縁取りが施され、等間隔のランプが磨かれた木目を淡く照らしていた。ホテルのように整っているのに、客室番号も、非常口の表示も、人の気配もない。
口の奥には、車内で飲まされた三人分の精液の塩辛さがまだ貼りついている。唾を飲むたび、疲れた顎と喉がひりつく。胎内の残留物は、一歩ごとに重く揺れた。
服の下の貞操帯だけは静かだった。
静かだからこそ、不気味だった。
ジェイクが廊下の突き当たりで足を止める。
装飾のない、濃い色の扉。
その一歩手前で、桜の肌が粟立った。
「……結界」
空気の流れが、扉の輪郭だけを避けている。
桜が魔力を薄く巡らせると、指先へ返るはずの感触が、粘つく膜へ触れたように鈍った。
外から中を隠すだけのものではない。
内側へ入ったものを、逃がさないための境界。
「お気づきですか」
ジェイクがようやく振り返った。いつもの穏やかな微笑みだった。
「さすがですね、桜さん」
褒められても、胸の警戒は少しも解けない。
桜はポケットの中のスマホを握った。画面を確かめる余裕はない。士郎から返事が来ていたとしても、ここから助けを呼べる保証はなかった。
「姉さんは、この中にいるんですか」
「ご自身で、お確かめください」
また、答えになっていない。
ジェイクの指が取っ手へ掛かる。
桜は魔術回路を開いた。
身体を再構成されてから以前より滑らかに巡るようになった魔力を、腕、脚、指先へ通す。罠が発動する前に、何が起きても最初の一撃だけは返せるように、右腕の経路へ濃く集めた。
扉が内側へ開く。
甘く湿った匂いが、細い隙間から流れてきた。
罠だ。
そう分かっていても、ここで戻れば姉へ続く手掛かりを失う。
桜はジェイクを見据えたまま、境界を跨いだ。
背後で扉が閉まった。
皮膚の上で空気がぬるりと動く。
同時に、貞操帯の内側が脈打った。
静止していた粘体が一息に膨れ、股間と尻へ吸いつく。
「あっ……!」
ぷちゅっ、と濡れた音が股間の奥で弾けた。
ジェイクからの攻撃だ。
桜は刺激に膝を折られるより早く腰を落とした。すでに開いていた回路から、準備していた魔力を右腕へ一気に集める。狙うのは、すぐ前のジェイク。
「――はっ!」
掌から放った魔力の奔流が、一直線に男の胸を貫こうと走った。
ジェイクは振り返りざま、片手を上げただけだった。
指先がわずかに払われる。
桜の魔術は男へ触れる寸前で軌道を折られ、斜め上へ逸れた。光は天井へ届くより早く、結界の中へ吸い込まれるように消える。
「なっ……!?」
咄嗟に放った一撃ではない。扉が開く前から練り上げた魔術だった。
それをジェイクは、姿勢すら崩さず退けた。
驚く暇もなく、粘体が一斉に牙を剥く。
熱を帯びた魔力が頬、首筋、胸元へ貼りつき、服の隙間から肌を舐めるように入り込んだ。吸った息まで甘く濁り、回路へ流していた力が逆向きに撓む。
クリトリスを包む粘体が、ぷるるるっ、と細かく震えた。
「ひっ……!」
アナルへ残る先端は、きゅうっ、と括約筋を内側から吸い上げる。もう一方は膣口の縁へ這い、閉じた処女膜の手前で柔らかな肉を執拗に擦った。
くちゅっ、くちゅっ。
「や……やめて、動かないで……っ!」
桜が腰を引く。
逃げた分だけ胎内の精液がたぷんと揺れ、膜の奥から子宮を押す。内側の重みと、外からの粘つく刺激が一つになり、膝から力を奪った。
それでも桜は壁へ手をつき、指先へ魔力を集め直す。
結界を穿とうとした光が、皮膚へ絡む甘い魔力に散らされた。
「そんな……これなら……!」
手の向きを変え、床へ術式を走らせようとする。
ぬちゅっ、くちゅっ、ぷるるるっ……。
動きが変わるたび、音も責められる場所も変わった。クリトリスを吸われた直後にアナルを内側から押され、逃げた腰の先で膣口を撫で上げられる。
「んっ、ああっ……! 違う……こんなの、やめ……っ!」
腿が痙攣し、身体が勝手に跳ねた。
一度目の絶頂が、膝から力を奪う。
「あっ、ぁああっ……!」
崩れかけても貞操帯が股間へ食い込み、粘体は離れない。むしろ痙攣を拾うように吸着を強める。
桜は床へ膝をついた。
車内で痛めた膝へ鈍い痛みが走る。その痛みさえ、次の波に呑まれた。
「ジェイク、さん……止めて……! 姉さんに、会わせて……!」
視界の端に、男の革靴だけが見える。
「すぐに会えますよ」
穏やかな声だった。
それを合図に、クリトリスを包む部分が吸いつき、膣口の粘体が擦り上がり、アナルの先端が奥と入口から同時に締め上げた。
ぬぷっ、ちゅくっ、くちゅくちゅっ……!
「あっ、ああっ……い、いや……っ、また……!」
背筋が反る。
喉から高い悲鳴が漏れ、胎内の精液までどくどくと脈打っているように感じられた。自分の意思とは無関係に、腰が小刻みに震え続ける。
姉を探さなければ。
その思いだけを掴み、桜は震える腕を前へ伸ばした。
指先は誰にも届かない。
「姉……さん……」
二度目の絶頂が意識を白く塗り潰した。
◇
最初に戻ってきたのは、手首の痛みだった。
桜は目を開けた。
白い天井。眩しさのない照明。空調の低い音。
両腕は身体の左右へ伸ばされ、手首を幅広の革帯で固定されている。足首にも同じ感触があり、膝を曲げて開かされたまま、硬い台の足置きへ留められていた。
指は動く。肩も足先も動かせる。
けれど、手首も足首も数センチさえ持ち上がらない。
「……っ、ここ……」
声を出した途端、喉の奥に残る塩辛さが蘇った。
服がない。
下着も靴も、ポケットにあったスマホも消えている。裸の身体で唯一残されたのは、腰を覆う貞操帯だけだった。
粘体は内側で静止している。先ほどの暴走が嘘だったように、クリトリス、アナル、膣口へ柔らかく貼りついていた。
「目が覚めましたか」
右側からジェイクの声がした。
桜は首を向ける。
男は数歩離れた場所に立ち、上着の皺一つ乱れていない。
「少し反応が強かったようですね。失礼しました」
「外して……ください」
手首の革帯を引く。金具が、がちっ、と鳴る。
「姉さんはどこですか。約束したでしょう」
「桜」
掠れた声が、反対側から落ちた。
息が止まる。
「……姉さん?」
隣に、もう一台の台があった。
遠坂凛が、そこへ仰向けに固定されている。
黒い髪。赤いリボン。顔は青ざめ、首輪から伸びた鎖が台の金具へ繋がっていた。両手首と足首も、桜と同じ幅広の革帯で留められている。
凛もまた全裸だった。
身につけているのは、下腹部を覆うごつい貞操帯だけ。肌には黒い線が薄く残り、その上で腹だけが不自然なほど大きく膨らんでいた。
車の男たちが笑いながら語った言葉が、目の前で形を持った。
桜の胸が冷たく縮む。
「姉さん……お腹……」
「桜、なんであんたがここにいるのよ」
凛の青い目が、桜の顔から裸の身体へ動き、腰の貞操帯で止まる。
「それ……何をされたの」
問い詰める声へ力を戻そうとしている。それでも語尾は震えていた。
「私は、姉さんを探して……」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
凛が腕を引いた。首の鎖と手首の金具が同時に鳴る。
「どうして一人で来たの。士郎は? 誰かに話した?」
「先輩には場所を残しました。でも、返事がなくて……」
凛は唇を噛んだ。
「バカ。来ちゃ駄目だったのよ」
「……姉さんはどうして何も言わなかったんですか」
凛の目が見開かれた。
桜自身も、口にしてから驚いた。責めたいわけではない。けれど、姉の腹と鎖を見たままでは飲み込めなかった。
「私にも、先輩にも。姉さんが一人で隠したから……私たちは、何も知らないまま待つしかなかったんです」
「それは……あんたたちを巻き込みたくなかったからよ」
「私だって、姉さんを助けたかったんです」
腰の貞操帯が、言葉の代わりのように重く食い込む。
それでも桜は、凛から目を逸らさなかった。
「姉さんが無事でいてくれるなら、私がどうなってもいいと思って、ここまで来ました」
「桜……そんなの、私は望んでない。あんたがこんな目に遭ってまで助けに来るくらいなら、私一人で――」
「私も望んでいません!」
桜の声が、思ったより強く響いた。
「姉さんが一人でこんなひどい目に遭うなんて、私だって嫌です。姉さんが無事じゃなかったら、私が無事でも意味がないんです」
凛は何かを言おうとして、唇を閉じた。
自分がどうなっても、相手だけは助けたい。
その気持ちは同じだった。
同じだからこそ、二人とも相手へ何も告げず、相手が最も望まない場所まで一人で来てしまった。
拘束された今は、互いへ手を伸ばすことさえできない。
「……姉さん」
「分かったなんて言わないわよ」
凛は浅く息を吐いた。
「あんたも同じことを言うのね。ほんと、最悪」
「はい……」
短いやり取りの間にも、凛の指は手首の革帯の縁を探っていた。
桜も手首を返し、革帯の隙間を探った。指先へ魔力を集め、拘束具を内側から壊そうとする。
だが、回路を巡った力は結界へ触れた途端、泥水へ注いだ光のように散った。
革帯が、ぎしっ、と鳴るだけだった。
「無駄よ、桜」
凛が息を切らしながら言う。
「私も何度も試した。ここじゃ、まともに編めない」
「でも……!」
「分かってる。諦めろって意味じゃない」
凛もジェイクを睨んだまま、金具の遊びを探し続けていた。
その姿が、桜の知る姉だった。
ジェイクが二台の間へ歩み出る。
「お二人とも、相手を守るためにはご自身を差し出す。よく似ていらっしゃる」
「黙りなさい」
凛の声が低くなる。
「この契約も、この場所も、全部あんたが仕組んだの?」
「ええ」
ジェイクは穏やかな表情のまま頷いた。
「資金援助の契約を差し出したことも、援助を止める時期も、遠坂さんが他を頼らず条件を受けるよう追い込んだことも、私の計画です」
桜の横で、革帯が強く軋んだ。
「あんた……!」
「本当は、遠坂さんだけのつもりでした」
ジェイクの視線が、凛の大きく膨らんだ腹へ落ちる。
「私には、確かめたいことがあります」
「なにを……」
「根源へ至る方法です」
凛の表情から、一瞬だけ怒りが消えた。
理解したからではない。あまりに大きな言葉を、目の前の被害へ平然と結びつけた男を測り直したのだ。
「精液とは生命力の塊です」
ジェイクは処置の確認事項を告げるように続けた。
「私の魔術は、その生命力を扱い、他者の魔術回路へ定着させるものです。一人の人間からは到底得られない量の精液を遠坂さんの身体へ吸収させ、その類まれな魔術特性と回路へ通常では考えられないほどの生命力を与えたとき、扉が開かれる。私はそう考えました」
「人を……材料みたいに」
桜の声が震える。
凛の指が拳を作った。
「すでに遠坂さんの体内には、多くの精液が取り込まれています。ご自身では気づいていないようですが、魔力も以前とは比べものにならないほど蓄えられている」
「だからって、こんな方法で……!」
「ただ、遠坂さんだけでは足りなかった。それでは大きな力があるだけです」
ジェイクの視線が桜へ移る。
「私はそこへ、アノマリーを加えたかった。因果を逆転させるような、特異点を」
「好きなだけ私を使いなさい。桜は放して」
「姉さんを放してください。私は、もう――」
「駄目よ、桜!」
二人の声が重なった。
凛と桜は互いを見る。
ついさっき、同じ自己犠牲を責め合ったばかりなのに、また同じ言葉を口にしていた。
ジェイクは小さく微笑む。
「それでは足りないのです」
彼の視線が桜の貞操帯へ落ちた。
「桜さんの身体を調べたとき、使えると分かりました。根本は遠坂さんとほとんど同じ。ただ、別の形へ傷つけられ、歪められていた。先日の工程で、本来の特性へ近いところまで戻しています」
桜には、それが真実か判断できない。
傷も疲労も消えた。閉じた処女膜も自分で確かめた。魔力も以前より滑らかに巡る。
それらは桜自身が知る事実だ。だが、何へ戻されたのか、誰のための変化なのかは、ジェイクの言葉でしかない。
「お二人のお腹の中にある大量の精液を、互いに交換する。異なる過程を通った、よく似た二人の間で」
「それで根源へ届くっていうの? 仮説にしても粗すぎるわ」
「結果は、これから確かめます」
「ふざけないで。そんなこと――」
低い機械音が凛の拒絶を遮った。
桜の背中の下で、台が動き始める。
「っ、何を……!」
台全体が横へ滑り、足側の部分がゆっくり内向きに回転した。隣の台も逆向きへ回り込む。
姉妹は両手首と両足首を固定されたまま、足側から近づけられていく。
二台は足置きに固定された両足を互い違いにすれ違わせ、台の端から突き出した姉妹の臀部がぴたりと触れ合うまで近づいた。
「やめて……姉さんに、こんな……!」
台が止まる。
触れ合う尻から、互いの体温が直接伝わった。足側の支えが傾き、開かされた股間が向かい合う角度へ固定されている。
凛が身を捩るたび、触れた臀部から震えが桜へ伝わる。
「では、準備をしましょう」
ジェイクが桜の腰へ手を伸ばした。
「触らないでください!」
「装置を外すだけです。元々、それも約束でしたから」
「こんな約束の仕方じゃありません!」
返事の代わりに、小さな鍵が錠へ差し込まれる。
かちり。
金属の帯が左右へ開いた。
腰を覆っていた重みが持ち上げられ、冷えた空気が濡れた股間へ直接触れる。
「んっ……!」
桜は咄嗟に脚を閉じようとした。足首の革帯が突っ張り、開かされた姿勢は変わらない。
貞操帯だけが外れても、粘体は剥がれなかった。
半透明の身体をうにょうにょと脈打たせ、クリトリスを包み、アナルへ細い先端を残し、膣口を柔らかく覆っている。
「桜……それ……何……」
凛の声に、桜は顔を背けた。
「見ないでください、姉さん……」
「……ジェイク! あんた、桜の身体に何を――」
凛の言葉が、錠の外れる音で途切れた。
次は、凛の貞操帯だった。
「やめなさい。外すなら、せめて桜を向こうへ――っ」
ジェイクが金属の覆いを開く。
中へ固定されていた極太のバイブが、凛の膣からゆっくり引き抜かれた。
ぬちゅっ……ぬぽっ。
「んあっ……!」
凛の腹がびくりと震え、首輪の鎖が鳴る。
白く濁った精液が、抜けた隙間からどろりと溢れかけた。
その一滴が台へ触れるより早く、桜の下腹部から粘体が跳ねるように伸びた。
ぬるっ、ぱしゃっ。
半透明の粘体が凛の尻の下へ薄く広がり、受け皿のように縁を持ち上げた。
どぷっ、どろどろっ。
バイブで塞がれていた精液が何度も押し出される。そのたび粘体の窪みが深くなり、白濁を一滴もこぼさず溜めていった。
濃く生臭い匂いが立ち上る。
「姉さん……」
「見ないで、桜……っ」
さっきとは逆の言葉だった。
凛は顔を背けようとしたが、首輪の鎖が短く鳴り、それ以上動けない。精液が粘体の受け皿へ流れ込むたび、大きく膨らんだ腹がわずかに沈んでは揺れた。
「これを……ずっと、中に……?」
「見るなって言ってるでしょ」
凛は強く言った。けれど、その声は白濁が落ちる音のたびに掠れた。
精液の流出が止まる。
粘体は大量の精液を抱えたまま、太い管のような形へ変わった。凛の尻の下から伸び、桜の股間へ密着する。
どろどろと桜に流れ込んでくる精液は処女膜によって侵入こそ防がれるが、その生温かい熱だけは薄い膜越しに伝わってきた。
「いや……何、これ……」
「この粘体が、お二人の間を繋ぎます」
ジェイクの声がすぐ近くへ落ちる。
二人の身体が、半透明の生き物によってひと続きにされた。
そう理解した瞬間、桜の背筋が震えた。
「やめて……姉さんと、こんな……」
「桜の身体にこれ以上何かしたら許さない……!」
凛が鎖を鳴らして身を起こそうとする。
桜も手首を引き、腰を後ろへ逃がそうとした。
二人が逆方向へ離れようとしても、触れ合う臀部は動かず、粘体は股間の周囲へ隙間なく密着している。
ぬちゅっ……くぷっ。
太い管の中で、凛から溢れた精液が重く揺れた。
ジェイクが一歩下がる。
「では、はじめましょうか」