※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第4話 最初の奉仕

 指定されたホテルの個室へ入った瞬間、背後でドアが閉まった。

 

 かちり、と小さな音がする。

 

 それだけで、廊下まで続いていた日常を切り離された気がした。

 

 遠坂凛はドアから手を離し、息を整えた。手の中には、昨夜届いた契約書がある。

 

 契約書は四度読み返した。

 

 全四回。避妊必須。撮影なし。拘束なし。第三者の同席なし。拒否した追加条件は実行しない。要求の変更には書面での再合意が必要。報酬はジェイクを経由し、研究費へ充当される。

 

 自分で確認した。

 

 自分で境界を引いた。

 

 それでも、紙を持つ指先の震えは止まらなかった。

 

 士郎にも、桜にも何も言っていない。

 

 相談すれば止められる。止められなくても、士郎は自分の金と時間を差し出す。だから黙ってきた。その判断を正しいと言い切るには、胸の奥が重すぎた。

 

 部屋は静かで、いかにも高級な造りだった。厚い絨毯、磨かれたテーブル、奥に置かれた大きなベッド。窓を覆うカーテンの隙間から、昼の光が細く差している。

 

 その光の外で、ジェイクから紹介された資産家がソファに座っていた。

 

 白髪混じりの初老の男。仕立てのいいスーツに、穏やかな笑み。立ち上がりもせず凛を眺める目だけが、値踏みするようにゆっくりと上下した。

 

「遠坂凛さん。お越しいただき、光栄です」

 

 低く、丁寧な声だった。

 

「話は、ジェイクから聞いています」

 

「その前に条件を確認するわ」

 

 凛はソファへ近づかず、テーブルの反対側で契約書を開いた。

 

「全四回。避妊は必須。撮影、拘束、第三者の同席は禁止。わたしが中止を告げたら、その時点で終わり。追加や変更は、双方が書面で再合意した場合だけ有効よ」

 

 一項ずつ読み上げる。

 

 男は口を挟まなかった。最後まで聞いてから、鷹揚に頷く。

 

「確認しました。いずれも承知しています」

 

「なら、始める前に部屋を確認させてもらうわ」

 

「どうぞ。慎重なのは結構なことです」

 

 凛は室内へ視線を巡らせた。

 

 見える範囲に撮影機器はない。室内に第三者はいない。ベッドの周囲に拘束具はなく、男の手元には未開封の避妊具が置かれている。

 

 確認できるものを一つずつ潰していく。

 

 恐怖を、手順に変えるために。

 

「これでいいわ」

 

「では、こちらからも一つお願いがあります」

 

 男はそこで初めて立ち上がった。

 

 ゆっくりとテーブルを回り込み、凛との距離を詰めてくる。

 

「私は、君のような存在に触れる日を、長く待っていました。せっかくなら、ただ身体を重ねるだけでは惜しい」

 

 凛は一歩、後ろへ下がった。

 

「何を求めているの」

 

「魔術で、意識を同調させてください。君の感覚と、私の感覚を重ねたい」

 

 契約書を握る指へ、力が入る。

 

「……それは条件にないわ」

 

「行為の内容ではなく、味わい方のお願いです」

 

「言い換えないで。神経を繋げろって言ってるのね」

 

「ええ。一時的に。私には扱えません。魔術師である君にしかできない方法ですから」

 

「嫌よ」

 

 凛は即座に答えた。

 

 男の笑みは崩れない。

 

「お断りになるなら、今回の支援は成立しません。その点は、ジェイクにも伝えてあります」

 

 部屋の空気が、急に重くなった。

 

 契約書には、感覚同調を義務づける条項はない。

 

 だが、男が金を出さないと言えば、ここで終わる。

 

 来週までに必要な宝石は買えない。触媒の亀裂から魔力が抜け、積み上げた成果は失われる。

 

 士郎へ助けを求めれば、あいつは迷わず自分を削る。

 

 凛は奥歯を噛み、男を睨んだ。

 

「同調を維持するかどうかは、わたしが決める。切ると言ったら、その瞬間に終わりよ」

 

「もちろんです」

 

 穏やかな返答だった。

 

 凛は契約書をテーブルへ置き、右手を胸元へ添えた。

 

 意識同調は、一方的に掛けられる術ではない。

 

 凛が自分の魔術回路を開き、感覚の一部を相手へ接続している間だけ成立する。閉じれば切れる。術の主導権は自分にある。

 

 そこにもまだ、自分の選択がある。

 

(……一回として数えさせる。終わったら、すぐに切る)

 

 小さく息を吸い、魔力を循環させた。

 

 青白い光が指先に灯る。

 

 意識の端を細く伸ばし、目の前の男へ触れさせる。

 

 繋がった瞬間、ぞくりと熱が走った。

 

「……っ」

 

 凛は胸元を押さえる。

 

 まだ触れられてもいないのに、男の期待が熱の塊となって神経へ流れ込んできた。逆に、凛の強張った呼吸や皮膚の粟立ちも、男へ伝わっている。

 

「素晴らしい」

 

 男が目を細めた。

 

「まだ君の中へ入ってもいないのに、もう深く繋がったあとのように、二人の感覚が一つになっている。この心地よさ……やはり、魔術師は格が違いますね」

 

「感想はいい。さっさと始めて」

 

「では、お言葉に甘えましょう」

 

 男はソファへ腰を下ろし、脚を開いた。

 

「まずは口で、丁寧にしてもらいます。焦らなくていい」

 

 第一回。

 

 そう数え、凛は男の前へ進んだ。

 

 膝を折り、絨毯へつく。

 

 男がベルトを外し、スラックスの前を開いた。下着から取り出された陰茎はすでに硬く、凛の目の前でどくん、どくんと脈打っている。

 

 同調を通じて、その脈動のたびに高まる期待まで伝わってきた。

 

 凛は右手を伸ばす。

 

 熱い肉を掴んだ瞬間、男の神経を走った快感が、自分の掌から腕を逆流した。

 

「ん……っ」

 

 喉の奥で声が詰まる。

 

「握っただけで分かるでしょう。君の手が、私に何をしているのか」

 

「黙って」

 

 凛は唇を湿らせ、亀頭へ近づいた。

 

 ちゅぷっ。

 

 先端を唇で包む。舌先で裏側をなぞると、相手の快感が鋭い熱となって自分の下腹へ落ちた。

 

「……んっ」

 

 嫌悪とは関係なく、身体の内側が反応する。

 

(これは、わたしの気持ちじゃない)

 

 そう切り分けながら、少しずつ咥え込む。

 

 じゅる……じゅぷっ。

 

 唇を上下させ、舌を絡める。手に残した根元を握り、口の動きに合わせて擦る。

 

 どの角度で舌が当たり、どれほどの圧力が男を喜ばせるのか。同調した感覚が、望みもしない正解を逐一教えてくる。

 

「そうです。そこを、もう少し強く」

 

「ん……んくっ……」

 

 男の手が頭へ触れた。

 

 髪を撫でるような手つきなのに、指は後頭部へ回り、逃げる方向を塞いでいる。

 

「急がなくていい。君の舌が私を撫でる感覚を、君自身にもゆっくり味わってもらいたい」

 

 じゅぽっ、じゅるるっ、くちゅっ。

 

 唾液が陰茎を濡らし、口元から細く垂れた。亀頭から滲んだ液が舌へ広がり、苦みが鼻へ抜ける。

 

 男の快感が返るたび、凛の腹の底にも熱が溜まっていく。

 

 理性では嫌だと分かっている。

 

 この男に触れたいわけではない。咥えたいわけでもない。

 

 それなのに、同調した神経は相手の高まりを自分のもののように伝えてくる。

 

(違う。これは研究の対価。四回のうちの、一回)

 

 士郎の顔が浮かんだ。

 

 映画館で、動く前に凛の意思を確かめた声。

 

 触れる場所を告げ、痛くないかと何度も訊いた手。

 

 目の前の男の快感が、それを上から塗り潰そうとする。

 

(ごめん、士郎)

 

 凛は目を閉じ、口を動かし続けた。

 

「そろそろ出ます。全部、受け止めてください」

 

 男の腰がわずかに浮く。

 

 同調の向こうで絶頂の予兆が膨れ、凛の背筋まで震わせた。

 

「んっ、んん……!」

 

 びゅるっ!

 

 口内へ最初の熱が弾ける。

 

 びゅっ、びゅるるっ……!

 

 陰茎が舌の上で脈打ち、続けて精液を吐き出した。生温かい液体が口いっぱいに広がり、喉の手前へ溜まる。

 

 男の射精感が同調を通じて流れ込み、凛の身体まで内側から痙攣した。

 

「んんっ……く、ぅ……」

 

 息を止める。

 

 ごくっ。

 

 一度では飲みきれず、もう一度喉を動かした。

 

 ごくんっ。

 

 粘つく感触が喉を滑り落ちる。凛は口を離し、乱れた息を鼻から吐いた。

 

「よくできました」

 

 頭上から落ちた声に、凛は唇を手の甲で拭う。

 

「これが一回目で、次が二回目?」

 

「まさか。これは一回目の前戯ですよ」

 

 男は立ち上がると、未開封の避妊具を凛の前で開け、硬さを保った陰茎へ装着した。

 

 凛はそれを目で確認する。

 

 破れていない。根元まで覆われている。

 

「ベッドへ」

 

 短い指示に、凛は自分で立った。

 

 ベッドの端へ腰を下ろしたところで肩を押され、背中がシーツへ沈む。男の手がスカートを捲り、下着を横へずらした。

 

 脚の間へ身体を入れられる。

 

 避妊具に覆われた亀頭が、膣口へ触れた。

 

「では、入れますよ」

 

「……早くして」

 

 ぬぷっ……。

 

 濡れた入口が押し開かれる。

 

「んっ……!」

 

 ぬちゅっ、ずぷっ……。

 

 太い肉が膣壁を擦り、奥へ進んだ。自分を内側から押し広げられる感覚へ、男の「凛へ入っている」という快感が重なる。

 

 一つの接触が、二人分の感覚になって神経を焼いた。

 

「あっ……く……っ」

 

「君の内側が、私を締めています。私が感じるほど、君にも返っている」

 

「説明、しないで……っ」

 

 男が腰を引く。

 

 ぬちゅっ。

 

 膣壁を擦って陰茎が浅くなり、すぐにまた押し込まれた。

 

 ずぷっ、ぬちゅっ、ぬちゅっ。

 

 ゆっくりとした反復が続く。

 

 凛はシーツを掴み、顔を横へ向けた。男の身体を見ないようにしても、同調した感覚からは逃げられない。

 

 自分の膣が陰茎を締める感触。

 

 それを男が味わう快感。

 

 返ってきた熱で、さらに内部が濡れていく感覚。

 

 身体だけが循環へ巻き込まれていく。

 

「んっ……あ、ぁ……」

 

 漏れた声に、凛は唇を噛んだ。

 

(士郎の時と違うのは、同調のせい)

 

 そうだ。男の快感まで重なって返ってくるから、身体がいつもより過敏になっている。

 

 この男を望んでいるわけではない。研究を失う恐怖に押され、金と引き換えに横たわっているだけだ。

 

 どれほど身体が熱を持っても、その違いだけは渡さない。

 

「声を抑える必要はありませんよ」

 

「……アンタのために、声を出す気はないわ」

 

「強情なところも美しい」

 

 男の腰が速くなる。

 

 ぱんっ、ぱんっ。

 

 肌のぶつかる音が部屋へ響き、ぬちゅっ、ぐぷっ、と濡れた音が重なる。

 

「くっ……ん、あっ……!」

 

 奥を突かれるたび、相手の快感まで腹の底へ流れ込む。凛は脚へ力を入れ、せめて声だけでも押し殺そうとした。

 

「もう出ます。君にも分かるでしょう」

 

 分かってしまう。

 

 男の腰の震えも、射精寸前に膨らむ熱も、自分の神経の内側にある。

 

「や……いや……っ」

 

 びゅるっ……!

 

 押し込まれた陰茎が脈打つ。

 

 避妊具の中へ精液が吐き出される感覚まで、同調を通して凛へ流れ込んだ。

 

「っ……ぁ、く……!」

 

 声を噛み殺し、凛は歯を食いしばる。

 

 男の動きが止まった。

 

 数度の脈動を残し、陰茎がゆっくり抜かれる。避妊具は外れていない。中身も漏れていない。

 

 凛は身体を起こすより先に、魔術回路を閉じた。

 

 ぶつり、と熱の循環が切れる。

 

 男の満足が遠ざかり、自分の荒い呼吸と、膣内に残った鈍い熱だけが身体へ戻った。

 

「十分です。報酬は、ジェイクに直接渡しておきます」

 

 凛は返事をせず、ずれた下着とスカートを直した。

 

 避妊は守られた。

 

 撮影機器も、第三者もなかった。

 

 拘束されず、終わったあとには自分で同調を切れた。

 

 少なくとも第一回は、書面に引いた境界の内側で終わった。

 

(……これなら、管理できる)

 

 凛はそう考えた。

 

 嫌な仕事を、終わりのある手順へ落とし込む。

 

 全四回のうち、一回。

 

 あと三回。

 

 そう数えられたことを、凛は安心と呼ぼうとした。

 

   ◇

 

 翌日。

 

 二回目の個室へ入ると、男は挨拶もそこそこにソファを指した。

 

 同じ部屋。同じ厚いカーテン。同じベッド。

 

 昨日と変わらないはずなのに、男の目だけが、もう凛を客として見ていなかった。

 

「今日は、喉の奥まで咥えてもらいます」

 

 男は脚を開き、凛へ近くへ来るよう手招きした。

 

「君との同調を、もっと深く味わいたい」

 

「……契約書にないわ」

 

 凛は立ったまま返す。

 

「あんまり強くしたら同調を切るわよ」

 

「ええ。しかしその場合、今回分に含めるかは私次第です。ジェイクに確認していただいてもかまいませんよ」

 

 凛の足が止まった。

 

「……数えない?」

 

 昨日は見えなかったものが、その言葉で形を持った。

 

 四回を数えるのは、凛ではない。

 

 報酬の判定権も、自分の手元にはない。

 

 契約書に回数を書かせても、相手が「一回ではない」と言えば、研究費へ届かない。

 

 分かっていたはずの不均衡が、初めて鎖のように見えた。

 

「……分かった」

 

 凛は男を睨んだまま、胸元へ手を添えた。

 

 再び魔力を流す。

 

 意識の端が繋がった途端、男の期待が熱となって押し寄せた。

 

 昨日より強い。

 

 すでに凛の口と身体が何を返すか知っている熱だった。

 

 男は陰茎を取り出し、ソファの前に立つ凛を見下ろした。

 

「跪いて」

 

 短い命令。

 

 凛は唇を引き結び、膝をついた。

 

「まず、口を開けなさい」

 

 顎へ指をかけられる。

 

 硬い陰茎が唇へ押し当てられ、凛は仕方なく口を開いた。

 

 次の瞬間、後頭部を掴まれる。

 

 ずぶっ。

 

「んぐっ……!」

 

 一気に深く押し込まれた。

 

 亀頭が舌の奥を越え、喉口へ触れる。息が詰まり、凛の両手が反射的に男の腿を掴んだ。

 

「力を抜いて。喉で受け入れるんです」

 

「ん゛っ……む、り……っ」

 

 首を引こうとしても、後頭部の手が動きを止める。

 

 じゅぽっ。

 

 一度浅く抜かれ、空気を吸う間もなく、また喉奥まで押し込まれた。

 

 じゅぽっ、ぐぷっ、じゅるるっ……!

 

「んぐっ、ぅ……! 待っ……」

 

 目尻から涙が溢れる。

 

 喉を陰茎が擦る苦しさ。それを男が味わう強烈な快感。その快感が同調を通じ、熱となって凛の腹の底へ流れ込む。

 

 苦しい。

 

 嫌だ。

 

 なのに身体は、相手の高まりを受けて熱くなる。

 

「我慢しろ。君の感覚が、私をさらに興奮させている」

 

 再び頭を引き寄せられる。

 

 ずぶっ、じゅぽっ、ぐぷっ。

 

「ん゛っ……! んぐ、ぅぅっ……!」

 

 唾液が口端から溢れ、顎を伝った。

 

 前後するたびに喉が擦られ、息が細く途切れる。男の快感はますます強くなり、同調した神経を通じて凛自身の腰まで震わせた。

 

(士郎……ごめん)

 

 あの優しい声を思い浮かべても、今は喉を塞ぐ肉の感触と、相手から返る熱を消せない。

 

「出る……このまま受け止めろ」

 

 行為の最中だけ、男の言葉から丁寧さが消えた。

 

 後頭部を押さえる手へ力が入る。

 

「んっ、んんんっ……!」

 

 びゅるるっ!

 

 喉のすぐ手前へ、熱い精液が叩きつけられた。

 

 びゅっ、びゅるっ……!

 

 陰茎が何度も脈打つ。口内へ溢れるより早く奥へ流れ、凛は咳き込みそうになる喉を無理に動かした。

 

 ごくっ、んくっ……。

 

「っ、げほ……! はっ、はぁ……っ」

 

 ようやく頭を解放され、凛は片手を絨毯についた。

 

 唾液と残った精液が顎から落ちる。喉は熱く擦れ、呼吸をするたびひりついた。

 

 同調の向こうから、男の満足が余韻となって流れ続ける。

 

 凛は震える手で口元を拭った。

 

 男は息を整えながら、静かな口調へ戻った。

 

「次は、中に出させてください」

 

 凛の動きが止まる。

 

「そうすれば、三回にしてもいい。つまり本日が終われば、あと一回です」

 

 三回。

 

 今日を終えれば、あと一回。

 

 必要額へ届くまでの回数を、一度減らせる。

 

 ホテルへ来る回数も、士郎へ嘘を重ねる回数も減る。

 

 一瞬で利点が並ぶ。

 

 けれど、その先にある感触を思った瞬間、身体の芯が冷えた。

 

 避妊具なしで挿入される。

 

 男の精液を、膣の中へ直接出される。

 

 そこは絶対に渡さないと、自分で決めた境界だった。

 

「断る」

 

 凛は顔を上げ、即答した。

 

「迷いませんね」

 

「ええ。契約の通り、避妊して」

 

「あと一回で終わっても?」

 

「何度言わせるの。避妊具を着けなさい」

 

「そこまで言うなら、無理強いはしません。君の意志を尊重しましょう」

 

 男は凛の目の前で包装を破り、避妊具を陰茎へ被せた。

 

 凛は根元まで装着されたことを確認する。

 

 拒否できた。

 

 境界を守らせた。

 

 胸の奥へ、その事実だけを強く刻む。

 

「では、後ろを向いてください。今日は少し強くいきます」

 

 凛はベッドへ移り、四つん這いになった。

 

 両膝がシーツへ沈む。自分の手でスカートを腰まで捲り、下着をずらす。

 

 背後へ男の体温が近づいた。

 

 腰を掴まれる。

 

 避妊具に覆われた亀頭が膣口へ押し当てられた。

 

 ぬぷっ……。

 

「んっ……!」

 

 昨日より速く、太い肉が入ってくる。

 

 ぬちゅっ、ずぷっ!

 

「あっ……くぅっ……!」

 

 一息に奥まで押し込まれ、凛の腕が震えた。

 

 男の快感が同調を通じて返り、自分の膣を内側から突き上げられる感覚と重なる。

 

 すぐに腰が引かれた。

 

 ぬちゅっ。

 

 また深く打ち込まれる。

 

 ぱんっ! ずぷっ、ぬちゅっ。

 

「んっ、あ……っ! や、ぁ……!」

 

「よく響く。君の声も、同調を通じてこちらへ伝わっている」

 

「嫌……声、出さない……っ」

 

 凛は唇を噛み、肘を張った。

 

 だが男の腰は緩まない。

 

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!

 

 尻へ腿がぶつかり、そのたび膣奥を抉られる。同調した熱が遅れず返り、身体の内側で逃げ場のない輪を作った。

 

「んっ……く、ぅ……! あっ……!」

 

 声が漏れるたび、男の興奮が高まる。

 

 その高まりがまた凛へ流れ込み、濡れた膣が陰茎をきつく包む。

 

 身体は反応しても、凛が望んだことにはならない。

 

 その線だけを、意識の中で握り続ける。

 

(あと二回。これが終われば、あと二回)

 

「そろそろ出ますよ」

 

 男が腰を深く押しつけ、陰茎が根元まで入ったまま強く脈打った。

 

 びゅるっ……!

 

「っ、あ……!」

 

 避妊具の中へ射精される。

 

 直接注がれてはいない。それでも同調が、男の射精感を凛の腹の底へ流し込んだ。

 

 びゅっ、びゅるるっ……。

 

 続く脈動のたび、凛の指がシーツへ食い込む。

 

「ん……っ、く……ぅ……」

 

 男は最後までゴムを外さず、激しく果てた。

 

 やがて腰を引き、陰茎が抜ける。

 

 凛はすぐに振り返った。

 

 避妊具は装着されたまま。破損も、漏れも見えない。

 

 確認してから、同調を切る。

 

 ぶつり、と男の満足が遠のいた。

 

 だが、喉と膣に残った感覚までは消えない。特に喉の奥には、男が射精した瞬間の熱が残響のように貼りついていた。

 

 凛はベッドへ崩れ落ちるように座り、自分の腕を抱いた。

 

 それでも拒否できた。

 

 回数短縮を示されても、避妊を守らせた。

 

 まだ選べる。

 

 その事実を、凛は安全の証拠として握り締めた。

 

 男はもうスーツを整え、ドアへ向かっていた。

 

「次回も、楽しみにしています。報酬は、昨日と同じくジェイクへ渡しておきます」

 

 凛が返事をする前に、ドアが閉まった。

 

 部屋に、一人残される。

 

 荒い呼吸だけが、静かな個室へ落ちた。

 

 凛は喉を押さえた。

 

「……あと、二回」

 

 声が掠れる。

 

 あと二回、耐えれば必要な資金が揃う。

 

 そう信じなければ、ここまで来た意味がなくなる。

 

 服装を直し、部屋を出る。

 

 廊下へ出てすぐ、凛はスマートフォンを取り出し、ジェイクへ入金確認を送った。

 

 返事は早かった。

 

『二回分、確かに受領しました。研究費への充当手続きを進めます』

 

 凛は立ち止まり、画面を見つめた。

 

 金額は書かれていない。

 

 問い返す文を打ちかける。

 

 指が止まった。

 

 残り二回を終えれば、必要額は揃う。そのときまとめて確認すればいい。

 

 今は、一回目も二回目も数えられた。

 

 避妊も守らせた。

 

 まだ自分で管理できている。

 

 凛は入力欄を閉じ、スマートフォンを鞄へしまった。

 

 ホテルを出る。

 

 外には、昨日までと変わらない街の音があった。

 

 士郎の待つ日常も、変わらずそこにある。

 

 そう数え直しながら、凛は同調の残響が消えない喉を押さえ、そこへ戻っていった。

 

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