僕に並べる奴なんていなかった。
諦めていた。僕は孤独なんだって。
「とりあえず小手調べからかな」
そいつはそう言って、消えた。
咄嗟に防御する。衝撃。
踏ん張るのをやめて、あえて飛ばされて体勢を立て直す。
「反応そこそこいいね」
「これで三級とか詐欺じゃない?」
「妖魔は霊力がないと倒せないけど、人間はなんでも殺せるからね」
防いだ腕がビリビリする。
ウッソこれ折れてる? 術で治す。
なんだこれ。霊力だけじゃない。未知のエネルギーが流れてる。
何より、この大砲のような強さは素だ。素でこれだけ強いんだ。
銃とかも効かないんじゃない?
「でも素手だけで倒せそうかな。術も必要ないね」
「君を監視してた奴は何を見てたのかな?」
「寝てたんじゃあ? 刺客とか全部返り討ちにしたのに強さ変わんないし舐め続けられるし。でも刺客を殺したら人殺しだしね?」
腕をぐっぱと握り、さらに涙は振り上げた。
本当に何やってたんだ。こんなに強いって聞いてない。
腕を振るうと、霊力なしの衝撃波が来た。
つまりこれは完全に素の力って事。居合切りは見たことあるけど、拳では見たことない。肉体強化の術式ですらこんな凄いの文献でも知らない。
そして涙、というか三兄弟の術式は父譲りの水操術。
涙がさらに地面を蹴る。
嫌がらせは人を見てしてほしい。いや、しちゃダメなんだけど、マジで強いものいじめはやめておこうよ。これが妖術師になってたらどうするというのか。
無数の式神を生み出す。
一騎当軍。一人で軍勢を生み出す、国を滅ぼすとも恐れられたこの力。
自慢の式神が、雑魚でも蹴散らすように一発で倒れていく。
こんな強いってほんと聞いてない。
勝てないかも。勝てないな?
それでも僕にも意地がある。できるだけ底を見てやる。
せめて術は使わせる。
「ちょっと体温まってきた。行くよー。弾け飛ばないでね?」
あと、生き残る。
奥の手の式神までワンパンされて。
もうダメかと思った時に、少し悩んだ様子を見せて、涙は水を操り出した。
三級、どんなに甘く見ても二級の腕前だった。
術を使った方が弱いことは発見だった。隙だらけだけど、その防御力は僕では突破できない事をもう知っている。
僕が負けては困ると式神に混じって銃で狙撃されてたけど気付かれてすらなかった。いや、流石にちょっとは傷を負ったみたいだけど、すぐに癒えたし全く問題にしてなかった。本来はこの横槍の時点で僕の反則負けなんだけど、式神も全部倒されちゃったんだけど、僕は未練がましくも降参を言い出せてなかった。
式神全部倒されて、どうするんだよ明日からの任務。家に多少は残ってるけど、めぼしいのは全滅。
いやそれにしても、スナイプされて無事って何?
僕? 普通に不意打ちで撃たれたら死ぬよ。
霊力や式神で壁は作れるけど、無防備なところは無理。あれは無防備だった。
霊力の欠片も覆ってなかった。服で覆われてない、素肌の部分。
というか涙の服は戦闘服ではなく普通の服だし、そこがまず信じられないけれど……。
素の素肌が銃弾で擦り傷負う程度って……?
えっ 何者こいつ? 妖魔? エイリアン? まさか神様?
そんな化け物は、ちょっと危なっかしい霊力操作で、安心させるように微笑んだ。
「殴り殺すのが怖いから、溺れさせるね。溺死しないでね」
「そんな拙い術に囚われるわけ……!」
「両手両足折ればなんとかなると思う。大丈夫。あとで治療するから。痛くしてごめんね」
そして、僕は負けた。
僕が気絶から目覚めた時、涙は溺れ死んでないことを確認して安堵のため息を吐く。その顔が化け物に相応しくないほど無防備で一般人っぽかった。本当に罠だ。この人が、こんな化け物だなんて。
僕が目覚めると、手を伸ばして良かったと笑う。
こいつ僕の両手足折ったり吹き飛ばしたりしてなかった?
宙を飛ぶ右手は夢じゃないって断言できる。
なんなら視界の隅に転がってるまである。なんで僕は五体満足なわけ?
「私の勝ちだから、処罰よろしくね。人間にしては、強かったよ」
そんなことを言う人外。人外。人外。人外。なのに。
有象無象じゃない、僕にとって初めての人間だった。
僕は顔を赤らめるのを自覚した。
どうしよう。僕は、この人を好きになってしまったのかもしれない。
弓祓のおじいちゃんは、まあ、やりすぎたね……。
この勝負ですら狙撃で妨害してくるくらいだし。
申し訳ないし荒れるだろうけど、約束だからしっかり処罰するね。
僕が手加減したわけじゃないのはわかるよね? 虎の尾をスタンピングしたんだから諦めて。
マシュマロ
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