再戦しにくる。
あの一言を最後に、猫人はまだ姿をみせない。それから数えて、もう2週間になる。最初のうちは、コンビニに立ち寄るたびに背後を気にし、夜道では耳を澄ませていた。だが、何も起こらない日々が続けば、警戒心というのは驚くほど呆気なく擦り減っていくものらしい。
所詮は、喧嘩師の気まぐれだったのだろう。俺のことなど、とうに忘れて、どこか別の場所で誰かを組み伏せ、また新しい下僕を増やしているに違いない。そう、自分に言い聞かせていた。
だが、世の中というのは、都合の良いようにはできていないらしい。
定時で職場を出た俺を、出口の先で待ち構えていた者がいた。あの夜、俺たちの一部始終を眺めていたピンク髪の猫人――ミスだ。
周囲の同僚に見られてはまずい。とっさに腕を掴み、人気のない裏路地へと引きずり込んだ。ミスは特に抗う様子もなく、ヒールの音を規則正しく鳴らしながらついてくる。
「おー、おっさん、強引だなー」
「なにしにきやがった」
掴んだ腕を放し、距離を取って向き合う。小柄な体躯に油断すれば、思わぬ反撃を食らいかねない。ただ、俺に因縁があるのはあくまでニャーであって、この女ではない。仲間だからといって同じ扱いをするのも違う気がして、ひとまず近くのビルの壁に背を預けた。
「ニャーの呼びつけだなー。今から再戦だから、気張れよー」
「あ? なんで今なんだ。こちとら仕事後で疲れてんだよ」
「そっちの都合なんか知らないんだなー。言うこと聞かないなら、ニャーをレイプしたこと、職場のポストに投函してやるからなー」
その一言で、頭の中の判断が瞬時に切り替わった。撤回だ。こいつは味方でも中立でもない、れっきとした敵だ。
壁から体を起こし、ミスとの距離を一気に詰める。屈み込むようにして、視線の高さを合わせ、こちらの瞳を押し付けてやった。
「レイプじゃねぇし、どちらかといえばされたのは俺だ」
「その割には、喜んで受け入れてたなー」
「……受け入れたんじゃねぇ、適応しただけだ。それにな、もう、俺と戦うのはやめておけ」
そもそも、当のニャーがそんな筋書きを許すとは思えない。あの誇り高い喧嘩師が、被害者面をするなど屈辱以外の何物でもないはずだ。となれば、これはミスの独断ということになる。
だが、独断であろうとなかろうと、あのニャーとつるんでいる時点で油断はできない。下手にあしらえば、明日には根も葉もない噂が職場中に広がっているかもしれない。
どう出るべきか、考えを巡らせる。
「おー、戦わない方がいいのかー。その、理由はー」
「前の戦いで色々思い出したんだよ。深く説明するつもりはねぇから、詳しく聞くのは諦めな」
「なるほどなー。おっさん、経験者かー」
言葉に詰まり、黙り込んだ。この女、間の抜けた喋り方の割に、勘だけは妙に鋭い。
「なら、ニャーはさらに沸るなー。最近は反乱起こした雑魚を沈めてばかりで退屈してたからなー」
「反乱だぁ?」
「深く説明するつもりはないなー。詳しく聞くのは諦めるのだなー」
さっきの台詞をそのまま返された。だが、この2週間の空白の意味は、なんとなく読めた気がする。最強と謳われた喧嘩師が正体不明の男に敗れたことで、下剋上を狙う連中が動き出したのだろう。
馬鹿な話だ。俺が勝てたのは、あの時ばかりは運が味方しただけに過ぎない。ニャーの強さそのものは、疑いようがないというのに。
「……わかった。再戦、してやるよ」
「おー、いきなり乗り気かー。なんか、怪しいぞー」
「脅したのはテメェだろうが。おら、さっさと案内しろよ」
もっとも、ニャーには悪いが、次はもう運に頼るような真似はしない。あの一戦から2週間、かつての感覚はすでに完全に戻っている。無様に地を這うような戦いには、二度とならない。数分もあれば、決着はつくはずだ。
一方的な勝利。それなら、さっさと片をつけて、力の差を骨身に染み込ませてやるのが得策に思えた。そうすれば、この理不尽な絡みも終わるはずだ。
「まぁいいなー。ほら、ついてくるんだぞー」
⭐︎⭐︎
河川敷の高架橋の真下に、その姿はあった。
まさか30分近く歩かされるとは予想しておらず、額にはすでに汗が浮いている。
だというのに、目の前のニャーは涼しい顔で、漆黒の髪を風になびかせていた。
着ているのはデニムのジャケットに、ダメージ加工の入ったホットパンツ。膝丈の黒いストッキングが、脚の輪郭を際立たせている。
ジャケットの左胸には銀のストラップが揺れ、その下は前回と同じ黒のインナーが覗いていた。
右手には、茶色い紙袋がぶら下がっている。
「おせーぞ。このニャーを待たせるとは、相当な命知らずだな。あ?」
「ざけんな。こちとら、急な呼びつけに付き合ってやってんだ。文句言うな」
「……相変わらず、クソ生意気な口の聞き方だ。しばいてやる」
ニャーは紙袋に無造作に手を突っ込むと、重みのありそうな黒い塊を取り出した。所々に白い布地が覗いている。そのまま紙袋を放り投げると、ミスが慣れた様子で腰を屈めてそれを拾い上げた。
広げられた黒い塊の正体は、メイド服だった。
「着替える。少し待て」
「は? 別に着替える必要、ないだろ」
「嘘つくなよおっさん。てめーがニャーのズボン姿を見て残念そうな顔してんのには気づいてんだ。つべこべ言わず、待ってろ」
言うが早いか、ニャーは躊躇なく身に着けたものを脱ぎ始めた。夜風に晒された肌が、街灯の光を淡く弾く。
嫌でも先日の記憶が脳裏をよぎり、下半身が反応しかけた。慌てて腰を前に折り、視線をニャーからミスへと逃がす。
脱ぎ捨てられた衣服を手早く集めて紙袋にしまっていたミスが、そんな俺の様子に気づいたらしい。
「下僕から徴収した金で用意した特注品だなー。仕立ては最高級、肌触りもいいぞー」
「おいミス、余計なこと言うな」
「ごめんだなー」
黒の頭飾りに、中央に小さな鈴のついた首輪。膝下まで丈のある、ゆったりとしたクラシカルな黒いワンピースに、白のフリル。着ている本人の雰囲気とはあまりに不釣り合いな、教科書通りのメイド服だった。
「お前……似合わないな」
「なっ!? ……てめぇ、ふざけんなよ!」
何より、スカート部分のボリュームが決定的に足りない。パニエもドロワーズもなく、生地がただ垂れ下がっているだけなので、全体の印象がどこか子供っぽく見えてしまう。
やはり、根っこは不良なのだ。知識のないまま形だけを真似た、典型的な失敗の産物。
これでは、まずい。あまりにも、まずい。
「残念だがな、ニャーよ。それじゃあ、俺を興奮させることはできないな」
「んだと!? なにを根拠に」
「メイドってのは、ゆとりがあればあるほどいいんだよ。不良を押し付けてキャラ付けも出来てないお前なら、最低限見た目だけでも最高にしてほしかったところだ。なのに、裏地を渋ってこの完成度だとなぁ」
「変態がぁ!」
言い終わるより早く、ニャーが突っ込んできた。今度は最初から爪を伸ばしている。よほど頭に血が上っているらしい。
だが、その動きは、今の俺にとってはまるで緩慢に映る。
伸びる腕を軽くいなし、すれ違いざまに翻るスカートの裾へと手を伸ばす。指先に、柔らかい布地の感触が絡みついた。
あとは重心を落とし、集中して一気に引く。それだけで十分だった。
「うおっ」
あっけなく尻餅をつくニャー。すかさずその腰の上に跨がり、上を取る。
「喧嘩で、こんな隙だらけな服に着替えるのもまるで馬鹿だな。こんな長いものをヒラヒラさせて、掴んでくださいと言ってるようなものだ」
「う、うるせー! 勝負はここからだ!」
下から足をばたつかせ、爪の光る腕を俺の腹めがけて突き上げてくる。だが、その動きに冷静さはない。
振るわれる腕を軽くいなしながら、そのまま拘束にかかる。
「は、放せ、よ!」
鋭く吊り上がった赤い瞳とは裏腹に、震える唇が本音を透かして見せている。抵抗を続けてはいるが、心のどこかではもう、負けを悟っているのだろう。
なら、次に何をすべきかは、考えるまでもない。
「……ん」
ニャーの唇に、自分のそれを重ねた。なおも暴れていた足の動きが、次第に緩んでいく。強張っていた腕からも力が抜け、だらりと地面に落ちた。
唇を離す。
「フェラしろ。お前のは、気持ち良すぎるから好きなんだ」
「……わかったよ」
了承を得て、跨がっていた体を退ける。
だが、油断はしない。
この女が、ただ大人しく従うだけで終わるはずがなかった。
「……おらよ!」
案の定、完全に立ち上がりきる前に、彼女は片腕を支えに体を捻り、大胆な足払いを仕掛けてきた。喧嘩最強を名乗る者が不意打ちに頼る時点でどうかとも思うが、避ける必要すら感じず、そのまま正面から受けてやった。
微動だにせず、見下ろす形でニャーと視線をぶつける。
「……なっ!?」
あらかじめ来ると分かっている痛みなど、恐れるに足らない。呆然と瞳を揺らすニャーの胸ぐらを掴み、力任せに引き起こした。
「お前こそ、俺を舐めないほうがいい。もう、お前に俺は、倒せない」
「て、てめぇ……おまえ、一体何者だ! 只者じゃねぇな!」
パンッ、と乾いた音が河川敷に響いた。胸ぐらを掴んでいた片手を離し、そのままの勢いで頬を打ち抜いたのだ。
頬を押さえ、その場に固まるニャー。
「もう一度言う。フェラしろ、ニャー」
「……やだ」
「あ?」
「……ニャーは、ニャーは、認めねぇ! テメェが俺より強いなんて、認めてたまるか! またリベンジしにくるからな、覚悟しておけよ!」
言うだけ言うと、ニャーは身を翻し、脇目も振らず走り去った。着崩れたメイド服の裾を翻しながら、河川敷の斜面を四つん這いで駆け上がり、その姿はやがて闇に溶けて見えなくなった。
「おー、逃げたなー」
「……聖戦放棄を簡単にできるなら、最初から喧嘩なんか売るなって話だ」
「そうでもないなー」
「あん?」
高架橋の柱に預けていた背を起こし、ミスが紙袋を地面に置いてから近づいてくる。
目の前まで来ると、ためらいなく屈み込み、俺のズボンに手をかけて下ろしていった。
「フェラでいいんだなー」
「おい、なんだ。お前がやるのか」
「そうだなー。でも、仕方ないなー。そういうときのための見届け人だからなー」
「おいおい、聖戦だの喧嘩ルールだのも、適当なんだな」
「そうでもないなー」
夜気にさらされたそこは、まだ力なく萎れたままだった。
ミスはそれをじっと見つめながら、片手で優しく玉袋を包み込むように揉み、もう片方の指先で裏筋をゆっくりと上下になぞってくる。
ぞくり、とした痺れが背筋を駆け抜けた。
心臓が、ドクン、ドクンと、いつもより大きく脈を打つ。
「お前……うまいな」
「男らの相手はよくしてるからなー。経験人数も30は越えてるしー。だから、あまり気負わなくていいぞー」
とんでもない経歴の持ち主だった。あの猫人の懐刀を務めるだけのことはある、油断のならない女だ。
こういう店で働いていた過去でもあるのか、それとも今も現役なのか。判然としないが、そう聞くと、無関係な人間を巻き込んでいるという罪悪感も薄れていく。ならば、遠慮なく楽しませてもらうとしよう。
「そのせいであそこはゆるゆるだなー。使うのは、おすすめしないぞー」
「まぁ、そこはいい。それより、フェラだ。フェラしてくれ」
「あいよー」
丁寧にマニキュアの塗られた指が、球体の輪郭をなぞる。片方の指先は皮膚を傷つけぬよう慎重に皮を摘み、もう片方は掌全体で玉袋を包み込むように撫でていく。ピンクのツインテールを揺らしながら顔を近づけたミスが、そのまま竿を掴み上げた。
薄く開いた唇の隙間から、赤い舌先がゆっくりと覗く。舌先が、悪戯するように小刻みに動いた。
やがてその舌が、先端を執拗なほどの速さで刺激し始める。
快感というより、優越感に近い感覚だった。若い女がわざわざこれをしてくれているという事実だけで、胸の奥がじんわりと満たされていく。
なかなか、先へ進めてくれない。もどかしさすら覚えたが、これがミスなりのやり方なのだろう。あえて口を挟まず、好きにさせてやることにした。
目を閉じ、感覚だけに意識を集める。
だが。
「かわれ、ミス。やっぱり私がやる」
逃げていったはずの声が、不意に耳を掠めた。ゆっくりと目を開け、息を吐きながら、割り込んできたニャーの顔を見据える。
「なんだ。戻ってきたのか」
「我ながら無様に取り乱しちまった。それは、認める。ただな、こうして戻ってきたんだ。馬鹿にしてみろ。殺してやる」
「へいへい」
腕組みをして睨みを利かせてくるニャーに、これ以上取り合うのも面倒に思え、適当に流しておいた。
視線を落とすと、ミスは俺とニャーを見比べたのち、あっさりと手を離して距離を取っていた。そのまま立ち上がり、元いた高架橋の柱の下へと戻っていく。
「なんだよミス。不満なのか」
「べっつにー」
ニャーの問いかけにも素っ気なく答え、両手を後頭部で組みながら、口笛を吹き始めた。
「邪魔されたからだろ。せめて、終わってから声かければよかったんだ」
「ふん。最初から、ミスは喧嘩とは無関係だろうが」
「その無関係を介入するきっかけを作ったのはどこの誰だ」
「……ぶち殺してやる」
嫌な予感がして、下ろしかけたズボンをすぐに引き上げた。
予想通り、まだ着崩れたメイド服のまま、ニャーは猛然とこちらへ突っ込んできた。深く前傾した体勢に合わせて、スカートの裾が頭の高さまで跳ね上がっている。
草を薙ぎ、風を巻き上げながら迫るその勢いは、やはり喧嘩最強と呼ばれるだけのものがある。
だが、その突進を、また容易く避けてしまう。何度目であろうと、単調な直線攻撃。プライドばかりが先行した、経験の浅い攻め方だ。
脆い。話にならないほど、脆い。
「……なっ!」
なびくスカートの裾を捕まえようと手を伸ばした、その瞬間だった。ニャーは動きの慣性を無視するかのように、突然身を沈める。つられて裾の軌道が変わり、手は空を切った。
そして片足を大きく横に振り抜き、渾身の足払いを放ってきた。
だが、これも想定内の痛みでしかない。あらかじめ受ける覚悟さえあれば、恐れるほどのことはない――そのはずだった。
視界の先に、迫る足が見えた。
「なん!?」
頬に、鈍い衝撃が走った。踏みとどまれず、たたらを踏むようによろめく。少し遅れて、刺すような痛みが追いついてきた。
まずい。今の自分は、完全に隙だらけだ。
「油断しやがってなぁ!おい!」
霞む視界の端に、勝ち誇るニャーの声が響く。この流れなら、次は必ずマウントを取りにくるはずだ。その瞬間こそ、反撃の糸口になる。
思った通り、体勢を崩したまま地面に組み伏せられた。トドメの一撃が来る――いや、来なければならない。それでこそ、逆転の目が生まれる。
だが、いつまで経ってもニャーは体重を預けてこなかった。代わりに、右腕にただならぬ重みがのしかかる。
「……締め技か!」
「ご明察! ニャーの特技は捻り上げ。とくと、味わえやぁ!!」
太ももで右腕をがっちりと挟み込み、両腕を使って渾身の力で引き絞ってくる。
脳天を針で刺されるような激痛が走り、体が本能的に拒絶反応を起こした。
「ったぁぁぁ! がぁぁぁ!」
「おら、負けを認めろ! でないと、マジで外すぞ、おら!」
これまでの屈辱を晴らすかのように、ニャーは笑いながら降参を迫ってくる。
無理もない。この状況で自分が負けるなど、想像すらしていないだろう。
だが、冷静に状況を見れば、左腕は自由なままだ。両足も、拘束されていない。痛みに支配されているのは、右腕と頭の中だけ。
たった、それだけのことだ。
むしろ問いたい。この状況の、どこに負ける理由がある。
腹筋に力を込め、両足を大きく振り上げる。体をニャーのいる方向へ大きく傾け、逆にその首を自分の太ももで挟み込んだ。
「な、なんだと!?」
「油断したな、ニャー」
挟んだ太ももに力を込める。それだけであっさりと右腕は自由になり、止まっていた血流が一気に戻ってくる感覚が、痺れとなって腕を駆け抜けた。
「ぐ、ぐぅぅぅぅ」
「おら、降参しろ。でないと、死ぬぞ」
「だ、だれが……うぅぅううぅ」
ばたつく足と、太ももを叩く両手のタップ。決着が首絞めというのも、いささか味気ない話だ。
拘束を、緩めてやった。
「ごほっげほっ! がはっ!」
解放されたニャーは、そのまま四つん這いに崩れ落ち、激しく咳き込んだ。
立ち上がってズボンを下ろし、咳き込む彼女の隣に腰を落とす。顔のすぐ横に、猛った肉棒を突きつけた。
「おら、フェラしろ」
「……くそが」
荒い呼吸を整えると、ニャーは着崩れたメイド服を軽く直し、正座の姿勢をとった。そして手を使わず、口だけでそれを迎え入れる。
憎悪の滲む赤い瞳が、鋭く細められていた。
「あー、ん。……ぐりゅぅぅ……ずりゅ…じゅるる…ぐっぽ、ぐっぽ」
「あっ……やべっ、くそっ」
巻きつく舌の動きが、尋常ではなかった。顔を前後に揺らしながら吸い付いたかと思えば、次の瞬間には一気に吐き出す。押し寄せる快感の波が、途切れることなく脳を揺さぶり続けた。
「ぐっぽ、じゅっぽ、ちゅる…ちゅる…じゅるぅぅぅ」
口の端から溢れた唾液が顎を伝い、ぽたぽたとメイド服の生地を濡らしていく。立っていることすら覚束なくなり、支えを求めて彼女の頭にそっと手を置いた。
「びゅるるるるぅ、ぷはっ……んだよ。イラマでもする気か、てめぇ」
「はぁ、はぁ……いや、しねーよ。ただ、支えが欲しかっただけだ」
「ふーん。なら、続けるぞ。さっさと出しやがれ」
言うが早いか、ニャーは再び竿を咥え込んだ。こちらは息が上がっているというのに、彼女に苦しそうな様子は微塵もない。
これほどまでにフェラが巧みな理由が、いよいよわからなくなってくる。
「じゅるるぅぅ、ぐっぽ…びゅるるるぅ、じゅぼぼぼ、ぐっぽ」
強く吸い上げたかと思えば、舌を絡めながら顔を前後に振る。頭を押さえる手に力を込めたい衝動を、なんとか堪えた。
「びゅるるるるぅぅ……じゅる…ちゅぱ、んっく…じゅるる…ちゅ、ちゅぱぁ、じゅる、ぐぽ、ぐっぽ、じゅぽ…ぐっぽ、ちゅぱ、じゅる…びゅっ…ぐぼぽ」
「あっ、まずい!」
強烈な吸引の後に、休む間もない高速の抽送。髪を振り乱し、顔を回すようにして激しく前後する。限界は、もう目前まで迫っていた。
「やばい……でるっ」
「ぐぽぽっ!…じゅるる……んんん!?」
喉の奥へと放たれる。粘度のある熱が口内を満たし、竿全体が白濁の熱気に包まれていく感覚があった。
急いで、口から自身を引き抜く。
「っじゅぽ……ゲホ!ゲホゲホ!」
案の定、ニャーは激しくむせた。呆然と立ち尽くしていると、横からミスが姿を現した。
手には、いつの間にか用意していた数枚のティッシュ。ニャーの傍らに屈み込むと、それをそっと口元にあてがった。
「おー、よくがんばったなー。ほら、出せよー」
「……わりぃ、ミス。助かった」
ふたりの視線が、揃ってこちらに向けられる。詫びなければ、と思った。
「わ、悪い。もっと早く、言ってやるべきだった」
「あん?別に気にしてねー。それより、本番のことだ。ここでしてもいいし、移動してもいい」
口元を手の甲で拭いながら立ち上がり、ニャーはさっさと話を先に進めてくる。
本番という響きには、確かに惹かれるものがある。だが、一度発射したことで、正直なところもう満足に近い感覚があった。
「いや、本番はいい。もう、満足だ」
思ったことを、そのまま口にした。ニャーは唇を尖らせると、丸めた唾を地面に吐き捨てる。
「んだと、こら。てめぇ、ニャーを抱けねぇってのか」
「違う。そうじゃない。ただ、満足しただけだ。お前の口が、上手すぎて。……本当だ」
顔を見合わせるふたり。ニャーは腕を組み、ミスは小さくあくびを漏らした。
「なら、回復するまで待ってやる。おいミス、適当にパニエ買ってこい」
「んー、もう開いてる店、ないと思うなー」
「んだよ。なら、心当たりとか、ねぇのか」
「ないなー」
「くそが」
ミスから視線を外し、ニャーは自分のメイド服の裾を摘むと、それをゆっくりとたくし上げていく。
秘部を晒すことで反応を引き出そうという算段なのだろう。だが、こちらの下半身はやはり無反応のままだった。
その様子を見て、ニャーも不満げに片目を細め、露骨に不機嫌な表情を浮かべた。
「なら、後日正式にラブホでやる。それでいいか」
「……まぁ、それなら」
「ちゃんとこいつも仕上げてくっから。あまり1人で発散するんじゃねぇぞ」
メイド服の裾を軽く払いながら、そう言い放つニャーに、黙って頷き返した。
「後日って、いつだ」
「さぁな。ニャーも忙しいんだ。また、ミスを使って呼びに行かせるから、黙って待ってろ」
言い終えると、ふたりはあっさりと踵を返し、河川敷の闇の中へと消えていった。後には、生ぬるい夜風だけが残された。