-デンジ視点-
「んがぁ」
あの時とは違い、ぐっすりと熟睡できた俺は窓から差す太陽の光で目が覚めた。
起き上がろうと、右手に力を入れるとむぎゅっと何か柔らかいものに触れる。
「あ~? なんだ……あ」
隣には18号さんがいた。そして俺の右手は18号さんの左乳をむんずと掴んでいた。
「おわぁぁぁ!! す、すいません!!」
俺は慌てて胸から手を離す。その騒ぎで18号さんも目を覚ました。
「朝からやかましいな……寝相ならいいって言っただろ」
18号さんは起き上がって軽くあくびをして、ベッドから抜け出して立ち上がる。
「朝飯にするぞ」
「ハイ!」
テーブルについて、数分待つときつね色に焼けた食パンが並ぶ。
そこに更にバターとジャムなどたくさんの調味料が食卓に追加される。
「夢だったんだろ?」
「おお……これ、好きなだけ塗っていいんすか!?」
「ああ」
俺は食パンにこれでもかとパンとジャムを塗りたくる。
しかも、テーブルを汚さないよう丁寧にだ。18号さんに嫌われたくないしなァ……!
「最強のパンが完成しちまったぜ……ポチタも食うか?」
「ワン!」
興奮して尻尾をブンブンと振り口からは涎を垂らすポチタに、半分に割った最強のパンを分ける。
「美味え~!!」
「ワフ~」
俺達がパンに夢中になってる間に18号さんはパンを食べ終わっていた。
「昨日も言ったが、今日はアメリカの病院に行って……そのあとチェンソーマンになる実験だ」
「うっす」
「私はもう出掛けるからな」
そう言うと18号さんはベランダに出て、空を飛んで行った。
「はぁ~……とんでもねーことになったなァ。ちょっと前の俺に行っても鼻で笑うだろーな」
「ワン!」
「ああ、わかってる。こっからだよな……よし、とりあえず18号さんの下着でも漁るか!」
「ワフッ!?」
*
-18号視点-
「マキマ様のご紹介の18号様ですね。こちらへどうぞ」
私は舞空術で単身アメリカへ渡る。マキマがコネを持っている大病院に辿り付き、スムーズに診察室へ向かう。
医者と引き合わされた時点でデンジとポチタを自室から召喚する。
「あ~っ」
デンジは手に持っていたものを慌ててポケットに隠す。
「お前……」
「な、何もしてないっすよ……?」
目が泳いでいるし、ポケットから下着の一部がはみ出ている。
「はぁ……まぁいい。コイツだ、診てやってくれ」
「では検査しますので、どうぞこちらへ」
デンジの身体が巨大な機械によって検査されていく。1時間ほど待って、結果が出た。
やはり心臓移植は必要らしく、適合するドナー提供者を待たねばならないと医師は言う。
「分かった。他の患者には悪いが……なるべくコイツを優先してやってくれ」
「はい、心得ております。症状を抑える薬を出しておきますので、これを飲んでいればしばらくは問題ないかと」
私はデンジとポチタを伴って病院から出る。
「じゃあ、次は実験だな……誰もいないとこでやるぞ」
「ハイ」
デンジを抱えて空を飛び、周囲に人のいない荒野に降り立つ。
「さて……」
私はデンジとポチタをチェンソーマンにする方法を知らない。なので原作の悪魔を呼び出すことにした。
「久しぶりだね、18号」
「ああ」
「何スかこいつ……本が喋ってる」
「原作の悪魔――お前を助けるために私を呼び出した悪魔だ」
「へぇー。てことはコイツがいなかったら俺はあの時死んでたワケですか」
デンジの言葉に対し、私の代わりに原作の悪魔が答える。
「そうだよ。そして、契約によってポチタがキミの心臓になって――キミはチェンソーの武器人間になってたはずだった」
「あ? 武器人間?」
「契約で心臓として悪魔を取り込んだ人間のことだよ。魔人はその逆、人間を乗っ取った悪魔」
「は~ん、なるほど。そうか、ポチタが心臓に……」
「クゥー……」
原作の悪魔は咳ばらいをして話を元に戻す。
「本来、チェンソーマンとはチェンソーの武器人間のことを言うんだ。でも、この方法は取れない」
「俺もやだぜ。ポチタはこのままいてくんねーと……なぁ?」
「ワン!」
「だったら、どうするんだ?」
私の質問に直接答えず、原作の悪魔はデンジのほうへ向き直る。
「僕の考えた方法は疑似的かつ
「あ、ああ……タバコとかな。ちょっとしたものならできるぜ」
「その特技を使って、ポチタを飲み込むことでチェンソーマンに変身できないかな? 手順は――
①ポチタが小さくなってデンジの口の中へ
②ポチタは体内からデンジの身体に取り付いて、スターターを引く
――みたいな感じかな。質問はあるかい?」
デンジが首を捻りながら、原作の悪魔に質問する。
「ポチタって小さくなれんのか?」
「心臓になれるんだからなれるはずだ」
「おお、まぁそうか……」
「ワン」
今度は私が原作の悪魔に質問を投げる。
「スターターを引くのは? こいつ手足短いから尻尾まで届かないだろ」
「彼はチェンソーマンとして地獄で悪魔を殺し回ってたんだよ? 自分でスターターが引けないなんてことはあり得ない」
「それもそうか……なら理論上は問題ないのか」
「ワンワン!」
ポチタが力強く吠えて、自信をのぞかせる。その様子を見て原作の悪魔は頷く。
「ただし、こんな方法は誰もやったことはない。けど、デンジとポチタの信頼があれば――僕は可能だと思っている」
「お~、まぁな。俺とポチタは刑務所でもないのに臭い飯を食った仲だからなァ」
「ワフッ」
「よし……それじゃ、やってみろ」
私の合図で、まずポチタが手のひらに乗るぐらいのサイズまで小さくなる。
「手乗りポチタじゃん!! かわいい~」
「ワフゥ」
「ポチタ、俺の体内にしっかり掴まってろよ。俺も留めとくけど、下手したらゲロかうんこで出てくることになっからよー……」
「ワン!」
デンジがポチタを口の中に入れ、飲み込んだ。
「ポチタ……!」
デンジの体内からブゥゥゥンとスターターを引く音が響く。
「いっ――てええええええ!!!」
デンジの頭部と両腕からチェンソーが生えると同時に、血がどっと噴き出る。
「言い忘れたけど、物凄く痛いと思う」
「先に言えよ……」
「出血もするから、一日にそう何度も変身はできない。それに、武器人間と違って手足が欠損しても治らないかもしれない」
「あぁそう……まぁ何とかなんだろ」
デンジは腕のチェンソーを振り回して、変身した身体の状態を確かめている。
「デンジ、胃だか食道に留めておくのは何分ぐらいいけそうなんだ?」
「あ~……まぁ10分くらいすかね」
「ってことは変身時間も制限ありか」
「ポチタのほうで耐えれて精々15分ってところかな……正直このままじゃ武器人間よりはかなり弱い」
そこで原作の悪魔が私のほうを向いた。私は黙って頷く。
「私がデンジとポチタと契約すればいいんだろ」
「おお、ついにっすか!」
「ともかく、変身はうまくいったみたいでよかったよ」
「ああ、助かったよ。またな」
私は原作の悪魔を地獄へ送還した。
「デンジ、ポチタ。今は変身はもういい。解除しろ」
「へ……あ、ハイ」
チェンソーがドロリと溶け、デンジの身体が元に戻る。デンジがえずくと、ポチタが口の中から戻ってきた。
「デンジ、ポチタ……契約だ。お前らに私の戦闘技術と体内にある『永久エネルギー炉』の力を分け与える」
「ハイ」
「それによりお前らは無尽の体力と気のコントロールが出来るようになる」
「ワン!」
「――契約には代価が必要だ。お前達の人生と、その過程で得た全ての金を捧げろ」
「ハイ!! 捧げます!!」
「ワォーン!!」
迷いなく宣言したデンジとポチタと、私の間で契約が結ばれた。
「よし……これで契約できた。デンジ、ポチタ。気合を入れてみろ」
「へ? は、はい。いくぞポチタ」
デンジとポチタは拳をぐっと握って、身体全体に力を入れて叫ぶ。
「はああああああ……!! うおお、何だこりゃ!?」
予想通り、デンジとポチタの身体からエネルギーが迸る。
「それは私の世界で「気」と呼ばれているものだ。私のそれは人工的に精製されたものだから、正確には違うがな」
「これが気……すか。18号さんの世界、っつーのは?」
「そういえば言ってなかったか……私はこの世界とは別の世界から来たんだ」
「別の世界……そっちでも18号さんは最強なんですか?」
「上澄みではあるが……私より強い奴は少なくとも3人はいる。死んだ奴、いない奴を含めればもっとだな」
「どんな魔境なんすか、その世界……」
遠い目をするデンジ達に、私はかねてより考えていたことを話す。
「いいか、デンジ。この世界で私はなるべく戦わない。身を守る程度はするが、矢面に立つのはお前らだ。何でか分かるな」
「俺達が活躍して、金を稼ぐためってことっすね」
「そうだ。そしてそのためにはお前が強くならないとな。私との契約は強力だが、それだけじゃ駄目だ」
私は戦いの構えをとる。
「というわけで、これからお前らを鍛える。しばらくは修行だな」
「修行っすか……あんまり好きじゃないけど、18号さんのためならやりますよ」
「意欲が湧かないか? なら、手合わせの間に
「な~んかめちゃくちゃ意欲が湧いてきました! さぁ、早くやりましょう!!」
「現金な奴……頭のほうも鍛えたほうが良さそうだな」
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それから、日が暮れるまで私とデンジとポチタで手合わせと気のコントロール修行を続けた。
「くっそ~全然、指先一つも触れらんなかった~!!」
「当たり前だバカ……そろそろ帰るぞ。舞空術はもう使えるな?」
「ハイ、それはもうバッチリ」
「それじゃ、一緒に帰るぞ。ゆっくりめに飛んでやるから、ついて来い」
私達は連れ立って空を飛び、アメリカから日本まで戻っていった。