※この作品はR-18です。

人造人間の悪魔   作:女主人公スキー

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本日更新2話目です


07.人造人間と血の悪魔-後編-

 -18号視点-

 

 

 

 2日前のことだった。私の夢にポチタが出てきた。

 

 

 

「18号ちゃんに、私の力について教えておくよ」

 

「……お前、喋れたのか」

 

「私の思考を伝えてるだけだよ。いいかな? 私の力は3つある」

 

 

 

 ポチタは私の前にちょこんと座り、話を続ける。

 

 

 

「一つはチェンソーを操る力。もう一つは悪魔を食べることでその悪魔が司る概念を消し去る力」

 

「……前者は分かるが、なんでお前にそんな概念を消す力があるんだ?」

 

「分からない。地獄で暴れ回ってる時に、二度と戦いたくないと思った悪魔を戯れに食べたら――地獄でも地上でも復活しなくなった」

 

「そうか……」

 

「この力は使わないほうがいいと思う。悪魔への抑止力には使えるだろうけど、実際に使えば何が起こるか分からない」

 

「同意見だな。それで、3つめの力は?」

 

 

 

 ポチタはごろんと寝転び、腹を見せてくる。

 

 

 

「私は地獄でヒーローと呼ばれていた。地獄では悪魔同士での殺し合いが日常茶飯事だ。強い悪魔ならいいが、戦う力を持たない悪魔もいる。

 

そういう悪魔を狙って殺す悪魔がいる。弱い悪魔を守るというよりはそういう強い悪魔を倒したかったんだ。暴走の余波で弱い悪魔が巻き添えになることもよくあったし。

 

だから、弱い悪魔の救済の叫びを聞いては急行して悪魔を殺し回ってた。そんなことをしているうちに、「助けて」という言葉に限りどれだけ遠くとも聞こえるようになった。

 

そして、助けを求める言葉を発した者のそばへ瞬時に移動できるようにもなっていた」

 

「……瞬間移動か」

 

「ワープしているわけじゃないと思う。たぶん、とんでもなく早く動けるだけ。その言葉を聞いた時しかできないし」

 

 

 

 ポチタは私に背を向けて、どこかへ歩き出す。

 

 

 

「さっきデンジとも夢で話して、契約してこの力をデンジも使えるようにした。だから、召喚の力で呼ばなくても大丈夫」

 

「無用の長物になってしまったか。いや、緊急回避としては使えるな……」

 

「そうだね。それに、こんなことができるのは私達だけだ。他の人を呼び出すときには使える」

 

「ああ。それじゃ、お前らの力が必要になったら遠慮なく呼ばせてもらう」

 

「うん、よろしくね18号ちゃん。本当にありがとう、デンジの夢を叶えてくれて――これからもどうかよろしく」

 

 

 

 

*

 

 

 

 -デンジ視点-

 

 

 

「――助けろ、チェンソーマン」

 

 

 

 部屋でくつろいでいた俺達の耳に、18号さんの助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

 「行かなきゃ」と思う前にポチタの能力が発動し、俺達は18号さんの元へ向かっていた。

 

 ポチタが言っていた通り、これは瞬間移動ってわけじゃねーみてえだ。

 

 何というか、時(・)間(・)が(・)無(・)限(・)に(・)引(・)き(・)延(・)ば(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)感じ、つったら分かりやすいかな。

 

 俺はちゃんとドアを開けて外に出たし、鍵だってちゃんと閉めた。それでも間に合う、そういう感覚があった。

 

 ――現実の時間では1秒も経ってないと思う。気付けば俺は18号さんと悪魔がいる小屋に立っていた。

 

 悪魔の手に捕まり、喰われそうになっている18号さんを見て俺は拳を握りしめる。

 

 

 

「俺ん18号さんによぉ……!!」

 

 

 

 俺は気を開放して、18号さんを掴む悪魔の右腕めがけて拳を振り抜く。

 

 

 

「気安く触れてんじゃねえ!!」

 

 

 

 俺が殴ったところは豆腐みたいに砕け散り、右腕は千切れ飛ぶ。

 

 解放された18号さんを俺は空中で受け止めて、横抱きにする。

 

 

 

「大丈夫ですか、18号さん!? 腕から血が……」

 

「問題ない。これは自分でつけた傷だ、あいつには傷一つつけられてない」

 

「そ、そうなんすね……よかった」

 

 

 

 右腕を破壊された悪魔が血をぼたぼたと流しながら呻く。

 

 

 

「グオオオ……また右腕が……許さんぞ、人間!!」

 

「あぁ!? んだテメーやるか!? なら――ポチタ!!」

 

「ワン!!」

 

 

 

 ポチタは小さくなって俺の手に乗り、俺はポチタを飲み込んで――

 

 

 

「チェンソーマン参上……ってなぁ!!」

 

 

 

 ――チェンソーマンに変身した。

 

 

 

「な、なんだその姿は!? わからんがコイツはヤバい……ここは退く!!」

 

 

 

 悪魔は翼を広げて、街のほうへ向けて飛んでいく。

 

 俺達も追いかけようとしたところ、18号さんに肩を掴まれ止められる。

 

 

 

「待て。記念すべきチェンソーマンのデビュー戦だ。あいつを――蝙蝠の悪魔を殺すのは容易いが、殺すなら大衆が見ている前で殺れ」

 

「わ、分かりました」

 

「それと、一般人の犠牲者は出すなよ。男も女もだ。建物への被害は構わんが」

 

「え~、男も守るんすかぁ? まぁやりますけど……」

 

 

 

 露骨に嫌な顔をした俺を見て、18号さんは溜め息を吐く。そしてほんの少しの間ためらう様子を見せてから口を開いた。

 

 

 

「1人の犠牲もなく蝙蝠の悪魔を倒せたら、胸を揉ませてやるよ」

 

「む、胸を!? 胸というのはその……おっぱいを?」

 

「そう言ってるだろ」

 

 

 

 18号さんは呆れた様子で腕を組む――ことでおっぱいが強調されている。

 

 で……でかい。これを揉んでいいのか……?

 

 

 

「ど、どれくらい……?」

 

「別に制限はない――私が拒否しなければいつでもどこでも。これから一生揉み放題だ」

 

「一生揉み放題!!!??? そんな素敵な日本語がこの世にあったんですか!?」

 

 

 

 興奮のあまり俺の逸物が反応し、前かがみになる。

 

 

 

「やる気になったか? なら、早く追え」

 

「ムンムン湧いてきましたよ……!! 俺、野郎も女もみんなみんな、守ってみせます!!」

 

 

 

 俺は舞空術で飛び出し、蝙蝠の悪魔を追いかける。

 

 蝙蝠の悪魔はビルの屋上に降り立ち、床を破壊して階下にいた女に目をつけるところだった。

 

 

 

「誰か……た、助けて」

 

 

 

 その瞬間、力が発動して俺は女の前に立っていた。

 

 女を掴もうとしていた左腕を蠅をあしらうように弾く。

 

 

 

「またお前か!! なんなんだお前は!?」

 

「うるせーなァ――おい、何ボサッとしてんだ。とっとと逃げろ!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 女を逃がして、俺は戦いの構えをとる。

 

 

 

「おのれェェェ……邪魔ばかりしおって……殺してやる!!」

 

 

 

 ビキビキと血管を剥き出しにして怒り、襲い掛かってくる蝙蝠の悪魔。

 

 ちょっと前までの俺なら反応できずにぶん殴られてたと思う。

 

 しかし、今は――遅すぎて欠伸が出ちまう。

 

 

 

「死――ぐっ、わアアアァァァァーーーーッ!!??」

 

 

 

 蝙蝠の悪魔の拳を、身体を少し傾けるだけの最小限の動きで躱す。

 

 そのまま懐めがけて駆け込んで、手加減した蹴りで蝙蝠の悪魔をビルの外の大通りへ蹴りだす。

 

 俺もそれを追って、大通りへ降り立つ。

 

 

 

「ここなら、人の目もあらぁな」

 

 

 

 痛みにうずくまる蝙蝠の悪魔をよそに、俺は大声で遠巻きに俺を見てる連中に宣言する。

 

 

 

「一般人ども、見てるなぁ!? 俺の名前はチェンソーマンだ!! お前らを悪魔から守りに来たヒーロー様だぜ~!!」

 

 

 

 俺がブゥンとチェンソーを鳴らすと、ざわざわと困惑の声が混じった喧騒が広がっていく。

 

 痛みから立ち直った蝙蝠の悪魔が起き上がり、近くにあった車を持ち上げる。

 

 車の中で逃げ遅れた男の「うわぁぁぁ!?」という声が聞こえた。

 

 

 

「人間を守るだと……ならこれが斬れるかぁ!?」

 

 

 

 蝙蝠の悪魔は男が乗ったままの車を俺めがけてぶん投げる。

 

 俺は腕のチェンソーを引っ込めて、その車を受け止める。そして男が怪我しないようにそっと下ろす。

 

 受け止めている間は当然視界が車に塞がれる。その間に蝙蝠の間は俺に肉薄していた――

 

 

 

「隙を見せたな!? 死ねぇ――波(パ)ァ!!」

 

 

 

 俺は咄嗟に男と車を庇って、身を守る。

 

 蝙蝠の口から、ビル程度なら吹っ飛ばしそうな衝撃波が放たれる――が。

 

 

 

「はぁ……何だよ、驚かせやがって……大したことねーな」

 

 

 

 俺も、後ろにいた男も車も無事だった。余波で建物はいくつか壊れたところもあるが、問題ねえ。

 

 

 

「バカな……!! 無傷だと!?」

 

「おい、おっさん。早く逃げろ……邪魔だ」

 

 

 俺がそう言うと、おっさんはどたどたと転びながらどこかへと逃げていった。

 

 俺は再び腕のチェンソーを生やして、蝙蝠の悪魔へ向かっていく。

 

 

 

「18号さんに色々技を教えてもらったけどよぉ……使うまでもなさそーだな、お前」

 

「ふ、ふざけるな……! 私を誰だと思って……」

 

「雑魚だろ、雑魚。大体悪魔のくせにチェンソーマン知らねー時点で、地獄じゃ空気の雑魚ってことじゃねーの?」

 

「な――舐めるなぁぁぁ!!!」

 

 

 

 蝙蝠の悪魔が猛然と向かってくる。以前の俺からすれば圧死不可避の突進だと思う。

 

 だけど、18号さんとの組み手を思えばガキ相手に相撲をするようなもんだ。

 

 俺はヒラリとその突進を躱して、横っ腹にチェンソーをぶっ刺す。

 

 そのまま振り抜くと、蝙蝠の悪魔は臓物をぶち撒けて叫び声をあげる。

 

 臓物を避けながら、俺は空中へ飛び上がって腕のチェンソーをクロスさせて――

 

 

 

「これで胸揉み放題だぜぇぇぇ!!!」

 

 

 

 ――その首を斬り落とした。

 

 

 

 俺が空に吠えるように勝鬨をあげた時、18号さんが降りてきた。

 

 

 

「――油断するな!!」

 

「へ?」

 

 

 

 俺が間抜けな声をあげたと同時に、掲げた右腕に触手のようなものが激突する。

 

 右腕が吹っ飛んだ――かと思ったが、18号さんとの契約のおかげか、変な方向に折れ曲がる程度で済んだ――が。

 

 

 

「痛(い)ってぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

 折れた右腕を抱えて、俺はうずくまる。いっそ斬り落とされたほうがマシかもしれないと思えるぐらい痛い。

 

 そんな俺の前に、今俺の右腕を折った悪魔が立つ。

 

 

 

「や~っと見つけたのにィ……あんたでしょオコウモリちゃん殺したの――私の男だったのに!」

 

「新手かよ……クソ。18号さんが見てるってのに、カッコわりぃ……」

 

「私はヒルの悪魔……。彼の仇よ。その“いの血”、吸わせてもらうわぁ!!」

 

 

 

 右腕をだらんとぶら下げたまま、俺は挽回する方法を考える。

 

 蛭の悪魔が俺に触手で殴りかかってくるが、その速度は蝙蝠の悪魔と対して変わらない。

 

 回避し、受け流して――考える。そして結論。

 

 

 

「俺は18号さんの胸を胸張って揉みてぇ――なら、途中ダサくても最後に圧勝すりゃいいんだ」

 

「あ~ら、なんてくだらない……そんな夢しかない奴にコウモリちゃんは負けたのぉ?」

 

「舐めんな……俺の――俺達の夢はそんなもんじゃねえ。18号さんとエッチして毎日いちゃいちゃするのが目標だぜ――超壮大な夢だろうが!!

 

「だぁかぁらぁ……それがくだらないって言ってんのよッ!!」

 

 

 

 叫びながら、蛭の悪魔が突っ込んでくる。俺は残った左手のチェンソーを蛭の悪魔に向ける。

 

 

 

「俺達の夢をバカにしたお前には――特別に最強コンボを喰らわせてやる」

 

「――死になさい!!」

 

 

 

 俺はチェンソーの腹を蛭の悪魔に向ける。これが俺が最初に18号さんに教わった技――その名も!!

 

 

 

『チェンソー太陽拳』!!!!

 

 

 

 瞬間、閃光が街を埋め尽くす。

 

 

 

「なっ、何!? 何も見えないんだけどぉ!?」

 

 

 

 元々の名前は『太陽拳』――連発は目を瞑るなどして対策されるので出来ないが、目潰しと動きが鈍くなる効果があり18号さん曰く「出し得」の技。

 

 しかも太陽の光に依存してるわけでもないので、別に夜や室内でも使えるらしい。

 

 俺は動きを鈍らせている蛭の悪魔の懐に潜り込む。

 

 そして次の攻撃の威力を考慮して、蛭の悪魔を上空へ思い切り蹴り飛ばす。

 

 

 

「うごぉっ……そ、空? 何をするつも――」

 

「チェェェェェェェェン……ソォォォォ……」

 

 

 

 一気に気を開放した俺は、左腕のチェンソーの先に気を集めていく。

 

 威力がありすぎるから使う時は何もない荒野か、上空へ向けて撃てと18号さんに厳命された必殺技。

 

 その名も――『チェーンソーフラッシュ』!!

 

 

 

「フラぁーーーーーッシュ!!」

 

 

 

 放たれたエネルギー波は真っ直ぐ上空に打ち上げられた蛭の悪魔に直撃し、その肉体を塵一つ残らず消し飛ばした。

 

 

 

 

*

 

 

 

 -18号視点-

 

 

 

 戦闘の終わりを見届けた私は、デンジの元へ向かう。

 

 エネルギー波をぶっ放したデンジは、疲れからかフラフラとよろけていく。

 

 倒れてしまうところを、私が胸で受け止める。

 

 

 

「あ……やわらかい」

 

「よくやった、デンジ。右腕はどうだ」

 

「めちゃくちゃ痛いっす。あの、仙豆ってのはもう……?」

 

「ない。病院で処置してもらうしかないな――とりあえず、ここから離れるぞ」

 

「……うっす」

 

 

 

 

     ・

 

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     ・

 

 

 

 

 それから数時間後。私はマキマに再び呼び出しを受けた。

 

 

 

「もう各所で話題になってるよ、チェンソーマン――18号ちゃんの仕業だよね?」

 

「ああ。私の目的はチェンソーマンで金を荒稼ぎすることだ。今はまだしないがな……商売っ気を出しすぎると長期的にはマイナスだ」

 

「お金かぁ……分かりました。それで、彼とはいつ会わせてくれるのかな?」

 

「今、デンジ――人間のほうが負傷してるからな。治り次第だ。ついでに、デンジも公安にも入れてもらう」

 

 

 

 私の考えを聞いて、マキマは首を傾げる。

 

 

 

「公安にしてしまっていいの? 謎のヒーロー感は薄れてしまうけど」

 

「公安の管理下にあるほうが大衆は安心するだろ。見た目は悪魔みたいなもんだしな」

 

「それもそうだね……分かりました。そのようにマスコミには発表しておきます」

 

「頼んだ。もう下がってもいいか? 見舞いに行く予定なんだ」

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 マキマに背を向けドアノブに手をかける私に「そういえば」とマキマが声をかける。

 

 

 

「このあと、そのデンジくんに揉(・)み(・)く(・)ち(・)ゃ(・)に(・)さ(・)れ(・)る(・)って聞いたけど――本当?」

 

「…………誰に聞いた」

 

「パワーちゃん」

 

「あのバカ……とっちめてくる」

 

 

 

 私は勢いよくドアを開けて、パワーを探しに走る。

 

 

 

「――否定しないんだ」

 

 

 

 遠くでマキマの呟きが聞こえたが、気にせず走る。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 -パワー視点-

 

 

 

 ワシはこれまで恐怖を感じたことはなかった。

 

 偉大な最強の血の悪魔なのだから、当然じゃな。

 

 ヤバそうな奴との遭遇を避けてきたからかもしれんが、それはワシが賢いからに他ならない。

 

 だが――地上に降りて女の身体を乗っ取りニャ―コを攫われて以降、このワシが恐怖を感じるものが3つも増えた。

 

 

 

『パワーちゃん。次はちゃんとできる?』

 

『でっ、できる』

 

 

 

 マキマ。あれはやばい。悪魔みたいな人間――もしくは人間みたいな悪魔じゃ。

 

 ワシが今自由意志を行使していられるのは、あの女の気まぐれにすぎない。

 

 何か大きな失策をすればワシの自由意志はなくなり、あの女の駒の一つに変わる。

 

 そんな妄想に歯止めがかからないほどに、ワシはマキマが怖い。

 

 そして、ある意味でマキマより怖い女がもう1人いる。

 

 

 

「見つけたぞ……パワー」

 

「じゅ、18号? どうしたのじゃそんな怖い顔痛い痛い痛い痛い!!!!」

 

 

 

 今、鬼のような形相でワシのこめかみを拳でぐりぐりと削っている女だ。

 

 18号。人造人間の悪魔を名乗っているが……匂いはどう見ても人間。ちょっと機械の匂いもするが。

 

 

 

「人のプライベートなことを言い触らすな。二度と喋れないようにしてやろうか?」

 

「目がマジじゃ……! す、すまんかった。二度とせんから許せ!!」

 

「はぁ……まぁいい。それより、契約だ。分かってるな?」

 

 

 

 そうじゃった。ニャ―コを助けたら18号と契約を交わすという約束じゃった。

 

 

 

「――わかっておる。ワシがバディの指示に従う、でいいな? 対価はニャ―コを助けたことで貰っておるからもういらん」

 

「ああ。これでお前の子守からは解放されるわけだ」

 

「ふん、ワシも清々するというものじゃ。では、結ぶぞ――」

 

 

 

 ワシと18号の間に契約が結ばれた。

 

 これで、不本意ながらバディの指示には従うしかなくなるが……ニャ―コが助かったのだから良しとしよう。

 

 

 

「実験してみるか――パワー、ワ(・)ン(・)と(・)鳴(・)い(・)て(・)お(・)す(・)わ(・)り(・)だ」

 

「は? ――ワン」

 

 

 

 気が付けばワシは犬のように鳴いて、犬のようにおすわりのポーズで座っていた。

 

 

 

「き、貴様……!!」

 

「良い契約をしたな、パワー。それじゃ、私は見舞いに行くからな」

 

「待たんかぁぁぁ!! 契約内容の変更じゃ!! 従うのは仕事上の指示のみじゃ!! 認めろ、18号!!」

 

「さて、どうしようかね……言い触らしたことを土下座して詫びるなら認めてやらんでもないが?」

 

 

 

 18号はワシを見下ろしてニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

「ぐぎぎぎぎ……うごごごご……!!」

 

「そんなに嫌か。プライドだけは高い奴だな……」

 

 

 

 呻き声をあげながら、ワシは地面に手をついて頭を下げ……下げ……!

 

 

 

「――もう充分だ、パワー。ちょっとは気が晴れた。内容変更に同意してやる」

 

 

 

 これじゃ。この女の恐ろしいところは。

 

 戦っているところは生憎見たことはないが、恐らくコイツはとんでもなく強い。

 

 もしかすると、あのマキマよりも――じゃ。なのに……優しい。

 

 

 

「契約は便利だが……うかつに多用するなよ。お前は馬鹿だから、簡単に騙されそうでハラハラする」

 

「……余計なお世話じゃ人間。見舞いに行くんじゃろ? とっとと去ね」

 

「はいはい」

 

 

 

 手をひらひらと振って、18号は歩き去っていく。

 

 その後ろ姿を見て思い出す。もう一人、恐ろしいと思ってしまった男の存在を。

 

 18号のツガイ……と思われる男。そう、デンジとか言ったか。

 

 チェンソーの悪魔を飲み込んで変身してからはチェンソーマンとも名乗っておった。

 

 

 

『これで胸揉み放題だぜぇぇぇ!!!』

 

 

 

 ハッキリ言ってバカじゃろ、と思った。あんな約束をする18号も、あのデンジとかいう男も。

 

 たかが胸じゃぞ? 胸部にある脂肪の塊ごときのためにあれほど戦えるか?

 

 あの後、巨乳の女性職員の胸を戯れに揉んでみたがなーんも楽しくなかった。

 

 ただ脂肪の塊がぶよぶよしてるだけじゃ。

 

 しかもなんじゃ、あの技――閃光を放つだけの技はまだいい。あの破壊エネルギーを放つ技は何じゃ?

 

 一部始終を見ていたが、ワシは心底震えた……あれをまともに受ければ大抵の悪魔は死ぬ。

 

 もしかしたら公安が探しているという悪魔でさえも……だ。

 

 

 

「地獄より魔境ではないか……どうなっとるんじゃこの国は」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 -デンジ視点-

 

 

 

 俺は今、病院にいる。蛭の悪魔に腕を折られたからだ。

 

 18号さんとの契約のおかげか、通常よりは治りは早まるらしい。3日後には退院できるとか言ってたな。

 

 はぁ……3日後か。あの時、俺が油断さえしなければ今頃は――そう思うと後悔しかない。

 

 

 

「ワフッ?」

 

 

 

 ちなみにポチタもいる。俺がポチタがいないと暴れるとごねたからだ。

 

 ポチタは俺の腹の上で寝転びながら、折れた右腕をぺろぺろと舐めてくれている。

 

 こうしてポチタといるとあの地獄の日々を思い出す。そして、こりゃ夢なんじゃねーかって思う。

 

 だってよ、あの18号さんの胸を……あと3日我慢すれば、俺は……俺は!!

 

 

 

「邪魔するぞ」

 

 

 

 ガラガラと引き戸を開ける音と共に、18号さんが病室へ入ってきた。

 

 

 

「18号さん、来てくれたんすか」

 

「ああ」

 

 

 

 俺は半身だけ起き上がって、18号さんを迎える。

 

 

 

「寝てていいぞ」

 

「いや、そんなわけには……」

 

「いいから寝てろ。治りが遅くなるだろ」

 

「……はい」

 

 

 

 言い聞かされて、18号さんに寝かされる。マジで情けねー……。

 

 

 

「あの……すいませんでした。俺があん時、油断しなければ……」

 

「そうだな……反省は大いにしろ。だが、初めての実戦にしてはよくやったほうだと思うぞ」

 

「慰めはいらねーっすよ。俺達は18号さんを常に守れるぐらい、強くならなきゃなんねーのに……傷ついて病院に世話なってちゃ話にならねー」

 

「――修行は厳しめにする。ついて来れるな?」

 

「当然っすよ!」

 

 

 

 18号さんは俺の左側に移動して、丸椅子に座ってカバンからリンゴを取り出した。

 

 

 

「見舞いの品だ。剥いてやるから待ってろ」

 

 

 

 そう言って、今度は果物ナイフを取り出してリンゴに刃を当てる。

 

 

 

「俺、皮ごと食べれますよ」

 

「私がわざわざ手ずから皮を剥いて食べさせてやろうとしてるんだ。そういう水を差すことを言うな」

 

「アッ、すいません……」

 

 

 

 俺は大人しく18号さんが皮を剥き終えるのを待つ。

 

 18号さんは更に小さく切り分けて、小さな使い捨てのフォークに突き刺して俺の口までそれを持ってきてくれる。

 

 

 

「ほら、食え」

 

「あ、あーー……ん。美味いです」

 

「このまま全部食うか?」

 

「はい……あのー……できれば皮も」

 

「はいはい……」

 

 

 

 俺がリンゴを全て食べ終えると、18号さんは「さて」と言って立ち上がる。

 

 

 

「退院になったら迎えに来てやるが……それまではもう見舞いには来ないからな」

 

「えーっ!」

 

「この怪我の原因は何だ? 仮に私を守ろうとしての負傷なら毎日来てもいいがそうじゃないだろう」

 

「……そっすね。すいません、わがまま言いました」

 

 

 

 しゅんとうなだれた俺を見て、溜め息を吐いて俺の左手首を掴む。

 

 

 

「……ちょっと左手貸せ」

 

「へ? は、はい――えっ?」

 

 

 

 俺の左手は18号さんの手によりその豊満な胸に押し付けられる。

 

 

 

「お、お、おっぱいが……!?」

 

「本当は退院してからだが……特別だ。ほら、好きに触れ」

 

「い、いいんですか……」

 

「約束だからな……んっ」

 

 

 

 俺は18号さんの胸を左手で鷲掴みにする。

 

 俺の意志で柔らかい胸が形を変えていく。

 

 上から胸の形を確かめてみたり。

 

 下から胸の重さを感じてみたりする。

 

 

 

「すげぇ……! これが揉み放題……」

 

「退院してからだぞ。どうせなら両手で揉みたいだろ?」

 

「そりゃ当然っすよぉ!!」

 

「さっきより語気が強いな……そう思うならとっとと治せ。いいな?」

 

「分かりました!!」

 

「じゃあ、今日はこれで終わりだ」

 

 

 

 18号さんはそう言って俺の手首を再び掴み、俺の左手をベッドの定位置に戻していく。

 

 俺はせめてもの抵抗をするが、18号さんの力に敵うはずもない。

 

 

 

「退院したら俺……揉んで揉んで揉みまくりますよ」

 

「ならそんな暇もないぐらい厳しく修行してやる」

 

「そんなぁ……」

 

「真に受けるな。修行は本当に厳しくするが、ちゃんと約束は守る」

 

 

 

 18号さんは今度こそ病室の扉に手をかける。

 

 

 

「それと――退院したらお前たちは公安に入ってもらうからな」

 

「はぁ、そうなんすね」

 

「たぶん私とはバディにならないと思うが……ちゃんと仲良くしろよ?」

 

「マジすか……まぁ、はい。分かりました」

 

「それじゃ……またな」

 

 

 

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 

 

 

 それから3日後。俺は無事退院し、右腕の骨も繋がってちゃんと動くようになった。

 

 18号さんは約束通り迎えに来てくれた。

 

 

 

「揉み放題ダァッ!!」

 

 

 

 俺は叫びながら両手を18号さんの胸めがけて伸ばしていく。

 

 しかしひらりと躱される。何で?

 

 

 

「家に帰ってからに決まってるだろ」

 

「退院してからって言ったじゃないすか!!」

 

「人前で胸揉ませるとか、お前私が痴女呼ばわりされてもいいのか?」

 

「俺はエッチな女大好きなんで問題ないです!」

 

「はぁ……そういう問題じゃない。とにかくもう少し我慢しろ。待てもできない駄犬とは一緒に暮らせないぞ」

 

「……うっす」

 

 

 

 俺とポチタは18号さんに連れられて公安デビルハンター本部に来ていた。

 

 

 

「マキマ、入るぞ」

 

 

 

 18号さんはノックもなしにズカズカとマキマという偉い人の執務室に入り、俺達もそれに続く。

 

 

 

「――来たね。そこの金髪と眼帯の少年がデンジくん。そしてそのチェンソーの生えた犬が――チェンソーマン」

 

「そうだ」

 

「チェンソーマンじゃねーよ。ポチタって名前があんだ」

 

「ポチタ……いい名前だね」

 

「だろ?」

 

 

 

 褒められていい気になっている俺の頭を軽くはたく。

 

 

 

「お前な……上司には敬語を使え」

 

「ってー……すいません。えっと、マキマさん?」

 

「私は気にしてないから大丈夫だよ。というか、生まれてから敬語なんて使ったことなさそうな貴女がそれを言うの?」

 

「うるさいな……別にいいだろ」

 

 

 

 マキマさんはコホンと咳ばらいをして立ち上がり、俺達の前に立つ。

 

 

 

「改めて、自己紹介させてもらうね。私は対魔特異4課のリーダーのマキマ」

 

「デンジです。で、こっちがポチタ」

 

「うん、知ってる。ありがとう――ポチタくんを借りてもいいかな?」

 

「おー、まぁ……いいですよ」

 

 

 

 俺が抱いてたポチタを差し出すと、マキマさんは受け取って胸に抱く。

 

 

 

「ずっと会いたかった……会えて嬉しいです。チェンソーマン」

 

「ワ……ワフ?」

 

「私はあなたのファンで――本当の正体は支配の悪魔。あなたを支配してこの世界を一緒にめちゃくちゃにしたかった」

 

 

 

 マキマさんは両腕でさらにぎゅっと抱きしめ、頬を寄せる。

 

 その様子を見ていた俺は困惑していた。

 

 

 

「なんかめっちゃ怖いこと言ってる……支配の悪魔ってマジすか?」

 

「ああ……一応秘密だから言い触らすなよ」

 

「うっす……」

 

 

 

 マキマさんは黙ってポチタに顔を埋めてその匂いを吸っている。

 

 ポチタも困惑してるけど、嫌がってはいないように見える。

 

 

 

「めちゃくちゃになった世界でチェンソーマンと暮らす。それが私の夢でした――だけど、その夢はもう叶わない」

 

「私のせいか?」

 

 

 

 マキマはポチタから顔を離して、18号さんを見て頷いた。

 

 

 

「別にそのことで18号ちゃんを恨んだりはしてません。むしろ、チェンソーマンと引き合わせたことに感謝すらしています」

 

「で、何が言いたいんだ?」

 

「――新しい夢が出来ました。私と18号ちゃん、そしてデンジくんとポチタ――チェンソーマン。

 

 この4人の力を合わせて大悪魔たちを支配して、この世界を私達のものにしようと思っています」

 

「ほう」

 

 

 

 なんだかピリついた空気の中、俺は話についていけずにマキマさんに尋ねる。

 

 

 

「あー……なんかスケールがデカすぎてよく分かんねーんすけど……」

 

「一緒にこの世界を平和にしよう、ってこと」

 

「なるほど! なら良いんじゃないすか? ね、18号さん」

 

「まぁ……反対はしない」

 

「ありがとう、18号ちゃん。デンジくんとポチタも、私の夢に協力してくれる?」

 

「18号さんがいいなら俺は協力しますよ! な、ポチタ!」

 

「ワンッ!」

 

 

 

 ポチタはマキマさんの腕の中で見上げながら元気よく吠えた。

 

 

 

「ありがとう。といっても、今は地道に悪魔討伐任務をこなしていくことになると思う。大悪魔はなかなか自ら動くということをしないから」

 

「へー……てか、俺も公安に入るんすよね?」

 

「うん。ヒーローとしてのチェンソーマンも公安所属ということになるね」

 

「バディは誰っすかね? できれば18号さんがいいんすけど……」

 

「人手がよほど不足してないと男女のバディは組ませないことになってるんだ。魔人とかならいいんだけど。ごめんね?」

 

 

 

 マキマさんの答えに、俺はがっくりと肩を落とす。

 

 

 

「なら、やっぱりパワーか?」

 

「それも考えたんだけど……パワーちゃんが嫌がってるんだよね。あの戦いを見て怖がってるみたい」

 

「意外に繊細な奴だな……じゃあパワーの面倒――もといバディは誰がなるんだ?」

 

「18号ちゃんとの契約があるからね。手の空いてる人に都度担当してもらうと思う。18号ちゃんにお願いすることもあるかもね?」

 

「……拒否権は?」

 

「ありません。それで、デンジくんのバディなんだけど――早川くんに決まりました」

 

「ハヤカワ? 誰っすかそいつ」

 

 

 

 俺が首を傾げたところで、扉がコンコンとノックされる。

 

 

 

「来たみたいだね。入っていいよ」

 

「――お呼びですか、マキマさん」

 

 

 

 入ってきたのは、髪をチョンマゲみたいに頭の上でまとめ、刀を背負った若い男だった。

 

 

 

「彼は早川アキ。君達より3年先輩だよ。デンジくんは早川くんの部隊に入って、平時はバディとして活動してもらいます」

 

「やっぱ男かよ……まぁいいや。よろしくなぁ、センパイ」

 

「…………マキマさん。新人の教育なら請け負いますが、チンピラの更生は専門外ですよ」

 

「あぁ? 誰がチンピラだよ」

 

 

 

 俺が早川の野郎を睨みつけると、早川の野郎もガンを飛ばしてくる。

 

 

 

「――彼は、いま噂になってるチェンソーマンだよ。正確には彼とそこにいるポチタと、でだけど」

 

「チェンソーマン!? このチンピラが!?」

 

 

 

 早川の野郎が俺を見て、マキマさんを見て、また俺を見る。忙しいやつだな。

 

 

 

「そしてその力の源になっているのが彼女――『人造人間の悪魔』の18号ちゃん、というわけ」

 

「悪魔……なんですか?」

 

 

 

 悪魔と聞いて早川の野郎の顔が険しくなる。

 

 

 

「ああ。悪魔だが、人類の味方のつもりだ。今はデンジの保護者みたいなものだな」

 

「……あとで詳しく説明してくださいよ、マキマさん」

 

「もちろん」

 

 

 

 マキマの返事に、ひとまず早川の野郎は命令を飲み込むことにしたようだ。

 

 

 

「デンジくんは公安としての活動、ヒーローとしての活動の二足の草鞋になる」

 

「え……そうなんすか?」

 

「チェンソーマンの人気を高めたいからな。例の能力で、助けを求める声があれば助けてやってほしい」

 

「正直面倒っすけど……18号さんが望むならやります」

 

「よし、偉いぞ」

 

 

 

 18号さんはそう言って俺の頭を撫でてくれた。嬉しい。

 

 

 

「とは言え、任務中に急に居なくなっても困るからね。公安として働いている時はこっちを優先してほしい。力のオンオフとかって出来る?」

 

「どうなんだろ……できんのか、ポチタ?」

 

「ワンッ!」

 

「できるみたいです」

 

「それじゃあ、今日は解散かな。お楽しみの時間を邪魔しちゃ悪いし……ね」

 

 

 

 首を傾げる早川の野郎が「失礼します」と言って先に部屋から出ていった。

 

 俺はだらしない表情をしながら、18号さんを横目で見る。

 

 心なしか顔が赤くなってるような気がしたが……夕焼けのせいか?

 

 

 

「マキマ――1日だけポチタを貸してやる。いいな、デンジ」

 

「ポチタがいいなら俺は構わねーっすよ」

 

「ワフッ」

 

「――だそうだ」

 

 

 

 マキマはポチタを抱き上げてにっこりと微笑む。

 

 

 

「ありがとう。ポチタ、今日はよろしくね」

 

「ワン!」

 

 

 

 18号さんもまたその様子を見て微笑を浮かべて、俺の手を握ってくる。

 

 

 

「私達も帰るぞ」

 

「はい」

 

 

 

 腕を引っ張られながら、俺達は宿舎へ向けて歩いていく。

 

 その間、18号さんは一度もこっちを見ることはなかった。

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