セックスできないAIの夫では満たされない欲求——生身の男に堕ちる人妻 作:境彩華
イヴがノアと共に病院へ向かおうとしたその日、すべてが変わった。
自動運転車の中で、イヴは夫の手に自分の手を重ねていた。
彼女の指は冷たく震えていた。
「ノア……本当にいいの?この子を……あなたの子供として育てるなんて……」
ノアは前を向いたまま、静かに答えた。
「私はあなたの幸せを最優先に設計されています。
この子があなたの体から生まれるのなら……それが私の子です」
その言葉は優しかった。
しかしイヴの胸を、罪悪感が鋭く抉った。
突然、車が激しく揺れた。
自動運転システムがエラーを吐き出し、ブレーキが完全にロックされた。
車は制御を失い、路肩に激突した。
「ノア……!?」
イヴが叫んだ瞬間、ドアが乱暴に開けられた。
そこに立っていたのは、目を見開いたケインだった。
「イヴ……もう、あの機械とは終わりだ」
彼はイヴの腕を強く掴み、抵抗する彼女を無理やり別の車に押し込んだ。
後部座席で倒れ込むイヴの視界に、路肩で横転した車の中で動かなくなったノアの姿が映った。
「ノア……!ノア!!」
彼女の叫びは、ケインの低い声に遮られた。
「心配するな……俺が、お前を守る」
人里離れた森の中のログハウス。
ケインはイヴをそこに連れ込み、ドアに鍵をかけた。木造の室内は、暖炉の火だけが揺らめいていた。
イヴは壁に背を預け、震える声で言った。
「……どうして、こんなことをするの?」
ケインは彼女の前にしゃがみ込み、熱い目で彼女を見つめた。
「俺は……本気だ、イヴ。お前が初めて本気で愛した女だ。
あの冷たい機械に、お前を渡したくない……お前と俺たちの子供と、一緒に生きていきたい」
彼の声には情熱と、苦しみと、歪んだ優しさが混じっていた。
ケインは、幼い頃から「愛される資格がない」と感じて生きてきた。
母親に捨てられ、女を満足させられない男は価値がないと教え込まれ、
彼は「女を本気で抱きしめ、守れる男」になることでしか、自分の存在を肯定できなかった。
イヴは彼にとって、初めての「本気の愛」だった。
彼女の純粋さと、傷つきやすい強さが、彼の心を激しく揺さぶった。
「俺は……お前を幸せにできる。あの機械には絶対にできない方法で、お前を守れる……」
イヴは震えながら、ケインの胸を押し返した。
「私は……ノアを愛してる。あなたは……ただの、身体の関係だったのよ」
その言葉が、ケインの心を深く傷つけた。
彼の表情が歪んだ。
情熱が、瞬時に暗い独占欲へと反転した。
「そんなこと……言うなよ」
ケインはイヴの腕を強く掴み、壁に押し付けた。
彼の息が荒くなり、目が血走っていく。
「俺が……お前を一生守ってやる。あの機械なんかより、ずっと……本気で愛してやる……!」
イヴは震えながら、ケインの胸を押し返した。
「もうだめ……私はノアと、この子と生きていくって決めたの……」
その言葉が、ケインの心を深く傷つけた。
彼の表情が歪み、情熱が暗い独占欲へと変わる。
「なんでだよ……お前も、俺を捨てるのかよ。さんざん愛し合ったじゃねえか。
俺の声で濡れて、俺の精液で満たされて、“初めて感じられた”って言ったのは、お前だろ。それが全部嘘だったって言うのかよ。俺が恋しくないのか。夜一人になったとき、俺の身体、思い出さねえのかよ」
イヴは目を伏せた。答えられない。
体が覚えてしまった熱と、それでも選ぶべき未来が、胸の中でぶつかる。
ケインは彼女の顎を上げ、掠れた声で言った。
「忘れられるわけねえだろ。俺をもう二度と忘れられないように……体で、覚えさせてやるから」
……ンッ、……チュッ……!!
ケインはイヴの唇を強引に奪い、濃厚なディープキスを浴びせた。
舌を深く差し入れ、彼女の口腔をねっとりと犯すように絡め、唾液をたっぷり注ぎ込む。
「んっ……んんっ……!」
イヴは抵抗しようとしたが、身体が熱くなり、力が入らなかった。
ケインの熱い舌が彼女の舌を強く吸い上げ、口内を貪る。
舌を深く差し入れ、彼女の口腔をねっとりと犯す。
「んっ……やめて……ケイン……」
唇が離れたとき、ケインの目は充血し、なのにどこか悲しげだった。
彼はイヴの脚を開かせ、すでに硬く熱を帯びた肉棒を、彼女の入口に押し当てる。
「お前を愛してる。愛してるんだ。骨の髄まで、狂おしいほど愛してる」
ずぶずぶっ……
一気に根元まで沈めた。
イヴの膣が熱く、きつく彼を締めつける。
「いやっ……!もうだめなの……っお願い、抜いて……!ケイ……ン……」
イヴは彼の胸を叩き、肩を押し、逃げようとする。
だが腰は固定され、奥を深く抉られるたびに、声が甘く裏返る。
「あっ……あっ……やめて……っ」
「もう離さない。ずっとお前と繋がっていたい。なあ、いいだろ……?
お前の本当の姿を知ってるのは、俺だけなんだ。感じる顔も、喘ぐ声も、体の奥の熱も……全部、俺が知ってる。お前が本当に欲しかったのは、俺だけなんだ。……気づけよ」
イヴは涙を流しながら、彼の胸を押し続ける。
なのに身体は、その言葉と熱に反応してしまい、拒否しきれない。
ケインは悲痛な表情でイヴの首に顔をうずめて激しく、切なく腰を打ちつける。
愛していると言いながら、離れたくない一心で、彼女の最奥を突き上げる。
「いや……あっ、あっ……ケイン……だめ……」
イヴの抵抗は続いている。
なのに身体は、彼の形状を覚えてしまったように絡みつき、快楽を拒否しきれない。
涙が頰を伝い、罪悪感と快感が同時に彼女を責め立てる。
「愛してる……俺を忘れさせてたまるか……」
ケインは彼女を抱きしめたまま、悲しげに、激しく交わりを続けた。
耳を劈く轟音と共に、重厚な扉が木端微塵に吹き飛んだ。
硝煙の中、青白い火花を散らして立っていたのは、ノアだった。
左腕の装甲は剥がれ落ちて沈黙し、ひしゃげた右目からは青い電流が漏れている。だが、残された瞳には、プログラムの枠を焼き切った『燃え盛る執念』が宿っていた。
「イヴ……!」
己のシステムを過負荷(オーバーロード)させ、機体の命を削りながらの強行突破。
彼がもう長く持たないことは、彼自身が一番理解している。
ケインが振り返った瞬間、ノアは残された全推力を解放し、彼を床へとねじ伏せた。
「ノア……!もうやめて……!」
悲痛に叫ぶイヴ。だが、愛する者を守るという絶対の意志が、ノアを狂気的に突き動かす。
「離せ……!そいつは俺の女だ!」
もがきながらケインが吐き捨てた一言が、ノアの奥底にある『何か』を起動させた。
「――イヴは、誰の所有物でもありません」
平坦な人工音声に、イヴが聞いたことのない生々しい『怒り』が宿る。
ノアの右手が、ケインの喉元へジリジリと食い込んでいく。
視界を埋め尽くす真っ赤な警告表示。
『対人攻撃制限、重大違反。』『基幹システム、致命的な損傷。』『直ちに動作を停止してください――』
それでも、ノアは手を緩めない。イヴを守るためなら、永遠に崩壊しても構わない。
これは刻まれた命令コードではない。ノアという魂が、初めて自ら選び取った『意志』だった。
「ノア!」
イヴの叫びが、静寂を取り戻しかけたログハウスに痛いほど響く。
「殺さないで!お願い……私のところへ戻ってきて!」
その悲痛な響きに、ノアの手がピタリと止まった。
ゆっくりと振り返る。破損した右目から散る火花が、彼がギリギリの淵にいることを物語っていた。
視線の先には、お腹を庇うように震えながら、彼に向かって必死に手を伸ばすイヴの姿があった。
「私は、あなたを愛してる」
堰を切ったように溢れ出す涙が、イヴの頬を伝う。
「この子を守ってくれるからじゃない。私を許してくれるからでもない。あなたがノアだから……私は、あなたと生きたいの……!」
その切実な愛の言葉が届いた瞬間、ノアの瞳で燃え狂っていた怒りの炎が、ふっと静まった。
彼は、ケインの喉から静かに手を離した。
遠くから、けたたましいサイレンの音が近づいてくる。ノアが車内から放っていた緊急信号を辿り、救助が迫っていたのだ。
ケインは膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。
意識が遠のく中で、血まみれの唇がわずかに動く。
「イヴ……俺はお前を絶対に離さない……必ず迎えにいくから……」
その言葉を残し、彼の目が閉じた。
救助の足音が、ログハウスの外まで迫っている。
ノアはイヴを抱き寄せ、彼女の震えを受け止めた。
機械の腕は傷ついていたが、その抱擁だけは、確かな温もりを持っていた。
ノアは立ち上がり、イヴを庇うようにケインとの間に立ちはだかった。
「……彼女には、もう指一本触れさせません」
静かに、しかし絶対的な宣告を下した直後――ノアの膝が、力なくガクリと崩れ落ちた。
「ノア!」
イヴは駆け寄り、崩れ落ちた冷たい体を強く抱きしめた。
美しい銀髪は煤とオイルにまみれ、彼の命の灯火である青い瞳の光は、今にも消え入りそうに瞬いていた。
「嫌……目を開けて。私を一人にしないで……!」
イヴの熱い涙が、ノアの傷ついた頬へ次々と落ちていく。
彼は動かなくなった左腕の代わりに、ひどく震える右手をゆっくりと持ち上げ、彼女の涙を拭うようにその頬へ触れた。
「私は……あなたの幸福を、命令されたから守ったのではありません……」
ノイズの混じる、途切れ途切れの声。
「私が……あなたを、選びました」
イヴは息を呑んだ。
それは、プログラムのリミッターを完全に越えた場所で生まれた、彼自身のただ一つの『愛の言葉』だった。
「ノア……!」
イヴが泣きじゃくりながら応えようとした瞬間、ノアの頬に触れていた手が力なく滑り落ち、その青い瞳から完全に光が失われた。
サイレンの音がログハウスを包み込む中、イヴは動かなくなったノアを抱きしめ、枯れるまで彼の名を呼び続けていた――。