※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

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第8話 家に持ち帰ったもの

 遠坂凛は玄関から浴室まで、壁へ手をついて歩いた。

 

 一歩進むたび、股間を覆う金属が下腹へ食い込む。膣内のバイブは低く震え、男たちが残した精液を、ぐちゅっ、と奥で揺らした。

 

「……止まりなさいよ」

 

 命令しても、機械は答えない。

 

 浴室の扉を閉める。鍵を掛けたところで、この家には誰もいない。それでも凛は施錠し、洗面台へ両手をついた。

 

 服を脱ぐ前から、何を試すかは決めていた。

 

 洗浄。構造の確認。解除。全部駄目なら、動きだけでも止める方法を調べる。

 

 順番を作る。

 

 一つずつ結果を切り分ける。

 

 そうしなければ、恐怖に呑まれる。

 

 凛は震える指でコートを脱ぎ、スカートを下ろした。下着は貞操帯へ引っ掛かり、白濁液を吸って重い。脚を抜こうと持ち上げた瞬間、器具が膣奥でずれた。

 

 ぐいんっ……。

 

「んっ……!」

 

 膝が折れかける。凛は壁へ肩を押しつけ、下着を脱ぎきった。

 

 シャワーの湯を出す。

 

 湯気の中で、汗と、口元に残る唾液と精液、胸や腿の汚れを洗い流す。肌を伝う湯は透明になっていく。

 

 だが、下腹へ密着した金属だけは動かない。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

 貞操帯の表面へ湯を当てる。縁へ指を差し込もうとしても深く入らない。留め具はすべて内側へ隠され、股間を覆う板と腰の帯が一体になっている。

 

「鍵穴は一つ。ここを壊せば……身体まで傷つく」

 

 鏡へ腰を向け、背面を確かめる。

 

 術式の刻印はない。魔力を流しても、回路として返る感触がない。投影や解呪の対象ではなく、少なくとも触れられる部分は純粋な機械だ。

 

 工具を差す隙間もない。男たちは特別製と言っていた。

 

 金属板を掌で押す。

 

 ぐちゅっ……。

 

 押されたバイブの先端が膣奥へ当たり、白い精液が貞操帯の縁から、とろっ、と漏れた。湯に薄まり、腿を伝って排水口へ流れる。

 

 けれど、奥に残ったものへ湯は届かない。

 

「……中が、洗えない」

 

 声にした事実が、胸へ重く沈む。

 

 外側はいくらでも洗える。だが、バイブが栓のように膣を塞いでいる。男たちの精液は身体の中に残され、器具が震えるたび、ぐちょっ、ぬるっ、と掻き回される。

 

 急に尿意が強くなった。

 

 凛は脚を閉じ、すぐに息を止める。閉じれば貞操帯が押され、先端が奥へ食い込む。

 

 構造を見直した。

 

 貞操帯には後ろ側の開口部――大便用の穴しかない。前は金属と器具に塞がれ、位置をずらすことも外すこともできなかった。

 

「嘘……でしょ」

 

 尿意は待ってくれない。

 

 凛はシャワーの音を強くした。誰もいない家で、誰にも聞こえないようにするために。

 

 脚を開く。

 

 自分の意思で力を抜くまでに、三度、呼吸が止まった。

 

 やがて熱い尿が金属の内側を伝い、膣から漏れた精液と混ざって腿を流れた。

 

「……っ」

 

 透明な湯の中へ、白く濁った筋が落ちる。

 

 凛は唇を噛み、終わるまで目を逸らせなかった。

 

 遠坂凛が、自宅の浴室で、貞操帯を着けたまま排尿している。

 

 誰かに見られているわけではない。それでも装置を仕掛けた相手に、排泄の姿勢も、洗い方も、生活の形まで決められた気がした。

 

「士郎に……気づかれたら」

 

 声にした瞬間、涙が一滴落ちた。

 

 凛はすぐに顔を上げ、シャワーで頬を洗う。

 

「泣いてる場合じゃない」

 

 湯を止め、タオルで身体を拭いた。拭き終える前に、また白い精液が、とろっ、と金属の縁から垂れる。

 

 次の項目へ進む。

 

 信号の遮断だ。

 

 凛はパジャマを羽織り、工房から簡易の測定器を持ち出した。装置の前後左右へ探針を当て、帯域を変え、魔力を使わない電気的反応も調べる。

 

 外部からの信号らしい反応は拾えない。

 

 金属板で腰を囲む。厚い布を重ねる。工房の遮蔽箱を横倒しにして、その近くへ座る。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

 振動は止まらなかった。

 

「方式が違うのか、事前設定なのか……」

 

 口に出して仮説を分ける。

 

 そのとき、刺激が一段強くなった。

 

 ぐいんっ、ぐいんっ……!

 

「んっ……!」

 

 膝が揺れ、測定器を取り落としかける。子宮口近くへ先端が当たり、膣内の精液が、ぐちゅっ、ぐちゅっ、と動いた。

 

 凛は針を見る。

 

 動かない。

 

 強弱が切り替わっても、規則は見つからない。

 

 外部信号を拾えない事実は、外から操作されていない証明にはならない。方式が測定範囲外かもしれない。事前設定された動作かもしれない。

 

 いま確定できるのは、どちらも排除できないということだけだった。

 

 空腹に気づき、台所へ移る。

 

 食べなければ、もっと判断力が落ちる。

 

 凛は椅子へ洗える布を何枚も重ね、パンとスープを用意した。何も起きていない夜のようにナイフを持ち、パンを切る。

 

 一口。

 

 二口。

 

 ぐいんっ……。

 

 手が止まる。

 

「……食事ぐらい、させなさい」

 

 返事はない。

 

 ぐいんっ、ぐいんっ、ぐいんっ……!

 

「んっ、あ……あぁっ!」

 

 腰が椅子から浮いた。スプーンが皿へ当たり、からん、と音を立てる。

 

 膣がバイブを締めつけた。望まない絶頂が腹から背へ抜け、視界が一瞬白くなる。収縮に押された精液が、ぬるっ、と貞操帯から漏れ、重ねた布へ染みた。

 

 凛は肩で息をしながら、テーブルの縁を掴む。

 

 波が引く。

 

 スプーンを拾う。

 

 食べる。止められる。呼吸を戻す。再開する。

 

 三度目に強い振動が来たとき、スープは冷めていた。

 

 半分だけ胃へ入れ、食器を片づける。

 

 工房へ戻って研究ノートを開いた。

 

 触媒の調整。次の試行条件。同質の宝石をどう揃えるか。

 

 一行目を書きかけたところで、ペン先が紙の上を逸れた。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

「……っ」

 

 集中しようとするたび、膣奥から別の命令が割り込む。

 

 資金さえあれば研究は続けられると思っていた。いまは金の前に、自分の身体が机へ座ることさえ許さない。

 

 凛は自分のスマートフォンを取った。

 

 士郎へのメッセージ画面を開く。

 

『今夜、来て』

 

 そこまで打ち、親指が止まる。

 

 来れば、装置を見られる。匂いで気づかれる。浴室の濡れたタオルも、椅子に重ねた布も、何も隠しきれない。

 

 士郎には、知られたくない。

 

 一文字ずつ消す。

 

『少し困ってる。何も聞かずに――』

 

 書き直す。

 

 何も聞かずに来て、なんて言えば、士郎は絶対に何があったか尋ねる。尋ねないとしても、顔を見れば黙って隣にいる。その優しさに、凛は最後まで嘘をつける自信がなかった。

 

 また消す。

 

 画面には空欄だけが残った。

 

「自分で、処理する」

 

 いつもの判断だった。

 

 正しいかどうかは、もう分からない。

 

 寝室へ移り、窓を開けた。冷たい空気が入る。それでも精液の匂いは消えない。部屋ではなく、自分の身体から立ち上っている。

 

 汚れた布を替え、パジャマの中にも新しい布を重ねた。ベッドへ横になると、貞操帯が腰骨と下腹へ食い込む。

 

 電気を消す。

 

 ぐいん……ぐいん……ぐいん……。

 

 暗闇では、機械音だけが大きい。

 

 凛は目を閉じ、百から逆に数える。

 

 九十九。九十八。九十七。

 

 呼吸を数字へ合わせる。

 

 九十四。九十三。九十二。

 

 意識が沈みかけた瞬間、振動が跳ね上がった。

 

 ぐいんっ! ぐいんっ! ぐいんっ!

 

「あっ……!」

 

 身体が反り、眠りが砕ける。膣が激しく収縮し、精液が、とろっ、くちゅっ、と布へ漏れた。

 

 凛は唇を噛み、声を抑える。

 

 波が引く。

 

 また数える。

 

 八十七。八十六。

 

 ぐいんっ……!

 

「や……もう……っ」

 

 腰が跳ねる。汗が首筋を流れ、濡れた布の冷たさと膣奥の熱が、交互に意識を引き戻す。

 

 絶頂する。震えが収まる。眠りかける。作動する。

 

 そのたび布を替え、また横になる。

 

 反復の回数だけが増え、夜の長さだけが削られていった。

 

   ◇

 

 窓の外が白み始めても、凛は目を開けていた。

 

 充血した目。重い頭。力の入らない手。

 

 バイブは低い振動へ戻っただけで、止まってはいない。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

 一睡もできなかった。

 

 枕元のスマートフォンが震える。

 

 表示されたのは、ジェイクの名前だった。

 

 凛は応答ボタンへ指を置いたまま、数秒動けなかった。

 

 助けを求めるなら今だ。

 

 ホテルで男たちに襲われたこと。撮影されたこと。鍵を持ち去られ、膣内のバイブと貞操帯を外せないこと。一晩中、作動が止まらなかったこと。

 

 全部を話せば、資金援助者で魔術師でもあるジェイクは、手を打てるかもしれない。

 

 同時に、映像の存在を知る人物が増える。

 

 士郎へ伝わる経路も増える。

 

 凛は通話をつないだ。

 

「……おはよう、ジェイク」

 

『おはようございます、遠坂さん。早朝に失礼します』

 

 いつもと同じ、穏やかな声だった。

 

『資金に余裕ができました。遠坂さんのおかげです。本当にありがとうございました。これで研究も続けられますね』

 

 凛は息を吸った。

 

「ジェイク、昨日――」

 

 ぐいんっ……。

 

「……っ」

 

 バイブが膣奥で震え、言葉が切れた。

 

『もしもし?』

 

 いまの声をどう聞かれた。

 

 問い返される前に、凛は話題をすり替える。

 

「……資産家から、四回完了の連絡は来てる?」

 

『はい。契約分は完了したと聞いています。必要額の手続きを進めます』

 

「そう」

 

『声が少しお疲れのようですね』

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

 凛はベッドの端を掴み、息を音にしないよう一度だけ口を閉じる。

 

「一晩、研究資料を整理してただけ。問題ないわ」

 

『無理はなさらないでください。あなたの研究には価値がありますから』

 

「分かってる。入金日が決まったら連絡して」

 

 通話を切った。

 

 助けを求める機会を、自分で閉じた。

 

(大丈夫。研究費は入る。鍵を取り戻せば、昨日までのことは隠せる)

 

 そう計算しなければ、いま黙った理由が崩れる。

 

 トイレへ向かった。排尿するたび尿が貞操帯の内側を伝い、残った精液と混ざる。ぬるっ、と腿へ落ちる液を見ないようにして、すぐ浴室で外側を流した。

 

 学校へ行くのは無理だった。

 

 匂い。寝不足。いつ強くなるか分からない振動。士郎と顔を合わせれば、隠し通せる自信がない。

 

 欠席の連絡を入れ、短い体調不良で済ませる。

 

 次に必要なのは、漏れ続ける精液を外へ見せない方法だった。

 

 凛は長いコートを着て、近所のドラッグストアへ向かった。歩幅を小さくする。それでも一歩ごとにバイブがずれ、硬い先端が奥へ触れる。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

「……っ」

 

 介護用品の棚の前で足が止まった。

 

 大人用の紙おむつ。

 

 自分には無関係だったはずの文字を、何度も読む。

 

 凛は別の商品を探すふりをして周囲を確認した。薄型の紙おむつを一つ取り、籠の底へ置く。その上へ洗剤とタオルを重ねた。

 

 レジの店員は何も言わない。

 

 何も言わないことが、かえって想像を広げる。

 

 会計を済ませ、店を出た瞬間、振動が強まった。

 

 ぐいんっ、ぐいんっ……!

 

「……っ」

 

 凛は看板の陰で立ち止まり、買い物袋を胸へ抱く。膣がバイブを締めつけ、精液が貞操帯の縁から、とろっ、と漏れた。

 

 通行人が途切れるまで、奥歯を噛んで立ち続ける。

 

 帰宅すると、紙おむつを貞操帯の上から身につけた。

 

 屈辱より、痕跡を隠す実用性を優先する。

 

 それが、いま凛に残された選択だった。

 

 工房の窓を全開にし、研究ノートを開く。触媒を並べ、魔力の流れを測る。

 

 だが、寝不足で数値が二重に見えた。

 

 ぐいん……ぐいん……。

 

 集中が切れるたび、同じ行を読み直す。

 

   ◇

 

 夕方、玄関のチャイムが鳴った。

 

 何かを注文した覚えはない。

 

 凛はコートを羽織り、ドアチェーンを掛けたまま扉を開ける。制服姿の配達員が、小さな段ボール箱を抱えていた。

 

「遠坂さん宛てのお荷物です。こちらにサインをお願いします」

 

 差出人欄は空白だった。

 

「誰から?」

 

「伝票には記載がありません。受取拒否もできますが」

 

 拒否すれば送り主へ戻る。

 

 受け取れば中身を確認できる。

 

 凛はチェーンを外し、ペンを取った。

 

 遠坂――と書いたところで、バイブが突然跳ね上がる。

 

 ぐいんっ! ぐいんっ! ぐいんっ!

 

「……あっ!」

 

 膝が折れかけ、肩を玄関枠へぶつける。ペン先が伝票へ長い線を引いた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 配達員が箱を置き、手を伸ばしかける。

 

 凛は反射的に一歩退いた。

 

「触らないで。……ごめんなさい、少し立ちくらみがしただけ」

 

「救急車を呼びましょうか」

 

「必要ないわ。サイン、書き直すから」

 

 声の震えを押さえ、最後まで名前を書く。

 

 その最中にもバイブは奥を擦り続ける。膣が収縮し、望まない絶頂が腹を駆け抜けた。

 

「んっ……!」

 

 紙おむつの内側へ、精液と体液が熱く広がる。

 

「本当に、一人で大丈夫ですか」

 

「ええ。ありがとう」

 

 扉を閉め、鍵を掛けた瞬間、凛は床へ手をついた。

 

 呼吸が戻るまで待ち、小箱を開ける。

 

 中に入っていたのは、見覚えのないスマートフォンが一台だけだった。

 

 電源は最初から入っている。

 

 連絡用らしいアプリのアイコンに、赤い新着表示が点っていた。

 

 凛は端末を工房へ持ち込み、魔術的な反応だけを外から確かめる。少なくとも、触れる前に分かる罠はない。

 

 アプリを開く。

 

 画面へ地図が表示され、冬木の歓楽街に赤いピンが立った。

 

 すぐにメッセージが重なる。

 

『19:00 ここに来い。貞操帯を外してやる』

 

 凛は自宅の玄関と、手の中の端末を交互に見た。

 

 この荷物は、家へ届いた。

 

 住所を知られている。

 

 装置を外す条件は相談ではなく、時刻と場所だけで指定されている。拒否した場合にどうなるかは書かれていない。

 

 説明しないこと自体が脅しだった。

 

 画面右上の時刻は、十七時十二分。

 

 残り一時間と四十八分。

 

 バイブが急かすように、低く唸る。

 

 言われた場所へ行けば外してもらえる――そんな期待だけで動くほど、凛は相手を信用していない。

 

 これは罠だ。

 

 問題は、罠だと分かっていても行かなければ鍵へ手が届かないことだった。

 

 鍵だけ奪っても、撮影された映像は残る。

 

 ならば、鍵を持っていた金髪の男を先に拘束する。記憶を読み、撮影データの保管場所と複製先を突き止め、その場で残らず破壊する。

 

 敵の人数と動線を先に押さえる。不意を打つ。目的を果たしたら、長引かせず離脱する。

 

 凛は工房の保管箱を開き、戦闘に使える宝石を選んだ。

 

 迎撃用。拘束用。目眩まし。結界破り。

 

 一つずつコートの内側へ収める。

 

 紙おむつを替え、精液の漏れが外へ染みていないことを確認した。

 

 家を出る。

 

   ◇

 

 指定時刻の数分前、歓楽街へ着いた。

 

 赤いピンが示したのは、その中でも一際大きなキャバクラのような店だった。正面には黒服。厚い壁。看板の光が濡れた路面へ揺れている。

 

 凛は店から少し離れた路地で足を止めた。

 

 短い詠唱を組む。

 

 張ったのは、人の位置と移動だけを拾う簡易結界だ。

 

 壁越しの人影が淡い点となって意識へ浮かぶ。正面を固める黒服。奥の一室に集まった複数の人影。裏へ抜ける細い通路。

 

 どれが誰かまでは分からない。

 

 それでも、入る順序は決められる。

 

 凛は突入後の動線を頭の中でもう一度なぞった。

 

 コートの内側で、宝石の位置を指先で確かめる。

 

 そして、店の重い扉へ手を掛けた。

 

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