ポケモン世界に転生したらハーレムができていた件 作:天野蒼夜
・マリィ
夜。いつものようにHロワイヤルに参加していたレムはルカリオと共に建物の物陰に身を潜めていた。
(まだだ……まだ早い)
彼等がこうしている理由は視線の先にはスクールキッズ……の隣にいるバイバニラ。2人は今、そのバイバニラに奇襲を仕掛けようとしているのだ。カードに書かれたお題を達成するために。
「なんか人の気配を感じるけど……気のせいかな?」
レムのいる方向を見つめていたスクールキッズが背を向ける。奇襲を仕掛けるなら今しかない。
「今だ。はどうだん」
小声で指示をすると、ルカリオはバイバニラをターゲットに波動の弾を射出。バイバニラはそれに気付かぬままそれを背で受け、バタリと倒れ込んだ。
「ああっ!? 俺のバイバニラが!」
スクールキッズが倒れながら目を回しているバイバニラにあたふる中、レム達はその場から離れる。Hアプリによるとあのスクールキッズの手持ちはバイバニラのみ。つまり、それが戦闘不能になった時点で勝敗は戦う前から決しているのだ。
「よし、これでポイントは貯まったな」
Hアプリに見られる所持ポイントを示すゲージは上限に達しており、チャレンジチケットが獲得されていることを示していた。
先ほどバイバニラを倒したことでカードのお題である“何でもいいからこうかばつぐんを出せ!”、“勝負を仕掛けて一撃ノックアウトしろ!”、“かくとうタイプの技でこうかばつぐんを出せ!”を同時クリアしたことで、ポイントが大量に付与されたのだ。
【次のランクアップ戦の相手はたしかマリィってヤツだったな。あとはあっちがチャレンジチケットを獲得するだけか】
「そしたらチャットで連絡がーーーあ、来た」
Hアプリのチャットにマリィからメッセージが送信された。Hアプリでは他の参加者との交流やランクアップ戦の対戦相手と待ち合わせの連絡ができるようチャット機能が搭載されているのだ。
【こっちはいつでも始められる。あんたの方は?】
こちらもチャレンジチケットは獲得しているので、レムはその旨の内容で返信する。
【今からやれる? ムリなら日を改めるけど】
こちらの都合を考えて言ってくれているのだろうが、レムとしては今からでも問題ないので、その旨を伝えた。
【じゃあ1時間後、東のバトルコートに来て。待っとるけん】
“分かった”と返信した後、レムはポケセンへ。そこでポケモン達を元気にし、いざマリィの待つバトルコートに向かったのだが、それを阻む者がいた。エール団だ。
エール団はマリィを応援したいファンで構成された集団なのだが、その応援の仕方は褒められたものではない。その最たる例がマリィを勝たせるために彼女とバトルするトレーナーに奇襲を仕掛け、疲弊させた状態でバトルせざるを得ない状況を作ること。つまり、エール団はマリィをBランクに上げるべく、次は対戦相手であるレムをターゲットにしたというわけだ。
「サンダース! エレキボール!」
球状の電撃がガラルマッスグマを地に伏せさせる。エール団団員の実力はレムには遠く及ばない。だが、塵も積もれば山となるということわざがあるように、弱くても数が揃えばレムの手持ちを疲弊させるには十分だった。
「次から次へと……これじゃポケセンに行く時間もない……」
今からポケセンに行ってポケセンを元気にしていたら確実に遅刻する。心苦しくはあるが、このままランクアップ戦をするしかーーー。
「傷ついたポケモンはいませんか〜? おられましたら私が元気にしますよ〜!」
近くの屋台で女性が呼び込みをしている。さっきはこのままマリィのところに行くつもりだったが、今のを聞いたらそういうわけにもいかない。
「すみません! ポケモンの治療をお願いします!」
「かしこまりました。ではこれにボールをお入れください」
言われるまま、6つのくぼみがある治療器具にボールをはめる。直後、ポケセンでよく聞いた音が治療器具が流れだす。
「お待たせしました。お預かりしたポケモン達は皆元気になりましたよ。またのご利用をお待ちしております!」
「ありがとうございます!」
屋台を後にして駆け出す。ポケセンの治療器具であれば1分足らずで元気になるのだが、あの屋台で使われていた治療器具は旧式。そのため、3分も時間を要してしまった。
「ロトム! 今何時!?」
【現在の時刻、21:58です】
約束の時間は22:00。もう完全に間に合わない。この原因にを作ったエール団を恨みつつ、レムはバトルコートにたどり着いた。その時点の時刻、22:12。
「遅いし!」
レムを見たマリィの第一声がそれだった。遅刻したから当然ではあるが。
「ごめん……訳あって遅れちゃって……」
「まあ別にいいけど……ん?」
ふとレムの手に目ががいった時、マリィは気づいた。彼がダイマックスバンドを所持していることに。
「あんた、ダイマックスバンド持っとるんやね?」
「うん、研究所の手伝いの報酬でもらったんだよ」
「ご苦労やなあ。ならあたしもダイマックスバンド持っとるけん、今回はダイマックスバトルにせん?」
ダイマックスバトル。つまり、ダイマックスをしたポケモン同士でバトルをしようということ。レムはダイマックスバンドはてにいれたものの、ダイマックスを使ってのバトルはまだしていない。なので、これはいい機会だ。
「分かった。それで行こう」
それぞれ位置につき、向かい合う。
「あんたのことはずっと見てきた。だから、絶対負けない」
「それは、オレもだよ」
そう言って、それぞれダイマックスバンドから取り出したボールにエネルギーを送り込むと、ボールが巨大化する。
「オノノクス、ダイマックスしたお前の力を見せてやれ」
「やっちゃうよ、オーロンゲ」
『(キョ)ダイマックス!』
声が重なると共に巨大化したボールを放り投げる。そしてそれぞれのポケモンが繰り出されると、バトルコートが暗い空間に包まれた。
「これ、まさか……」
見上げるほどの巨人となったオーロンゲであるが、見た目が変化したのは彼だけではなかった。
事前知識として、レムの世界でやったゲームにキョダイマックス個体のオノノクスは存在しない。だが、ダイマックスしたレムのオノノクスは金色だった外皮が黒、顎斧は翼のような形状。加えて腕、頭部、尻尾に扇状の刃がついた見た目に変化していた。
「ロトム、これってキョダイマックスだよね?」
【はい。あなたのオノノクスはキョダイマックス個体なので、ダイマックスすると見た目の変化及び専用技が使用可能です】
図鑑を見ると、たしかにドラゴンクローが見たことない技に変化している。少々驚きはしたものの、これは嬉しいサプライズだ。
「Sランクに上がるために、あんたをコロッとやっちゃうね!」
「いけ〜! マリィちゃ〜ん!」
「キョダイスイマ!」
エール団の声援を受けながら、マリィはオーロンゲに指示を飛ばす。巨大な漆黒の波がバトルコートを覆い尽くさんと押し寄せるが、レムは冷静だった。
「オノノクス、キョダイセンフ」
静かな指示と同時に、オノノクスの全身の扇状の刃が光を帯びる。キョダイセンフはキョダイマックスしたオノノクス専用のドラゴン技。故に本来ならフェアリータイプを持つオーロンゲには効果がない。だが、キョダイセンフはタイプ相性という理を無視した純粋な破壊の奔流。そんな金色の斬撃が悪の渦を真っ二つに裂き、オーロンゲの巨体を捉えた。
「オーロンゲ!?」
マリィの声が焦りを含む。キョダイマックスしたポケモン同士の激突は一方的な様相を呈していた。レムのオノノクスはキョダイセンフの後、すかさずダイアシッドを放つ。毒の霧がオーロンゲの体を蝕み、じわじわと体力を削っていく。
「オーロンゲ、もう一度キョダイスイマ!」
二度目の悪の奔流。だが、レムのオノノクスは既にその軌道を読んでいた。ひらりと身をかわすと、三度目のキョダイセンフを飛ばす。タイプ相性を無視するその一撃はフェアリータイプを持つオーロンゲにも等しく深い傷を与え、その巨体を地に沈めさせた。
【オーロンゲの戦闘不能を確認。よってこのバトル、レムの勝利となります】
審判モードとなったロトムが判定を下す。マリィは“タイプ相性有利で負けるなんて……”と悔しそうに呟きながら、元の姿に戻ったオーロンゲをボールに戻す。レムはそれを見届けた後、オノノクスをボールへと戻した。
「強かったよ、マリィ」
レムがそう声をかけると、マリィは悔しさを滲ませた笑みを浮かべた。
「あんたこそ。……で、何があったん?」
「何って?」
「遅刻した理由。まだ聞いてなかったから」
マリィの視線は真っ直ぐだった。レムは一瞬迷ったが、隠すことでもないと判断し、正直に話すことにした。
「実は……エール団に邪魔されたんだ。バトルコートに向かう途中で、次から次へと勝負を仕掛けられて。近くの屋台でポケモンを回復してもらって…それで遅れた」
「……」
事情を聞いたマリィの表情が一変した。怒りというより、深い失望と困惑が混ざり合ったような、複雑な色を浮かべている。
「……エール団が?」
「うん。キミを勝たせるために、オレを疲弊させるためにね」
マリィは拳を握りしめ、俯いた。肩が微かに震えている。そして、顔を上げたときにはその瞳に強い怒りの炎が宿っていた。
「ちょっとあんた達」
『!?』
逃げようとするエール団達を呼び止める。その声は冷え切っていながらも、確かな怒りが感じ取れた。
「今の話、マジなの?」
「えっと、俺達はただ、マリィちゃんのために……」
「応援? あんた達にとって応援って人の邪魔をすることなんか?」
マリィの問いにエール団は何も言えなかった。対戦相手をバトル外で妨害することは決して応援ではない。そんなの誰だって分かることなのだが、エール団はそれよりも“マリィを勝たせる”ことに気持ちが傾きすぎたことで、その常識を見失ってしまったのだ。
「あたしは、正々堂々と戦いたい。誰の力も借りんと、自分のポケモンと一緒に勝ちたいんや! なのに、あんた達は……!」
エール団員たちは俯き、言葉も出ない様子だった。マリィの言葉の1つ1つが、彼らの胸に突き刺さっているのがわかる。
「二度とこんなことせんで。あたしの応援がしたいんやったら、あたしのバトルをちゃんと見て、本気で応援して。それがあたしにとって一番の力になるんやから」
マリィの語気が少しずつ柔らかくなる。エール団員たちの中には、涙を浮かべている者もいた。
「……ごめんなさい、マリィちゃん」
一人の団員が、絞り出すように言った。それを皮切りに、謝罪の声が次々と上がる。マリィは一つ頷くと、レムの方へと歩み寄ってきた。
「ごめん、レム。うちのファンが迷惑かけて」
「気にしないでいいよ。それより、マリィはすごくいいトレーナーだなって思った」
レムの言葉に、マリィは少し照れたように笑った。
「当たり前やん。あたしは、あたしのやり方で強くなるんやけん」
そう言って、マリィがレムの手を握る。
「それじゃ、行こっか」
「え? どこに?」
バトルが終わりエール団への叱責も済んだ後、マリィはレムの手を引いて歩き出す。てっきりこれで解散だと思っていたレムは困惑する。
「うちのファンが迷惑かけたけん、そのお詫び」
「いや、それは気にしなくていいって……」
「あたしの気が済まんの!」
どうやらマリィは頑固なところがあるらしい。レムは仕方なく彼女に連れられる形で街を歩いていく。そして辿り着いた先を見て、レムは思わず足を止めた。
「……ラブホ?」
「そう。ここなら誰にも邪魔されんし」
マリィは振り返らずにそう言うと、迷いなく入っていく。レムは一瞬躊躇したが、彼女に続いた。フロントで鍵を受け取り、部屋へと向かう。部屋の中は薄暗い照明と大きなベッドが置かれた典型的なラブホテルの一室だった。
「座って」
マリィがベッドを指さす。レムが腰を下ろすと、彼女は無言で近づき次の瞬間にはレムの体をベッドに押し倒していた。
「ちょ、マリィ!?」
「詫びやけん……」
マリィはそう呟きながら、レムのシャツに手をかける。しかしレムはその手を優しく掴んだ。
「待って。詫びでこういうことするのは違うと思う」
レムの真剣な声に、マリィの動きが止まる。彼は続けた。
「オレはマリィのことをちゃんと知りたいし、そういうことをするならお互いの気持ちがあってこそだよ。詫びとか、義務とかそういう理由でするものじゃない」
マリィはしばらく黙っていた。俯いたまま何も言わない。やがて彼女の口が小さく開いた。
「……詫びって言うたんは嘘」
顔を上げたマリィの頬は、薄暗い照明の下でも分かるほど赤く染まっていた。
「あたし……ずっとあんたのこと見てきた。戦い方も、ポケモンへの接し方も、他のトレーナーを助ける姿も……全部。そうするうちに……その……」
「マリィ……?」
マリィは恥ずかしさに耐えながらも、しっかりとレムの目を見つめた。
「あんたのこと、好きになってた。ライバルとしてじゃなくて……1人の男として。エール団のことを口実にしたんは、素直に言えんかったけん……」
普段は凛としているマリィが今は恋に戸惑う少女の顔をしていた。その告白を聞いて、レムの心臓が大きく跳ねる。
「ごめん。こんな形で伝えるつもりじゃなかった。でも、あんたが誰かと一緒になったりしたら……そう思うと胸が苦しくなって……」
レムは起き上がり、マリィをそっと抱きしめた。
「それなら……オレも同じ気持ちだよ」
レムの言葉に、マリィが息を呑む。
「ほんとに……?」
「うん」
2人は自然に見つめ合いそして唇を重ねた。最初は触れるだけの優しいキス。やがてそれは情熱的なものへと変わっていく。服が1枚ずつ取り払われ、素肌が触れ合う。
「綺麗だ……」
露わになったマリィの肌は白く、月明かりに照らされて幻想的な美しさを放っていた。彼女は恥ずかしそうに身を捩る。
「そんなに見んといて……」
「嫌ならやめるよ」
「……嫌やない」
小さな声でそう答え、マリィは自らレムの体を求めるように抱きついた。2人の心臓の鼓動が重なり合い、熱が伝わっていく。
「優しくして……」
マリィのその言葉に、レムは黙って頷いた。互いの気持ちを確かめ合い、2人はゆっくりと1つになっていく。部屋の中には吐息と、時折漏れる甘い声だけが響いた。痛みと快感が入り混じる初めての感触にマリィは必死にレムにしがみつく。
「大丈夫?」
「うん……続けて」
徐々に慣れてくると2人の動きは深くなり共に高みを目指していく。汗ばむ肌と肌がぶつかる音が激しくなる。
「好き……」
「オレも好きだよ」
交わりの中で何度も愛の言葉を紡ぎ合い、最後の瞬間を迎える。身体の奥から湧き上がる熱情を解放し、抱き合う2人。事が終わると2人は裸のまま抱き合い天井を見上げていた。
「痛くなかった?」
「少し……でも幸せな痛みやった」
マリィはそう言って微笑むと、レムの胸に顔を埋めた。
「これからも一緒にいられるん?」
「もちろん。ずっと一緒にいよう」
2人は再び口付けを交わし、契りを結んだ。そして恋人になったマリィの願いを聞き入れ、レムの別荘に住むことになるのだった。