※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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新しい筆

旧聖寮施設の調査報告を提出した翌日、ミクリオは中央支部の会計窓口で、思った以上に長い時間を使っていた。

 

「ですから」

受付の対魔士が困った顔で書類を見下ろす。

「調査手当は、担当対魔士であるミクリオ特等へ一括で支給されます」

「それは分かっています」

「でしたら――」

「ザビーダの分は?」

「……ザビーダ?」

「調査協力者です」

ミクリオは自分が提出した報告書の一節を指した。

 

《調査協力者:風属性聖隷ザビーダ》

《旧施設の構造および旧式設備について複数の有用な証言あり》

《当該証言に基づき地下区画への進入経路を特定》

 

受付係はそこを読む。それから、もう一度ミクリオを見る。

 

「所有聖隷ですよね?」

「そうですが」

「でしたら、所有者への手当に含まれます」

「なぜです」

「なぜ、と言われましても」

「僕が行った調査と、ザビーダが提供した情報は別です」

「ですが、所有聖隷の労働については――」

「労働と認識しているなら、対価が必要でしょう」

受付係が、完全に言葉を失った。

後ろで順番を待っていた二等対魔士がそっと別の窓口へ移動した。

 

「ミクリオ特等」

受付係が声を落とす。

「所有聖隷本人に賃金を支給する項目がそもそもありません」

「では作れませんか」

「私に言われても!」

思わず声が大きくなったらしい。

受付係は咳払いした。

「……失礼しました」

「こちらこそ」

「いえ」

しばらく、二人で黙る。ミクリオは書類を見る。確かに支給欄は対魔士本人、補助対魔士、臨時雇用者、地元協力者。そこまで、聖隷本人という項目はない。

 

「地元協力者扱いには?」

「人間に限られます」

「なぜ」

「規定です」

「その規定の理由は」

「私に聞かないでください……」

疲れた声だった。

 

これ以上ここで問答しても、受付係が困るだけだ。ミクリオは息を吐いた。

 

「分かりました」

「では、通常通りミクリオ特等へ――」

「それで構いません」

「はい」

「僕が受け取った後、ザビーダへ渡します」

受付係の手が止まった。

「……個人的に?」

「はい」

「所有聖隷へ?」

「はい」

また沈黙。

 

「何か問題が?」

「いえ」

受付係は、諦めたような顔で印を押した。

「規定上、所有者が受け取った後の金銭使用までは制限されていません」

「なら問題ありませんね」

「……そうですね」

ミクリオは支給袋を受け取った。

「ありがとうございました」

「いえ……」

窓口を離れる。

背後から、小さな声が聞こえた。

「本当に変わった方だな……」

聞こえなかったことにした。

 

***

 

「ザビーダ」

帰宅するとザビーダは居間の長椅子に寝転び、片足を肘掛けに乗せていた。

「んー?」

「起きろ」

「起きてる」

「その姿勢で言うな」

「何だよ」

ザビーダが身体を起こす。

 

ミクリオは向かいの机へ座り。小さな革袋を置いた。

 

「これ」

「何?」

「今回の調査協力分の報酬」

ザビーダの顔が止まった。

「……は?」

「報酬」

「聞こえた」

「なら何だ」

「俺様に?」

「他に誰がいる」

ザビーダは革袋を見る。

 

それから、ミクリオを見る。もう一度革袋を見る。

 

「……何で?」

「働いたからだ」

「いや」

ザビーダは笑いかけて、途中でやめた。

「俺様、お前の所有聖隷なんだけど」

「知っている」

「所有物に給料払う奴いる?」

「僕は君を所有物だと思っていない」

「制度上は?」

「……そこを突くな」

ザビーダが吹き出した。

「やっぱ気にしてんじゃん」

「気にしている」

最近。

 

否定する意味もないと思うようになった。書類上。ザビーダは自分の所有聖隷。その事実が、必要な時には盾になり。それ以外の時には、ひどく邪魔だった。

 

「でもよ」

ザビーダが袋を指でつつく。

「調査って、お前の仕事だろ?」

「僕の仕事だ」

「俺様、勝手についてって」

「手伝うと言った」

「ああ」

「僕は頼んだ」

「ああ」

「君は役に立った」

「……まあ」

「なら対価が発生する」

「理屈固えなあ」

「当然だろう」

 

「聖寮は何て?」

「所有聖隷への支給欄はないと言われた」

ザビーダが笑う。

「そりゃそうだろ」

「笑い事じゃない」

「だって、ないだろ普通」

「なぜ普通なんだ」

「お前さあ」

ザビーダは呆れたように頭を掻いた。

 

「たまに制度そのものと喧嘩始めるよな」

「喧嘩しているつもりはない」

「向こうはそう思ってそう」

否定できなかった。

「とにかく」

袋をザビーダの方へ押す。

「君の分だ」

ザビーダはすぐには取らなかった。

「……これ」

「うん」

 

「何に使えばいい?」

ミクリオが眉を寄せる。

「僕に聞くな」

「何だよそれ」

「君の金だぞ」

「分かってるけど」

「なら君が決めろ」

「好きにしていい?」

「ああ」

「全部?」

「ああ」

「酒でも?」

「飲み過ぎなければ」

 

「条件ついたじゃん」

「健康上の助言だ」

「服でも?」

「必要なら」

「菓子」

「好きにしろ」

「賭け事」

「勧めない」

「使える?」

「……合法な範囲なら止める権利はない」

 

ザビーダが袋を手に取る。

中で硬貨が鳴った。

「ほんとに俺様の?」

「さっきからそう言っている」

「取り返さねえ?」

「なぜ取り返す」

「所有者だから?」

ミクリオは少し黙った。

「……誰かに勝手に取られたら」

「うん」

「僕が取り返す」

 

「所有者として?」

「今の制度では、その方が確実だからな」

「便利だねえ」

「気に入っているわけじゃない」

「知ってる」

ザビーダが少しだけ笑った。

「でも」

袋を握る。

「俺様の金、か」

その言い方が、妙にゆっくりだった。

 

***

 

翌日の午後。二人は市場を歩いていた。別にザビーダの買い物に付き合う予定だったわけではない。ミクリオが文具と保存食を買いに出ると言ったところ。

 

「じゃあ俺様も行く」

とザビーダがついてきただけだった。

だが、市場へ着いてから、ザビーダは露骨に落ち着きがなかった。

「なあ」

「何だ」

「あれ買っていい?」

指した先。

串焼き肉。

「なぜ僕に聞く」

「……」

「君の金だろう」

 

「あー」

思い出したようにザビーダが額を押さえる。

「そうだった」

「本当に慣れないな、君は」

「千年以上やってねえことに一日で慣れろって方が無茶だろ」

その言葉にミクリオは何も言えなくなった。

ザビーダは屋台へ行く。

「おっちゃん、それ一本」

「はいよ」

硬貨を出す。

 

串を受け取る。少し眺める。そして、一口。

 

「……うま」

「そうか」

「お前も食う?」

「君が買ったんだろう」

「一口くらいいいじゃん」

「なら」

一口だけもらう。

確かに美味い。

「どう?」

「悪くない」

「だろ?」

ザビーダが妙に満足そうだった。

「それでいいのか」

「何が」

「最初に買うものが、それで」

「食いたかったから買った」

「……そうか」

「文句あっか?」

「ない」

むしろ、それでいいと思った。

 

誰かに必要だと言われたものではない。所有者に渡すものでもない。生きるのに最低限必要だからでもない。ただ、食べたかった。だから買った。それだけ、ザビーダは残りの肉を食べながら、次の店を見る。

 

「これ、買っていい?」

今度は装飾品。

「聞くな」

「はいはい」

手に取って、値段を見る。

戻す。

「やめた」

「なぜ」

「高い」

「君の金だ」

 

「俺様のだから惜しいんだよ」

ミクリオは少しだけ笑った。

「何だよ」

「いや」

「気持ち悪い」

「失礼だな」

「最近笑うようになったよな、お前」

「元から笑う」

「俺様と会った頃より」

「……君がくだらないことを言うからだ」

「照れてる?」

「違う」

ザビーダが楽しそうに笑った。

 

***

 

市場を半分ほど回ったところで、ミクリオは文具店へ入った。筆。紙。記録用の墨。遺跡調査に使う細い測定糸。必要なものを籠へ入れる。

 

「また筆買うの?」

後ろからザビーダが覗く。

「今のがそろそろ駄目になる」

「先っぽ割れてたもんな」

「よく見ているな」

「お前ほどじゃねえよ」

ザビーダは何となく棚の筆を見ていた。

ミクリオは会計を済ませる。

「次は保存食だ」

「先行ってて」

「何か見るのか?」

「ちょっとな」

「分かった」

店を出る。

 

ザビーダが一人で残ることにもう。不安はなかった。数日前なら。妙に気にしたかもしれない。今は、帰ってくるだろうと思っている。理由は、よく分からない。でも、そう思えるようになっていた。

 

***

 

夕方、家へ戻る。買ったものを机へ並べる。ミューズが夕食の支度をしている。ミケルはまだ帰っていない。ザビーダは居間の椅子へ座り。何かを弄っていた。

 

「何だ、それ」

ミクリオが聞く。

「ほら」

投げる。

「危ない!」

反射的に受け取る。

 

細長い包み。開く。筆だった。新しい。しかも、先ほどの店で、ミクリオが一度手に取り。値段を見て戻したもの。今使っている物より、少しだけ上等な筆。

 

「……何だ、これは」

「見りゃ分かるだろ」

「なぜ君が持っている」

「買ったから」

「誰のために」

「お前」

ミクリオは黙った。

ザビーダが少し不安そうな顔をする。

 

「いらなかった?」

「そうではない」

「じゃあ何」

「君のために使えと言ったはずだ」

「使ったじゃん」

「僕にだろう」

「だから?」

「……」

言葉に詰まる。

 

ザビーダが少しだけ眉を寄せる。

「俺様の金なんだろ?」

「ああ」

「好きに使っていいんだろ?」

「ああ」

「じゃあ」

少し言葉を選ぶようにザビーダは続けた。

「俺様がお前に使いたかったの」

ミクリオの手が止まった。

 

「……」

ザビーダが珍しく。

すぐには笑わなかった。

「今の筆、使いづらそうだったし」

「……」

「調査ん時も、何回か引っかかってただろ」

「見ていたのか」

「見てるよ」

当たり前のように。

「お前、俺様のことばっか観察してると思ってた?」

「……」

ミクリオは手元の筆を見る。

 

要求したわけではない。必要だと伝えたわけでもない。所有者だから、何かを差し出せと言ったわけでもない。ザビーダが自分で欲しいものを選べる金を持って、その一部を自分へ使った。

 

「……ありがとう」

ようやく言った。

ザビーダが少し目を丸くする。

「おう」

「大事に使う」

「いや」

「何だ」

「そこまで言われると重い」

「君がくれたんだろう!」

「筆一本だぜ?」

「値段の問題じゃない」

「じゃあ何」

「……」

また答えに詰まる。何なのか。自分にも、まだうまく説明できない。

 

「とにかく」

包み直す。

「ありがとう」

「二回言った」

「何度言ってもいいだろう」

「変なの」

「最近それしか言わないな」

ザビーダが笑った。

 

***

 

その夜、ミクリオは新しい筆を使った。書き味は、かなり良かった。先端が滑らかで、細い古代文字も潰れない。

 

「……」

机の端。

 

古い筆。その隣に新しい筆。ザビーダからもらったもの。扉の外から、足音。

 

「まだ仕事?」

ザビーダが顔を覗かせる。

「ああ」

「新しいの使ってんじゃん」

「せっかくもらったからな」

「どう?」

「使いやすい」

「ならよかった」

その言葉。

 

本当に嬉しそうだった。ミクリオは少しだけ筆を置いた。

 

「ザビーダ」

「ん?」

「今日は何を買った」

「肉」

「それは見た」

「酒」

「いつの間に」

「帰り」

「飲み過ぎるなよ」

「はいはい」

「他は」

「別に」

またその言葉。だが、今日の「別に」は、以前とは、少し違って聞こえた。本当にそれ以上は買わなかっただけ。

 

「残りは?」

「持ってる」

「そうか」

「また使っていいんだろ?」

「ああ」

「好きに?」

「ああ」

ザビーダは少し考えて。

「じゃあ」

笑う。

「今度、何買うか考えとくわ」

ミクリオも小さく笑った。

「そうするといい」

扉が閉じる。

 

机の上。新しい筆。それを見ながら、ミクリオはふと思った。ザビーダが誰かに何かを差し出すところをこれまでにも、何度も見てきた。自分の時間。力。身体。従順さ。けれど、今日のものは、どれとも違った。要求されたからではない。断れなかったからでもない。役に立たなければならなかったからでもない。

 

ただ、ザビーダがそうしたかった。それだけだった。ミクリオは新しい筆を手に取る。その事実が、なぜか。筆そのものより、ずっと大事なものに思えた。

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