※この作品はR-18です。

夢魔観察計画   作:黑ヱ

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摂食

「終わったん?」

「その話」

いや……何?

(……本当に、何も気にしていない?)

命を奪う可能性がある。

依存する。

止まれなくなる。

その命が尽きるまで。

現在の事実からすれば正しくない。

でも…伝承には残っているだろう?

普通なら、どこか一つくらい引っ掛かったっていいはずなのに…

なのに――

自分で試そうとする…?

(…こいつらやっぱりおかしい)

何を言えば止まる?

命の危険では駄目だった。

依存と聞けば、むしろ喜んだ。

これ以上、相手に情報を与えてやっても。

こいつらを止める保証がない。

(……どうする?)

靴音が、一歩。

反射的に身体へ力が入る。

けれど。

椅子へ固定されたまま、ほとんど動かない。

当然だ。

さっき確認したばかりなんだから。

(……さて)

食事を寄越せと。

(……自分から言ったんだ)

気に入らない。

ものすごく気に入らない。

それに…"初めて"は痛いとよく聞くが…

まあ痛みなら…まだマシか。

良くはないが。

腹をくくるしかない…

小さく息を吐く。

落ち着け。

ただの"食事"だ。

「んじゃ、始めっかね」

すぐ近くで。

衣擦れの音がする。

「…………」

視界は塞がれたまま。

だから余計に。

音と。

気配と。

自分との距離だけが、嫌にはっきり分かる。

(……近いな)

今更なことを考えた、その時。

 

肩口へ。

人の手が触れた。

 

肩口に触れた手に、反射的に息をのんだ。

「…………」

緊張しているだけ。

「……ヘェ?」

すぐ近くから。

低い声が落ちる。

(何だよ…)

「緊張してんね」

(むしろこの状況で平然と出来るほうがおかしいだろ…)

 

「…ふむ」

少し離れたところから、愉しそうな声。

「接触した瞬間だ」

「脈拍が上がったね」

(…………)

「呼吸にも変化がある」

(……本当に嫌なやつ)

このままバイタル変化も取るつもりか。

肩に置かれていた手が。

するりと撫でるように首の裏に回った。

「――……っ」

身体が勝手に反応する。

(こいつ…わざとか?)

私に触れる手に、息が止まる。

「……おい」

「大丈夫か?」

…うるさいな。

「…………何だ」

「いや?」

少し笑うような気配。

「さっきから」

「息、止めすぎじゃね?」

(……最悪)

ゆっくり吐く。

「……問題ないさ」

「ヘェ」

信じてなさそうに聞こえた。

「んならいーけど」

その言葉を最後に。

首の後ろにあった手が私を手前に引き寄せる。

…?

いや、待て。

他の方法って…そっち…?

これでは痛い痛くないの話じゃなくなる。

「待っ…て…っ」

思っていたよりも、焦りが声に乗った。

溜息をついた男の手が止まる。

「まだ何かあんの?」

今度こそハッキリと、呆れが滲んでいた。

自分でも往生際が悪いとは思ってるさ…

でも……もし、こいつが。

私の"体液"という言葉を。

ある一部だけだと思っているなら。

――使えるか?

「もし、体液の依存作用が」

「ある一部だけだと思っていて」

「この方法を選んだのなら」

「無駄なあがきだぞ」

分かってる、自分でも。

無駄なあがきをしているのは私の方だって…

「唾液にだって…効果はある」

「直接皮膚に触れるだけ」

「それだけで効果が出る」

何処まで知られているかは分からない。

だが…私を研究しようとするくらいだ。

分からない事だって多いはず…

多少誇張したって…のちにバレるとしても。

今すぐバレることは――ない。

ただ。

「…ほう?」

やはり興味を引いたか。

「元々採血はしようと思っていたんだが…ふむ」

…だろうな。

「唾液なら、今すぐ採取出来るね」

まあ…そう来るのは自然か。

弾むような声でそう言いながら、採取のために傍へ寄ってくる気配がした。

どうせ後々バレる事だ。

 

採取には素直に従ってやる。

 

すぐバレるとしても。

調べる間くらいの時間稼ぎは出来たか…

その間に考える事くらいはでき――

グイっ

首の後ろにあったはずの手が、いつの間にか頭へ移っている。

その手に引かれた。

唾液の採取に素直に従っていたせいで、開いた口に突然。

質量のあるものが押し込まれた。

(こいつ…っ)

話を聞いていたか…?

接触するだけで依存効果があると話しただろ…?

「依存するか、しないか」

…?

「関係ねえんよ」

「やるこた決まってかんね」

…なるほど、最初から――

「にしても」

少し、笑ったような気配。

「んなんじゃ終わんねえよ?」

頭に回された手をさらに引かれ、気道が塞がれた。

…わかってる、わかってはいるが。

こちらに経験がないなんて、相手は知らないんだから。

無理もない。

でも…経験がないんだから、無理を言わないで欲しい。

口をもごつかせるだけで、精一杯だった。

「…ん?」

「スタン?どうかしたかい」

「…いや」

早く終われと願いながら。

必死で口を動かすが。

「……」

当然、経験のない私では難しい事は分かってる。

「なあ」

随分と不思議そうに声をかけられた。

(……)

口を塞がれてるんだ。

反応など出来るはずもない。

私の返事など最初から求めてない。

「…慣れてねえな」

「ほう?」

ゼノの声が。

分かりやすく弾んだ。

「どうしてそう思うんだい?」

(わざわざ聞かなくていい)

本当に嫌なやつら。

上手く出来ていない事なんて分かってる。

「…慣れてる奴の動きじゃねえんよ」

その声はわずかに楽しそうに聞こえた。

こいつ…何を楽しんでいるんだ。

頭に添えられた手が動く。

何度か首元を撫でられ。

「――っ」

喉の奥が鳴る。

(こいつは本当に…なにがしたいんだ…っ!)

「ほう…興味深いね」

今度はなんだ…

「慣れてねえだけにしちゃ…」

「反応、しすぎじゃね?」

うるさいな…っ

お前のせいだろ…っ

「おお、スタン。君も気づいたかい?」

「そりゃな」

「こちらでも接触に合わせて脈拍が跳ねている」

(くそ…こいつら好き勝手言いやがって…っ)

首元で動くその手に。

ぞわぞわと、背筋をはうような感覚が走る。

「――……んっ!」

今度こそ、

鼻にかかるような声がもれた。

「…………」

部屋が。

妙に静かになる。

(本当に……最悪)

「…最初から心拍は高かった」

「だが、それとは別に接触のたびにピークが出ている」

(こっちが喋れないことをいいことに…っ)

「ヘェ、つまり?」

「ふむ…」

少し考え込んだように黙り、また喋り始める。

…ずっと黙っていればいいものを…

「緊張か、恐怖心、身体的負荷か…」

「視界を塞がれていることで接触に意識が集中しているのか」

「可能性はいろいろあるがね…ふむ」

その間にも、手は止まらなかった。

「スタン」

「ん?」

「場所を変えたね」

「ああ」

「…反応も変わった」

(くそ……っ)

本当に悪趣味なやつら。

実況をするな。

「同じ接触でも差があるね」

「……ヘェ?」

こいつら2人して。

随分楽しそうな声を出す。

「単なる開始時の緊張だけでは…」

「説明しにくくなってきたね」

こっちは分かってるんだ…いい加減にしてくれっ。

いっそ噛みついてやろうかとすら思う。

「ま、いつまで経っても終んねっかんな」

必死に口を動かしていた私の頭を。

大きな両手が掴む。

――そのまま、遠慮なく動かされ始めた。

息苦しさと、未知の感覚が引き起こす目眩。

自分の意志とは無関係に動かされる。

逃げ場のない異物感がさらに増した。

(世の…っ、女性は…こんな経験をしているのか…っ!?)

この現状が異常であっても。

ついそう思わずにはいられなかった。

こちらに配慮せず容赦なく口内を犯していくソレに。

口内を蹂躙される感覚と、呼吸が追いつかない焦燥感。

ゼノがなにかを言った。

その声が、ひどく遠くに聞こえた。

「…んっ」

そのうち、喉の奥に吐き出されたものを。

そのまま呑み込んでしまった。

直接の"食事"とは。

(こんな…に…っ?)

なんと暴力的なものだろうか。

(これ…)

(む、り……)

 

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