※この作品はR-18です。

夢魔観察計画   作:黑ヱ

11 / 11
差異

ゼノは、随分と長く尋問を続けていた。

椅子へ固定された女は、答えなかった。

スタンリーは少し離れた場所で、煙草を口元へ運ぶ。

拘束してから一度だけ、固定の具合を確かめていた。

それ以外は大人しいもんだ。

暴れない。

怒鳴らない。

助けを求めない。

ゼノが何を聞こうと。

沈黙。

時折。

ほんの僅かに呼吸が変わるのは分かるが。

さっきゼノとやりあってた時も…頭の回転は早そうだった。

何もしていないわけじゃねえのは、分かる。

こんだけ黙ってる間も、何かしら考えてんだろ。

「――」

煙を吐く。

ゼノの話が、少し変わる。

BARで得ていた"何か"。

ピアノが無い事実。

理性を失うまでの、タイムリミット。

失ったところで観察は出来る、その言葉。

女の呼吸が――わずかに止まる。

スタンリーは煙草を口に咥えたまま、目を細めた。

女の反応が変わった。

ゼノは声の調子を変えないまま、その先へ話を進めていく。

女は黙ったまま。

何も答えない。

ただ。

さっきまでと同じ沈黙には、見えなかった。

「……随分」

掠れた声を出した。

「効率の悪い研究をするんだな」

(やっと口、開いたんか)

スタンリーは煙を静かに吐き出した。

「理性を失ったものを眺めたいだなんて、奇特な趣味だな」

"仲間"を使った脅しとは、感じが違うな。

(こいつ、皮肉も言えんのか)

それでもゼノは楽しそうだった。

「三日――いや、下手したら二日で限界が来る」

「……ふむ」

「想定より…期間が短いな…」

ゼノの呟きが部屋に響く。

 

女は話し続けた。

今の自分にだって興味はあるだろうと。

なら、最低限――

「食事を与えるべきだと」

「そうは思わないか?」

ヘェ、"食事"…ね。

煙草を咥えたまま女を見る。

客から得ていた"何か"。

それをこの女は"食事"と呼ぶらしい。

「君は今――」

「"食事"」

「確かにそう、言ったね?」

女はまた黙った。

僅かに身体に力が入っているのがわかる。

だが――

ずっと黙るつもりでは、無いらしい。

「他の方法…か」

「ある程度の予測はしているんだろう」

「人間を――」

「連れてくればいい」

スタンリーは煙を吐いた。

「ほう?」

「…なるほど」

「人間を連れて来る…か」

ゼノの声が弾む。

「――その必要は、ないよ」

だろうな。

「わざわざ外から、人間を連れてくる必要はない」

ゼノが続ける。

「もう居るだろう?」

女が顔を僅かに動かした。

「ここには人間が」

「おお、2人も」

沈黙。

「スタン」

「ああ」

「彼女は"食事"がしたいらしいよ」

「できるかい」

楽しそうだな、ゼノ。

スタンリーは短く煙を吐いた。

「できるね」

 

煙草を灰皿に押し付け、女に向かって歩き出す。

「――まあ、待て」

女の声に、足を止める。

「…まだ何かあるん?」

黙ったり皮肉ったり。

今度はなんよ?

忙しいヤツ。

「お前たちは」

「何が起こるか分かってないのか?」

「ヘェ…なにかって?」

 

「私が人間から何かを得る」

「その程度の認識しかないなら――」

「やめておいた方が賢明だな」

また脅しか?芸がないね。

「私たちが人間から」

「直接"何か"を得たその時」

「命を――奪うことだってある」

 

「ヘェ」

「んで?」

一瞬黙った女を気にかけず、再び歩き出した。

「っ…待て」

しつけえな。

「今の話を聞いていたのか?」

「ああ」

「…何故、止めようと思わない」

やるこた決まってんだ。今更だろ。

「話は聞いてんよ。だから?」

女の口が開いたまま止まった。

絶句。

例えるならそれが一番近いか。

「私の言葉が、嘘だと思っているのか?」

「自分で試すなんて、愚かな事だな」

「命を…奪うだけじゃない」

「…ヘェ、今度はなんよ」

ホント、しつけえな。

んでも…さっきとは話がちげえか。

望み通りに足を止めてやる。さっさと話せ。

「私にどう、"食事"をさせるのか」

「ある程度想像は出来るがな」

「"命を奪うこともある"」

「この言葉で、もし」

「一回なら、数回なら」

「間を置いて回復すれば」

「そう、勘違いしているなら」

「やめた方がいい」

「私の体液には、依存作用がある」

今度は依存、ね。

「ほう、依存?」

少し離れた場所で、ゼノが反応する。

――楽しそうだな。

ま、新情報ならそうなっか。

「止まれないさ」

「その命――尽きるまで」

「それでも」

「止めるつもりはないと?」

そこまで言って、やっと黙った。

 

まだ続くかと、少し待ってやるが。

 

「……」

終わったか?

「んで…」

一歩、距離を詰める。

「終わったん?」

「その話」

「んじゃ、始めっかね」

やっと仕事に入れんな。

 

肩へ手を掛ける。

「――」

……ん?

一年前とは――少し違う?

 


 

彼女が"食事"を終えた後。

大きく乱れていた呼吸は戻っていなかった。

椅子へ固定された身体は、完全に力が抜けている。

頭が僅かに傾いたまま。

呼びかけても――反応はない。

「……ふむ」

意識を失ったらしい。

指先につけた機材も、まだ反応している。

呼吸もある。

ただ。

摂食前とは、明らかに違う。

直接人間から"何か"を得たであろう、その直後。

強い身体反応を示し、そして――

意識を失った。

(なるほど……)

理性を失うまで、二日か三日。

そう言っていた彼女が。

実際に"食事"をした、その結果。

(スタンには今のところ…)

(…目に見える変化は…ない)

"依存"作用。

少なくとも、即座に現れるものではないらしい。

彼女の嘘か。

もしくは、誇張か。

それとも――

発現には、別の条件があるのか。

ゼノはもう一度、目の前の女を見る。

調べたいことが随分と増えたな。

増えた項目を、一つずつ整理していく。

摂食方法。

体液。

依存作用。

摂食時の身体反応。

供与者側への影響。

そして――

(個体特性か……)

彼女だけに起きる現象なのか。

それとも。

同じ性質を持つものが、他にもいるのか。

その手掛かりなら、すでにある。

――"同胞"たち。

あの路地裏で、彼女自身が確かに口にした言葉。

 


 

――あの時。

 

『私がいなくなれば"同胞たち"が黙ってない。』

(――同胞…なるほど?)

彼女一人ではない。

自分の他にも、同じ側に属する存在がいると示唆した。

同種か。

同じ能力を持つ人間か。

あるいは、それ以外の何らかの集団か。

それともただの脅しか。

まだ分からない。

ただ…そう。

 

一年前。

事件を調べていた時。

真偽不明。

根拠もない。

科学的に検証出来る材料もない。

都市伝説。

伝承。

そんな類の、断片。

当時は。

調べる価値のある情報だとは思わなかった。

だから、

 

(捨て置いたんだが…)

目の前にいる彼女は。

今自分から――"同胞たち"と口にした。

「……なるほど」

もし。

彼女のような存在が、一人ではないのなら。

「それは実に―――」

以前の情報にも"価値"がある。

本当に"同胞"がいるのか、ただの脅しかは分からないが。

今。

彼女は確かに。

"同胞たち"

そう、口にした。

なら――

賭ける価値がある。

これほど長く、人間社会に存在を知られずにいる。

優先することは?

一個体の救出?

…本当に?

集団そのものが、見つからないことでは無いか?

彼女が口にした"同胞"。

その言葉で、また仮説が増えた。

楽しくなって、つい笑みがもれた。

「実に理にかなった、エレガントな脅迫だ。」

「誰も助けには来ない―――そうだろう?」

彼女の動きが、目に見えて固まる。

――なるほど。

彼女の言う"同胞"は存在する可能性があるな。

特殊な能力を持つ人間。

確かに、その可能性はある。

ただ――

「生き残るためには目立たない方が合理的だ」

一年前に捨て置いた、あの情報。

「そんな彼らが」

今、彼女自身が口にした"同胞"。

二つを重ねれば――

「ただ一人、君のために?」

人とは異なる種である可能性を。

以前よりは、高く見ていい。

「そうだろう?―――ステラ。」

「……」

短い沈黙の後。

「――チッ」

小さな舌打ちが、夜の路地に落ちた。

なるほど。

僕は賭けに勝ったらしい。

また一つ。

観察するものが増えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【目指せ】ORTの倒し方とついでに聖杯を探すスレ【極限の単独種】(作者:暴走樹海奇行ワイモ・オルトヤー)(原作:Fate/)

 ⚠あらすじを読む時はレッツゴー陰陽師を流してください⚠▼ あらゆる世界での死が転生で解決するこの令和の時代▼ 転生者達の間に築かれる掲示板が存在していた▼ 暇を持て余したどうしようもない奴らに娯楽を提供する、FGO世界に転生したバカみたいな考えの男が一人▼ その名は、オルト・エインズワース▼ そう、転生者達は彼を⋯⋯フォーリナーと呼ぶ▼ ※呼びません▼ 本…


総合評価:16044/評価:8.12/連載:62話/更新日時:2026年07月10日(金) 12:00 小説情報

石の世界で農業チートしてたら比べ物にならん程のチートがワラワラ湧いてきた件(作者:史上最強のラーメン)(原作:Dr.STONE )

 原始の村で農業チートを駆使して成り上がったら、ある日本当のチートがやってきた。触発されるように村の仲間もチートになっていきもう大変!今日も俺は畑を耕す。


総合評価:3369/評価:7.99/連載:14話/更新日時:2026年09月12日(土) 06:01 小説情報

Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会(作者:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増))(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

「アハハハハッ!始まり、始まりぃー♪パンフレット買った?ポップコーン持った?早くしないと世紀の戦いを見逃しちゃうよ?」▼ Fakeのあのキャラに転生したオリ主が、スバル君の奮闘を眺めてケラケラ笑いながら観賞をする話。▼「……あれれー?もしかして、このスバル君。放っておいたら正史から簡単に外れちゃうぅ?」


総合評価:7066/評価:8.81/連載:7話/更新日時:2026年09月05日(土) 21:00 小説情報

降谷零のクローンなオリ主とコナン世界(作者:ラムセス_)(原作:名探偵コナン)

組織が作り出したバーボンのクローン生物兵器となってしまった転生オリ主が、儚い勘違いをされながら安室さんと親子になる話。▼※pixivにて投稿済みの物の改稿版▼紙魚ゆゆゆ様からファンアートをいただきました!▼クローン&肉体君!可愛い…素敵…!▼https://img.syosetu.org/img/user/v2/5114/841/254917.jpe…


総合評価:11383/評価:8.59/連載:172話/更新日時:2026年09月12日(土) 12:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>