※この作品はR-18です。

エロティカ・タウン   作:あーきもてぃー

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ほらよ、ニャーからのご褒美だ。

 

 休日。それは社会人にとって、何物にも代え難い至福の時間だ。

 

 平日にできなかったこと、やりたかったことを計画的にこなし、擦り減った精神を組み直すための貴重な一日。

 

 とはいえ、好き勝手に過ごせばいいわけではない。下手な時間に昼寝をすれば生活リズムは容易に崩れ、普段しないことを無理に詰め込めば、今度は体が疲労というダメージを負う。

 

 つまり、どこへも出かけず、家でゆっくりするのが至高。

 

 映画を見て、飯を食べ、昼寝は30分に留める。そうして惰性で夕方まで辿り着けば、次に待つのは休日の本番、夕食だ。

 

 幸い、独身貴族の懐には多少の余裕がある。夕食に何か美味いものさえ食えれば、それだけで休日のノルマは大部分達成したといえよう。

 

 適当に目玉焼き定食を作り、テレビにニュース番組を映したまま、手元のスマホで映画を流す。

 

 一人暮らしに、行儀の悪さを咎める者はいない。

 

 そうして時間を忘れて見入っていた、そのとき。

 

 チャイムが鳴った。

 

「あん?」

 

 重い腰を上げ、インターホンの画面を覗く。

 

 だが、誰も映っていない。

 

 悪戯か? だとしても、まぁ、一応見ておくか。

 

 一々靴を履くのは面倒だ。かといって、玄関の土間に足をつけるのも嫌なので、上がり框に足を残したまま、片手を壁について上体だけを目一杯扉へ伸ばす。

 

 何のストレッチだ、と自分に突っ込みたくなる格好で、どうにかドアノブを掴んだ。

 

「邪魔するぞ、おっさん」

 

 わずかに開けた扉が、外から勢いよく押し広げられた。

 

 支えを失った俺の体は伸び切り、そのまま玄関の土間へと落ちる。頭上から声と影が降りかかり、顔の横に突如として他人の足が現れた。

 

 その足は靴だけを残し、当然のように室内へ上がっていく。

 

 ニャーが、きやがった。

 

「いてて……お、おい。どうしてこの家が分かりやがる!」

 

「あまりでかい声を出すなよ、おっさん。近所迷惑だろうが」

 

 人の家に勝手に上がり込んだ奴に、正論を吐かれる筋合いはない。

 

 体を起こして追いかけると、ニャーはすでに冷蔵庫を開けていた。勝手にピッチャーを取り出し、顔を上げて、そこから直接お茶を口へ流し込んでいる。

 

 飲みきれなかった分が、口元からだぼだぼと溢れ、フローリングを濡らしていった。

 

 その頭を、思い切り引っ叩く。

 

 お返しに胸ぐらを掴まれたが、足払いをかけ、その辺に転がしてやった。

 

「やめだ、やめやめ。ニャーは喧嘩をしに来たわけじゃねぇ。てめぇを呼びに来たんだ」

 

「好き勝手に荒らしておいて、何が呼びに来ただ。これで納得できると思ってんのか」

 

「あん? ギャンギャン騒ぐなよ。少し出かけるぞ。準備しろ」

 

 厚かましいにも程がある。

 

 そもそも、出かける出かけない以前に、どうしてこいつがここにいる。

 

「つか、お前。なんでこの家を知ってんだ。どこで調べやがった」

 

「あん? んなの、てめぇの職場にニャーの下僕がいるからに決まってんだろ。阿呆か、てめぇ」

 

「……嘘だろ」

 

 呆然と、天井を仰いだ。

 

 ニャーに絡まれた時点で、俺の平穏な日常はとっくに終わっていたらしい。

 

 この家が、バレた。

 

 もう何もかもどうでもよくなり、そのままフローリングの上に体を倒す。

 

「んで、出かけるってのは、どこにだ。また、くだらない決闘か?」

 

「阿呆か、てめぇ! だから今日は喧嘩じゃねぇっつってんだろうが。話聞いてんのか、こら!」

 

 人には近所迷惑を指摘しておいて、いきなり大声を出すニャー。

 

 やはり不良。唯我独尊。下僕を侍らせているだけはある。

 

「なら、どこへ行くんだよ。ミスのやつは、どこにいる」

 

「ミスはこねーよ」

 

「前は、あいつを寄越すって言ってたろ」

 

「気が変わった。今日は二人きりだ」

 

 だるそうに答えながら、ニャーはリモコンを操作し、ニュース番組をバラエティ色の強いものへと変える。

 

 視線はすぐテレビへ釘付けとなり、俺の顔すら見なくなった。早く準備しろと催促する気もないらしい。

 

 いよいよもって、こいつの意図が読めない。

 

「二人でどこへ行くってんだ。まぁ、準備はしてやる」

 

 このまま問答しても、面倒なことに変わりはない。なら、さっさとこいつの願いを叶えて、早く解放されることを期待するしか――いや、待て。

 

「こんな真っ昼間から、ラブホか」

 

「あ?」

 

 ニャーが、こちらを見た。元々悪い目つきを、さらに細めている。

 

「こないだ、後でラブホへ行くって言ってたろ。今日来たのは、それだろ?」

 

「……下衆が」

 

 罵倒された。

 

 たまらなくなり、こちらも反撃する。

 

「何が下衆だよ。だったら、いい加減どこへ何しに行くか言えよ。早く」

 

「家を出りゃ分かる。黙ってさっさと準備しろや」

 

 またもテレビに意識を戻すニャー。

 

 もう食らいつくのも馬鹿らしくなり、着替えることにした。

 

 細身に見えて締めつけの少ないジーンズに、白のインナー。その上から、柄の入ったワイシャツを羽織る。

 

「おら、着替えたぞ」

 

「……ふん。中々悪くない格好じゃねーか。なら、さっさと出かけるぞ」

 

 ニャーはテレビを切り、立ち上がった。

 

 今日の装いは、左胸にピンクのキャラクターが描かれた、丈の短いへそ出しシャツ。その下には、裾に青いラインが二本入った白のプリーツスカートを穿いている。

 

 本人の性格に似合わず可愛らしいが、動きを妨げるものは少ない。見た目と動きやすさの両方を取った格好、といったところか。

 

 ニャーは俺の横を通り過ぎ、乱暴に脱ぎ捨てていた靴を履くと、さっさと外へ出ていった。

 

 それを追い、俺も家を出る。

 

 幸いにも雲が多く、直接的な日差しはない。それでも、梅雨入り目前のじめじめとした空気が、肌へ不快にまとわりついてきた。

 

「まずは飯だ。イタリアンだな。ピザを食いに行くぞ」

 

「おいおい、俺の意思は」

 

「こういうときは女の意思を尊重するもんだろ、てめぇ!」

 

 咆哮と共に、ニャーの腕が俺の首へ巻きつく。

 

 僅かに力は込められているが、本気で首を絞めるつもりはないらしい。たまたま通りかかった通行人から白い目を向けられながら、二人揃って遅い歩幅で進んでいく。

 

「ところで、メイド服は完成したかよ」

 

「あん? ……あぁ、あれな。あれはまぁ、秘密だ」

 

 首に巻きついた腕を剥がしながら、ニャーが歯切れ悪く答える。

 

 一体、メイド服ごときに何を隠しているのか。相変わらず、こいつの考えはよく分からない。

 

「秘密、ねぇ」

 

 深入りしなかったことで、二人の間に静寂が訪れた。

 

 駅方面へ歩みを進めながら、ニャーは一歩前へ出て、俺を先導するように歩いている。

 

 その歩き方は堂々たるものだった。反対側から人が来ても、道を譲る気配がない。たまに大柄な男が鋭い眼光を返しながら近づいてくるが、ニャーの間近まで迫ると、その額に冷や汗を浮かべて進路を変えていく。

 

 まぁ、気持ちは分かる。

 

「お前、働いていてもおかしくない年齢だろ。少しの社会性くらい身につけろよ」

 

 ぼそっと口にしただけのつもりだった。

 

 だが、ニャーは黒い猫耳をぴくりと揺らし、その場で立ち止まった。

 

「このニャーに説教か。そういう大人の言葉はな、ニャーが一番嫌いなものだ」

 

 こちらへ振り返ることもなく、ただ静かに紡がれた言葉だった。

 

 少しでも不快になれば声を荒らげる。それが、これまでに知ったニャーという女だ。だからこそ、怒鳴りもせずに吐き出された一言には、下手に踏み込ませない重みがあった。

 

「だよな。悪かった」

 

 簡単に、引き下がった。

 

 確かに、出過ぎた真似だった。ニャーとは出会ってまだ間もない。数少ない絡みが濃厚すぎるだけで、その実、俺はこいつのことを何も知らない。

 

 ニャーには、ニャーの人生がある。それを無視しての説教は、余計な世話だ。

 

「分かればいい」

 

 そうしてまた、お互いに無言となった。

 

 俺は少し先を歩くニャーの姿を眺める。鍛え抜かれた体に、洗練された服装。

 

 視線を僅かに下げれば、白いプリーツスカートが目に入った。

 

 ニャーの歩幅に合わせて、その裾が右へ左へと軽やかに揺れる。

 

 この布は、どんな刺激を与えてくれるのだろうか。

 

「何してんだ、てめぇ」

 

 気づけば、俺はスカートへ手を伸ばしていた。

 

 指先で、揺れる裾を捕まえていた。

 

 案の定、ニャーは足を止め、鋭くこちらを睨んでくる。

 

 俺は摘んだ布を離さないまま、口角を持ち上げて、その顔を見返してやった。

 

 ニャーも裾を払い除けようとはせず、ただ俺の顔を凝視している。

 

「悪い。気がついたら摘んでた」

 

「だとしたら、その顔は何なんだ。あ? 変態がよ」

 

 摘んだ裾を指先でこね、折り重なった生地が小指の腹をくすぐる感触を堪能してから、手を離す。

 

 もう触らないという意思表示のつもりで、空になった手をニャーの顔の前へ持ち上げ、二度ほど握って見せた。

 

「……また変なことされたらかなわねぇ。その腕、貸せや。拘束してやる」

 

 ニャーは顔の前を賑わせていた俺の手首を、パシンと掴み取った。指の力が食い込み、鋭い痛みが手首の周囲へじわりと広がる。

 

「そんな焦んなよ。今日のニャーを満足させたら、望みを叶えてやっから」

 

 そう言って、ニャーは俺の手を掴んだまま歩き出した。

 

 満足させれば、望みを叶えてくれる。

 

 なるほど。なら今日は、ニャーの行動や言動へ、あまり突っ込みを入れないほうがいい。下手に不機嫌にして、ご褒美を没収されたら敵わない。

 

 前回の勝負で勝ち取った権利がある以上、こいつの機嫌に関係なく好きにできるはずなのだが、それは指摘しないでおく。

 

「ここだ。ここが、うめぇんだ」

 

 それから歩くこと15分ほど。名前だけは知っている、小洒落たイタリアンへと辿り着いた。

 

 ニャーは昼時だというのに店員の案内を待たず、勝手に空いている席へ腰を下ろす。

 

 周囲から奇異の視線を向けられる中、店員が背中を丸めながら近づいてきた。

 

「に、ニャー様。いらっしゃいませ」

 

 その姿は、かなり不思議な取り合わせだった。

 

 白いエプロンの映える清楚な制服。だが、彫りの深い顔立ちに、日焼けした黒い肌。ごつごつとした頬骨と顎髭が作り出す厳つい印象は、いくら背中を丸めても隠せていない。

 

 そんな男が、対面に座るニャーへひどく下手に出ている。

 

「よう、トウマ。元気してっかよ」

 

「は、はい。おかげさまで。……あの、お金は必要ありませんから」

 

「はは、当然だよなぁ」

 

 どうやら、このトウマという男は、ニャーをかなり恐れているらしい。

 

 下僕か。

 

 考えても分からないので、素直に聞くことにした。

 

「下僕か?」

 

「元、な。路頭に迷いそうなところを、知人に何とかするよう頼んでおいたんだが。……まさか店長とは、随分出世したもんだ」

 

「なんだ。永遠の下僕ってわけでもないんだな」

 

 開きかけていたメニューで顔を隠していたニャーが、その脇からこちらを覗き込んでくる。普段は鋭い目を僅かに垂らし、呆れた様子だった。

 

「勝手に逃げんのは許さねぇ。だが、ニャーが見限って解放する分には別だ。倒すたびに下僕を増やしてたら、とんでもねぇ数になるだろうが。増えた分、使えない奴はクビにする。あいつは、その例だ」

 

「ほーん。実力主義、ねぇ」

 

 確かに、喧嘩師として不敗を謳われたニャーにしては、下僕の人数が二十人というのは少ない気もしていた。

 

「でもまぁ、下僕を二十人も侍らせるだけで大したもんだ。普通、一桁が相場だろ」

 

 再びメニューへ顔を隠していたニャーが、またもその脇から顔を出す。今度は先ほどよりも、余計に悪い顔だ。口元がひん曲がっている。

 

「二十人? 何を勘違いしてんだ」

 

「ミスの奴が、二十人いるって言ってたぞ」

 

「そりゃ、幹部連中の話だ。初対面のおっさんに、こっちの内情を一から十までペラペラ話すわけねぇだろ。下まで合わせりゃ、百は超えてる。あまりニャーを舐めるなよ、おっさん」

 

 そう言って、ニャーはメニューをテーブルへ倒した。

 

 言われてみれば、ミスは二十人が全員だとは一言も言っていない。勝手に総数だと思い込んでいたのは俺だ。

 

 それにしても、百人超え。

 

 どうやら俺は、思っていたよりも遥かに面倒な女を下僕にしてしまったらしい。

 

 今度は、俺が注文を決める番だ。

 

 メニューは一つしかないので、テーブルに置かれたそれを拾おうとする。だが、ニャーはメニューを自分の胸元へ手繰り寄せたため、伸ばした手は空を切った。

 

「てめぇは、ニャーのおすすめでも食ってろ」

 

「……お前、この店へよく来るんだよな。トウマが店長になったこと、知ってたんじゃないのか?」

 

「いや、それは嘘じゃねぇ。ここへ来るのは二か月ぶりだ。その間になったんだろうよ」

 

「ふぅん」

 

 まぁ、いい。そんな細かいことは。

 

 それに今日は、こいつを不快にさせないと決めた。黙って、おすすめとやらを食べることにしよう。

 

 空中に取り残されていた腕を、自分の元へ戻す。

 

「へへ、いい子だ。ニャーポイントを一ポイントだけやろう」

 

 黒い猫耳を前後へ小刻みに揺らしながら、ニャーが口角を上げて頷く。

 

 どうやら、今の選択は正解だったらしい。

 

 ニャーは間もなくトウマを呼びつけ、注文を伝えた。俺の分は、魚介と辛口ソースのきのこピザだった。

 

 そして、待つこと10分。

 

 ニャーの前には無難なマルゲリータが置かれ、俺の前には辛口のピザが運ばれてきた。

 

 鼻腔をくすぐる、焼けたチーズと魚介の匂い。その奥に混じる辛味が、鼻の粘膜を僅かに刺激してくる。

 

 ピザカッターを手に取り、生地の上へ立てる。

 

 ふと、ニャーを見た。

 

 マルゲリータを半分に折り畳み、両手で鷲掴みにして、豪快に口へ運んでいる。

 

「……おお、すげぇ」

 

 思わず、声が漏れた。

 

 口いっぱいにピザを頬張ったニャーが、こちらを凝視しながら何かを訴えてくる。

 

 多分、文句でもあるのか、と言いたいのだろう。

 

 俺はニャーが飲み込み終える前に、手元のピザへ意識を戻した。

 

 結果からいえば、辛さは程よく、魚介ときのこの風味が複雑に絡み合う、かなり美味いピザだった。

 

「うめーな、これ」

 

「だろ、だろ! それ、最高なんだよ」

 

 口の周りをピザで汚しながら、ニャーが満面の笑みを浮かべる。

 

 ……心臓が、跳ねた。

 

「だったら、なんでお前はこれを選ばなかったんだ」

 

「あん? だって、それ具が多いだろ。流石に男を連れて食べるのに、ぽろぽろこぼしたらみっともねーからよ」

 

 ああ、まぁ、これを折り畳んで食べたら、とんでもないことになるのは目に見えている。

 

 というか、そういう目を気にするなら、最初から切って食べればいいのに。

 

 いや、これがニャーの良さなのだろう。

 

 何をするか分からない。少し分かった気になった途端、平然と予想を外してくる。

 

 こいつは、このままでいい。

 

 指摘したところで、精々不機嫌になるだけで、何も変わりはしないだろうが。

 

 それからは、お互い無言でピザを食べ進め、揃って完食した。

 

 休む間もなくレジへ向かい、表示された金額に目を見開く。

 

 ピザを二枚しか注文していないのに、会計は六千円を超えていた。もっとも、その数字はレジに現れた途端、ゼロへと変わったため、支払いそのものはなかったのだが。

 

 とんでもない高級店だった。

 

 そりゃ、あれだけ美味いのも納得だ。

 

「んで、これからはどうするんだ」

 

「次はパスタを食べに行くぞ」

 

「……は?」

 

 店の外へ出て、腕を組んだまま天へ伸ばし、体をほぐすニャー。その口から飛び出したのは、聞き間違いを疑う答えだった。

 

「あん? まさか、文句でもあんのか」

 

「いや、ない。ないぞ。むしろ素晴らしい提案だ。推奨する」

 

「……ニャーポイント没収だ。わざとらしすぎる」

 

 そんなぁ。

 

 ☆☆

 

 カラオケボックス。

 

 パスタ、デザートと食べ歩いたニャーが最後に選んだのは、駅前にある大型のカラオケ店だった。

 

 四階建ての大規模な店舗で、その最上階にある角部屋へと案内される。

 

「ニャー様、四階は貸切です。それと、こちらがミス様よりお預かりしていたものになります」

 

 どうやら、この店にもニャーの下僕がいるらしい。

 

 ニャーは店員から紙袋を受け取ると、そのまま俺を連れてエレベーターへ乗り込んだ。

 

「ほらよ、ニャーからのご褒美だ」

 

 そう言って、紙袋から一つの小さな箱を取り出す。

 

 コンドームだった。

 

 俺は、勃起した。

 

「ニャーは別に生でいいんだが、ミスに怒られてよ。悪いが、ここは奴の顔を立てて我慢してくれ」

 

 その箱を受け取り、一つ頷く。

 

 間もなく、エレベーターが最上階へ到着した。

 

 ☆☆

 

 カラオケボックスの角部屋は、極めて広かった。

 

 部屋の片隅にはコスプレ衣装がラックに並べられ、その奥には着替えのためのスペースまで確保されている。

 

 なるほど。ラブホテルではないが、これなら人目を気にする必要はない。

 

 ニャーは紙袋をその辺に放り投げると、俺と向き合った。

 

「選べ。フェラか、それともセックスか」

 

「フェラで頼む」

 

「あいよ。座るか?」

 

「いや、俺にも尽くさせてくれ」

 

「……へへ、上等」

 

 ただ口で気持ち良くなりたいだけなら、わざわざニャーである必要はない。

 

 俺が見たいのは、あれだけ太い態度を崩さない女が、自分の与えた刺激で余裕を失っていくところだ。喧嘩では二度とも勝った。なら今度は、違う方法でもこいつを負かしてみたい。

 

 我ながら、随分と性格の悪い欲だと思う。

 

 俺は衣服を脱ぎ捨て、横幅にゆとりのあるソファへ移動すると、そこへ仰向けに横たわった。

 

 ニャーも上半身の衣服を脱ぎ捨て、スカートだけを残した姿になる。

 

 言葉にせずとも、俺の望みは伝わったらしい。

 

 出会ってから大して日も経っていない。それなのに、スカートだけは残せという俺の趣味を、こいつはもう説明なしで理解している。

 

 その事実が、妙に腹の奥を熱くさせた。

 

 ニャーは俺の頭を跨ぎ、顔の前へ尻を向けたまま、ゆっくりと腰を下ろしてきた。同時に上体を倒し、俺の下半身へ顔を近づける。

 

 スカートの裾が腹部をしつこく撫で上げ、ぞわりとした快感に思わず身じろぎした。

 

 最初の夜は、こんな刺激があることすら知らなかった。偶然触れた布に体が反応し、自分でも理解できないまま性癖を暴かれた。

 

 だが、今は違う。

 

 昼間、こいつの腰で揺れていた白い布が、次は自分の肌をどう撫でるのか。俺はそれを、ここへ入ったときから待っていた。

 

「おい、おっさん。あまり気張るなよ。すぐに出ちまっても、仕方がねぇ」

 

「ああ、分かってる」

 

 視界いっぱいに、ニャーの秘部が迫る。

 

 それと同時に、肉棒が温かな湿り気に包まれた。ニャーの口へ、根元近くまで収まっていく。

 

 俺も舌を伸ばし、ニャーを愛撫した。

 

「じゅる……んにゅ……しょれ、だめぇ」

 

 ニャーの甘い声が、股の向こう側から響いてくる。

 

 彼女が身じろぎするたび、プリーツ加工されたスカートのひだが腹を擦り、細かな快感が全身を駆け抜けた。

 

 もっと気持ち良くして、もっとニャーを動かしたい。

 

 その一心で、舌先を激しく動かす。

 

「ぐりゅ……あむ……みゅり……しょれ……いくぅ」

 

 正直、フェラとしての気持ち良さはほとんどない。ニャーはすっかり自分が感じることに必死で、口での奉仕が疎かになっている。

 

 だが、その分だけ腰は震え、スカートのひだが俺の肌を何度も撫でてくる。

 

 だから、このままでいい。

 

 喧嘩なら、相手の動きを止めれば俺の勝ちだ。

 

 今は逆に、ニャーを大きく動かすほど俺が満たされる。こいつを負かしたいはずなのに、終わってほしくはない。

 

 まったく、面倒な勝負だった。

 

「んくっ……じゅる……じゅるる、ぐぷぷ……イ、イクっ!」

 

 尻が、大きく跳ねた。

 

 秘部がうねりを上げながら、俺の舌の上で何度も上下する。

 

「……おい。駄目だ、集中できねぇ。向き、変えるぞ」

 

 俺の返事も待たず、ニャーはいったん腰を持ち上げ、ソファの上でくるりと体の向きを変えた。

 

 今度は俺の腹を跨ぎ、互いの顔が至近距離で向かい合う。

 

 首を少し持ち上げ、舌を伸ばす。中途半端に開かれていたニャーの口へ、そのまま差し入れた。

 

 ニャーは満更でもなさそうに唇を閉ざし、俺の舌を挟み込む。舌先を上下へ揺らし、口の中で愛撫してきた。

 

 怒りで吊り上がった顔も、痛みに歪んだ顔も、すでに何度も見ている。

 

 だが、頬を赤くして俺の舌を弄ぶ顔は、まだ見慣れない。触れているのは舌先だけのはずなのに、股間を咥えられていたときよりも、心臓の音が近く感じられた。

 

「……へへ。何だよ、このプレイ。さすがおっさん、よくもまぁ色々と思いつく」

 

「挟んだのは、お前な」

 

 ニャーは頬を赤らめながら、ずるずると俺の下半身側へ這っていった。

 

 顔はこちらへ向けたまま、手探りで肉棒を探り当てる。

 

 スカートの裾が肉棒へ引っかかり、テントのように張っていた。

 

「手コキでいいか」

 

 ニャーはスカートを摘み、肉棒の上から退かそうとする。だが、俺はその手を止めた。

 

「待て。被せたままでやれ」

 

「……正気か、てめぇ。痛いだけだろ」

 

「やってみなきゃ分からんだろうが」

 

「……クソが」

 

 ニャーは一度持ち上げた布を、再び肉棒へ被せた。その表面に手のひらを当て、布ごとゆっくりと握り込む。

 

 シュッ、シュッ、と生地の擦れる音が、部屋の中へ響く。

 

「何か、普通に痛いな」

 

「当たり前だろ、おっさん。だからやめておけと言ったんだ」

 

 布の繊維は思っていたよりも刺激が強く、擦れるたびに肉棒がちくちくと痛みを訴える。

 

 とはいえ、ニャーが自ら腰へ纏い、ひらひらと揺らしていた布に包まれているという事実だけで、十分に興奮はできた。

 

「すまん、もういい。ゴムをつけろ。上に跨がれ」

 

「ったくよ。無駄なことさせやがって」

 

 どうやら俺は、まだ自分の性癖を完全には理解していないらしい。

 

 布なら何でもいいわけではない。ニャーの腰で揺れ、その脚や俺の肌へ偶然触れるからこそ、あの刺激になる。ただ被せて擦れば再現できるというほど、単純なものではなかった。

 

 スカート越しの手コキは、視覚と優越感の面では悪くない。ただ、気持ち良くはない。実験としての満足は、すぐに訪れた。

 

 ニャーは中央のテーブルへ手を伸ばし、置かれていた箱を器用に開封する。中から一つを取り出すと、俺の肉棒へ被せ、根元まで転がしていった。

 

 そのまま俺と向かい合うように腰を跨ぎ、左手で肉棒を掴み、右手でスカートをたくし上げる。

 

 照準を合わせ、ゆっくりと腰を下ろした。

 

 ぬめりとした感触が、肉棒を包む。

 

「んっ……あっ」

 

 ニャーは俺の腹部へ両手を置き、肩で息をする。

 

 だが、何を思ったか、すぐに勢いよく立ち上がった。

 

「ゴミだ。マジでゴミだ。まるで気持ち良くねぇ」

 

 いや、普通に感じていたと思うのだが、それでも満足できるものではなかったらしい。

 

 ニャーは俺の肉棒からゴムをつまみ取ると、その辺へ放り投げた。

 

「やっぱ生が一番だな。おい、おっさん。出したくなったら言えよ。前みてぇに中出しはすんな」

 

「……豪快だな」

 

 たった一枚隔てただけで、そこまで違うものなのか。

 

 俺には温度が僅かに遠くなった程度にしか思えなかったが、ニャーは一瞬で見切った。気持ち良くないものを我慢して続けるという発想自体が、こいつにはないらしい。

 

 その潔さは、少し羨ましかった。

 

 再び先ほどと同じ要領で、ニャーがゆっくりと腰を落とす。

 

 今度は先ほどよりも温かい。ぬるりとした感触が、肉棒へ直接絡みついてくる。

 

 ニャーは歯を食いしばりながら、自分のスカートを震える指で握り込んだ。

 

「動くぞ」

 

「ああ……頼む」

 

 彼女の腰へ両手を当て、一度、下から強く打ちつける。

 

 その衝撃に押し上げられ、ニャーの上体が大きく後ろへ傾いた。

 

 ニャーは思わずスカートから手を離し、倒れまいと両腕を後ろへ伸ばす。その手のひらが俺の太腿へつき、どうにか体を支えた。

 

「ま、待て……やばい、から」

 

「いや、待たない」

 

「ば、馬鹿、やめろっ……あんっ」

 

 口では止めろと言いながら、後ろ手についた指は俺を押し退けることなく、体を支えるために太腿へ強く食い込んでいる。

 

 この女が、本気で俺を拒むときにどれほどの力を出すかは、二度の喧嘩で嫌というほど知っていた。

 

 今のこれは、それとは違う。

 

 反り騎乗位のまま、一定のリズムで腰を打ちつけてやる。

 

 結合部は、ぱたぱたと暴れるスカートのせいで見えたり、見えなくなったりする。それもまた、乙なものだ。

 

 白い裾の隙間を凝視しながら、肉と肉がぶつかり合う音に耳を澄ませる。

 

「あっ、あん……あっ……おっ、おっ……おほ、おっ……んぅ……あんっ!」

 

 ニャーは可愛らしい声を、惜しげもなく晒している。

 

 普段の声は低く、話し方も不良そのものだ。その口から甘い声が漏れるたび、どうしようもなく興奮する。

 

 この声を出させているのが俺だと思うと、腹の奥に薄暗い満足感が広がった。

 

 街で最強と呼ばれ、百人を超える下僕の頂点に立つ女が、今は俺の腰が動くたびに声を抑えられなくなっている。

 

 性格が悪いと言われれば、その通りだろう。

 

 だが、やめる理由にはならない。

 

 向かい合ってはいるものの、ニャーの上体は弓なりに反り、顔は天井を仰いでいる。

 

 下から見上げる俺の位置では、顎先と伸びた首筋ばかりが目に入り、その表情までは見えない。

 

 次第に、それが不満になってきた。

 

 性欲を満たすだけなら、顔など見えなくても困らないはずだ。それでも、声だけでは足りなかった。

 

 俺が欲しいのは、女の体が感じているという事実ではない。

 

 ニャーが、俺によって崩れていく顔だった。

 

 そろそろ、体位を変えるか。

 

「おい、ニャー。立て。後ろから突いてやる」

 

「……うす」

 

 ニャーの腰を支えながら、立ち上がるのを手伝ってやる。

 

 奥の着替えスペースには姿見が置かれていたので、その前まで連れていった。

 

 ニャーは自分のスカートをたくし上げ、迎え入れる準備は万端といった様子で尻を向ける。

 

 俺もニャーの肘を掴み、ぬぷりと肉棒を差し込んだ。

 

「ひうっ!」

 

 今度は、最初から全力で腰を打ちつける。

 

 結合部も、ニャーの顔も、そのすべてが姿見の中に映っている。視覚から入る興奮が、さらに俺の体を突き動かした。

 

 これだ。

 

 腰を突くたび、赤い瞳が揺れ、眉が寄り、開いた口から声が漏れる。その一つ一つを見逃さずに済む。

 

 鏡の中に映るニャーは、もう喧嘩師の顔をしていなかった。

 

「ま、まっ……これ、すごっ……おほっ、あっ……や、やめ……やめて、おんっ……!」

 

 もっと、ニャーの顔が崩れるところを見たい。

 

 今の体勢では、まだすべての力を使い切れない。

 

 背後からニャーの両腕へ自分の腕を絡め、肩ごと抱え込むように拘束した。スカートを押さえていた指が離れ、白い布が結合部を覆い隠す。

 

 喧嘩最強の腕が、今は俺の腕の中で自由を失っている。

 

 だが、戦ったときとは違う。爪を伸ばすことも、噛みつくこともできるはずなのに、ニャーは逃げず、快感に耐えるためだけに力を込めていた。

 

 力で押さえ込んでいるというより、この女が俺に捕まることを選んでいる。

 

 そう考えた途端、腰の動きがさらに深くなった。

 

 力任せ。

 

 ニャーが気持ちいいかどうかは分からない。ただ、俺がやりたかった。

 

 絶え間なく肉を打ちつける音が、ボックス内へ響き渡る。

 

「まっ……待って、あん……あっ……スカ、ト……みえ、ねぇ……捲っ……おっ!」

 

 髪を乱し、猫耳を揺らし、快感に顔を歪ませるニャー。その姿を、ただ鏡越しに見続ける。

 

 ニャーのすべてが、俺の脳を隅々まで幸福感で満たしていく。

 

 足りない。

 

 まだ、足りない。

 

 足りないのは、快感ではない。

 

 一つ表情が崩れるたび、その次が見たくなる。声を一つ聞くたび、もっと違う声を出させたくなる。

 

 どこまで行けば満足するのか、自分でも分からなくなっていた。

 

「お、おねが……んあっ! スカー、ト……捲っ……あんっ……みえ……んん……」

 

 ニャーが喘ぎ声に紛れて何かを訴えている。

 

 スカートがどうこうと言っているらしいが、途切れた言葉を拾って考える余裕など、今の俺にはなかった。

 

 まぁ、いいか。

 

「んあっ……あっ、イクっ……あ、駄目……もう……イクっ……イ……イ、イクゥ!」

 

 ニャーの体が、大きく跳ねた。

 

 同時に腕を解放すると、ニャーは両手を姿見へつき、そのままずるずると床へ体を落としていった。

 

 俺も視線の高さを合わせるため、深くしゃがみ込む。

 

「おい。俺はまだイッてねーぞ。どうした、休むのか」

 

「はぁ……はぁ……やす、まねぇよ……舐めんな……馬鹿が」

 

「そうか。なら、立て」

 

「はぁ……はぁ……かかってこいや……馬鹿たれ」

 

 息をするのも苦しそうなくせに、差し出された腕から降参の色は感じない。

 

 こういうところが、俺は気に入っているのかもしれない。

 

 弱らせたい。だが、折れてほしくはない。

 

 面倒な女には、こちらまで面倒な感情を抱かされるらしい。

 

 ニャーが差し出した腕を掴み、自分が立ち上がる勢いを利用して、上へ引っ張り上げる。

 

 こちらへ向かせた体勢のままスカートを捲り、ニャーの秘部へ肉棒を当てがった。

 

 腰をゆっくりと動かし、先端でクリトリスを擦る。

 

 ニャーは短い悲鳴を上げながら、熱い吐息を何度も俺の顔へ浴びせてきた。

 

 赤い瞳に、すっと通った鼻筋。そして、あの柔らかい唇。

 

 昼間、ピザを頬張りながら笑っていた顔が、一瞬だけ重なった。

 

 あのとき心臓が跳ねた理由は、まだ考えたくない。

 

 ただ、今はその唇へ触れたかった。

 

 導かれるまま、俺の口でその唇を塞いだ。

 

 間髪入れず舌を口内へ押し込み、その隅々まで荒々しく舐め回す。

 

 ニャーも俺の舌を迎え入れ、その動きを味わっている。

 

 その隙を突き、肉棒を一気に膣へ突き込んだ。

 

 ニャーは驚き、反射的に俺の舌を噛んだ。

 

 慌てて、口を離す。

 

「わ、悪い!」

 

 舌はじんじんと痛み、小刻みに震えている。

 

 だが、目尻を下げ、不安そうにこちらを見るニャーの顔を目にすると、そんな痛みはどうでもよくなった。

 

 俺へ怪我をさせたことなど、普段なら笑い飛ばす女だ。それが今は、本気で悪いことをしたような顔をしている。

 

 そんな顔を見せられると、責める気にはなれない。それどころか、もっと俺だけに余裕を失わせてやりたいという欲が湧いてくる。

 

 我ながら、随分と歪んでいる。

 

 俺は腰を、激しく突いた。

 

「あっ、あっ、あっ……そ、そんな……いきなりっ……んああん!」

 

 舌の痛みを誤魔化すように、ただひたすら腰をニャーへ打ちつける。

 

 水音がいやらしく耳へ届き、目の前ではニャーが快感に顔を蕩けさせている。

 

 そのすべてが、至福だ。

 

「ああっ……ら、らめぇ! や、やぁぁあ!」

 

 ニャーの腕が、俺の首へ巻きつく。

 

 左耳のすぐそばで上がるいやらしい悲鳴が、脳をつんざいた。

 

 股間が、次第にざわついてくる。腹の奥が締めつけられ、それまで浴びたあらゆる刺激が、一箇所へ集まり始めた。

 

 まだ終わらせたくない。

 

 だが、体はもう限界を決めている。ニャーの声も、腕の力も、触れ合う熱も、すべてが最後の一押しとなって理性を削っていった。

 

「くそっ……俺も、出そうだ!」

 

「そ、外にっ……そ、そと……あっ……んあっ……外、にぃ!」

 

「イクぞ、ニャー! たっぷり受け取れや!」

 

「だ、駄目、駄目! 中は駄目! お願い……そと……外に! あっ……らめぇ!」

 

 このまま離れず、奥へ全部ぶつけたい。

 

 そんな衝動が、一瞬だけ頭を支配した。

 

 だが、耳へ届いた言葉は明確だった。どれだけ顔を蕩けさせていようと、どれだけ俺の首へしがみついていようと、それを都合よく読み替えるつもりはない。

 

 肉棒を、膣から引き抜いた。

 

 ニャーが変な悲鳴を上げ、そのまま床へ体を落とす。

 

 言葉の裏を勝手に読んで、本気で嫌がる相手へ中出しするような真似はしない。

 

 それは、男として恥ずべきことだ。

 

 引き抜いた瞬間、熱が失われたことを惜しいとは思った。

 

 それでも、後悔はしない。

 

 自分の肉棒を上下へ擦りながら、カラオケボックスの中央へ移動する。空いている片手でゴムの袋を開き、その中へと射精した。

 

「ふぅ……あー、気持ち良かったわ」

 

「……何してんだ、てめぇ」

 

「あん? 何って、ゴムに出したんだよ。見りゃ分かるだろ」

 

 ニャーは肩で息をしながら、何故か眉間に深い皺を寄せ、こちらを睨みつけている。

 

 背中は丸まり、体力も失っているはずなのに、今にも飛びかかってきそうな気迫があった。

 

 ニャーは俺の発言にため息を吐くと、一度、深く息を吸い込んだ。

 

「馬鹿か、てめぇ! 外に出せと言って、本当に外へ出す阿呆がどこにいやがる! あぁ!?」

 

 まるで暴風でも吹き荒れたかのような怒号。

 

 俺はたまらず、両耳を塞いだ。

 

 こいつは、マイクなしでも相当な声量で歌えるのではないだろうか。

 

「何だよ。中に出されたかったのか?」

 

「あ、当たり前だ! お前とは、その……あぁ、何でもねぇ!」

 

 ニャーはその辺に放り投げていたシャツを着込み、顔を真っ赤にしながらドアノブへ手をかけた。

 

 まだ体の火照りも消えていないだろうに。

 

「いいか、またニャーと戦え! もし俺が勝ったら、お前の人生は一生ニャーのものだ。分かったな!」

 

 そう言い捨て、ニャーは扉の外へ出ていった。

 

 先ほどまでお熱だったとは思えない、余韻も何もない終幕。

 

 呆然と、閉まった扉を見つめる。

 

 だが、すぐにまた扉が開いた。

 

「わ、忘れ物した」

 

 ニャーは意地でも俺の顔を見ようとせず、テーブルの上に置かれていた紙袋をひったくると、今度こそ部屋を出ていった。

 

「まるで嵐だな」

 

 独立を目指す聖戦は、どこへいったのやら。

 

 ニャーに負けたら、俺の人生はやつのもの、か。

 

 なら、俺からも言ってやらないとな。

 

 もし俺が勝ったら、お前の人生は俺のもの、と。

 




次が最終話となります
気分がのったら、番外編も書くかもです
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