ポケモン世界に転生したらハーレムができていた件 作:天野蒼夜
「申し訳ないが、其方は死んだ」
白い服を纏った白ひげの老人がどこかで聞いたことあるようなセリフを重々しい口調で言い放った。
「…………は?」
男は理解できなかった。こいつは一体何を言っているのか。死んだ?そんなことあるわけがない。存在しているという実感が自分にはあったからだ。
「あの……これ、何かのドッキリですか?後から“ドッキリカメラです!”とか言って、プラカードを持った人が出てくるっていう……」
「嘘ではない。お前は本当に死んだのだ。交通事故によってな」
思い出した。仕事帰り、車に轢かれそうになった子供を庇った時のことを。自分でも何であんなことをしたのかは分からない。気づいたら体が勝手に動いていたからだ。
「即死だった。まあ、車に轢かれたのだから当然か」
「……じゃあ、オレは本当に……?」
「さっきからそう言っているだろう」
「じゃあ、ここはどこなんです?」
周囲を見渡しても真っ黒な空間が広がっているだけで何もない。唯一の光は真上からスポットライトの如く落ちている光だけだ。
「ここはまあ、死後の世界と言ったところだ。本来死んだ者は閻魔大王のところに送られるが、子供を庇って死んだお主は特別にここへ送られたのだ」
「……オレはこれからどうなるんです?」
「ここへ送られた者は新たな生が与えられる。しかし、元の世界に戻してやることはできぬ。未練があるかもしれないが、そういうルールなのだ。理解してくれ」
元の世界に未練はない。むしろ社畜生活から解放されたと思えばありがたいと考えるべきだろう。
「話から察すると、別の世界で生き返るってことですか?」
「正確には転生だ。お前を生前とは別の存在として生き返らせる」
「別の存在、ですか?まさか、アリとかミジンコとかじゃないですよね!?」
「人を助けて死んだ者にそのようなことをするわけなかろう。ちゃんと人間として転生させてやる」
「よかった……」
転生してもそんなのになったのでは生き残れる自信がない。
「それだけではない。ここに送られた者には特典がついてくる。お前が望むものを言うといい」
「それは何でもいいんですか?」
「ああ。神であるワシに叶えられないものはない」
どうやらこの老人は神だったらしい。神という全能な存在であれば不可能がないのも納得だ。
「じゃあ、オレをポケモンの世界に転生させることはできますか?」
「ポケモン……ああ、おぬしの世界で流行っておったアレのことか。もちろん、可能だ」
「では、1つ目はオレをその世界で身体能力高めのポケモントレーナーとして転生させてください。年齢は10歳で」
「あそこでは10歳からトレーナーになれるんだったな。承知した。他には?」
「2つ目はポケモンを1体ください。ポケモンの世界に行ってもポケモンがなくちゃ何も始まらないので」
「今ポケモンは1000匹ほど確認されているが、おぬしはどのポケモンを望む?」
「リオルでお願いします」
神は驚いた。何でも叶えられるということは本来ゲットが難しい伝説や幻のポケモンを手に入れることだってできる。だが、男は一般のポケモンーーーしかも進化前のポケモンを指定したのだ。
「おぬしのリクエストにケチをつけるつもりはないが、本当にそれでよいのか?」
「オレ、ポケモンの中でルカリオが一番好きなんですよ」
「それなら、リオルではなくルカリオをリクエストすれば良いのではないのか?なぜ進化前を……?」
「分かってないですね……進化前ーーー0から育てるからいいんじゃないですか。そういうポケモンと一緒に戦って、成長して、進化する。それができるのがポケモントレーナーの楽しいところじゃないですか」
“それに最初から強いポケモンじゃつまらないですし”とその後に付け足す。これは生前第1世代から第9世代までポケモンのゲームをプレイしてできた彼なりのポケモントレーナーにおけるこだわりだ。
「そういうものか……まあ、おぬしがそれを望むならそうしよう。他にはあるか?」
「あと、あの世界で使えるお金をください。10万くらいあればいいです」
「本来なら欲が深いと言いたいところだが、これまで聞いた願いと比べると可愛く思えるな……」
「ポケモンもそうですけど、お金もやっぱり必要だと思うので」
「お金に不自由しないほどの富を与えることもできるが、これまでのおぬしから察するに、必要ないと言うのだろう?」
「だんだんオレのこと分かってきたじゃないですか。10万はあくまでしばらく生活できるようにするための資金です。少なくなったら自分で稼ぎます。お金を稼ぐ手段は流石にありますよね?」
「ああ。ポケモンの大会やバイトで稼ぐことができる」
10歳でバイトできるのか?普通なら思うところだろう。男が生前に見たポケモン世界にはバイトができる作品があったので、そういうものだと納得してスルーすることにした。
「なら、問題ないですね。願いは以上です」
「注文を繰り返すと……
・ポケモン世界で身体能力高めのポケモントレーナーとして転生させる。年齢は10歳。
・リオルの支給。
・10万の資金の支給。
……で合っているか?」
「問題ありません。それでお願いします」
「特典の付与が実行されれば変更や追加はできないぞ。本当にいいんだな?」
「大丈夫です」
「では、目を閉じてしゃがめ。お前の魂を新たな体と共にポケモン世界へ送り出す」
「最後に質問なんですけど、その世界でこれ……使えます?」
そう言って、男はスマホを神に見せる。
「使える。あの世界でもスマホは普及されておるからな。ただ……」
「ただ……?」
「あそこの世界ではおぬしがいた世界より技術が進んでおる。そのスマホも使えるとは思うが、今後のためにあちらの世界のスマホに買い替えることを視野に入れた方がいいだろう」
「なるほど……」
技術が進んでいるなら今使っているのより高性能のスマホが開発されていると考えていい。それを考えたら神の言う通りだが、それは生活に余裕ができてからでも遅くはないだろう。
「そうですね。覚えておきます」
「他に聞きたいことがあれば連絡するといい。ワシの電話番号は既に登録してあるからな」
「え!?いつのまにそんなこと……?」
「ついでにアプリも入れてある。ポケモントレーナーなら必須のアプリだ」
「必須のアプリ?」
「ポケモン図鑑だ。あそこの世界ではポケモン図鑑がアプリとして使われているのだ」
「……それって、どの地方まで対応してるんです?」
「全地方だ」
「全地方!?」
男が知っている全地方対応のポケモン図鑑は厳しい条件をクリアしないと手に入れられない認識だった。それを、こんな簡単に手に入れられて良いのかと思ってしまう。
「それって、条件を満たすと対応できる地方が解放されるヤツですか?」
「そんなケチなものではない。最初から全地方に対応しておる。あの世界では皆当たり前のように使っていて特別なものではない故、おぬしもめいっぱい利用するといい」
神がそこまで言うならそうさせてもらおう。神の言う通り、ポケモン図鑑はポケモントレーナーにとって必須なもの故。
「ありがとうございます。オレ、めいっぱい第二の人生を謳歌します!」
「ああ、楽しむといい。非リアだが、ポケモン知識のあるおぬしなら存分に楽しめる世界だからな」
余計なことを言われた気がするが、世話になった身としてここはスルーした。
「では、第二の人生を楽しむといい。さらばだ」
神のその言葉を最後に男の意識は途切れた。
ルカリオは私の永遠の相棒です。