逃げなきゃ。
あの人達が戻ってきたら、次は何をされるか分からない。
女の子一人探すくらい、あたしには簡単なはずだったのに。何処で間違えたんだろう? 考えても答えは出ない。ううん、考える振りをしているだけ。だって、何か考えていないと嫌な記憶を思い出しそうになる。
「……んっ、ぐすっ。はっ……あっ」
嗚咽が溢れそうになるのを、ぐっと飲み込んだ。
バラバラになった勇気を掻き集めて、もう一度自分を奮い立たせる。泣いちゃ、ダメ。亜音ちゃんを、まだ見つけられてもいない。陸にだって、心配をかけたまま。
そうだ、陸。
連絡をしようとして、それもダメ。
電波が入らないとかじゃなくって、そもそも荷物は預けたまま。落とし物に、忘れ物。ラフな格好で動き回るあたしは、どうにもそそっかしい。スマホなんて、何度失くしかけたことか。
「お前、またスマホ忘れて」
「じゃあ、もう陸が持っててよ」
あんまり陸が言うものだから、大切なものは全部カバンに入れる事にした。
カバンに入れて、陸に預けているのが一番安心できる。懐かしい思い出に、少しだけ気が緩んだ。帰ろう。ぎゅっと、手を握り気持ちを強く持ち直す。
「鍵は……開けられる」
大丈夫だ。まだ時間はある。
ちょっと失敗しただけじゃん。それだって珍しくもない。落ち着いて、いつも通りに。そうすれば、あたしに出来ないことなんてないんだから。
薄く扉を開いて、周囲の気配を伺った。
人の気配は、出口に向かうにつれて多くなっている。気配を消す魔法でも使えば、あるいはやり過ごせるだろうか? 部屋から出ようとして足がすくんだ。あたしなら大丈夫。そう信じた結果がいまだ。勝手に飛び出したくせに、急に心細くなった。
また失敗したらと思うと、指が震えだす。いつも手伝ってくれる陸もいない。
崩れそうな膝を、やっとの思いで立たせていた。大きく息を吸って、グズる心臓をなんとか押さえつける。どのみち、こんな所でグズグズしてられないんだ。
あたしには、もう時間がなかった。
魔法みたいなこの力は、もうすぐ消えてしまう。
子どもが見る夢みたいなものだったんだろう。理屈もわからず使ってた力だ。
いつまでも頼っていられないとは思っていた。明日の誕生日。節目としては丁度いい。大人になったあたしに、魔法は使えない。普通の女の子に戻って、普通に告白するんだって決めていた。
こんなことになるなら……もっと早くに。
ああ、だめだ。今はそんな事考えてる場合じゃない。
捕まったときには、もう日が沈みかけてた。どれだけ、寝てたんだろう?
19:40
見上げた壁の時計には、まだ猶予があった。余裕と言うには心許ないけど、なにも出来ない訳じゃない。もう一度、扉の隙間を広げて向こうを探る。
なんだか様子がおかしい。さっきより慌ただしくなった大人たちの気配には、恐怖と混乱が入り乱れていた。
何が、あったんだろう?
近づいてくる足音に驚いたあたしは、慌てて扉を閉じた。バタンと響いた音に、心臓が凍りつく。バレたんじゃないか。扉の前で蹲り、結局は何にもないまま、遠ざかっていく気配に胸をなでおろす。
知らず手足が震えていた。
尻餅をついたお尻が、床に張り付いて離れない。
粟立つ肌の一つ一つに、忘れたはずの記憶が浮かび上がる。何もなかったんじゃない、何も出来なかったんだ。たまたま気付かれなかっただけ。もし、見つかっていたら、ちゃんと抵抗できただろうか?
お腹がぽぅっと熱くなり、吐息が重たく沈み込む。
体を抱いて、浮かび上がった記憶を押し込めた。違う、そんなじゃない。泣きじゃくりながら、涙を拭う。目尻が掠れて、少し痛い。
ほら、朝日。ちゃんと立って。
扉に背中を預けながら、やっとの思いで立ち上がる。ようやく顔を上げたあたしの前には、大きな通風口があった。あたしくらいなら、何とか通れるかどうか。
出口とは、反対側。
施設のもっと奥。ポッカリと空いた暗い穴は、どこに繋がってるかも分からない。
いつもなら、迷わず飛び込めたのかな。大人たちが混乱してる今なら、出口から出ることだって難しくはないんだろう。でも、後ろ髪を引かれてる。振り返った通風口の奥には、亜音ちゃんの気配があった。
見捨てていいの?
違う。違うんだよ、朝日。見捨てるんじゃない、助けを呼びに行くだけだから。
陸に話して、警察を呼んでもらって。もう、それで、十分じゃないか。誰もあたしを責めないはずだ。
それは、どっちへの言い訳?
言い訳じゃない。良い訳がない。分かってるっ!
あたしはいいよ。一人で行くなって、陸にも止められたのに。危ないのも分かってて、自業自得。許せない、納得もできてない。けど、亜音ちゃんは? 突然拐われて、どれだけ怖い思いをしてるだろう。あたしと同じ目にあってても、おかしくない。
待ってて。なんて、言えなくなった。
一秒でも早く助けてもらいたいはずだ。あたしですら、今すぐにも逃げ出したいのに。扉を閉めて、鍵を掛け直す。これ以上、動かないように固定した。気休めかもしれないけど、時間稼ぎになればいい。
何をやってるんだろう。
でも、やっぱり放っておけない。ゴメンね、陸。心配かけちゃってるよね。
だけど、ちゃんと二人で帰るから。待ってて、絶対帰るんだから。虚勢を張って、ダクトを睨みつける。手を伸ばしても、指は届かない。ベッドの上から飛び跳ねてようやくだ。
少しだけ、力の強くなる魔法。
怪力とは言わないまでも、粗末なベッドを壁に立てかけるには十分だ。
ハシゴ代わりにベッドを登ると、ダクトの中へと頭を突っ込む。暗いだけなら、まだよかった。暗くて狭い。おまけに、ちょっと前に進もうとするだけで、底が抜けそうなくらい沈み込む。
当たり前だ。
もともと人が通るようには出来てない。手を前に出して、つま先で体を押し上げる。見様見真似の匍匐前進は、這うよりもゆっくりで、何とか前に進んでいく。
行き止まり、だったらどうしよう。
これ以上狭くなったりしたら動けなくなる。前には進めても、器用に下がるなんて出来そうになかった。不安の中、なんとか前に進めたのは魔法のお陰。
暗い中でも前は見える。出口は分からなくても、遠くに感じる亜音ちゃんの気配を頼りに進めていけた。
__プチっ
嫌な感じだ。体を引っ張ろうとして、指先が何かを押しつぶす。
見たくない。見たら進めなくなりそうで、本能が警笛を鳴らしていた。特別ソレが苦手なわけじゃないけれど、ダクトの中で這い回ってるモノなんて気分がいいわけない。
潰した何かの感触は、イモムシを触った時とよく似ている
蝶とか、カブトムシなら全然平気。陸と一緒に育てたことだって。
指の下でモゾモゾと、次第に動きは緩慢になっていき、もう動かない。命を奪ってしまった罪悪感も無くはないけど、それ以上に気味が悪くなった。
ああ、くそっ……最悪。
そこにいたのは、一匹やニ匹じゃない。
プチっと、プチプチっと、進めば進むほど数は増える。無理にでも前に進もうとすれば、全身でソレを圧し潰すしかない。お気に入りの服にまで汁が滲んで、妙な匂いが漂ってきた。
落ちた果実が、腐ったような。
道端で、名前も知らない果実を踏んでしまったときのイヤな感じ。
息を吸い込むと、むっとした匂いが体の中に入ってくる。涙目になって、むせ返りそうになるのを何とか堪えた。
一度、引き返そうか。
振り返れば、暗がりの向こう側に、元いた部屋の灯りが漏れていた。
別の道を探す? だけど、そんな事してる時間があるの? 上手く戻れる自信だって。ここならまだ先に進めるし、誰にも見つからないのは確かだ。
一旦、目を閉じて心を落ち着ける。イモムシ達には悪いけど、今のあたしにはやっぱり、この道しかないんだ。
「ごめん。だけど……ひっ!?」
体を押し上げようとして、つま先が滑った。衝撃がダクトを震わせた瞬間。
ボトっと、首筋に落ちてきた感触に悲鳴が凍りつく。少し湿った表面は、ひんやりとしていた。ゴムみたいな無機質さはあるのに、肌の上を這い回る動きは、何処までも生々しい。
__ボト、ボトボト
それも、一匹や二匹じゃない。肉の塊が次々と、背中に降り注いでくる。
小指から、親指まで、大きさだってバラバラだ。身震いが止まらなくなった。寒気が背筋を伝う。吹き出した冷や汗に、服がベッタリと張り付いた。気味が悪くて、気持ち悪くて仕方がない。
「いや、だめっ……入ってこないでっ」
見えなくても、分かってしまう。見えないから余計に、注意が向いた。
粘液で張り付いた服の中へ、イモムシの一匹が頭を押し込む。背中を反らして、体を揺らして、慌てて体を持ち上げた。
背中をダクトの天井に押し付けた途端、ブニっと肉の塊が潰れて弾ける。
ドロリとした生温かい粘液が、肌に広がった。漂う腐った果実の甘い匂い。垂れ落ちた汁は、首筋を流れ落ち、ダクトの床に点々とした跡を残す。
すすま、なきゃ……。
これ以上、こんな所にいたくもない。イモムシたちへの罪悪感なんてとっくに擦り切れていた。乱暴に進むほど、イモムシを押しつぶす。広がる粘液につま先が滑る度、ダクトが撓んで、またイモムシが落ちてきた。
「やだっ、気持ち悪いっ。背中……どいてっ。中に入るなぁっ」
あれ?
体を持ち上げようとして、上手く力が入らない。
指先が痺れてる。目の前がグニャリと歪んで、ダクトの中がチラツキだした。
頭の隅で感じていた、亜音ちゃんの気配も薄れ始める。自分の位置すら見失い、後にも先にも進めなくなった。
魔法が、切れ掛けてるんだ。
時間のせいじゃない。集中できてないんだ。何でも出来るから余計に。
曖昧な願い事じゃ、目に見える奇跡なんて起こらなかった。ただの女の子に戻ったあたしに、出来ることなんてそんなにない。困ったときには、何時でもそこにあったから。つい、頼ってしまう。陸とは、そもそも自力が違ってるんだ。
落ち着いて。
魔法(これ)しかないなら、ちゃんとしないと。
意識を集中すれば、ちゃんと亜音ちゃんの居場所に繋がっている。なら、どうして? 自分の状態が分からない。潰れたイモムシの匂いが、狭いダクトに立ち込める。むせ返るほどの匂いに、気が逸れただけなのかもしれない。
匂いが薄れる魔法。
願った途端。少しだけ、頭がスッキリした。慣れたつもりで、鼻がおかしくなってたのかも。魔法をかけても、未だに仄かな甘さが漂っている。
先に進もうとして、薄い痛みが首筋を撫でた。注射を刺されるより、まだ弱い。
意識を向ければ、ほんの僅かに気付ける程度。強すぎる匂いのせいで、今までずっと気づけなかったんだ。
咬まれていた。
首筋、背中、お腹、太もも、ふくらはぎ。露出してる場所全部。這い回ったイモムシ達が、あたしに牙を突き立てる。毒でもあるんだろうか。毛虫に刺された時のように、咬まれた所が痺れだす。変な熱を持ち、腫れぼったくなった手足は重たくなっていった。
急がなきゃ。
匂いと、毒と。こんな所で動けなくなったら、本当におしまいだ。
暗い想像を振り払って、何とか体を引きずった。でも毒って、どうしたらいいの? 病気を治すときと同じでいいのかな?
傘を忘れた日。
雨の中を走って帰った。風邪を引くのは陸ばっかり。あたしは、いつだって健康優良児で、彼を看病するのはあたしの仕事。いつも、おでこに手を当てて上げていた。あたしの手が冷たくて気持ちいいって。
ちょっとだけ、熱の下がる魔法。
熱っぽいって、頭のぼやけるこの感じ。
この感覚が、そうなのかな? 自分の体に意識を向けて熱を追い出すと、少しだけ頭のモヤがはれた。手足に痺れは残ったままだけど、なんとか前には進めそうだ。
出口を目指して、ダクトの中を這う。
進めば進むほど、手足の痺れはキツくなった。それに、なんだか擦れた肌がもどかしい。肌を這い回るイモムシの感触がイヤに焼き付いて、肌に刻まれた手垢まで熱を持ちそうだ。
「だめっ、だから……。どいてよ、はいってこない、で」
イモムシを追い払おうにも、狭いダクトの中じゃ背中に手を回せない。
足を閉じてイモムシを潰す。太ももの内側に広がっていく粘液の感触に、慌てて肌を引き剥がした。気持ち悪い。吐き気を堪えようと、動きを止める。__チクっ。痛みが首筋に刺さり、そこが限界だった。
「あっ……」
背中をダクトに押し付けようにも、いよいよ持ち上がってくれなくなる。
体の自由が効かないせいだ。這い回るイモムシの感覚が、余計目についた。
このまま食べられるの?
体を浮かす毒の熱。脳裏を過った想像は、そう遠くもないんじゃないか。
背筋を伝って、服の中に潜り込んでくる。脇の隙間から、お腹の隙間から、ズボンの隙間から。
「でてって、はなれて……はいって、くるなぁ……」
全身をイモムシが這い回る嫌悪感。肉を齧られる恐怖に、転げ回ることさえ出来ない。咬み付かれた所から痺れだし、意識が濁る。熱を下げても下げても、追いつかない。毒が全身を巡るほうが何倍も早かった。
イモムシの一匹が、ブラの中へと潜り込む。
モゾモゾと蠕動を繰り返しながらその先へ。柔らかく胸の膨らみを押しのけながら、もっと奥に。小さな牙を広げたイモムシを想像して、顔が青ざめた。追い出そうとして、ただ焦る。痺れた指先は、張り付いた服を摘むことすら難しい。
パチっと、火花が散った。
一瞬、意識が飛んで真っ暗闇に落とされる。
抑えていた体の熱が、一気に広がって息が詰まった。絶頂を感じた一瞬。幸せを感じたあの瞬間。でかかった嬌声を何とか飲み込んで、頭を振った。そんなはずない。そんなのはイヤ。イモムシに咬まれて、あたし今、気持ちいいだなんて。絶対に認めたくなかった。意識を揺り起こし、また体の熱を押し込める。
イキたくない。イッちゃダメ。
薬を打たれ、朦朧としていた時と一緒。
あんな風に意識を手放したら、その間イモムシ達に何をされるのか。本当にこの子たちは、あたしを食べるつもりなの? 薄っすらと思い描いたその先に、ゾッとした。人でもない何かに、性感を刺激されてる。粘液まみれになっても、ダクトの中を這うしかない。甘い痺れはどんどんと強くなり、体がイモムシに変えられていくみたい。
行き先を完全に見失っていた。
乳首を咬まれる度に魔法が途切れかけ、全身が沸騰しそうになる。頭の中は快感を抑えるのに必死で、亜音ちゃんの気配を探る余裕を見つけられない。真っ暗闇の中を、手探りで進むより他はなかった。とにかく外に出て、イモムシを追い払わないと。
お願いだから、もう……咬まないで。
お腹の下に潜り込んだイモムシが、おヘソの穴にまで入り込む。
小指で引っ掻いた時より鋭い刺激。おヘソの奥を甘咬みされて腰が引けた。我慢すればするほど、太ももの隙間から生温かい何かが流れ出す。
そこは、やだ。
ズボン隙間から、ショーツの隙間へ。濡れた肌を舐めるように、次々とイモムシが潜り込んでくる。足を閉じても、太ももの隙間は埋まらない。むしろ、入り込んだイモムシ達を、余計に押し上げてしまっていた。
隙間を塞ぐ魔法。
普段なら、ちょっとしたヒビがくっつく程度。
割れ目を咬まれて、緩んだ入口を何とか縫い止めた。ダクトに腰を押し付けても、割れ目の筋に嵌ったイモムシは、中々潰れてはくれない。ダクトの繋ぎ目。僅かな出っ張りにお股を合わせて、何度も腰を揺らし続ける。
__チクリ
苦い記憶が胸を刺す。その動きは、軋んだベッドを思い出させるには十分だった。
不安定に揺れる足場に躊躇はしても、止められない。甘い痺れが腰を包む。頬を染める熱が、頭を鈍らせた。
幸せ。
不意に、浮かんだ言葉を振り払う。早鐘を打つ鼓動が大きく弾んで、快感を全身に押し流す。止められなかったんじゃない。止められなくなっている。いつ底が抜けるかもしれない恐怖が、不条理な興奮を煽っていた。
吊り橋効果。
そんなロマンチックなものじゃない。今のあたしは一人きり。
一人きりで、狭いダクトの中で揺れている。ここに、陸がいてくれたなら。抱きしめたい。抱きしめてほしい。陸のことを思うほど、体を覆う余韻に縋りたくなる。
ダクトの床に腰を引きずりながら、前へ。
イキたくない。イかされたくなかった。こんな、イモムシなんかのせいで。
陸への気持ちを汚されたくない。動けなくなる前に外、出なきゃ。強引に動かした体は、イモムシみたいな蠕動を繰り返していた。出口を探して無闇に進む。
あとちょっと、もう少し。そのはずだから……。
__モゾリ
ショーツの中。行き場をなくしたイモムシが、筋道を辿って這い上がってくる。
そこにあるのは、一番強い疼きを放つ場所。濡れたショーツが擦れるだけでも辛かった。刺激から遠ざけようと、腰を浮かせても、焦れったさに負けて太ももを重ねてしまう。そんな所、甘咬みされたら。
途切れ途切れの魔法じゃもう、快感を抑えきれる自信はない。
早く離れて。腰を揺すってイモムシを引き剥がそうにも、自分から絶頂へと近づいていくだけだった。
本当は、どうだったんだろう?
嫌だと思っている自分は確かにいる。だけど、疼く体は本物だ。
女の子として、認めていいはずがない。でも、快感を受け入れたらどんなにか。
迷うあたしを、イモムシは待ってはくれなかった。
「あっ……ぃぃぃぃいっ、くぅ、あ、あ、あ、あ、あっ!!」
声を上げて、体を反らす。狭いダクトに反響する嬌声が、頭を揺らした。
クリトリスを、乳首を、おヘソの奥を、肌のあちこちを甘咬みされて、そこかしこで弾けた快感の渦に飲み込まれる。
快感を抑える魔法。
最悪だった。ダメっ、やだっ、イキたくない。絶頂の瞬間、発動した魔法が快感をせき止める。 は? 意味が分かんない。もう、ダメ。諦めて、頭が白くなりきる直前。その一瞬が、永遠と引き伸ばさていく。何でっ、なんでっ、なんでなのっ! 駄々をこねる子どものように、暴れて、藻掻いた。気持ちいいとかじゃない。
気が狂う。
我慢し続けたおしっこが、ようやく出そうって時に。お預け。その苛立ちを何倍にも溜め込んで、何十倍にも煮詰めてみても、まだ足りない。イキたくない。
自分で叶えた願いそのものに、あたしは追い詰められていた。
__ガタンっ
体が大きく傾く。愛液まみれのダクトは、どこにも掴みどころがない。真っ逆さまに落ちていく体を、止められるものは無かった。ダクトの切れ目に目を細める。急に光を浴びたせいなのか、驚いたイモムシ達は、一斉に牙を突き立てた。
今までよりも、強く、深い、快感。
全身が甘く痺れて、熱を持った体が溶けるように落ちていく。白日の元に晒されたあたしは、少しだけホッとしていた。
もう、我慢しなくてもいいんだと。
幸せ。頭の中で、響く言葉を抱きしめた。何もかもを忘れたあたしは、温かな魔法の力に包みこまれて、快楽だけに落ちていく。