※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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空っぽではない

数日後。ミクリオが書斎で報告書を読んでいると、扉が軽く叩かれた。

 

「入っていい?」

「いい」

ザビーダが顔を覗かせる。

何となく落ち着かない顔だった。

「どうした」

「なあ」

「うん」

「前に言ってたやつ」

「どれだ」

「俺様の術」

ミクリオの手が止まった。

「使えねえ理由」

「……ああ」

「調べてみる?」

 

ミクリオはすぐには答えなかった。

「本当にいいのか」

ザビーダが笑う。

「俺様から言ってんじゃん」

「それでも確認する」

「はいはい。いいよ」

「途中で嫌になったら止める」

「分かった」

「痛みや違和感があれば――」

「ミクリオ」

「何だ」

「研究始まる前からめんどくせえ」

「必要な確認だ」

「知ってるよ」

ザビーダは少しだけ笑う。

「だから頼んでんの」

その言葉にミクリオは小さく頷いた。

「分かった」

 

***

 

翌日、中央支部の術式検査室。聖隷の霊力状態や契約適性を調べるための、小さな部屋だった。中央には測定台。周囲には複数の術式板。ミクリオは事前に借りた機器を一つずつ確認していく。

 

「本格的だねえ」

「一度調べるなら、取れる記録は取っておきたい」

「やっぱ楽しそうじゃん」

「君の不調を楽しんでいるわけではない」

「未知の現象?」

「……それは興味深い」

「ほら」

「黙って座れ」

「命令?」

ミクリオが止まる。

ザビーダがにやにやしている。

「……検査を始めたいので、座ってほしい」

「はいはい」

ザビーダは楽しそうに椅子へ腰掛けた。

 

***

 

「まず、霊力総量を見る」

「おう」

「ここへ手を」

ザビーダが測定石へ左手を乗せる。

 

淡い光。ゆっくりと術式板の上へ数字が浮かんでいく。ミクリオはそれを見る。

 

「……」

ミクリオはしばらく何も言わなかった。ザビーダが覗き込む。

 

「何」

返事がない。

「そんな悪い?」

「逆だ」

「逆?」

ミクリオは測定器の設定を見る。

 

一度術式を解除し、設定し直す。

 

「もう一度」

「おう」

もう一度測定する。

 

結果はほとんど同じだった。

 

「……機械壊れてる?」

「いや」

「じゃあ」

ミクリオは表示された数値を見る。

「霊力は十分ある」

「へえ」

「十分というより」

少し眉を寄せる。

「かなり多い」

ザビーダが目を瞬く。

「俺様が?」

「ああ」

「今でも?」

「ああ」

「じゃあ何で、あんなショボい風しか出ねえの」

「それを調べる」

ミクリオは記録紙へ数値を書き込む。

「少なくとも、単純に長命によって霊力が枯渇したという説明では合わない」

「歳じゃねえ?」

「違う」

「即答」

「今の霊力量だけなら、戦闘用聖隷として活動するにも不足していない」

ザビーダは自分の手を見る。

「……それは初耳だな」

「僕も今知った」

「お前、ちょっと嬉しそう」

「だから」

「未知の現象だから?」

「……ああ」

「認めた」

「話を進めるぞ」

 

***

 

次。単純な風を起こす。術式として形を作らず。ただ、空気を動かすだけ。

 

「できる範囲でいい」

「おう」

ザビーダが手を上げる。

 

風。髪が僅かに揺れる。衣服の裾が、少し持ち上がる。それだけ、ミクリオは測定板を見る。

 

「……妙だな」

「また?」

「霊力は流れている」

「でも弱い?」

「ああ」

「漏れてんの?」

「違う」

術式板へ何本かの光の線が現れる。

ザビーダの霊力経路。

「ここまで流れている」

「うん」

「でも」

一本。

途中で、急に光が薄くなる。

 

「術式へ変換される直前で戻っている」

「戻る?」

「霊力そのものが消えているわけじゃない」

「じゃあ何」

「経路が閉じている」

ザビーダが自分の腕を見る。

「……自分で?」

「分からない」

「誰かに封じられてる?」

「外部術式の干渉は、今のところ検出されていない」

「契約?」

「正式契約はしていない」

「じゃあ」

「分からない」

「便利だな、その言葉」

「分からないものを分かったと言うよりいい」

 

***

 

少し複雑な術。小さな風刃。ザビーダ自身も、昔から知っている。簡単な部類。

 

「やってみる?」

「無理はするな」

「大丈夫」

手を上げる。

 

霊力。集まる。形になる。途中までは、正常。測定値も、むしろ高い。だが、一定以上。術式構造が複雑になった瞬間、風が崩れた。ぱっと散る。

 

「……まただ」

ザビーダが肩をすくめる。

「いつもの俺様」

「いつもで済ませる現象じゃない」

「そう?」

「そうだ」

ミクリオは記録を取る。

 

《霊力総量:高》

《属性適性:風、正常》

《術式形成初期:正常》

《一定段階以降、経路閉塞》

 

「お前さ」

ザビーダが紙を覗く。

「俺様のこと、数字にすると楽しそうだねえ」

「楽しいとは言っていない」

「顔が」

「顔は関係ない」

「研究者サマ」

「黙ってろ」

「はいはい」

でも、ザビーダも少しだけ笑っていた。

 

***

 

「次」

ミクリオは一枚。

 

別の術式板を用意する。そして、少し迷った。

 

「何」

ザビーダが聞く。

「……ビジュゲイト」

その名を聞いた瞬間、胸の奥が、ほんの僅かにざわついた。

 

ザビーダは自分でも、それに気づく。昨日ほどではない。風の音もない。術式も、まだ始まっていない。ただ、名前、それだけ。

 

「……やってみる?」

「嫌ならやめる」

「俺様が調べろって言ったんだろ」

「そうだが」

「やるよ」

少し息を吐く。

「普通の術だし」

その通りだった。

 

ビジュゲイトは、今も使われている。珍しい術でもない。特別な禁術でもない。風属性聖隷なら。ある程度の力量があれば扱える。そして、ミクリオが今見ている数値だけなら。

 

「ザビーダ」

「ん?」

「今の霊力量なら」

術式板を見る。

「ビジュゲイト程度が成立しない方がおかしい」

「程度って言うねえ」

「少なくとも、君にとって負担になる出力には見えない」

「俺様、そんな強い?」

「ああ」

即答。

 

ザビーダが少しだけ意外そうな顔をする。

「へえ」

「昔の君を知るエドナも今の出力を見て驚いていた」

「ああ」

「測定値も同じことを示している」

「つまり?」

「君は本来」

ミクリオが静かに言う。

「ビジュゲイトを使えないような風の聖隷ではない」

ザビーダが少し黙った。

 

***

 

「始めるぞ」

「おう」

ザビーダが手を上げる。

 

術式を組む。知っている。どうやるか。身体が覚えている。霊力を流す。一段。二段。三段。測定値が、上がる。ミクリオの目が鋭くなる。

 

「……十分だ」

「何が」

「この時点で、必要量を超えている」

「マジ?」

「ああ。そのまま」

術式。

 

さらに形になる。あと少しこれが、完成すれば、風が一気に解放される。その。直前、――閉じた。

 

「……っ」

風が消えた。

 

一気に何もなかったようにザビーダの手だけが、空中に残る。ミクリオが測定板を見る。

 

「……」

ザビーダが苦笑する。

「駄目じゃん」

「おかしい」

「そんなはっきり言う?」

「おかしいものはおかしい」

ミクリオは表示された数値を指す。

「必要な霊力は流れていた」

「でも出なかった」

「ああ」

「じゃあやっぱ使えねえんじゃん」

「違う」

即答だった。

 

ザビーダがミクリオを見る。

「何が」

「力がないから使えないんじゃない」

ミクリオは測定板へ視線を戻す。

「力はある」

「……」

「十分すぎるほど」

記録紙へ線を書く。

「術式構築も、途中までは正常」

「うん」

「なのに」

 

一点、指で示す。

「完成する直前にだけ、経路が閉じる」

ザビーダは自分の手を見る。

「何で」

「分からない」

「俺様が止めてる?」

「可能性はある」

「意識してねえぜ」

「無意識なら本人にも分からない」

「じゃあ」

ザビーダが少しだけ笑みを消す。

「身体が勝手に止めてる?」

「……その可能性もある」

「何のために」

「それが分からない」

また分からない。でも、今度は、少し違う。何もないではない。力はある。途中まで、できる。でも、何かが、最後だけ、止める。

 

***

 

ミクリオは少し離れた場所へ新しい紙を広げる。

《霊力総量に顕著な低下なし》

 

書く。少し考え。消す。

《霊力総量:高水準》

 

書き直す。

《高出力術式を成立させるに足る》

 

次の記録。

《術式形成初期:正常》

《完成直前に経路閉塞》

 

最後に。

《原因不明》

 

ザビーダが横から見る。

「最後だけ雑じゃね?」

「事実だ」

「もっと格好いい名前つけろよ」

「未知の霊力閉塞現象?」

「急にそれっぽくなった」

「仮称だ」

「いらねえよ」

少し笑う。それから、ザビーダはもう一度自分の手を見る。

 

「……俺様」

「うん」

「強かったんだな」

ミクリオが少しだけ目を細める。

「今も、霊力だけなら強い」

「でも使えねえ」

「ああ」

「変なの」

「そうだな」

「エドナも驚いてたもんな」

「ああ」

 

「昔の俺様」

少し笑う。

「どんなだったんだろ」

ミクリオはすぐには、答えなかった。

「聞いてみるか?」

「エドナに?」

「ああ」

「……今はいい」

ザビーダが首を振る。

「そっか」

ミクリオもそれ以上。

 

言わない。

 

***

 

検査は、その後も続いた。属性適性。霊力回復速度。小規模術式。契約干渉。どれも、大きな異常はない。むしろ、数値だけ見れば、優秀。それだけに強い術だけが、完成しないことが、余計に目立った。

 

「……もう一回」

ミクリオが言う。

ザビーダが目を細める。

「何回目?」

「あと一度だけ」

「研究者サマ」

「嫌なら止める」

「……」

ザビーダが少し疲れた顔をする。ミクリオはそこで、術式板から手を離した。

 

「いや」

「ん?」

「終わりにしよう」

「まだいけるぜ?」

「疲れている」

「いけるって」

「いけるかどうかではなく」

ザビーダが。

「あー」

と片手を上げる。

「それね」

「何だ」

「はいはい。今日は終わり」

 

ミクリオが少しだけ息を吐く。

「水を飲め」

「お前、検査中ずっと俺様の顔見てた?」

「状態確認だ」

「こわ」

「必要なことだ!」

ザビーダが笑う。

「標本にされるかと思った」

「しない」

「瓶詰め?」

「しない!」

「部屋に飾って」

「しない!」

「ちょっとは迷えよ」

「なぜだ!」

笑い声が小さな検査室へ響いた。

 

***

 

帰り道。ザビーダは何度も、手を開いたり。握ったりしていた。

 

「変な感じ」

ミクリオが横を見る。

「何が」

「力あるって言われたの」

「実際ある」

「俺様、自分じゃ弱くなったと思ってた」

「術の出力だけ見れば、そう思うだろうな」

「ずっと」

少し間。

「使えねえから」

「うん」

「もう中身も空っぽなんだと思ってた」

 

ミクリオは足を僅かに遅くした。

ザビーダは前を見る。

「でも」

手を握る。

「あるんだな」

「ああ」

「今も」

「ああ」

「結構?」

「かなり」

「そこ強調すんの好き」

「事実だからな」

ザビーダが少し笑った。

 

「じゃあ」

「何だ」

「今分かってること」

ミクリオが指を一本立てる。

「君の霊力は、十分どころか高水準」

二本。

「風属性適性にも大きな異常はない」

三本。

「低出力の術なら一部成立する」

四本。

「高出力術式は、完成直前に霊力経路が閉じる」

五本。

「ビジュゲイトは、本来の君の霊力量なら問題なく扱えるはず」

「でも使えない」

「ああ」

「原因は?」

「不明」

 

ザビーダが吹き出した。

「最後それかよ」

「まだ分からない」

「ビジュゲイト見て固まったのと、関係ある?」

ミクリオは少し考える。

「可能性はある」

「あるんだ」

「でも」

ザビーダを見る。

「今は結びつけない」

「何で」

「根拠がないからだ」

 

「お前らしいねえ」

「似た時期に気づいたというだけで、同じ原因とは限らない」

「なるほど」

少し歩く。

「じゃあ」

ザビーダが笑う。

「分かんねえこと増えたな」

「増えてはいない」

「そう?」

「前からあったものに」

ミクリオは言う。

「気づいただけだ」

 

ザビーダが少し目を細める。

「……それ」

「何だ」

「前も言われた気がする」

「何を」

「嫌なもの増えたんじゃなくて、前から嫌だったって気づいただけ、とか」

「ああ」

「似てるな」

ミクリオも少しだけ考える。

「確かに」

「俺様」

ザビーダは前を見る。

「知らねえことだらけだな」

「千年分あるんだろう」

「多分」

「なら」

「うん」

「一つずつでいい」

ザビーダは少しだけ笑った。

 

***

 

夜、自室の窓辺に立ったザビーダは手を上げ、小さな風を起こした。髪が揺れる。さらに強めようとすると、風が少し集まり、そこでふっと消えた。

 

「……」

以前なら。

 

以前なら、またか、で終わっていた。使えない。弱い。役に立たない。そういうものだと思っていた。けれど今日、内側に力はあると知った。少なくとも空っぽではない。何かに途中で止められている。あるいは、自分で止めている。

 

「……何なんだろうな」

答えは、返ってこない。

 

でも、不思議と昨日までより、少しだけ嫌ではなかった。知らない。だから、調べられる。そのことを今は、知っている。廊下を足音が通る。ミクリオ。すぐ分かった。

 

「ミクリオ」

足音が止まる。

「何だ」

扉越し。

 

その返事を聞き、ザビーダは少し考える。

 

「今日の記録」

「うん」

「明日も見せて」

「分かった」

「俺様のだからな」

「当然だろう」

その返事にザビーダは少し笑う。

「あと」

「何だ」

「……」

一瞬、昨日の夜を思い出す。「寝るまで、いてくれ」と言えた。今日は別に怖いわけではない。ただ少し話したい。少し一緒にいたい。そこまで考えたが、まだ口にはしなかった。

 

「いや」

「そうか」

足音がまた遠ざかる。ザビーダは窓の外を見る。

 

「……そのうち、な」

誰にともなく、呟く。

 

もう一度指先へ弱い風を起こす。小さい。頼りない。けれど、それは、力がないから、小さいのではない。そのことだけは、今日、初めて分かった。

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