-デンジ視点-
18号さんに出会ってから3日が経った。まだ18号さんは迎えに来ない。
「……来ねぇなぁ」
「ワフ……」
あの後俺はヤクザの事務所に侵入して、10万ほど金をちょろまかしてきた。
3日前は腐りかけの食パンしか食えるもんはなかったけど、今は借金はほとんどないしその金で好きなもんが食える。
「からかわれたんだとしてもよぉ……状況はよくなってる。あれ美味かったな~コンビニのおにぎり」
「ワン!」
「この3日でコンビニの食いもんは結構食えたし……次は回転寿司でも行ってみっかぁ!?」
「ワォン!!」
そんな話をポチタとしていると、小屋の扉を誰かがノックする。
「誰だぁ? まさか18――いや、借金取りだろーな。ジジイ以外にも借金してるし……」
うす~い期待を胸に扉を開けると、その途端腕を引っ張られ――顔面いっぱいにやわらかいものがぶつかる。
「待たせたな」
顔面に当たっているのは――ムネだ。またの名をおっぱい。
胸に抱かれながら見上げると、そこには18号さんの顔があった。
「あ、あの……む、ムネが」
「サービスだ。黙って受け取っとけ」
「――うす」
や、やわらけぇ~!! 頭こすりつけてぇし、腕回して思いっきり押し付けてぇけど……ここは――
「我慢できたな。えらいじゃないか」
そう言って、18号さんは俺の頭を撫でて、ゆっくりと引き離す。
「あ……ムネ」
「デンジ、とりあえず住むところの準備は整った。外で待っててやるから、荷物まとめてこい」
「あ、ハイ」
俺は少ない荷物をまとめて、外で待つ18号さんに声をかけた。
「それだけか。とりあえず宿舎まで移動するぞ。飛んで行きたいところだが、マキマに緊急時以外は飛ぶなと釘を刺されたからな――タクシーで行く」
俺とポチタは言われるまま、外に止めてあったタクシーに乗り込んだ。
みるみるうちに離れていくボロ小屋。臭えし汚えし雨漏りもするしで最悪の住居ではあったけど、ポチタと過ごした思い出の場所だ。
そりゃ、多少の思い入れや名残惜しさはある。でも……これからは女と――18号さんと同じ屋根の下で暮らせるんだ!!
「ぃやったぁぁぁぁぁ!!!」
「いきなり大声出すな」
「す、すいません。つい……嬉しくて」
1時間ほど走ると、『公安デビルハンター宿舎』と書かれたマンションが見えてきた。
18号さんのあとをついて、最上階まで辿り着く。
「俺公安のデビルハンターじゃないんすけど……住んでも大丈夫なんすかね?」
「
「はぁ……」
「だから、お前ら外出禁止な」
「えー……マジすか」
「ワフゥ……」
外出れないのはちょっと嫌だけど……18号さんと同棲できるんだし寧ろプラスだな。
「お前も公安に入れば問題はなくなるが……まだ早いな。せめてチェンソーマンに変身して、そこそこの悪魔を倒してからだな」
「外出できないんじゃ、悪魔退治も何も無理な気がするんすけど……」
「私には触れた人間を召喚する力がある。悪魔と契約して手に入れた力だ――これで、必要な時は呼ぶ」
俺とポチタの足元に
「うおっ、すげ」
「ほら、ここだ」
18号さんがカギを開けて、俺とポチタは部屋の中に足を踏み入れる。
「広すぎんだろ……トイレも風呂もあるしよぉ。とんでもねーな」
「ワンッ!」
案内された部屋を隅々まで見て回れば、コンビニより広いんじゃねーかってぐらい広い。
「一応幹部とかが使う部屋らしいからな……とりあえずお前らは――」
「テレビもあるぞポチタ! おい、あれはまさか……ファミコン!?」
「ワフッワフッ!!」
俺とポチタはリビングのソファに飛び込み、テレビのリモコンを弄る。
町中で見かけて存在は知ってたものの、もちろん見たことはほとんどない。夢中でテレビにかじりついていると背後に気配を感じた。
「話は最後まで聞け、犬ども」
18号さんはそう言うと俺達の首根っこを掴んで、ずるずるとどこかへ引き摺っていく。
乱暴にぶち込まれたのは脱衣所だった。
「お前ら、とりあえず風呂入れ。臭いんだよ」
「風呂かぁ~!! 何年ぶりだ? いつもは川で水浴びするぐらいだったしな」
「ワフゥ~」
「脱いだ服はもう捨てるからな。何着かお前用に買っておいたから上がったらそれを着ろ」
「ありがとうございます! ポチタ、入るぞ!」
「ワンッ!」
18号さんが脱衣所から出て行ったのを確認して、俺は服を脱ぎ散らかして風呂場に突入します。
俺達が来る前にあらかじめかなり高温めに湧かせていたのか、湯はまだかなり温かった。
「うお~!! あったけぇ……これが風呂かよ……!」
「ワンッ」
「しかも広え!! 詰めれば3人ぐらいは入れるだろ……すげぇ」
「ワフ……」
ポチタは湯舟を泳ぎながら尻尾をぶんぶんと振り回している。かわいい。
「着替えは置いといたからな」
「ありがとうございまーす!!」
18号さんに返事を返して、俺達は湯舟から出て身体と髪を洗い始める。
「うげ~何か色々出てくる……」
「ワン! ワン!」
「お~ポチタも洗ってやるからなー」
わしゃわしゃと石鹸で泡立てて水で流すと、ポチタは身体をぶるぶると震わせて水気を飛ばす。
「まぁこんなもんでいいか」
「――いいわけあるか。入るぞ」
「ハイル?」
背後で扉が開く音がした。振り向くと――そこには18号さんが立っていた。
「お前、自分たちの汚さを舐めすぎだろ」
「じゅ、じゅうはちごうさん!!??」
裸ではなかった。水着だった。けど、胸と尻を強調するようなそのビキニ系の水着は――!
「エッチすぎる……!」
「こっちを見るな。前だけ見てろ」
18号さんはタオルに石鹸を塗って、俺たちを洗おうとしてくれているみたいだ――
「いってぇぇぇぇ!?」
「垢擦り用のタオルだからな。我慢しろ」
身体を削られるような痛みに身もだえる。ゴソッと垢が落ちて、肌が赤くなる。
「ウギャアアアア!!」
「うるさいぞ」
その様子をポチタがガタガタ震えながら涙目で見ていた。
「次はお前だからな」
「クゥーン……」
*
「まだまだヒリヒリする……」
「……ワン」
風呂から上がって、まだ痛む肌をさすりながら俺とポチタはリビングでテレビを見ていた。
時刻は夕方ぐらいで、今はニュース番組や相撲ぐらいしかやってない。ザッピングにも飽きてリモコンをソファに放り投げたところで腹の虫が鳴る。
「もうそんな時間か」
18号さんはそう呟きながら、何かチラシを取り出して俺達の前に広げた。
「キッチン道具はまだ買ってなくてな。しばらくは出前だ、好きなの頼め」
「マジすか!? 本当に何でも……いいんすか?」
「ああ。頼みすぎるなよ」
ピザ、寿司、ラーメン、etc。俺とポチタは涎を垂らしながら、小一時間どれを頼むか悩む。
そして決めた。今日の晩飯は――
「ラーメン!! ラーメンでお願いします!」
「ふーん、寿司とかじゃなくていいのか」
「寿司は……もうちょっと何か成し遂げてから食いてえんで」
「そういうもんか……分かった」
18号さんが注文してから40分後にラーメンが部屋に届き、俺とポチタと18号さんで食卓を囲む。
「うんめぇ~!!」
「明日はアメリカの病院に行くからな。お前の心臓を診てもらう」
「アメリカ!?」
「ワフ?」
「仮に心臓移植が必要な場合、日本じゃ出来ないらしいからな。向こうに着いたら喚ぶから、お前はここでくつろいでいればいい」
「ハイ……ありがとうございます」
「ワン!」
ラーメンを食べ終わって俺達は再びテレビを眺めていた。そこに、18号さんが小さく細長い棒を持って現れた。
「何スかそれ」
「耳かき棒だ。耳糞も溜まりに溜まってるだろ」
そう言いながら、18号さんは膝をぽんぽんと叩く。何だ? 膝が……何?
「ここに頭を乗せろ。私がわざわざお前の汚物の始末をしてやるって言ってるんだ、早くしろ」
「ひ……膝枕……!? あの、伝説の……」
「早く」
18号さんが俺を睨みながら、パンパンと強く自分の膝を叩く。俺は即座にその柔らかそうな膝に頭を乗せる。
「痛かったら言え」
「ハイ」
カリッ、ズゾゾ、みたいな音と棒で耳の中をひっかかれる感覚が気持ちよくもあるし気持ち悪くもある。
右の耳掃除を終え反対の耳を掃除してもらう時、俺は身体ごと反対に向こうとした。
だけど、頭を掴まれそのままの態勢で頭だけ反対を向かされた。つまり、目の前には18号さんの股が――
「…………」
俺は無言でその幸せを享受した。
「よし……終わったぞ」
「ありがとうございます……」
俺は膝枕のまま仰向けになる。そこで見る世界はなんと半分がおっぱいだった。
「俺……こんなに幸せでいいんすかね。まだ何にもしてねーのに……」
「もちろん良いわけはないな」
18号さんが冷たく言い放つ。
「私はお前らに――チェンソーマンに将来性があるから世話を焼いてやってるだけだ」
「……ハイ」
「明日、病院の診察が終わったらお前らがチェンソーマンになれるかの
「…………」
「まぁ実際には
「――俺、18号さんと暮らしたいです。そんで、色々エッチなことしてえ」
「正直な奴だな。なら、死ぬ気でチェンソーマンになれ」
俺は起き上がり、ポチタを抱きあげて決意を表明する。
「俺達……絶対にチェンソーマンになりますよ。そんで、18号さんをチェンソーマンで金持ちにします!!」
「ワフッ!!」
「ん……期待させてもらう」
そんな会話をしていると夜も更け、寝ることになった。
18号さんが寝室に向かうので俺達もついていく。扉を開くと、大きなベッドが真ん中にあった。
「ベッドはまだ備え付けの1つしかないが……どこで寝たい?」
「一緒に寝たいです!!!! よろしくお願いします!!!!」
「うるさ……勝手にしろ。触ったら貸しだからな――寝相でうっかり、とかは大目に見てやるよ」
「ありがとうございます……!」
俺は深々と頭を下げて、ポチタと共にベッドに飛び込む。
「うお~!! すげぇ柔らけーぞポチタ!! うまくいけばずっとこんなとこで寝れるんだぜ!?」
「ワォン!!」
「あまりはしゃぐな。もう寝るぞ」
照明が消されて、真っ暗になる。俺はポチタを抱き枕にして、18号さんと向かい合うように寝る。
「デンジ……お前はまだ私にとっては犬だ。今は可哀想な野良犬を拾って世話してるだけ……」
「ハイ」
「私は犬を恋人にする趣味はない。早く
「どうすればいいのか分かんねーっすけど――まぁ、俺らがすっげぇ~ドカンと頑張れば大丈V!! でしょう」
俺は手でピースサインを作って自信をのぞかせる。
「なら、とっとと寝て明日に備えろ。心臓はどうだ」
「今は平気っす」
「そう……おやすみ」
「ハイ、おやすみなさい」
俺はしばらく18号さんの綺麗な寝顔をニヤニヤと眺めて、眠りについた。