快楽負けメインの趣味短編小説集(仮題)(ノンフィクション有り) 作:ところてんβ
「おはよ〜」
控えめに開いた教室のドアから、ふわりとシャンプーの香りが漂った。入ってきたのは、クラスの男子からも一目置かれる女子高生、高梨沙羅(たかなしさら)だった。
落ち着いたミルクティーベージュの髪をストレートに下ろし、メイクもナチュラルに抑えた彼女であるが、そのあまりにも整った美貌のせいで、弱者男子にとっては近寄りがたい高嶺の花として扱われている。 際立つのは顔だけではなく、そのスタイルも抜群で、何度も街中でモデルのスカウトを受けたほど。
体にフィットした制服のシャツや、その上に羽織ったカーディガンが、彼女の豊かな曲線をはっきりと描き出している。本人は無自覚なようだが、動くたびに強調されるそのシルエットは教室の静かな空気の中で不思議な存在感を放っていた。
透き通るような白い肌にポツリと浮かぶ桃色の艶やかな唇。それを奪い取り、己の劣情を彼女の奥に注ぐことを妄想しない男子など、このクラスに居なかった。
鞄にぶら下がった大量のマスコットホルダーを揺らし、男子達の視線を受けながら窓際最前列の自分の席に座ると、前の席で睫毛を整えていた女友達がいつものように声を掛けてきた。
「おっはろー!」
「おはおは〜」
「ねぇ、今日の生物の小テスト、どこが出ると思う?」
「あっ!ヤバっ!忘れてた!泰葉〜!助けて〜!」
机に肘をついて少し前かがみになると、柔らかな布地が体のラインに沿ってピンと張り、彼女の健康的なスタイルをより一層引き立てていた。
「なになに?どしたの?」
「俺も全然勉強出来てなくてさ〜」
「みんなでヤマ張らね?」
沙羅の机の周りにぞろぞろと他の生徒も集まり始める。
彼女はいわゆるクラスの一軍に属するギャルだった。
この高校に入学して二年の間で二桁回数は告白される程の人気者の彼女は今、バスケ部のイケメンで、1つ年上の久世凌也(くぜりょうや)と付き合っている。
「でさでさ~」
「え~。チョ~ヤバい。ウケる」
休憩時間になる度に彼女の周りには人が集まる。女子は彼女の友人というポジションを誇示する為。男子はあわよくばを狙って。
傍から見れば多くの、友人に囲まれ楽しい日々を送る学校生活の成功者。しかし、それは決して充実とは言えない理由が彼女にはあった。
「沙羅〜!今日は先公が出張で部活休みなんだけど、カラオケ行かね?」
昼休み。彼氏の凌也が教室にやってくる。背が高く、髪を金に染めた威圧感のある風貌のせいか他の男子は木の葉が散るように沙羅の周りから離れていった。
「ごめん、今日は用事があるから」
「え〜。またかよ〜?せっかく遊びに行くチャンスなのにさぁ。この前の土曜日だって……」
「ごめんって!埋め合わせはするからさ!また遊びに行こ?」
手を合わせ、茶目っ気溢れるウインクを放つ。凌也は仕方ないなと苦笑を漏らし、沙羅の机にドカッと腰を下ろすとそのまま雑談に興じ始めた。
沙羅は決して嘘をついているわけではない。用事というのは本当にある。だが、それと合わせて、凌也と二人だけでどこかへ行くというのが嫌だったのだ。その理由は、こうして話している間にも彼の視線が沙羅の身体を舐め回しているのを見れば明らかだろう。
(あ〜ウザっ)
顔がそこそこ良いのに加え、人気者の凌也の告白を断ると色々と面倒くさい事になりそうだったから仕方なく告白を受け入れたものの、彼の存在は殆どストレスにしかならなかった。
一度だけ寝たものの、彼の独り善がりのセックスは痛いだけで沙羅に何の快感ももたらさなかったのみならず、その日以降、事あるごとに身体を求めてくるようになってしまった。
早く話が終わらないかなと、沙羅はスマホを触りながら適当に相槌を打つ。時に凌也から肩や髪を触るスキンシップが飛んでくるが、沙羅は照れくさそうな苦笑を浮かべながら心の中で舌打ちを漏らしていた。
こうして、楽しいやら疲れるやらの一日の学校生活は終わる。ホームルームが終わると同時に、彼女は友人や凌也に掴まらないよう足早に教室を出て、帰路に就いた。
彼女の家は、電車で三つの駅を跨いだ先にある閑静な住宅街にある。
「ただいま~」
返事はない。彼女の両親の帰りはいつも日を跨いでからだ。
沙羅は二階にある自室に鞄を放り投げ、制服を脱ぎ捨て下着姿になった後、豊満な胸と尻を揺らしながら階段を駆け下りシャワーを浴びた。
(……う~ん。また大きくなったかな?)
湯が這うように流れる自分の胸を両手でたぷたぷと持ち上げながら、億劫そうに唇を尖らせる。つい一か月前に測った時はEカップだったのだが、より大きくなっている感じがした。
(む~。またブラ買い替えなきゃ……)
恨めしそうに柔らかな乳房を揉む度に、先端にある桃色の突起が悩ましく揺れた。
汗を流し終えた沙羅は半袖半ズボンの部屋着に着替えると、台所にあったジュースとスナック菓子を抱え自室に戻り、鍵をかけた後にパソコンを起動させる。
ほぼノータイムの再起動の後、画面に映し出されたのはファンタジーチックなオンラインゲームの世界だった。沙羅は慌ててヘッドマイクを装着し、マイクに語り掛ける。
「ごめーん!今帰った!待たせちゃったかな?」
暫しの静寂の後、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
『おかえり~!大丈夫だよ!まだクリアしてない一人用のクエストやってたから!』
「待ってんじゃ~ん。今日はどこ行く~?」
大人びた声色。囁くようなイケボに、沙羅の顔はだらしなく緩む。それは、クラスの誰にも見せた事の無い女の子の表情だった。
『ベミタス火山行かない?あそこの素材足りてないんだよね』
「おけ!じゃあすぐ部屋入るね!」
沙羅は椅子の上で胡坐をかきながら、ゲームコントローラーを忙しなく操作し始める。友人や彼氏の誘いすら天秤にかけるまでもない程に優先される彼女の用事とは、SNSで知り合った友人とのオンラインゲームであった。
娘に寂しい思いをさせない為に両親が買い与えた高性能のデスクトップパソコンは、今日も沙羅の心を満たしてくれている。
「あ~!クッソ!何で当たんないのよ~!」
『右からモンスター来てるよ~』
「んがああ!またやられた~!ほんっとウザいこのウサギみたいなの!」
『ドンマイドンマイ。ってか、今日の【ちゃぽ】さん、なんか荒れてる?』
ハンドルネームで呼ばれた沙羅の手が止まる。画面にクエストクリアの表示が出た途端、彼女は決壊したダムのように愚痴を漏らし始めた。
「ってことがあってね。ほんっと、男どもの視線がキモくてさ~」
『それだけキミが魅力的ってことだよ。あと、見られるような服装してる方も悪い』
「それはそう!」
ハッキリとした相手の物言いに、嬉しそうな笑みを浮かべる沙羅。
「『ルーク』さんはそういう女子がクラスに居たらどうする?やっぱり目で追っちゃう?」
『僕?僕は……そうだなぁ。目を付けられるのが怖いからあまり見ないようにするかも』
「わぁ~。陰キャ~♪」
『ハハハ。ま、学生時代はそれなりに明るい方だったけどね~』
『ルーク』と呼ばれる通話相手。歳は三十路らしく、普通のサラリーマンとして働いているのだとか。沙羅からすれば十以上も年上だったが、子供っぽいクラスメートとはまるで違う彼の落ち着いた雰囲気に加え、鼓膜を舐めるような色っぽい声に彼女は強く惹かれていた。
「あっ!そう言えば、新作描いたんだよね~。見たい?」
『おっ!それは是非見たいね!』
明るいルークの声に、沙羅は口元を緩ませながらマウスを操作する。通話アプリの共有画面に映し出されたのは、黒いビキニを着たアメジストの長髪が眩しいセクシーな女キャラのイラスト。それは、沙羅が普段から操作しているゲームのアバターと同じだった。
ビキニを着てこそいるが、その大きな乳房にはサイズが合っておらず、ぷっくりとした乳首と乳輪が溢れてしまっている。
『おお~。凄く良いなコレ。特に肌の塗りとか最高じゃん。凄くエロいよ』
「おっ!見る目あるじゃん!そこ頑張ったんだよね~♪」
ストレートな誉め言葉に、数日の労力が報われた沙羅の鼓動が高鳴る。実は彼女にはイラストも描く趣味があった。ルークと知り合ったのもゲームではなくこっちの方がきっかけだ。
沙羅は幼い頃からお絵描きが好きだったのだが、幼少期に周りにバカにされたことが原因で誰にもそれを打ち明けるようなことはしなかった。高校生になってパソコンを手に入れてからは、描いたイラストを匿名SNSに適当に投げるだけだったのだが、その際、ルークの目に留まり大絶賛されたというわけだ。
無論、こんなイラストを描いているのみならず、その内容がアダルトなものであることなど、彼女の立場からすればクラスの誰にも言える筈が無い。そんな彼女の秘密を唯一共有しているのがルークだった。
『相変わらずえっちな絵を描くね~。今回のも最高だよ』
「でしょ~?……ねぇ?特にどのへんがヤバい?どの辺がチンコに来る?」
『えぇ~?そうだなぁ……』
ヘッドホン越しに聞こえるルークの弄るような声に、沙羅は椅子に深く腰を預け、静かに股を開いた。そして、沙羅は小さく喉を鳴らす。それは、二人のもう一つの秘密が始まる合図だった。
ことの発端は、二か月前に遡る……。