※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第6話 正体を伏せた夜

 ベッドの傍らで、ジェイクは呼吸を止めた。

 

「そこにいるのは、誰なの」

 

 目隠しの下で、遠坂凛が声のした方へ顔を向ける。

 

 返事を待つだけの女ではない。シーツが沈む微かな音。衣擦れ。体温。匂い。息遣い。目を奪われた分だけ、残る感覚を研ぎ澄まして相手の輪郭を組み立てようとしている。

 

 両手首は頭上で、両足首は左右へ開いた位置で寝台に固定されていた。拘束具の革へ力を込めても、かち、と金具が鳴るだけだ。麻痺薬は指一本どころか、魔力回路まで沈黙させている。

 

 それでも凛の意識と声は死んでいない。

 

「返事をしなさい。ジェイクは、これを知っているの?」

 

 知っている。

 

 ジェイクは答えず、その問いを胸の内で受け止めた。

 

 資金難は偶然ではない。最初に援助を与え、凛の研究を一気に進めた。成果が見え、いま止めれば積み上げた時間も触媒も無駄になる――彼女自身がそう判断する地点まで待ってから、送金を絞った。

 

 資産家は金と場所と人間を用意し、その見返りに凛を求めた。ジェイクが必要とする過程と、あの男の欲望。その利害が一致しただけだ。

 

『私は、あなたが根源へ至る過程を、近くで見守りたい』

 

 初めて会った夜に告げた言葉は、嘘ではない。

 

 ただ、そこへ至るために何をするかを、彼女へ話していなかった。

 

「……そこにいるんでしょう」

 

 凛は低く言い、聞き耳を立てる。

 

 ジェイクはベルトへ手をかけた。

 

 かち、と金具が鳴った。

 

 凛の呼吸が一拍、止まる。

 

「待ちなさい。何をするつもり?」

 

 頭上の手首が動く。ぎしっ、と革が軋み、拘束具がベッド枠を叩いた。脚を閉じようとしても足首は離れたまま、膝がわずかに内側へ震えるだけだった。

 

 ジェイクは寝台へ片膝を乗せた。マットレスが傾く。

 

 凛がすぐに顔を向けてくる。

 

「ベッドに乗らないで。さっきの男はどこ?」

 

 返事はしない。

 

 その沈黙さえ手掛かりに変えようと、凛は浅い呼吸を押し殺した。

 

 ジェイクは彼女の右膝へ手を置く。びくっ、と腿が震えた。左膝にも掌を添え、固定された足首のあいだで、膝をゆっくり左右へ開いていく。

 

「やめなさい……っ」

 

 奉仕を終えたばかりの股間には、資産家が残した熱と匂いがこびりついていた。濡れた肉のあいだから白い液が糸を引き、シーツへ染みている。

 

 凛は腰を逃がそうとした。腹が強張り、尻がほんのわずか浮く。しかし麻痺した脚も拘束された腕も支えにならず、すぐに元の場所へ落ちた。

 

「誰なの。答えなさい。あの男の指示? 勝手に――」

 

 ジェイクは熱を入口へ押し当てた。

 

 濡れた陰唇が先端に押され、ぬるっ、と左右へ分かれる。

 

「……っ、生……?」

 

 見えなくても、凛は接触の意味を悟った。

 

「待ちなさい。……入れるなら避妊して。聞こえてるんでしょう」

 

 返事の代わりに腰を押す。

 

 ぐちゅっ……。

 

 先端が濡れた入口を押し広げ、柔らかな肉壁へ沈んだ。

 

「んっ……あ……! やめて、出して……!」

 

 ぬちゅっ、ぬぷっ……。

 

 一息に奥まで入れる。凛の背がびくんと反り、頭上の拘束具が、かちっ、と鳴った。

 

「あぁっ……!」

 

 腹だけが逃げるように引きつる。腿は震えているのに、足首の位置は一寸も変わらない。目隠しの縁から滲んだ涙が、こめかみを伝って髪へ吸われた。

 

 ジェイクは奥に留まったまま、凛の腹へ意識を澄ませた。

 

 必要なのは、ただ彼女を汚すことではない。

 

 異質な生命力を内側へ残したとき、五大元素を操る魔力回路がそれをどう受け止め、どんな痕跡を刻むのか。その反応が、彼には閉ざされた根源への道を開くかもしれない。

 

「何が目的よ……私の身体?」

 

 凛は問いを重ねる。声が震えても、思考だけは止めない。

 

 答えなら、最初の夜に伝えてある。

 

 根源。

 

 だが、今ここでそれを口にすれば、明日の仮面は剥がれる。

 

 ジェイクは声を殺したまま腰を引いた。締めつける肉壁を先端が擦り、ぬちゅっ、と半ばまで戻る。次の瞬間には深く押し返した。

 

 ぬぷっ……ぬちゅっ……。

 

「んっ……や……動かないで……!」

 

 ゆっくりと往復するたび、凛の命令が短く千切れる。彼女は魔力を回そうとしているのだろう。下腹が硬くなり、指先まで力を送ろうと肩が震えた。

 

 だが、回路は起きない。

 

 頭上の拘束具が、かち、かち、と空しく返事をする。

 

 ジェイクは腰をさらに深く沈めた。

 

 ぬちゅっ……ぱんっ。

 

「あっ……!」

 

 膣奥に先端が当たる。凛の喉が引きつり、開かれた脚のあいだで腹が小さく波打った。

 

 それでも、鈍らされた魔力回路は完全には死んでいない。異物を押し返そうとするような、ごく微かな揺らぎがある。

 

 ジェイクはその痕跡を逃さないよう、速度を上げる。

 

 ぱんっ、ぱんっ、ぬちゅっ、ぬちゅっ……!

 

「あっ、や……っ、待って……!」

 

 腰がぶつかるたび、凛の身体が寝台の上を揺さぶられる。手首の革が軋み、足首の金具が乾いた音を立てた。見えない相手の体重、熱、奥へ当たる角度。凛の世界を、接触だけが塗り潰していく。

 

 ぬちゃっ、ぱんっ、ぬちゅっ……!

 

「いや……中には出さないで……!」

 

 その言葉に、ジェイクの呼吸が大きく乱れた。

 

 凛の顔が、音を追ってぴたりとこちらを向く。

 

「……今、息が変わった」

 

 荒い息の隙間から、確信を拾い上げる声だった。

 

「私の言葉に反応したわね。私を知ってるんでしょう」

 

 核心へ指が掛かった。

 

 ジェイクは沈黙を守り、返事の代わりに腰を強く打ちつける。

 

 ぱんっ! ぱんっ! ぬちゅっ! ぬちゃっ!

 

「あっ、あぁっ……! 答えて……!」

 

 明日もパトロンを演じる。そのためには、吐息の一つでさえ声にしてはならない。

 

 凛は目隠しの下で眉を寄せ、なおも音を拾おうとする。だが、速くなる水音と衝撃が、思考のための間を奪っていった。

 

 ぬちゅっ! ぱんっ! ぬちゅっ! ぱんっ!

 

「や……いやっ……! 出さないで……お願い……!」

 

 拒絶の合間へ、押し殺せない喘ぎが混じる。先端が同じ奥を突くたび、凛の声は「あっ」「ひっ」と高く跳ねた。

 

「士郎……っ……!」

 

 士郎の名に、ジェイクの呼吸がもう一度崩れた。

 

 嫉妬がないと言えば嘘になる。

 

 だが、ここでそれに溺れるわけにはいかない。ジェイクは意識を凛の下腹へ、五大元素の回路へ引き戻す。

 

 腰を引き、濡れた肉壁を長く擦る。

 

 ぬちゅうっ……。

 

「やっ……中、だめ……!」

 

 奥まで一気に突き上げ、そのまま解放した。

 

 びゅるっ……!

 

 びゅるるるっ、びゅっ、びゅるるっ……!

 

「あぁっ……!」

 

 膣奥で脈打つたび、熱い精液が中へ注ぎ込まれる。逃げる余地のない凛の身体がびくびくと痙攣し、足首の拘束具が激しく鳴った。

 

「いや……っ、やめ……!」

 

 声を殺し、奥へ押しつけたまま、ジェイクは呼吸を止める。

 

 こちらから術を加えてはいない。

 

 それでも凛の魔力回路は、流れ込んだ生命力に呼応するように微かに揺れた。一度。遅れて、もう一度。拒絶しながら、異物の痕跡を内部へ残そうとしている。

 

 小さな反応だった。

 

 だが、十分だった。

 

「……っ、あ……」

 

 凛の声がかすれ、消えかける。

 

 ジェイクは奥に留まり、射精の脈動が収まるまで回路だけを読んだ。凛は動かない。動けない。それでも唇を固く結び、泣き声を飲み込もうとしている。

 

 やがて腰を離し、ゆっくり抜く。

 

 ぬるっ……どろっ……。

 

 白い精液が膣口から溢れ、腿を伝い、汚れたシーツへ落ちた。

 

「……中に……」

 

 凛は起きたことを確かめるように呟く。

 

 その次に漏れた声は、もっと小さかった。

 

「士郎……」

 

 彼女は士郎へ隠すだろう。

 

 強いからではない。守ろうと決めた相手へ弱みを渡せず、自分一人で処理できると信じる女だからだ。ジェイクはそれを知っている。そして、その選択まで計画に含めていた。

 

 部屋の入口で、資産家がスーツの袖を整えた。

 

 ジェイクも無言のまま身支度を戻す。ベルトを締め、表情から熱を消し、目隠しされた凛を一度だけ振り返った。

 

「……終わったならこれ外しなさいよ」

 

 答えない。

 

 二人は部屋を出た。

 

 扉が閉まり、外側で鍵が回る。

 

 沈黙が落ちた。

 

 寝台の上で、凛は荒い呼吸を一つずつ整えながら、遠ざかる二人分の足音を数えていた。

 

 一人分が右へ。もう一人分が、その半歩後ろを追う。

 

 やがて、どちらも聞こえなくなる。

 

 その直後だった。

 

 廊下から、もっと重く、揃わない足音が近づいてくる。

 

 一人ではない。

 

 凛が顔を上げる。頭上の手首を引き、開かれた足首へ力を込める。拘束具が、かち、と鳴っただけだった。

 

 鍵が開く。

 

 扉が押し開けられ、靴底が次々に室内へ入ってくる。男たちの低い笑い。何か大きな機材を床へ下ろす、硬い音。

 

 ごとっ。

 

 別の場所でも、ごとん、と鳴る。

 

「……今度は誰」

 

 今度は、沈黙ではなかった。

 

 凛の問いへ、男たちの笑い声が返る。

 

 複数の気配が、ベッドを囲んだ。

 

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