【公式不倫 R-18二次創作】消せないラスト・ノート 作:ひよこレモン
「いただきます…」
テーブルの上には、コンビニの大きなハンバーグ弁当と、小さめのおにぎりと唐揚げのセット、それに野菜のスムージー。出来合いのもので済ませる、少し遅めの夕食。
食卓の向かいに座るのは、夫ではない、別の人。
「ちなみには、そのくらいの量がちょうどいいだろう」
「よくわかりましたね」
「これでも昔は一つ屋根の下で暮らした仲じゃないか」
軽薄な彼の言葉に、いちいち取り合っていたらきりがない。私はそれを無視して、スムージーのキャップを開け、ひとくち飲む。
「…タカヒロさんは相変わらずですね。野菜もちゃんと食べてください」
「なんだ、心配してくれてるのか?」
「別にそういうことじゃありません」
「自慢じゃないが、これまで病気なんてしたことないんだ」
あの後、タカヒロさんはそそくさと脱いだ服を着て、コンビニへ買い物に出かけた。
自分のTシャツとハーフパンツを私に渡し、とりあえずこれでも着ているといい、裸でいるのはさすがに嫌だろう、と言い残して出ていき、ものの15分で戻ってきた。
タカヒロさんの誘いに、私は返事をしていない。
だけどこうして、オーバーサイズの彼の服を着て、彼とふたりでテーブルを囲み、彼の買ってきた晩ごはんを一緒に食べている。
「…」
「…」
黙々と食事を口に運ぶふたり。他愛のないやりとりもない。笑いが起こることもない。
この食卓には、愛なんてものは存在しない。
あるのは、さっきまでの狂宴の残り香と、よこしまな期待。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると、私は空になった2人分の容器を下げ、シンクで簡単に洗う。タカヒロさんの分は燃えないゴミの箱に捨て、自分が食べた分はコンビニのレジ袋に入れておく。そして、手を洗い、口をすすぐ。
キッチンカウンターの上に、彼がコンビニで買ってきたものがどさっと無造作に置かれている。
袋の中から、ペットボトルの水やお茶、菓子パンが覗いている。
そして、スポーツブラと女物のボクサーショーツ、Sサイズ。
「さすがにコンビニにはそのくらいしか置いてなかったよ」
「いえ、ありがとうございます…貴方がこんなもの買ってたら、怪しまれちゃいますね」
「コンビニの店員がいちいちそんなこと気にしないさ」
あの実験の日々にも、私たちは同じようにこうして向かい合い食事をとった。食に興味の薄いタカヒロさんは、何を食べても、美味しいとも、不味いとも言わなかった。
私たちの関係は、あの頃と何一つ変わっていない。
タカヒロさんは、私の個人的なことには踏み込んでこない。
私は私で、彼の人となりにはあまり興味がないし、ほとんど何も知らないに等しい。
この家に通う中で、彼の仕事については少し知ることになったが、その程度だ。
お互い、それを知る必要性も感じていない。知りたいとも思っていない。
私たちをつないでいるものは、たったひとつだけ。
警察からあの実験について聞かされたときも、正直、ぜんぜん意味がわからなかった。
遺伝的に最高の相性?
少なくとも、私から見たタカヒロさんには、人間的に惹かれるような要素が全くなかった。優しくもないし、自分本位で、相手の話に耳を傾けるようなこともない。
だけど、セックスだけは違っていた。
最初は望まぬ交わりだった。指示を守らなければ、史也さんに危害が及ぶかもしれなかったから。
だけど、初めて彼に身体を許したあの瞬間から、私の世界は一変してしまった。
ひとつひとつの動き。愛撫の所作。触れる場所。性器の形でさえも。
すべてが、正しい鍵と鍵穴のようにぴったりとはまり、固く閉ざされていた私の性欲の扉は、いともたやすくこじ開けられてしまった。
行為の最中でさえ、彼の性格は変わらない。
自分が気持ちよくなること、相手を征服することしか考えていない、独りよがりで、暴力的なセックス。
だけど、私にとって、なぜかそれはたまらなく快いもので、野獣のように求められ、荒々しく蹂躙されるたびに、渇いてひび割れた肉体が、満たされない欲求が、みずみずしい悦びで包まれ、多幸感に溺れてしまう。
経験人数の少ない私でも、わかる。
タカヒロさんと私の身体の相性は最高なのだ。
ダイニングの椅子に座り、肘をついてぼーっとしながらそんなことを考えていると、また下半身がじんわりと熱を帯び始める。
さっきのセックスの余韻が蘇ってきて、辛抱の効かない私のあそこはひくひくと動き出す。
ぐしょぐしょになってしまった下着はもうつけていない。
直に穿いたハーフパンツに、じわじわと染みが広がってしまうのを感じる。
タカヒロさんの誘いに、私は返事をしていない。
返事なんてものは必要ない。
ふたりとも、答えはわかっているのだから。
「ちなみー」
私を呼ぶタカヒロさんの声。
「はい」
「風呂にしよう」
「…はい」
私はゆっくりと立ち上がる。
タカヒロさんの筋肉質で大きな背中が、先にバスルームに消えていく。
私はバッグのポーチから、小さなサイズのボディソープ、シャンプーとコンディショナーを取り出す。この家を訪ねるときのために、いつも持ち歩いているものだ。
そして…もうひとつ、必要なものを手に取る。
ただのお風呂の誘いなんかじゃないことは、私にもわかっている。
脱衣室の扉を開けると、タカヒロさんはもう服を脱いで裸になっている。
さっきまで激しく交わっていたのが嘘みたいに、彼のものは既に逞しく勃起し、天を衝くようにそそり立っている。
私は私で、卑猥な染みの広がった恥ずかしいハーフパンツを隠そうともしない。
隠す必要もない。
だって、今すぐにでも入れて欲しいくらい、私の身体は彼を求めてしまっているのだから。
「行こうか」
着ていたものをぱっと脱ぎ捨て、私も一糸纏わぬ姿となる。
「…はい」
彼の手が、私をバスルームへと誘う。
私の手には、小さなボトルが3つ。
そして、避妊具がひとつ。
何年ぶりかの、ふたりの長い夜が、始まる。