19時にもう1話投稿します
-18号視点-
「18号ちゃん。そろそろ働いてくれないと庇いきれなくなります」
デンジとの契約から3日。マキマと会ってからは一週間、私は公安に籍を起きながら1秒たりとも働いていなかった。
この3日はデンジとの修行に費やし、それなりに形になってきた所でマキマから呼び出された。
無視してやろうとも思ったが、「来なかったら宿舎から退去」と言われては応じざるを得ない。
「……仕方ないな。適当な悪魔を殺せばいいんだな?」
「待って。公安は依頼か通報があって初めて動くの。もちろん野良悪魔と遭遇して戦うこともあるけど、それは例外だから」
「ちっ……面倒くさいな」
「それに、民間にもデビルハンターはいる。彼らの獲物を横取りすると問題になります」
「分かった分かった。それで、私はどうすればいい?」
マキマは処理し終えた書類をまとめて顔を上げる。
「魔人って知ってるかな。人間を乗っ取った悪魔」
「ああ」
「公安でも理性の高い魔人は何匹か飼っててね。その内の一人、血の魔人が問題児なんだ。18号ちゃんには彼女のバディになってもらいたいの」
「断る」
「拒否権はないよ。これは上司命令――私の部下になるって言ったよね?」
「ちっ……分かった」
不承不承、マキマの命令に従うことにする。契約には悪魔も人間も逆らえない。
会話が止まったタイミングで、扉の外からドスドスといった感じの足音が聞こえてきた。
「来たみたいだね。入っていいよ、パワーちゃん」
マキマが許可を出すと、扉が勢いよく開かれた。
「おうおう、ひれ伏せ人間!! ワシの名はパワー!! バディというのはウヌか!?」
「……コイツとバディになれと?」
「うん。よろしくね、18号ちゃん。とりあえずは街の巡回を――」
巡回時の注意事項を説明されたあと、私とパワーは街の巡回に出かけた。
しかし、悪魔は見つからない。ビルの屋上まで登って、街を見渡すが平和そのものだった。
だがパワーはそれが気に入らないらしくイライラして足を踏み鳴らしている。
「人間、早くなんか殺させろ!! ワシは血に飢えて――」
パワーがそんなことを言って頭を叩こうとしたので、私はその手を掴み、ひねって、膝で抑えつけて拘束する。
「いっ、痛い痛い痛い!! 何するんじゃ!?」
「何って……躾けだが」
「ワシは犬ではないわ!! 地獄で恐れられた偉大な悪魔、血の悪魔じゃ!!」
「雑魚相手にイキってただけだろ。それに私は人間じゃない、悪魔だ」
私の言葉に「はぁ?」と返し、鼻をヒクつかせる。
「匂いが人間じゃ。嘘をつくな」
「いや、悪魔だ――そうだな?」
私は手のひらに気を集めて、パワーを睨んで圧をかける。
「悪魔みたいな人間じゃ!!」
「ふん……まぁいいか」
「お、お前何者なんじゃ……マキマより怖いぞ」
「マキマより強いぞ、私は。でもマキマよりは優しいし平和主義だから、安心しろ」
「ぐぬぬぅ……ぬ?」
パワーが再び鼻をひくつかせて何かに反応する。
「血の匂いじゃ!!」
そう叫んだかと思うと、パワーは「勝負じゃ!勝負じゃ!」と連呼しながら走り出す。
私は溜め息を吐きながら冷静にパワーを追いかける。
パワーは屋上から飛び降りる。私が地上を見ると確かに悪魔が出現していた。
「どうじゃ、これで――…………え?」
パワーは血で固めたハンマーでその悪魔を潰そうとしていたが、私が舞空術で追いついて襟を掴んで止める。
「落ち着け。あれは既に民間のデビルハンターが手をつけてる。私達が倒したら問題になるぞ――マキマの話聞いてなかったか?」
「ワシは人の話は聞かん主義じゃ!!」
「終わってるな、お前……」
私達は巡回を終え、マキマに報告に戻った。
「ありがとう、18号ちゃん。パワーちゃんの暴走を止めてくれて。余計な仕事が増えるところだったよ」
「それはいいが、コイツとバディになれる気はしないな」
「ワシも無理! コイツ怖い」
「パワーちゃんの意見は聞いてないかな。18号ちゃん、大変だろうけどもう少し躾けを頼めるかな。次のバディ候補に引き継げるくらいには」
「……分かった。来い、パワー」
「嫌じゃあ……」
そう言いながら、パワーは私の後をついてくる。
喉が渇いたから、休憩所の近くの自動販売機で飲み物を一つ買う。
「お前も飲むか?」
「飲みたいが、金持っとらん。奢れ」
「……そのポケットの膨らみは何だ?」
「は? 膨らんでなどおらんが?」
「頭が痛くなってきたな……ほら、奢ってやるよ」
缶ジュースを投げて寄越すとパワーは受け取りグビグビと飲み干す。
「もう一杯寄越せ!! こうなりゃヤケじゃ!!」
「調子に乗るな」
私は2本の指を立ててパワーの眼を突き刺す勢いで向けて、寸前で止める。
「ひゅっ……じょ、冗談じゃ。18号はユーモアの通じん奴じゃの……」
「厳しい躾けが必要みたいだな?」
拳を鳴らしながらパワーに近づく。パワーは手を前に出して私を止めようとしながら後ずさる。
「まっ、待て。ここは話し合いで解決せぬか……? ワシの悩みを解決してくれれば、オヌシと契約してやる」
「悩み? 契約だと?」
足を止めて首を傾げる私に、パワーがほっと息を吐いて説明する。
「そうだ、悪魔は契約には逆らえない。契約でワシにバディの指示に従え、とでもすればワシはそうせざるを得ない」
「ほう……悪くない提案だ。手間が省けるしな」
「ただし、契約するのはワシの悩みが解決してからじゃ」
「成功報酬ってわけか。まぁいいだろう……で、悩みってのは?」
私が促すと、パワーはゆっくりと話しはじめた。
マキマに捕まる前に仲良くしていた猫がいたこと。
その猫を蝙蝠の悪魔に攫われたこと。その猫を取り返してくれれば契約をする、と。
「その猫はニャ―コという。オヌシほどの強さなら取り返せるはずじゃ」
「分かった……案内ぐらいはしてくれるんだろ?」
「当然じゃな。ついてこい」
受付で外出許可を貰い、蝙蝠の悪魔がいるという小屋へ向かう。
「どうやってニャーコを助け出すつもりじゃ?」
「押し入ってパッとやればできると思うが」
「脳筋すぎんか?」
小屋に着くとパワーは中の悪魔に聞こえるように叫んだ。
「コウモリ! 望み通り人間を連れて来たぞ」
「逃げたかと思ったぞ……その女か。美味そうだ……でかしたぞ、血の悪魔」
蝙蝠の悪魔は私に一歩近づくと、欠損した右腕を見せてくる。
「見ろ、この右腕の傷を……人間に刻まれた傷は人間の血で癒させてもらう」
蝙蝠の悪魔はそう言って私の身体を鷲掴みにしようと手を伸ばす。
その手を私は片腕で抑える。
「なっ……」
「ニャ―コはそこか」
首元にぶら下げられた鳥籠。そこにニャ―コはいた。
蝙蝠の悪魔の懐に潜り込み、鎖を引き千切ってニャ―コを救出してパワーに投げる。
「おおお、ニャーコ!! よくやったぞ18号!!」
「もうこいつは用済みだな?」
「うむ。好きにしてくれてよい」
突然自身の優位性を喪ったことで動揺を隠せない蝙蝠の悪魔に、私は黙って歩み寄る。
「私の血で腕を取り戻したかったんだろう? 血だけならくれてやるよ」
「何だと……? お前、何が目的だ――」
「
「デビュー……?」
私は舞空術で浮き上がり、腕を切りつけて血を蝙蝠の悪魔の口に注ぐ。
「こっ――これは!!」
「よ~く味わえよ。最後の晩餐だ」
「美味い!!!! もっと寄越せ、人間んんん!!!!」
蝙蝠の悪魔の右腕が復活し、そのまま私を再び鷲掴みにせんと迫ってくる。
私はあえてそれを抵抗せずに受け入れる。
「あ~~~~~~~~~ん」
蝙蝠の悪魔は大口を開けて、私を口の中に入れようとする。
パワーが不可解な顔でこっちを見ていたが、目で何もするなと制する。
私は蝙蝠の悪魔の口に入れられる寸前で、ぼそりと呟く。
「――助けろ、チェンソーマン」