『チェンソーマン』とは、悪魔が恐れる地獄のヒーローの名前だ。
基本的に不滅の存在である僕ら悪魔にとって、食べることで悪魔ごと概念を消せるチェンソーマンはまさに恐怖の象徴。
弱者はヒーローのように崇め、強者は憎しみいつか殺すことを夢見ている、そういう存在だ。
しかし、こと僕に関しては『チェンソーマン』とはそんな地獄のヒーローの名前だけを表す言葉ではない。
そう、『チェンソーマン』とは――週刊少年ジャンプで連載されたコミックのタイトルだ。
申し遅れたけど、僕は『原作の悪魔』だ。
なんと僕が生きるこの世界には原作となったコミックがあるようなのだ。
そしてこのまま何もしなければ原作の通りに世界は寸分違わず動いていく。
僕は原作の悪魔だけれど、異世界でこの作品――僕たちの世界がどういう評価なのかは知らない。
ただ、第一部と第二部に別れたこの世界の未来を見て思ったことがあった。
このデンジとかいう少年、お労しすぎやしないか?
ここからはガッツリ原作のネタバレをしていくが――
まずデンジは第1話で唯一の理解者で親友で相棒のポチタ(チェンソーマン)を喪う。
実際には喪ってはいない。心臓としてデンジと共に生きている。でももう触れない、言葉は交わせない。
時折見る「扉の夢」でも会いたがっている様子が確認できる。
マキマ(支配の悪魔)と出会うものの、彼女の目的はあくまでポチタ=チェンソーマンでありデンジには興味がない。
デンジからポチタを引き剥がすために、打算的にデンジに優しくしているだけの女。
早川アキ、パワー。最初は嫌な奴だったが、共に暮らすことで家族のようになっていく二人。
姫野。嫌な思い出はあるものの、初めて友達になれそうだった女性。
レゼ。ハニートラップではあったものの、恋人になれたかもしれない女性。似た境遇の二人は本当に惹かれつつあったことは間違いない。
他にもコベニ、天使の悪魔、ビーム(サメの悪魔)など。
こいつら全員死にます。本当にいい加減にしてほしい。
あぁ、コベニは死んでなかったか。でも第二部で出て来なかったし死んだも同然では?????
こんなことがあったからか、第二部のデンジはテンションが低い。チェンソーマンになった時だけちょい上がる。
あらゆるものを喪って、人生の目的みたいなものを見失っているように見受けられる。
辛うじてセックスと、チェンソーマンとして活躍すること。ナユタの面倒を見てまともな人生を送らせること。
この3つが人生の目的になっている。
第二部の話は今は置いておく。今僕が言いたいのはデンジにとって幸せとは何なのか、ということだ。
マキマによっておよそ幸せと呼べるものはすべて奪われ喪ったデンジ。
そんなデンジにとって「幸せだった」と自信を持って言えること。
それは結局「ポチタと共にいること」だったのだと僕は思う。
「普通の生活がしたい」「女とイチャイチャしたい」という願望はあっても、それが出来たからとしって幸せじゃないのだ――そこにポチタがいなければ。
だから結局デンジは幸せのようなものを与えられてもどこか幸せじゃなかった。
何故ならデンジにとっての「幸せの核」はポチタだから。それ以外の部品はあくまで付属品に過ぎない。
最終回の前にポチタが言っていたことは正しい。
地獄の中でしか天国を見つけられない――これは少し違う。
ポチタが一緒じゃなければ、どんな状況でも絶対に幸せにはなれない、と言ったほうが近いと思う。
最終回で、ポチタはデンジの心臓として眠りチェンソーマンが存在しなかった世界になった。
デンジは公安として普通に生活していく、でもこれがデンジの幸せかと言われたら疑問が湧く。
やはりこのデンジという男を幸せにするには、ポチタを心臓にさせないことが必要不可欠だ。
ただしデンジには心臓に持病を持っている。これを解決しないと結局すぐに死んでしまう。
僕はこのデンジを何とかして幸せにしたいと思った。
原作を改変するなんて、原作の悪魔としてはあってはならないことかもしれないけど、それでも。
そのためにはポチタが心臓になる前にデンジを助けることが出来る「強い女性」が必要だ。
それも出来ればこの世界の誰も勝てない、真チェンソーマンですらも片手でひねることが出来るほどの強さがあるのが理想だ。
何故なら、半端な強さならマキマに支配されて終わるからだ。
女性である理由は、デンジのパートナーになってほしいから。
そして強ければいいというわけじゃない。ゴリラみたいな見た目や老婆では困る。若くて美人でなければいけないだろう。
当然ながらこの『チェンソーマン』の世界にそんな女性はいない。いてたまるか。
だから僕は喚ぶことにした。悪魔たちの力を借りて――
*
「みんな、集まってくれてありがとう」
僕の願いのために集まった悪魔は全部で7体。
『異世界の悪魔』。こことは違う世界を見ることができる。その女性を特定する役目。
『召喚の悪魔』。その女性をこっちの世界に呼び寄せる役目。
『送還の悪魔』。何か問題があった場合、元の世界に送り返す役目。もう一つ、別の役目もある。
『宝くじの悪魔』。デンジの心臓手術代を工面する役目。
『契約の悪魔』。役目は後述する。
『複製の悪魔』。役目は後述する。
『認識の悪魔』。役目は後述する。
「誰をここに呼ぶかは、事前に異世界の悪魔くんと決めてあるんだ」
異世界と繋がることで、その世界に原作があるならそれも僕なら読める。
白羽の矢を立てたのは『ドラゴンボール』という原作の世界。
そこに住む人造人間18号という女性。その名の通り彼女はドクターゲロという科学者によって造られた人間。
ただし、身体のすべてが機械というわけではなく生体部分も多いし生殖機能も有している。
何なら1人子供を産んでいる
「この前も言ったけど、既婚者でいいの? デンジって人間のパートナー候補でもあるんだよね?
それに、いきなりいなくなったら旦那さんや子供が可哀想じゃないかな……」
異世界の悪魔が僕に当然の疑問をぶつけてくる。その悪魔らしからぬ言葉に僕は深く頷き、言葉を返す。
「その辺りの問題を解決するために、これだけの数の悪魔を揃えたんだ。説明するね」
まず、18号の家族と同居人が寝静まったころに18号を『召喚の悪魔』の力で召喚する。
次に、18号を『複製の悪魔』の力で複製する。
そして、オリジナルの18号を『送還の悪魔』の力で送り返す。
コピーされた18号の自己認識を『認識の悪魔』の力で書き換える。具体的には既婚者としての認識を書き換えることになる。
18号が起きたら、この世界に呼んだ理由とそのメリットを説明する。
18号が納得したら、僕と『契約の悪魔』と契約を結んでもらう。
すべてが終わったら、あとは18号に『宝くじの悪魔』の力で手に入れた当選した宝くじを渡して、デンジの元へ行ってもらう。
「ちょっと待って。それなら既婚者になる前の18号で良いんじゃないの? こんな面倒なことまでして、既婚者の18号にした理由は?」
今度は契約の悪魔からの疑問。僕は分かってないなコイツ……という顔で溜め息を吐く。
「既婚者……いや人妻、経産婦というのは――セックスの経験がある。結婚前の18号にはない。その違いは大きい。
僕の知るデンジは結局セックスはできないまま終わった。彼には出来る限り良い性経験を体験してほしいんだ。そのためにはリードできる女性じゃないと」
「あ、うん……そうか。分かったよ」
何故か契約の悪魔がドン引きしている。僕は何かおかしなことを言っただろうか……。
「でも結局、既婚者としての認識を弄るんなら同じでは?」
認識の悪魔から鋭い意見が飛んできた。
「そこは認識の悪魔くんの腕次第だね。うまいこと、性経験があることは残しておいてほしい」
「えぇ……まぁいいけど」
他に疑問点はないようなので、早速始めることにしよう。
「じゃあ、召喚の悪魔くん。よろしく」
*
-18号視点-
目が覚めたら私はカメハウスではない場所にいた。誰も――旦那も娘も、亀仙人のジジイも――いない。
何だか知らないが頭に靄がかかったような感覚がある。
私はドクターゲロに造られた人造人間18号で、孫悟飯がセルを倒したことで自由の身となった。それ以降のことは分からない。何か……あったはずだが。
「目覚めたみたいだね」
どこかから声が聞こえた――だが、人の姿はない。
「ここだよ。今、キミの目の前にいる」
目の前を見ると、そこには分厚い本のようなものがあった。そこに手足が生えて立ち上がった。
「何だお前……気持ち悪い見た目しやがって」
「僕は原作の悪魔と呼ばれる存在だ。申し訳ないけど、ある事情でキミをこの世界に召喚させてもらった」
「今すぐ帰せ。さもなくば、殺す」
「まぁ待って。君にもメリットのある話だから、どうか話だけでも聞いてほしい」
「メリットだと?」
メリットという言葉に、ひとまず気弾を放とうとしていた腕を下ろした。
「キミは凄い力を持っているけど、戦うのも働くのも好きじゃないよね」
「……まあな」
「僕との契約を受けてくれれば、キミは働かずに巨万の富を得られるよ。どうだい、興味が湧いてこない?」
「ふーん、悪くない話だね。でも何か裏があるんじゃないのか」
「デメリットは2つ。軌道に乗るまでは自由が少ないこと。もう一つは、ある少年と恋人関係になるか君に惚れさせる必要があること」
「……説明しろ」
その悪魔は私に今いる世界のことを説明した。
概念や物質の名前を冠した悪魔がいる世界だということ。
デンジという少年がこのままだと幸せを感じられない人生を送ってしまうこと。
それには相棒のポチタという頭にチェンソーを生やした犬がそばにいないといけないこと。
彼を幸せにするために出来るだけ強い女性が必要だったこと。
「で、それでどうしてそのデンジとかいう奴を幸せにすれば私が巨万の富を得られるんだ?」
「デンジとポチタ、この2人には『チェンソーマン』というヒーローになれる可能性があるんだ。仮説の段階だからなれないかもしれないけど、その時はこの話はなかったということでいい」
「それが金を生むと?」
「彼がヒーローとして活躍すればね。グッズのロイヤリティやCMでいくらでも稼げるはずさ」
「それはそいつの稼いだ金だろ。私が全部もらってもいいのか」
「幸い、デンジは金にはそれほど興味はない。キミが普通の生活を保証してあげれば問題はない。
彼が興味があるのは女性。性欲が服を着て歩いてるような男でね……そこをキミが満たしてあげれば何も文句は言わないはずだ」
「性欲か……」
性欲という言葉に少し顔をしかめてしまうが、一応経験はある。相手は……覚えてはいないが。
「しっかり上下関係を躾ければ、襲ってくるなんてことはないと思う。割と理性は高いほうだから」
「襲ってきても問題はないけどね……分かった。その契約、結んでやってもいい」
「ありがとう――これが契約内容だよ」
・18号(以下、甲)はデンジに普通の生活を保証し彼の性欲を満たすこと。
・原作の悪魔(以下、乙)は甲に適時助言し、甲はその助言には従うこと。
・甲はデンジの心臓病を治療すること。また、手術代を負担すること。
・甲は『人造人間の悪魔』として振る舞い、デンジに力(気)を分け与える契約を交わすこと。
・乙の都合、または思い違いで契約が不履行になった場合、乙が甲に別の方法で大金を譲渡すること。
「手術代ってのは?」
「この後、契約が結んだら当選してる宝くじを渡すよ。そのお金でデンジの心臓の病気を治療してほしい」
「治療用の金ってことか……」
「当面の生活費もあるけどね。手術代を払っても手元に2000万は残ると思う」
「2000万……! おい、早く寄越せ」
「む、結ぶんだね? この契約を」
「ああ、結んでやる。早くしろ」
「――今、契約は結ばれた。これがその宝くじだよ」
本が開いて、そこに栞のように宝くじが挟まれていた。私はそれを掴み取る。
「契約内容にもあったように、キミは地上では『人造人間の悪魔』として振る舞ってもらう。
悪魔には今君と僕が交わしたように契約を結ぶ力が標準的に備わっているんだ。だけど、当然ながらキミにはない。
だから、契約の悪魔とも契約を交わしてもらう」
そう言うと、物陰から胡散臭そうな男の姿をした悪魔が現れた。
「うまくいったみたいだね……僕が契約の悪魔だよ。僕との契約は単純に、『契約能力の付与』だけ。代価は……髪の毛一本でいいや」
「これでいいか」
私は髪の毛を一本引き抜いて、契約の悪魔へ渡す。
「うん。これでキミは『人造人間の悪魔』として振る舞える。僕の役目はこれで終わりだ」
そう言い残して契約の悪魔はどこかへ消えていった。
「さて。キミが望むなら更に2体の悪魔と契約できる。『召喚』と『送還』の悪魔だ。
この2つの能力があれば、1人で出掛けた先で悪魔に出会ってもチェンソーマンを喚べばキミは戦わなくていいし、チェンソーマンの活躍の機会も増える」
「はいはい、分かった。そいつらとも契約するよ」
さきほどと同じように、召喚の悪魔と送還の悪魔と契約を交わす。
更に原作の悪魔は今後、直近で起こることとその対処法を説明した。
「――これで、ここで出来ることは全てだ。これから、キミをデンジの近くへ送る。もうすぐ廃工場に入って、ゾンビの悪魔に襲われるだろう。助けてあげてほしい」
「やってやるよ……契約だからな」
私の足元が淡い光に包まれる。
「それじゃ――またな」
強く光ったかと思うと、もうそこはさっきまでの場所ではなかった。目の前には廃工場がある。
中で誰かの話し声が聞こえる。デンジが刺されるという場面までもう幾許も無い。
私は急いで廃工場の中へ向かっていった。
11話まで書き溜めがありますが別作品を連載中なので更新は止まると思います。
ご了承ください。
全36話+番外編4話の予定です。
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