倫理観が壊れた異世界歓楽街の中で真面目に生きていくためには 作:祐。
ラグジュアリーな雰囲気に包まれたラブホテルの広いユニットバス。浴槽になみなみと入れられたお湯はモコモコの泡で覆われて、優雅なひと時を演出する。
降り注ぐお湯のシャワーを浴びる全裸の女性は、髪を手で掻き上げながら極楽に浸っていた。179cmという長身を誇る彼女は膝丈まで伸ばした乳白色の長髪に、ハリとツヤで潤いに満ちた健康的な色白の肌、そして黄金比率のスマートな体型を有する人物だ。
中性的な顔の輪郭がシャープに尖り、黒色の瞳は落ち着きを宿している。左目の泣きぼくろがセクシーな印象を与え、端正に整った極上の美貌は老若男女を魅了する。彼女は両手で自身のボディラインをなぞると、右手で優しく股間に触れ、長く細い色白の指でしっとりと秘部を弄り始めた。
現実味のない非常に滑らかなパイパンと、一切もの黒味が存在しない無垢の女性器。自然に形成された奇跡の造形美に自ら触れると、彼女はクリトリスを優しく撫で掛けながら快楽に集中し始めた。
左手で弾力のある大きな乳房に触れ、綺麗な乳輪の中央で突出する鮮やかな乳首を刺激する。凛々しく佇む彼女は絶世の美貌を悩ましげに歪め、シャワーの湯を浴びながら目を瞑って意識を高めていく。とても手慣れた指さばきで的確に気持ちを昂らせていくと、彼女はもう間もなくと達する最高潮に備えて神経を研ぎ澄ませていった。
瞬間、洗面台に乗せていたスマートフォンが振動する。着信を受け取った端末の呼び出しに彼女は興醒めな表情を浮かべながら見遣ると、シャワーの湯を止め、右手の水気を取り払った後にスマートフォンを手に取って耳元へとかざした。
「――えぇ、承知したわ。私が“彼”の迎えに行きましょう」
視界を流れ往く大都会の壮観な夜景。ハッキリと浮き出る照明の様々な彩色を無感情に見送りながら、自分は走行する車体の振動で身体を揺らしていく。
運転席でハンドルを握る中年の男性は、頭部にキツネの耳を生やしていた。獣人の中でも
「もうあと三分くらいで、歓楽街『
「分かりました。長距離を運転していただき、ありがとうございます」
「礼には及ばないさ、これもタクシードライバーの仕事だ。しかしあれだな。お前さんのように真面目な兄ちゃんも、あの龍明に興味があるとは驚きだ」
「興味といいますか、人を探しているんです」
「まぁまぁ、そんな照れなくたっていいさ。別に龍明へ行くことが悪いことだなんて言ってないぞ。おれだってよく利用するんだ。こんな独身のおれでも快く受け入れてくれるあの世界が、現実逃避にちょうどいい。誰だってあんなことやそんなことに興味あるもんさ。真面目な兄ちゃんも、もっと堂々と胸張って生きていけばいいんだ。だろ?」
「は、はぁ……」
自分が会話の節々に疑問を抱いていく中で、運転手の男性は言葉を続けてくる。
「龍明は云わば大人の街だ。欲望を叶える場所、とも言えるだろうさ。金や力、名誉や美貌があれば、龍明で叶わない夢はない。男も女も獣人も、みんなが金に溺れ、力に溺れ、快楽に酔いしれている。……女装、露出、複数、初体験。世間が考える常識を生きていく中で、誰にも言えないような欲求やコンプレックスが出てくるかもしれない。龍明は、その願望を確実に満たせる場所なんだ。イカれた世界と思えるかもしれないが、そんな世界に心も体も救われるヤツが世の中にはいるんだ。普段の人間社会では抑制されている、やり場のない本能の捌け口とも言えるのかもしれないな」
「なるほど……?」
「ほら、見えてきたぞ! あれが龍明の入口だ! 兄ちゃんも良い子ぶるのはいいが、たまには現実を忘れて極上の夢を見てくれ。日頃の自分を労わってあげるんだぞ! 好みの女の子が見つかるといいな! じゃあな、健闘を祈る!」
タクシーから降りた自分は礼を告げると、車は都会の大通りに合流して颯爽と走り去っていった。
自分は改めて前方と向かい合っていく。
見上げた先のアーチには『
新興大都市『マリーア・メガシティ』。最先端技術や高等魔術などが導入された、最高峰の文明を誇る新規の大都市。その一角に設けられた歓楽街のエリアが『龍明』であり、此処は『人類の欲望を叶える場所』として一定の需要を取り込んでいた。
自分はアーチをくぐり抜け、龍明に踏み入っていく。途端にして圧し掛かった空気中の異質感は、まるで新参者を試すかのように執念深く付き纏ってきた。
他者の欲望が体中にこびりつき、それが重しとなって全身に覆い被さる。四方八方から見えない手が伸びてきて、それに掴まれて引っ張られているような感覚だった。なにか良からぬ事態を想起させる一種の予感は、本能的な危険信号として第六感に送られていたのかもしれない。
表通りの奥には、噴水をシンボルにした大きな広場が伺える。まずはそこを目指すべく自分は一歩を踏み出したその瞬間、不意に横から現れた二人の女性がこちらに声を掛けてきた。
「おにいさーん、今ひとりなのー?」
「え? はい、そうですけど……?」
「じゃあさー、うちらと遊ばなーい? せっかく龍明に来たのに、相手が見つからなくて暇だったんだー」
二人の女性は、こちらを挟み込むように擦り寄ってきた。両者がこちらの腕を組み、甘い雰囲気を醸し出しながら見上げてくる。
自分は龍明の洗礼に胸を高鳴らせながらも、さり気無く腕を
「すみません、用事がありまして。人と会う約束といいますか……」
「えー、いいじゃん別にー。せっかく3Pできるんだから、おにいさんとしても悪くない話でしょー?」
「3P……」
左右の女性を交互に見遣りながら、自分は誘惑に駆られていく。こんな機会なんか二度とないかもしれない。そういう欲望を掻き立てられると、自分は迷いを生じさせながら立ち尽くした。
そんなこちらへと、二人の女性は急かすように言葉を掛けてくる。
「ねーねー、こうしてる時間が勿体ないじゃーん。早くシよーよー?」
「迷う理由なんかなくね~? うちらじゃ不満ってこと~?」
「決してそういうわけでは……! えっと、俺は……!」
こちらがもたもたしている間にも、彼女達は再び腕を組み直してから返答を待たずに歩き出した。連行される形で歩き出した自分は困惑しながらも無抵抗で足並みを揃え、流れに身を任せるよう進み続ける。
あぁ、どうしてこうなってしまったんだ……!
当初の予定が狂い、自分は脳内で頭を抱えていく。しかしこの先に控えている出来事を楽しみに思う自分も居て、満更でもない心持ちで龍明の表通りを歩き進めた。
すると、前方から一人の女性がこちらを見据えながら歩いてくることに気が付いた。179cmという長身を誇り、膝丈まで伸ばした乳白色の長髪を分厚く束ねたポニーテールにして揺らめかせている。ハリとツヤで潤いに満ちた健康的な色白の肌は美しく、大人の落ち着きを宿した黒色の瞳からは力強い生命力を感じさせる。中性的でシャープな顔の輪郭はイケメン寄りで女性ウケが良く、左目の泣きぼくろがセクシーな印象を与えてきた。
服装は、黒色のライダースジャケットとボタンを一つ外した赤色のシャツ、黒色のバイクパンツに膝丈まである黒色のブーツというもの。特筆するべきはその美貌であり、例えるならば『神話の絵画に登場する女神』が如き容姿は神々しいオーラを纏っていた。黄金比率の体型も服装と相まってスタイリッシュに映り、絶世のクールビューティーとして現世に君臨していたものだ。
彼女の存在感はひと際と目立ち、見る者を振り向かせ、魅了した。老若男女を問わず、人間も、獣人も、皆が一律に彼女を見遣る。自分も例外ではなく、その意識は全て前方の彼女に注がれた。
直にも彼女は、立ち塞がるようにこちらの手前で立ち止まる。両脇にいる二人の女性も見惚れるような視線を向けながら足を止めると、次にも手前の美女はこちらに向かって、右手を差し出しながら凛々しい声音で喋り出してきた。
「
「は、はい。そうですけど……?」
「私の名は、ユノ。貴方の来訪を心から待ち望んでいたわ。ようこそ、龍明へ」
ユノと名乗る女性がこちらに自己紹介してくると、両脇の女性らは空気を読むようにこちらからそっと離れ、どこかへ行ってしまった。自分は助かったような、ちょっと残念に思うような、そんな複雑な心境で彼女らの背中を見送ると、ユノは穏やかな声音で言葉を続けてきたものだ。
「到着して早々と、龍明の常識に翻弄されたかしら。大丈夫、時間をかけて少しずつ馴染んでいけばいいわ。まずは、来てくれてありがとう。貴方をお目にかかれる日を、私は心の底からずっと楽しみにしていたの」
「ど、どうも……」
「貴方は“お父様”の行方を探し求めて、この龍明に辿り着いた。私はそう認識しているわ。えぇ、貴方の推理は実に正確よ。確かに貴方のお父様は此処、龍明に存在している。さすがは“彼”のご子息ね。その揺るぎない信念と緻密な調査、そして果敢な行動力に、敬意を表しましょう」
ユノは右手を自身の胸元にあてがい、凛々しくも柔らかな眼差しを向けて微笑んだ。彼女の仕草に自分は頬を赤らめながら見惚れていると、ふと彼女は振り返り、付近でユノに注目していた一般人女性の下へと歩き出した。
コツコツと靴音を立てながら歩み寄るユノを前にして、女性は期待を込めた眼差しを送っていく。ユノもまたその期待に応えるよう彼女を抱き寄せると、次の瞬間、流れるような動作で何の躊躇いもなく相手の唇を奪ってみせた。
女性の肩を抱き寄せて、ユノは長身の身体を屈めながらキスに没入する。絶世の美貌で咀嚼するように何度も口付けを行い、唇同士が擦れ合うねちっこい音を立てながら、ユノは暫しと女性とのキスに興じていく。
自分が呆気に取られるような調子で眺めていると、直にもユノは顔を上げてきた。そして肩を抱き寄せた女性をそのまま引き連れ、自身の脇に抱え込みながら、彼女は何事も無かったかのように凛々しい様子でこちらに言葉を告げてきたものだ。
「遠方から遥々とご足労頂いたことを感謝すると共に、この私が誠心誠意を以て貴方を労わりましょう。さぁ、ついてきてちょうだい。柏島くん。貴方を“我々のアジト”に招待するわ」