ポケモン世界に転生したらハーレムができていた件 作:天野蒼夜
とある湿原で、レムは野生のコダックと格闘していた。
「サンダース! エレキネット!」
電気をまとったネットでコダックを閉じ込める。コダックはそこから出ようともがくが、タイプ相性の悪い電気のせいか、中々抜け出せない。
「今だ!」
モンスターボールを投げつけ、コダックを吸い込む。地面に落ちたモンスターボールは点滅しながら数回揺れた後、動かなくなった。捕獲完了の合図だ。
「よし、これで100匹目だ」
コダックが入ったモンスターボールをポケセンに転送した後、スマホロトムで図鑑を確認する。そこに表示されている捕獲数を見ると、ピッタリ100匹となっていた。
「早速博士に報告するか」
レムハシティに戻り、ポケモン研究所へ。この研究所では年々種類が増えているポケモンの調査を行っているのだが、その数はあまりにも膨大。ということで、ポケモンに精通しているレムにモミジから調査の手伝いをするよう依頼があったのだ。
レムが任されたのはポケモン図鑑のコンプリート。ポケモン図鑑はポケモンと出会い、捕獲することでそのポケモンに関するデータが登録される。それをモミジに見てもらうことで調査の手伝いができるいう寸法だ。
「モミジさん、図鑑登録数が100匹になったので見てもらえますか?」
「あらレム君、今日はおひとり?」
パソコンからレムに視線を移したモミジが聞いてくるが、この質問はひっかけだ。普通の人ならひっかかっていただろうが、転生前にXYをやっていたレムにそれは通用しない。
「違いますよ。ポケモンがいますから」
「そうよねー。じゃあ、早速確認させてもらうね」
そう言って、レムのスマホロトムの図鑑アプリを確認する。しばらく画面と睨めっこした後、モミジは笑顔になった。
「すごい! 捕まえたポケモンの種類100匹! キャンペーンの条件達成です!」
キャンペーンというのは埋めた登録したポケモンの種類に応じて豪華なプレゼントをもらえるというもの。わざマシン、ポケモンを強化する持ち物。これだけでも十分豪華なのだが、一番の目玉はここでしか入手できないアイテムだ。
図鑑を埋めていくのは簡単なことじゃない。時には強いポケモンと戦う必要があるからだ。なので、参加者に相応のものを用意しようと考えた結果、内容も豪華なものとなったらしい。
「100匹を達成したあなたにはこのZパワーリングとZクリスタルを進呈します!」
そう言って、モミジが手渡したのは四角錘3つが連なったような結晶がはめ込まれた黒い腕輪。黒い腕輪がZパワーリング、結晶がZクリスタルだ。
このZクリスタルは形状もそうだが、最も目につくのは中央にはむれたすがたのヨワシが描かれており、他のZクリスタルとの違いを如実に表していた。
「ありがとうございます。でも、まさかヨワシ専用のZリングがあるなんて思いませんでした」
「最近発見されたZクリスタルだよ。あなたはみずZを要望していたけれど、ヨワシを持っているならそっちの方がいいと思ってね」
ZリングのZクリスタルから生み出されるZ技には様々な種類があり、どれも強力だ。だが、中でも専用Z技はその中でも特に強力なものとなっている。サンムーンで多くの専用Z技を見てきたが、これは初めて見るものなので、後々どういう技が見てみる必要があるだろう。
「ところで、イーブイは元気にしてる?」
「元気にしてますよ。今日も活躍してましたから」
レムはそう言って、モンスターボールからサンダースを出す。このサンダースは10匹達成した時にもらったイーブイをかみなりのいしで進化させたポケモンだったのだ。
「イーブイには色々な進化系があるけど、あなたはサンダースにしたんだね」
「イーブイの頃から速さにこだわってたので」
「そう。ならサンダースにしたのは正解だね」
言いながら、モミジはサンダースの頭を優しく撫でる。撫でられたサンダースは目を細めながら、嬉しそうに喉を鳴らす。
「いいトレーナーに出会えたね。あなた」
ほほ笑むモミジに答えるようにサンダースは鳴き声を上げる。
「これからもこの子をよろしくね。あと、調査の方も」
「任せてください。図鑑埋めはこの世界を知るキッカケになりますから」
まだ見ぬポケモンと出会うとなると、必然的にこの世界を散策することになる。つまり、それはこの世界に関する知識も得られるということだ。
「では、オレはこれで失礼しますね」
「ええ。条件を達成したらまたいらっしゃい」
そうして、用事を済ませたレムは研究所を後にするのだった。
ーーーーー
その日の夜。レムは再びレムハシティにやってきた。買い出しではない。彼がここに来たのは今日ここでイベントが行われるからだ。
【これより、Hロワイヤルを開催致します。トレーナーの方はランクアップを目指して頑張ってください】
Hロワイヤル。夜のレムハシティで開催される目玉イベントの1つだ。指定されたバトルエリアでトレーナー同士が戦い、勝利したトレーナーはランクポイントと賞金コインを獲得できる。
ランクポイントが一定値に達するともらえるチャレンジチケットを獲得すると、ランクアップ戦に挑戦可能となり、それに勝利したトレーナーは晴れてランクアップできるというシステムになっている。
賞金コインはイベント終了後に自動で換金され、レートは1ポイントにつき10円。これは対戦相手のランクに応じてもらえるものとなっているが、負ければ賞金を半分失ってしまうリスクも存在する。ただ、あくまで支払うのは賞金であり、リアルマネーではないので、そこは安心していい点だろう。
トレーナーのランクはHから始まり、最終的に最高ランクであるSを目指すのが目的となる。ランクが高くなれば当然強いトレーナーと挑まれやすくなるが、高ランクのトレーナーに勝てばより多くの賞金コインがもらえるので、目指さない理由はない。ちなみに今のレムのランクはDランク。序列で言うなら丁度真ん中のランクとなっている。
「ここにいるということは、あなたも参加者ね?私と勝負しなさい!」
そう言って、モンスターボール突き出してくる大人のおねえさん。レムがこのイベントに参加しているのはお金稼ぎもあるが、一番の理由はポケモンを鍛えるため。ここには腕利きのトレーナーが集うので、トレーニングの場所にもってこいなのだ。
「いいですよ。その勝負、受けて立ちます!」
レムが承認すると、大人のおねえさんはチルタリスを繰り出す。
「ドラゴンタイプにはドラゴンタイプだ。行けっ! オノノクス!」
大人のおねえさんに続いて、レムはオノノクスを繰り出す。
「先手必勝! オノノクス、りゅうのまい!」
レムの指示でオノノクスが優雅に舞う。その体に赤いオーラが宿り、攻撃力と素早さが一段階上昇した。
「速さなら負けないわ! チルタリス、スピードスター!」
チルタリスが星形の光弾を放つ。必中技のそれは、確実にオノノクスに迫る。
「耐えろ、オノノクス!」
スピードスターが直撃するが、オノノクスは微動だにしない。チルタリスのスピードスターは決して弱い技ではないが、それでもオノノクスの鎧の皮膚に傷をつけることは叶わなかった。
「もう一度りゅうのまい!」
レムの指示に、大人のお姉さんが焦りの表情を見せる。
「させない! チルタリス、りゅうのはどう!」
紫紺の波動がオノノクスに迫る。しかし、りゅうのまいを二度重ねたオノノクスの素早さは既にチルタリスを遥かに凌駕していた。
「今だ!右に避けろ!」
レムの合図でオノノクスが体を右に逸らす。そうしたことでりゅうのはどうはオノノクスを横切る結果となった。
「これで終わりです! ドラゴンクロー!」
「コットンガードで耐えて!」
チルタリスの体が綿のようにふわりと膨らみ、防御力が急上昇する。しかし――。
「無駄です!」
オノノクスの両腕を覆う竜爪が紅く輝き、チルタリスを襲う。積み重なったりゅうのまいの効果で、その一撃一撃はコットンガードの防御力を軽々と貫通する威力となっていた。
「チルタリス!」
1回、2回、3回。連続で叩き込まれるドラゴンクローの前に、チルタリスはなす術なく地面に倒れ伏した。
「そんな……私のチルタリスが手も足も出なかったなんて……」
その場にへたり込む大人のおねえさんに、オノノクスをボールに戻したレムが近づく。
「よければ、敗因を聞かせてもらえるかしら?」
「最初にりゅうのまいを積ませた。それがあなたの敗因です。スピードスターは必中技ではありますが、チルタリスのタイプとは不一致なので、使うとしたら牽制する時です。なので、積み技を阻止するならタイプ一致かつはつぐんを取れるりゅうのはどうを使うのがあの時はベストだったと思います」
「……なるほど。流石今注目されてるトレーナー。的確はアドバイスだわ」
大人のおねえさんは悔しそうにしながらも、何かを学んだ表情でチルタリスをボールに戻した。
「アドバイス感謝するわ。また会えたら、バトルしてもらえる?」
「バトルならいつでも受けて立ちますよ」
握手を交わした後、おねえさんと別れる。レムはバトルエリアを歩きながら、Hアプリを起動した。これはHロワイヤルに参加するトレーナー全員がインストールしているアプリで、これで現在のランクポイントと賞金コインの所持数を確認したり、システムAIから通知を受け取ることができるのだ。
「あと1人倒せばランクポイント達成だな。次の相手はどいつにするか……」
このHロワイヤルでは奇襲を仕掛けることも戦術のひとつとなっている。相手の死角から手持ちポケモンに攻撃を仕掛けることで相手を驚かせ、最初から有利な状態でバトルを開始できる故、身を隠しながら隙を伺っているトレーナーも多いのだ。
「ん?」
だが、中にはそんなルールの穴を突こうとするヤツも一部存在する。手持ちポケモンではなく、トレーナーに直接奇襲を仕掛けるトレーナー。今レムはまさにそれを実行しようとしている男性トレーナーを目撃した。
「へっへっへっ、トレーナーに奇襲しちゃいけないなんてルールにないもんな」
木箱の裏から男がヘルガーと共に様子を窺っているのは1人の女性エリートトレーナー。たしかに男が言った通り、トレーナーに直接奇襲を仕掛けてはいけないというルールはない。だが、それは書くまでもなくそれはトレーナーとして行ってはいけないことだと大抵のトレーナーは分かっているからだ。
そんなことも分からないのかと男に内心呆れつつ、レムはヨワシをそっと繰り出した。むれたすがただと目立つので、ヨワシにはたんどくのすがたを保ってもらっている。
「ヨワシ、あそこにヘルガーがいるだろ? あいつに向かってハイドロポンプを撃つんだ」
レムに頷き、ヨワシはヘルガーにハイドロポンプを放つ。たんどくのすがたなので威力はむれたすがたと比べるまでもなく貧弱だが、この場合はそれで十分だ。
「な、なんだ!?」
いきなり飛んできたハイドロポンプに驚きを隠せない男性トレーナー。どうやらエリートトレーナーに夢中でこちらには気づいていなかったらしい。注意力がないにも程がある。
「いきなりの奇襲すみませんね。あなたが目に余る行為をしようとしていたので、頭を冷やしてもらおうと思って」
「え、何……? どういうこと!?」
状況を理解していないのか、エリートトレーナーは戸惑っている。どうやら彼女も男性トレーナーには気づいていなかったようだ。
「この人、キミに直接奇襲を仕掛けようとしたんだよ。だからオレがこの人を奇襲して今に至るって感じだよ」
「邪魔しやがって……もう少しで奇襲できそうだったのによ!」
奇襲を邪魔されて青筋を立てる男性トレーナー。逆ギレされても困るのだが、奇襲したことで今の彼の矛先はレムに向けられている。ひとまず作戦は成功と言っていいだろう。
「あなた、オレと目が合いましたよね? 目が合ったらポケモンバトル。それがこのイベントのルールでしょ?」
「上等だ。まずはテメェからぶっ倒してやるよ! ヘルガー! かえんほうしゃ!」
「ヨワシ、群れろ」
ヘルガーから吐き出された火炎が迫る。一方、ヨワシはレムの指示でむれたすがたに変化すると、レムはZパワーリングを着けた左腕を前に出し、Vの字に構えた。
「行くぞヨワシ! オレ達の! ゼンリョクZ技!!」
フラダンスのようなポーズを取り、ヨワシにZパワーを送り込む。Zパワーをまとったヨワシは呼び出した赤い水の中に潜った。そしてホエルオーに匹敵する大きさとなった赤いヨワシがヘルガーを打ち上げ、呑み込んだ。
ゼンリョクで放たれた水のZ技。ほのおタイプのヘルガーにはひとたまりもなく、彼はダウンしたまま動かなくなった。つまり、完全KOだ。
尚、Z技には大規模な演出がお決まりだが、Z技を繰り出す時に、周囲はゼットフィールドというZパワーによって生み出された固有結界に包まれる。Z技はそこで放たれるため、Z技による周囲の被害はまったくない。追加機能のようだが、便利なものである。
「なんだよアレ!? 反則だろ!! くそぅ! 覚えてろよ!」
男性トレーナーは青筋を立てながらヘルガーを戻すと、お決まりの捨て台詞を吐いて去っていった。レムはそれを見送ってZクリスタルに視線を向けると、1つの変化に気づく。使う前は青かったZクリスタルが赤く変色していたのだ。
「まさか、オレのヨワシが使ったから変化したのか……?」
使うポケモンによってはZクリスタルが変化する例もあるそうなので、恐らくそうだろう。ならば、それに相応しい技名をつけなければならない。ブラッディオーシャンストリーム。血の如く赤い海を流し、巨魚となって相手を呑み込む。ブラッディアイと呼ばれていた彼が使うことを考えれば、これ以上に相応しい名前はないだろう。
「あの……ありがとう。助けてくれて」
ずっと見ていたのか、エリートトレーナーが礼を言う。
「不正を働くヤツを見過ごせなかっただけだよ」
「キミ、レムだよね?最近注目されてるから知ってるよ」
ここいらに住む者なら誰もがレムを知っていると言っても過言ではない。何故なら実力の高いトレーナーのことはすぐにSNSで瞬く間に噂が広がるからだ。
「私、一度戦ってみたいと思ってたの。でも、今はそのタイミングじゃないみたい」
ここまでレムは連戦を重ね、多少なりとも手持ちが疲弊している。そんな状態の彼を倒しても意味はないと彼女は言いたいのだろう。
「私はミライ。リワード戦で当たったらバトルしましょう。私は、全力のあなたと戦いたいから」
「ああ。その時はオレも本気で行かせてもらうよ」
「うん、楽しみにしてる」
再会の約束を交わし、去っていくエリートトレーナーことミライを見送る。レムもさっき男性トレーナーを倒したことでランクポイントを達成したので、今日はもういいだろうとバトルエリアから退出するのだった。