※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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次の任務は、街道沿いに発生した地脈の乱れの調査だった。規模は大きくない。業魔の出現報告も少数。特等対魔士を二人も投入するほどではない、とミクリオは思ったが。

 

「近くに遺跡あるんだって」

スレイが言った瞬間、すべてを察した。

「君が希望したのか」

「ついでに調べられるだろ?」

「任務を遺跡見学の口実にするな」

「逆だって。任務のついでに遺跡を見るんだよ」

「同じだ」

「違うだろ」

「どこが」

二人が言い合う横で、ザビーダが欠伸をした。

「お前ら元気だねえ」

ライラが小さく笑う。

 

今日は四人だけではなかった。現地の地脈に詳しい二等対魔士が二人。さらにそのうち一人が契約している風属性聖隷。若い男の姿をした聖隷だった。ザビーダとは初対面らしい。

 

「風同士、仲良くなれるといいな」

スレイが言う。

「属性同じなら仲良くできるって理屈どこから来た?」

「何となく」

「雑」

ザビーダが笑う。

 

風の聖隷も困ったように笑った。何もおかしなことはなかった。

 

***

 

異常が見つかったのは、街道から少し外れた岩場だった。地面に細い亀裂。その奥から、濁った霊力が漏れている。

 

「地下に空洞があるな」

ミクリオが杖を地面へ当てる。

「多分、古い水路か何かだ」

スレイがしゃがむ。

「崩れた?」

「可能性はある」

「中に入れるかな」

「君はまず地脈異常を処理しろ」

「分かってるって」

その時、岩陰から、低い唸り声。

 

業魔。獣型。二体。いや、三体。現地の対魔士が剣を抜く。

 

「来ます!」

戦闘そのものは、大したものではなかった。

 

スレイが一体を引きつけ。ミクリオが術式を展開する。ライラが炎を走らせる。ザビーダは少し離れた場所から、動きを見ていた。今の自分では、まともな術は使えない。戦えば、足手まといになる可能性が高い。それをもう。無理に隠す必要はなかった。

 

「右!」

ミクリオの声。

「分かってる!」

スレイが避ける。

 

一体が、大きく跳ねる。それを風の聖隷が追った。

 

「下がって!」

契約者へ声をかける。

 

手を上げる。風が集まる。ザビーダはその動きを見た。ただ、見た。

 

「ビジュゲイト!」

術名。

 

次の瞬間、風が爆ぜた。

 

***

 

音が、消えた。そう思った。本当は消えていない。風の音。岩が削れる音。誰かの声。全部。聞こえている。なのに、遠い。

 

「……」

視界の端で、白いものが、揺れた。

 

いや、違う。銀色。それも違う。誰かの。背中。

 

「――」

息が、できない。

 

風。強い風。足元。何か。転がる。赤い。違う。見ていない。知らない。何だ。これは。

 

「ザビーダ?」

声。

 

聞いたことがある。今の。声。でも、分からない。

 

「ザビーダ」

肩へ手が伸びる。

身体が勝手に跳ねた。

「触んな!」

叫んだ。

 

自分の声だった。ミクリオの手が空中で止まる。ザビーダはそこで、ようやく目の前を見る。

 

「……」

ミクリオ。

 

少し離れて、スレイ。ライラ。戦闘は、終わっていた。風の聖隷もこちらを見ている。

 

「……何?」

自分で聞いた。

ミクリオが静かに答える。

「君が固まっていた」

「俺様が?」

「ああ」

「そんなわけ」

言いかける。

 

足が少し震えた。

 

「……」

ザビーダは笑った。

いつものように。

「平気平気」

ミクリオが眉を寄せる。

「平気には見えない」

「見えなくても平気なの」

「ザビーダ」

「大丈夫だって」

立とうとする。

 

膝に力が入らない。身体が少し傾いた。今度はミクリオが触る前にザビーダ自身が、近くの岩へ手をついた。

 

「……あれ?」

冗談みたいに笑う。

「足、寝てんのかな」

誰も笑わなかった。

 

それが妙に怖かった。

 

***

 

「休憩にする」

ミクリオが言った。

現地の対魔士が少し迷う。

「ですが、地脈処理が――」

「スレイとライラで継続できる」

「できる」

スレイが即答する。

ミクリオはザビーダを見る。

「少し離れよう」

「別にいいって」

「僕が休みたい」

「嘘つけ」

「では、僕が君をここから離したい」

「正直だねえ」

「歩けるか」

「……多分」

「多分か」

「うるせえな」

ザビーダは何とか。

 

立った。歩ける。少し脚が重いだけ、岩場から、離れる。ビジュゲイトを使った風の聖隷が気まずそうにこちらを見ていた。ザビーダは反射的に笑う。

 

「悪ぃな。お前のせいじゃねえから」

相手が目を瞬く。

「でも」

「普通の術だろ」

「……はい」

「なら気にすんな」

それだけ言って、ミクリオの後を追った。

 

***

 

少し離れた。木陰。ミクリオが水筒を差し出す。

 

「飲むか」

「もらう」

受け取る。

 

手がまだ少し震えている。ザビーダはそれを見て、顔をしかめた。

 

「……何なんだよ」

ミクリオは向かいに座る。

 

すぐには、何も聞かなかった。ザビーダが水を飲む。一口。二口。

 

「さっきの」

「うん」

「ビジュゲイト」

「……ああ」

「何で俺様、あんなことになった?」

ミクリオは少しだけ目を細める。

「分からない」

「お前でも?」

「君の記憶の話だろう」

「そうだけど」

ザビーダは水筒を見る。

「俺様も分かんねえんだよ」

それが一番気味が悪かった。

 

「あの術」

「うん」

「知ってる」

「現役の術だからな」

「そうじゃなくて」

言葉を探す。

「昔から知ってる」

「……」

「見たこともある」

多分、何度も普通に見てきた。けれど、どこで誰が使っていたのかが出てこない。

「でも」

ザビーダは眉間を押さえる。

「何で怖えのか、分かんねえ」

口にして、初めて、気づく。

 

怖い。自分はあの術を怖がった。

 

「怖かったのか」

ミクリオが聞く。

ザビーダは少しだけ笑った。

「多分な」

「多分?」

「分かんねえんだって」

苛立つ。

「音がして」

手を動かす。

「風が来て」

「うん」

「何か」

止まる。

 

何か。見えた。気がする。でも、思い出そうとすると頭の中に白い霧みたいなものが、かかる。

 

「……何かあった」

「何が」

「知らね」

「誰かいた?」

「知らねえ」

「場所は?」

「分かんねえ」

ミクリオがそこから、質問を止めた。

ザビーダは少ししてから、顔を上げる。

「……もう終わり?」

「何が」

「質問」

「君が分からないと言っているからな」

「もっと聞かねえの?」

「聞けば思い出すのか」

「……分かんね」

「なら今はいい」

あっさり。

 

ミクリオは言った。ザビーダが少しだけ拍子抜けする。

 

「お前なら調べたがると思った」

「調べたい」

「やっぱり」

「でも」

ミクリオは静かに続ける。

「君が今、思い出せないものを、無理に引っ張り出したいとは思わない」

ザビーダは何も言わなかった。

 

***

 

その日は、予定より早く。ザビーダだけ、先に戻ることになった。

 

「俺様、まだいけるぜ」

「知っている」

「なら」

「いけるかどうかの話ではない」

「……」

聞いたことのある。

 

言葉だった。港の時、同じようなことを言われた。

 

「君がここに残りたいなら残っていい」

ミクリオが言う。

「でも」

少し間。

「今、残りたいのか」

ザビーダは答えようとする。

 

仕事なら。役に立つなら。迷惑をかけないなら。そんな言葉がいくつか浮かぶ。でも、それじゃない。

 

「……帰りてえ」

言った。

ミクリオは頷いた。

「分かった」

スレイが「俺たちはこっちやっとく」と言う。

ライラも。

「お気をつけて」

「悪ぃな」

「謝るなよ」

スレイが言う。

「ザビーダが悪いことしてないだろ」

「……そっか」

ザビーダは少しだけ笑った。

 

***

 

家へ戻ってから、ザビーダは普段どおりに夕食を食べた。ミューズの作った煮込みを二杯平らげ、ミケルの話にも適当に相槌を打った。ミクリオが遅れて帰ってきた頃には、いつものように振る舞えていた。

 

「おつかれさん」

と声をかけた。

 

だから、もう平気だと思っていた。夜、自分の部屋へ入るまでは。

 

***

 

眠れない。目を閉じれば風が吹く。目を開ければ暗い天井がある。もう一度目を閉じると、術式の光と、何かが転がる光景が浮かんだ。

 

「……」

目を開ける。

息が、浅い。

「何だよ」

自分に言う。

「普通の術じゃん」

ビジュゲイト。

 

今でも普通に使われている、珍しくもない術だ。見たことだって何度もあるはずなのに、なぜ今日だけ。

 

「……」

分からない。

 

それが怖い。ザビーダは起き上がった。しばらくベッドの端へ座る。それから、部屋を出た。

 

***

 

ミクリオの部屋。灯りが、まだついていた。扉の前で、少し止まる。何をしに来た。話すことなんて、ない。理由も、分からない。でも、戻る気にも、ならなかった。軽く。扉を叩く。

 

「ミクリオ」

すぐに返事があった。

「起きている」

「……入っていい?」

一拍。

「ああ」

扉を開ける。

 

ミクリオは机に向かっていた。ザビーダが贈った筆が、手元にある。

 

「どうした」

「別に」

言って、止まる。

「……いや」

ミクリオが待つ。

「寝れねえ」

「そうか」

「それだけ」

「分かった」

またそれだけ、ザビーダが少し困る。

「追い返さねえの?」

「追い返してほしいのか」

「いや」

「ならいればいい」

簡単に言う。

 

ザビーダは部屋の隅にある長椅子へ座る。ミクリオはまた書類へ向かう。何も、聞かない。しばらく紙を擦る筆の音だけ、その音が、妙に落ち着いた。

 

***

 

「なあ」

ザビーダが言う。

「うん」

「今日のやつ」

ミクリオの手が止まる。

「ビジュゲイト?」

「ああ」

「うん」

「俺様」

少し考える。

「昔、何かあったのかな」

「かもしれない」

「何だと思う?」

「分からない」

「推測は?」

「できる」

「じゃあ」

「言わない」

 

ザビーダが顔を上げる。

「何で」

「君が覚えていないことを、僕の推測で埋めたくない」

「……」

「間違っているかもしれない」

「なるほどねえ」

ザビーダは天井を見る。

「俺様さ」

「うん」

「自分のことなのに」

少し笑う。

「何も分かんねえのな」

「千年分あるんだろう」

「多分」

「全部覚えている方が不自然だ」

「でも」

「うん」

「身体だけ覚えてるみてえで」

言葉にして、嫌になる。

「気持ち悪い」

 

ミクリオはすぐには、否定しなかった。

「そう感じるんだな」

「ああ」

「なら」

少し考える。

「今は、それだけ分かっていればいいんじゃないか」

「それだけ?」

「ビジュゲイトを見ると、君が強く反応する。それは確かだ。でも、理由までは分からない」

「うん」

「だったら今は、そこまででいい」

「お前らしい」

「何が」

「分かんねえものを、分かんねえままにしとくところ」

「君も覚えていないことを、僕が勝手に決める方がおかしいだろう」

「はいはい」

でも、少し楽になった。分からなくても、いいらしい。

 

***

 

「今後」

ミクリオが言う。

「ビジュゲイトの使用が予想される任務では、事前に――」

「待て」

「何だ」

「使用禁止とか言うなよ」

ミクリオが少しだけ口を閉じた。

「……言おうとしていた」

「やっぱり」

「君がああなるなら」

「普通の術だぜ」

「知っている」

「俺様一人のために、誰も使うなってのは無茶だろ」

 

「では」

ミクリオがすぐ考え直す。

「事前に分かる場合は君へ伝える」

「うん」

「同行するかどうかは君が決める」

「うん」

「使用する可能性のある者にも、君の近くで使う場合は可能なら知らせてもらう」

「それくらいなら」

「それと」

「まだあんの?」

「今日のような状態になった時は、任務から離脱できるようにする」

「……」

ザビーダが少し顔をしかめる。

「また帰るの?」

「必要なら」

「役に立てなくなるぜ」

「それと君が苦しい場所に居続けることに何の関係がある」

「……またそれ」

 

「何だ」

「役に立つかどうかじゃねえってやつ」

「そうだ」

ザビーダは少しだけ笑った。

「ほんと飽きねえな」

「君が何度も同じことを言うからだ」

「俺様のせい?」

「半分くらい」

「残りは?」

「僕の性格」

「認めるんだ」

「事実だからな」

 

***

 

しばらくまた静かになる。ミクリオが筆を動かす。ザビーダは長椅子へ横になる。眠気は、まだ来ない。でも、さっきより、呼吸は楽だった。

 

「ミクリオ」

「何だ」

「……今日」

「うん」

少し言いにくい。

「ここ」

指で、長椅子を示す。

「ここで寝てもいい?」

ミクリオがこちらを見る。

「構わない」

「あと」

そこで、言葉が止まる。

「あと?」

「……」

何で、こんなことの方が、難しい。

 

身体なら。簡単だった。昔から、何度でも、差し出せた。でも、これは、妙に言いづらい。

 

「……寝るまで」

ミクリオが待つ。

「いてくれねえ?」

言った。

ミクリオは驚かなかった。

「分かった」

「仕事終わったら?」

「本を読む」

「寝ないの?」

「君が寝たら寝る」

「……そっか」

それだけ、触らない。

 

抱かない。何も、要求しない。ただ、同じ部屋にいる。ミクリオは書類を片づけ。本を開いた。ページをめくる音。静か。ザビーダは目を閉じる。風は来ない。いや、窓の外には、少し吹いている。でも、今日の風とは、違う。何が、違うのか。まだ分からない。ビジュゲイトが、なぜ怖かったのか。

 

何を思い出しかけたのか。誰が、そこにいたのか。何も、分からない。それでも、今、ここにいることだけは、分かる。

 

「ミクリオ」

「うん」

「まだいる?」

ページをめくる音が、止まる。

「いる」

「そっか」

少しして、もう一度目を閉じた。今度は眠れそうだった。理由は、それも、まだよく分からなかった。

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