-18号視点-
「ここからは何が出てくるか分からない。デンジとパワー、お前ら二人が前を歩け」
ホテルに入った直後、アキが指示を飛ばす。それにあからさまに不満そうな顔をするパワーとデンジ。
「なんでじゃ。そこの陰キャ女とか雑魚オスとかでいいじゃろ」
「お前は最悪血を飲ませれば復活できるだろ。コベニの力は乱用できない」
「俺は?」
「お前はよっぽどの攻撃じゃなきゃ無傷だろ。この前、50m以上ある屋上から飛び降りて無事だったしな」
気を多少なり開放していれば戦闘力が上がる。仮に元々50だったのが5000になれば、銃や爆発程度なら少し痛い程度で済む。
だからといって怪我をしないわけでもない。着地を失敗すればまた骨折する可能性は当然ある。
そもそも自由落下より舞空術のほうが早い。なぜわざわざ飛び降りなんてリスクあることをしたのかとデンジに問い詰めた。
「え~っとォ……スーパーヒーロー着地ってやつをやってみたくてェ……」
「バカかお前は」
「いってぇ!!」
デンジの後頭部を叩き、その背中を押す。
「お前が一番前で戦え。私を守るのは当然として、誰も死なせるなよ」
「うす……」
デンジが最前列、その後ろにパワー。真ん中に他の4人、最後方に私という順番でホテル内部を進む。
1階ずつフロアを隅々まで確かめてから上のフロアへ上っていく。
「18号がいるとデンジが操りやすくていいな。ずっと居てくれるとありがたいんだが」
「働くのはごめんだ。単純な奴だし、飯でも奢ってやればいいだろ。別に私の名前を出してもいいし」
「なるほど、参考にする」
1階から7階までは何もなかった。銃の悪魔の肉片の反応も変化はない。
8階に上がり、フロアの中心に近づいたところで姫野が呟く。
「アキくん……来る」
扉が開き、そこから初老の男性の顔に手足が生えたような悪魔だ。
「弱そうじゃな!! ワシにやらせろ!!」
「油断するな。特にこういう、得体の知れない悪魔は」
明確な指示ではなかったためか、パワーはそのまま手足悪魔へ向かっていく。
私はパワーの後ろ髪を掴んで暴走を止める。
「なっ、何をする!!」
「助かる。姫野先輩、幽霊を」
「よしきた」
姫野が腕を動かして、何かを操るような仕草を見せる。
すると、手足悪魔が何かに掴まれたかのように宙に浮く。
私とデンジが疑問符を浮かべていると、姫野が説明してくれた。
「私は幽霊の悪魔と契約してる。右目を対価に幽霊の右手が自由に使えるってわけ。
結構力持ちだし私以外には見えないし便利なんだよねー……で、アキくんどうするの?」
「そうだな――荒井、コベニ。お前らでやってみろ」
「「えっ!?」」
突然の指名に二人の声がユニゾンする。
「討伐経験はあるんだろ?」
「あ、ありますが……」
「じゃあやれ。姫野先輩、悪魔を離してください。こいつらがどれだけやれるか見たい」
「はいよー」
姫野がパッと手を開くと手足悪魔は地面に転げ落ちた。
矢面に立たされた二人はそれぞれ武器を構えているものの、腰が引けている。
手足悪魔はそれを見て、ぱたぱたと逃げ出した。
「あ、荒井くん、おっ、追ってぇ!!」
「え、あ、うん!!」
荒井が追いかけるが、動き出しが――というか色々遅くて距離は縮まらない。
「コベニ、お前はどうするんだ。同僚に突撃させるのがお前の仕事か?」
「えっあっ、そっ……そのぉ」
コベニは何も出来ないままただひたすら狼狽えている。
その様子を見てデンジがげんなりとした顔をしてアキの肩を叩く。
「なぁアキ先輩……俺かパワーがやっちゃったらダメなの? 見てらんねーよ」
「ダメだ。見てられないのは同感だがな」
失望を顕わにするアキを前に、姫野が「やっぱこうなるかぁ~」と呟く。
「コベニちゃんはさ、追い詰められないと動けないタイプなのよね。ああいう弱そうな悪魔だと逆に動けない。
強そうな悪魔に襲われたら生存本能が働いて、俊敏に動いてやっつけちゃうんだけど……」
「ピーキーな奴だな……」
「いやホントそれね」
遠くでは荒井がまだ手足悪魔と追いかけっこをしていた。
何とか動きを止めようと物を投げるがそれも当たらない。
「いくらなんでも雑魚すぎんか?」
「熱意はあるんだけどねー。才能はまぁ、ないかな」
「公安のデビルハンターは死亡率が高いから万年人手不足だ。選り好みはできないから仕方ない」
「このままじゃ取り逃がしちまうんじゃね? マキマさんに何て言うんだよ」
終わらない追いかけっこと、いつまでもあわあわするコベニ。
このままではデンジの言う通り取り逃がしてしまう可能性は高い。
私は一つ思いついたことがあったので実行に移してみる。
「要はコベニを追い詰めればいいんだろ? ――おい、コベニ!!」
私はホテルの大理石の壁を拳で破壊し、その瓦礫を掴んで粉々に粉砕する。
「こうなりたくなければ早く動け」
「ひっ、ひぃぃぃ!!」
「私は本気だぞ」
コベニの後頭部を掴み、キリキリと力を込める。
「ゃ……やりますぅぅ!! ブッ殺しますゥゥゥ!!!!」
コベニは私から逃げ出すように物凄いスピードで走り出し、あっという間に追いかけっこに追いつく。
「コベニちゃ……!?」
コベニは荒井を踏み台にして、勢いよく空中へ飛び上がり手足悪魔を追い越した。
追い越したところでターンして、逆手に持った包丁を横薙ぎに振るいながら悪魔へと向かっていく。
これまでの荒井の苦労は何だったのか、手足悪魔は真っ二つに裂かれてあっけなく絶命した。
「……よくやった、コベニ。だが……最初からやれ」
「ひゃ……ひゃい」
「荒井も――まぁ逃がさなかったのは評価できる」
「あ、はい……ありがとうございます」
アキが論評している間に、姫野が手足悪魔の死体を検分する。
「あの悪魔じゃなさそうだね。肉片ないし」
「でしょうね。調査を続けるぞ。デンジ」
「俺が一番前ね、ハイハイ」
悪魔の死体をそのままに私達は先に進む。
8階は結局手足悪魔以外には何もなく、9階に上がることになった。
「……あれ?」
「どうした荒井」
「いえ……俺達、8階から9階に上がってきたはずですよね……でも、ここも8階ですよ」
「何?」
フロア表示を見ると確かに8階と表示されていた。
荒井が「確認してきます」と言って階段を下りていく。
「あれ……?」
7階へ降りたはずの荒井が何故か9階から降りてきていた。
「――コベニちゃん、ダブルピースしたままそこで待ってて」
「えっ、えっえっえっ」
コベニは言われた通りにダブルピースで待ち、姫野は荒井と同じように階下へ降りる。
しかし、階下に降りたはずの姫野は荒井の背後から現れた。
「なんだこりゃ……アキ君」
「悪魔の力……でしょうね」
嫌な予感がしたのかアキは部屋へ入り窓から脱出できないか確かめる。
しかし窓の向こうにも部屋があり、それは対面の部屋とループするように繋がっていた。
「8階から出られなくなっている……」
*
-デンジ視点-
「状況を整理する。恐らく悪魔の力で8階から出られない。階段も窓も天井も8階にしか繋がっていない」
「あの手足悪魔の能力じゃねーの?」
俺が指摘するとアキは首を振って否定する。
「いや、死ねば悪魔の力は解除される。昔耳鳴りの悪魔と戦ったが、殺せば耳鳴りはしなくなった」
「で、肉片の反応もなくなった……と。詰んだ?」
「希望を捨てたくはないですが……時計も8時18分で止まってました。時間もループしてるとすれば、救援も期待できませんね」
何だかお通夜みたいな空気が流れる中、俺はまったく別のことを考えていた。
「悪魔を倒せば出られるはずだが……その悪魔が見つからないんじゃ、もう……」
「私達死ぬんだぁ……お腹ペコペコになってここで死ぬんだぁ!!」
「騒ぐな」
18号さんの制止も効かず、コベニはぎゃあぎゃあと喚きだす。
荒井ってやつもかなり動揺してるはずだが、コベニが取り乱しすぎて逆に冷静になってる。
「とにかく今は悪魔を探すしか――」
「俺は寝るぜ!! 18号さんと抱き合ってな!!」
「は?」
「馬鹿か貴様……俺達はここで永遠に閉じ込められるかもしれないんだぞ……!?」
荒井が呆れた様子で俺に食ってかかるが、俺はそんな荒井を鼻で笑う。
「7人で探して見つからなかったもんが急に見つかるわきゃねーし、だったら寝たほうがマシだね。
どうせ死ぬなら俺は18号さんに抱かれながら死ぬ。つーわけで、行きましょう18号さん!!」
俺が手を差し出すと、18号さんは俺の手を握ってくれた。
そして俺に手を引っ張られながら、他の5人に振り向いて言った。
「デンジの言うこともあながち間違いじゃない。動いて状況が好転すればいいが、しなかった場合体力を浪費するだけだ。
今は体力を温存して、悪魔の出方を伺うほうがいいかもしれない。もちろんどうするかはアキと姫野、お前らに任せるが」
それだけ言い残して、俺達は別の部屋に移って二人で寝ることにした。
18号さんが先にベッドに入って布団を被り、俺がそこに潜り込む。
俺がおっぱいに顔をうずめるように抱き着くと、18号さんも腕を回して抱きしめてくれる。
「デンジ。お前はいいかもしれないが、私はこんなとこで一生を終えたくないぞ」
「まぁそうっすよね……俺も何とかしたいんすけど」
「寝るのはいいが、思考停止は駄目だ。私のためにもよく考えろ、どうすれば脱出できるか……悪魔を倒せるかを」
「はい……でも今は――」
ふかふかのベッドとふかふかの枕、そして18号さんのふかふかのおっぱいに包まれて。
俺はぐっすりと眠りについた。