※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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お前と一緒だったし

数日後。朝食を終えたところで、ミクリオ宛てに一通の手紙が届いた。封蝋を見た瞬間、ミクリオは少しだけ嫌そうな顔をした。

 

「誰?」

向かいで果物をつまんでいたザビーダが聞く。

「スレイだ」

「嫌そうだな」

「嫌ではない」

「じゃあ何その顔」

「嫌な予感がするだけだ」

封を切る。

 

中には、予想通り。簡潔なのか雑なのか分からない文面があった。ミクリオは無言で読み。途中で眉間を押さえた。

 

「何て?」

「……北東の丘陵で古い地下遺構を見つけたらしい」

「へえ」

「聖寮成立以前の可能性がある」

ザビーダの手が止まる。

「古いな」

「ああ」

「で?」

ミクリオは続きを読む。

「古い風属性術式が残っている可能性が高い」

「ほお」

「『ミクリオなら絶対好きだと思う』」

ザビーダが吹き出した。

「調査依頼?」

「そう書いてある」

「完全に遊びの誘いじゃん」

「調査だ!」

「嬉しそう」

「……」

「行きたい?」

 

ミクリオは手紙を見る。

「行きたい」

「即答かよ」

「聖寮成立以前だぞ」

「はいはい」

ザビーダが笑う。

「お前ほんと遺跡好きだな」

「君に言われたくない」

「俺様は別に遺跡好きじゃねえもん」

「千年前の構造を見て嬉しそうに解説していただろう」

「役に立った俺様が格好よかっただけ」

「そういうことにしておこう」

 

ミクリオは手紙の最後へ目を落とした。

そこで、少しだけ表情が変わる。

「何?」

「追伸」

「うん」

「『ザビーダにも聞きたいことがある。来られるなら一緒に』」

ザビーダが瞬きをする。

「俺様?」

「ああ」

「何聞きたいんだろ」

「古い風属性術式についてじゃないか」

 

「ライラじゃ駄目なの?」

「彼女は火属性だからな。君の方が古い形式を知っている可能性もある」

ザビーダは少しだけ黙った。

ミクリオは手紙を畳む。

「僕は行くつもりだ」

「おう」

「君は?」

ザビーダがいつものように口を開く。

「仕事なら――」

止まる。

 

ミクリオは何も言わない。待つ。ザビーダは自分で止まった言葉を一度飲み込む。手紙を見る。

 

「古い風術式、ねえ」

「うん」

「地下遺構?」

「ああ」

「海じゃねえよな」

「丘陵地だ」

「寒い?」

「霊峰ほどではない」

「人多い?」

「スレイとライラ、それに僕たちくらいだと思う」

 

ザビーダは少し考え、それから言った。

「……行きたい」

ミクリオは普通に頷いた。

「分かった」

「……それだけ?」

「何が」

「いや」

ザビーダが少し笑う。

「何でもねえ」

「なら同行前提で準備する」

「おう」

それだけ、ただ。

 

ザビーダは自分の口から出た。行きたい。という言葉を少しだけ面白そうに胸の中で転がしていた。

 

***

 

北東の丘陵地帯。地表からは、ただの岩山にしか見えない。その一角に地面へ半分埋もれた石造りの入口があった。

 

「遅い!」

着くなり。

スレイが言った。

「予定時刻より十五分早い」

「もっと早く来ると思ってた」

「なぜ」

「だって遺跡だぞ?」

「意味が分からない」

スレイは笑う。

 

その隣。ライラが穏やかに頭を下げた。

 

「お久しぶりです、ミクリオさん。ザビーダさんも」

「よ。ライラちゃん」

「ちゃん付け……は、まあいいです」

「エドナちゃんより優しい」

「誰と比べているんだ君は」

ザビーダが笑う。

スレイはミクリオより先にザビーダを見る。

「来てくれてありがとな」

「俺様?」

「うん」

「ミクリオのついでじゃなく?」

「だって聞きたいことあるって書いただろ」

「書いてあったな」

「これ」

スレイが待ちきれないように遺跡入口の横へしゃがみ込む。

 

石壁。そこに複雑な刻印が残っている。

 

「これ、風属性の印だと思うんだけど」

ザビーダも近づく。

ミクリオがその横から覗く。

「……確かに風属性系統だな」

「でもライラも俺も見たことない」

ライラが頷く。

「私の知る形式とは少し違うのです」

ザビーダはしばらく刻印を見る。

「……これ」

指でなぞる。

「術式じゃねえな」

 

ミクリオとスレイの声が同時に飛ぶ。

「何?」

「何だって?」

二人が一気に近づく。

ザビーダがのけぞった。

「近え!」

「どういう意味だ」

「何で術式じゃないんだ?」

「だから近いって!」

ザビーダが二人の額をそれぞれ押し返す。

「食いつき良すぎだろ、お前ら!」

「重要な情報だからな」

「気になるだろ!」

「そこで息ぴったりなのやめろ!」

ライラが口元を押さえて笑っている。

 

ザビーダはため息をつき。もう一度刻印を見る。

 

「これ、多分」

少し記憶を探す。

「風を流す向きの指定だ」

「方向?」

スレイが聞く。

「術式そのものじゃなくて、術を使う奴向けの目印。昔、複数人で同じ術式回す時にこういうの使ってた」

ミクリオが石壁を覗き込む。

「確かに」

刻印の向き。

 

配置。周囲の地脈線。一つずつ。指で追う。

 

「術式として読むと閉じていない。でも方向指示と考えれば……」

スレイが反対側を見る。

「あっちにも同じのある!」

「だろ?」

ザビーダが少し得意げに笑う。

「多分、中央に何かあったんだよ」

ライラが柔らかく言う。

「ザビーダさんの方がお詳しいようですね」

ザビーダが少しだけ顔を向ける。

 

「俺様が?」

「はい」

「ライラより?」

「この形式については」

あまりにも普通に言われた。

ザビーダは少しだけ返事が遅れる。

「……そっか」

スレイはもう次の刻印を探している。

「じゃあザビーダ、こっちも見てくれ!」

「人使い荒いなあ!」

「聖隷だから?」

ザビーダが止まる。

スレイも言ってから。

「あ」

となる。

 

一瞬、空気が止まりかける。でも、ザビーダが先に笑った。

 

「エドナちゃんみてえなこと言うじゃん」

「悪い」

「いいよ」

スレイは少しだけ考えてから、言い直した。

「じゃあ」

「調査協力者だから?」

ザビーダが目を瞬く。

ミクリオが横から言う。

「本人が来たいと言って来たんだ」

スレイがミクリオを見る。

「そうなのか?」

「ああ」

今度はザビーダを見る。

「じゃあ」

笑う。

「来てくれてありがとな」

ザビーダは少しだけ言葉に詰まった。

「……おう」

それだけ。

 

***

 

遺跡内部は、思った以上に複雑だった。床。壁。天井。至るところに古い風属性の誘導印。だが、それだけではない。

 

「これ」

ミクリオが壁を指す。

「水属性も混じっている」

「何で?」

スレイがしゃがむ。

「風だけの施設じゃない?」

「そうとは限らないな」

ザビーダが天井を見る。

「昔の術式って、今より属性混ぜるの雑だったんだよ」

「雑?」

「悪い意味じゃなくてな」

 

指で空中に線を描く。

「風で流して、水で形を固定して、地で支えて、火で起動するとか。今みてえに一属性一役って感じじゃねえ」

ミクリオの目が明らかに輝く。

「それは記録していいか」

「いいけど」

「出典は?」

「俺様」

「年代は」

「知らね」

「使用地域は」

「多分この辺」

「多分?」

「お前質問多い!」

スレイが笑う。

「分かる」

「お前も同類だよ!」

ライラまで。

「でも貴重なお話です」

「三対一!」

そんな調子で、少しずつ。

 

奥へ進む。ザビーダの知識は、何度も、役に立った。古い符号。空間配置。霊力の流し方。今では使われなくなった。設備の癖。それをスレイは当然のように聞く。ミクリオは当然のように記録する。ライラは当然のように自分の知識と照らし合わせる。誰も。

 

「所有聖隷だから知っていて当然」とは言わない。

「千年生きているから便利」とも。

言わない。

 

ザビーダが知っている。だから、教えてもらう。ただ、それだけだった。

 

***

 

昼過ぎ。四人は、遺跡の外へ出た。休憩。スレイとミクリオは発見した構造について、まだ話している。

 

「だから、中央区画はここだと思う」

「いや、その場合は風の流路が不自然だ」

「でも地形が――」

「増築の可能性を考慮しろ」

「それならこっち!」

「それはもっと不自然だ!」

ザビーダは少し離れた岩に座り。

呆れたように二人を見る。

「元気だねえ」

 

隣にライラが座った。

「楽しそうですね」

「どっちが?」

「皆さん」

「俺様も?」

「はい」

ザビーダが少しだけ眉を上げる。

「そう?」

「以前お会いした時より」

ライラは遠くを見る。

追及するような言い方ではない。

「少し」

微笑む。

「楽しそうです」

 

ザビーダはミクリオを見る。

スレイとまだ何か言い争っている。

「……あいつが面倒なんだよ」

「ミクリオさん?」

「何食いたいとか。どこ行きたいとか。嫌じゃないかとか」

「ふふ」

「笑い事じゃねえって」

「大変ですね」

「だろ?」

「でも」

ライラは少し考える。

 

「決めるところまでは、代わってくださらないのですね」

ザビーダが黙る。

「……そうなんだよ」

ため息。

「めんどくせえ奴」

「そうですか?」

「そうだよ。『何でもいい』って言うと聞き直すし」

「それは大変です」

「だろ?」

「でも」

「ん?」

ライラが少し笑う。

「今、ザビーダさんは自分でここへ来たのでしょう?」

ザビーダが目を細める。

「……まあな」

「なら」

ライラはそれ以上。

 

何も言わなかった。ザビーダもしばらく黙る。遠く。ミクリオがこちらを見る。

 

「ザビーダ!」

「何だよ!」

「さっき言っていた複合術式の件だが!」

「休憩中!」

「一つだけ!」

「絶対一つで終わんねえだろ!」

スレイが笑う。

 

ライラも笑った。ザビーダは立ち上がる。

 

「しゃーねえなあ」そう言いながら、少しだけ楽しそうだった。

 

***

 

調査を終えた頃には、日が傾いていた。スレイが遺跡入口を見上げる。

 

「今日だけじゃ無理だな」

「当然だ」

ミクリオが記録をまとめる。

「次回は地下中央区画を優先する」

 

***

 

帰り道。丘陵を下る。風は穏やかだった。ザビーダが両手を頭の後ろで組む。

 

「今日結構歩いたな」

「疲れたか」

「そこまでじゃねえ」

「足は?」

「平気」

「本当に?」

「お前さあ」

「何だ」

「心配性になってね?」

「君が何でも平気と言うからだ」

「最近は言ってねえじゃん」

「……確かに」

ミクリオが少しだけ考える。

「今日は」

「ん?」

「楽しかったか」

ザビーダはすぐには答えない。

以前なら。

「別に」

で済ませていたかもしれない。

 

でも、少し考える。古い術式。知らない遺跡。スレイの妙な勢い。ライラとの会話。ミクリオが自分の話を真剣に記録していたこと。

 

「まあな」

「そうか」

ミクリオが少しだけ嬉しそうに言う。

「君が行きたいと言って来た場所だから、楽しめたならよかった」

ザビーダが横を見る。

「……」

「何だ」

「いや」

前を向く。

「遺跡だけじゃなくてさ」

「うん?」

「……お前と一緒だったしな」

 

ミクリオの足が一瞬。

遅くなった。

「何?」

ザビーダも今さら。

自分の言葉に気づく。

「何でもねえ!」

「いや、今」

「聞き間違い!」

「はっきり聞こえたぞ」

「気のせい!」

「ザビーダ」

「うるせえ!」

ザビーダが少しだけ歩く速度を上げる。

「待て!」

「知らね!」

「なぜ逃げる!」

「逃げてねえ!」

夕暮れの道。

 

二人分の影が長く伸びる。少し先を歩くザビーダは自分でも分かっていた。今日は遺跡へ行きたかった。古い術式を見たかった。スレイとライラにも会いたかった。そして多分、それだけではない。ミクリオと一緒に行きたかった。そういう「したい」もあるらしい。

 

それを素直に口にするのは、まだ少しだけ難しかった。

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