※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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ミク坊

中央への移管を断ってから、ザビーダは以前よりもミクリオのそばにいる時間が増えた。特に理由があるわけではない。研究の相談をするでもなく、昔の記録を読むでもない。ただ同じ部屋にいて、ミクリオが書き物をしている横で本を眺めたり、長椅子に寝転がったりする。以前なら「何かすることある?」と聞いていた時間だった。

 

今は、何もしなくてもいい。それが少しずつ分かってきた。その日も、ミクリオは書斎の机に向かっていた。追加検査の結果と、過去の術式記録を照合しているらしい。ザビーダは最初こそ向かいの椅子に座っていたが、しばらくすると飽きて長椅子へ移り、さらにそのうちミクリオの隣まで戻ってきた。

 

「なあ」

「何だ」

「まだ終わんねえの?」

「もう少し」

「さっきも聞いた」

「今度こそ本当にもう少しだ」

「信用ならねえなあ」

ミクリオは答えず、紙へ何かを書き込んでいる。

 

ザビーダは横から覗き込んだ。

《高出力術式形成時の経路閉塞について――》

 

難しい字が並んでいる。

「俺様のことなのに、見てると眠くなる」

「君も読め」

「やだよ」

「研究対象本人だろう」

「研究協力者な」

「そうだった」

言い直したミクリオに満足して、ザビーダはそのまま隣へ座った。

 

しばらくして、ふと肩を寄せた。自分でも、ほとんど意識していなかった。少しだけ近づいて、ミクリオの肩へ頭を預ける。長い銀髪が白い制服へこぼれ、緑がかった毛先が胸元をくすぐった。すぐそばに、明るい褐色の頬と琥珀色の瞳がある。ミクリオの筆が止まった。

 

「……ザビーダ」

「何」

「近くないか」

「そう?」

「そうだろう」

ザビーダは頭を上げなかった。

「嫌?」

「嫌ではない」

「じゃあいいじゃん」

「そういう問題なのか?」

「じゃあどういう問題だよ」

ミクリオが黙った。

その反応がおかしくて、ザビーダは笑う。

「何だよ。手ぇ繋いだ時もそうだったけど、お前いちいち固まりすぎ」

「君は僕が君を好きだと知っているんだぞ」

「知ってるよ」

「なら少しは考えろ!」

「考えた結果、ここにいるんだけど?」

言ったあとで、ザビーダ自身が少しだけ止まった。

ミクリオも動かない。

「……」

「……何だよ」

「いや」

「何」

「今のは、どういう意味だ?」

「またそれ?」

ザビーダは呆れながらも、頭を預けたまま少し考えた。

 

どういう意味。別に――と言いかけて、やめる。最近、それで終わらせないことを覚えた。

 

「……ここがいいから」

「ここ?」

「お前の隣」

今度は、ミクリオの耳が分かりやすく赤くなった。

ザビーダは吹き出す。

「お前、ほんと顔に出るようになったな」

「君のせいだ!」

「俺様何もしてねえじゃん」

「している!」

「肩借りてるだけだろ」

「それがだ!」

よく分からない。

 

ザビーダは笑いながら、もう少しだけ体重を預けた。ミクリオの肩は温かかった。妙に落ち着く。それに気づいて、少し不思議になる。人に触れられること自体は、今さら珍しくもない。むしろ、嫌になるほど知っている。手を取られることも、腕を掴まれることも、もっと近くに身体を寄せられることも、けれど今は、自分から近づいている。

 

触れられるのではなく、触れている。

「……なあ」

「何だ」

「俺様、最近お前に触ってること多い?」

ミクリオが少し考える。

「増えたと思う」

「やっぱり?」

「手も繋いだし、今もそうだ」

「ふうん」

自分の手を見る。

それから、ミクリオの袖を軽く摘んだ。

「何だ」

「いや」

摘んだまま、少し引く。

「何となく」

「……嫌ではない?」

ザビーダが顔を上げた。

「それ、俺様が聞く方じゃね?」

「僕は嫌じゃない」

「即答」

「君と違って分かっているからな」

「言うようになったじゃん」

少し笑って、ザビーダはまた肩へ戻る。

「俺様も嫌じゃねえよ」

「そうか」

「むしろ」

そこで一度言葉を探す。

「お前に触ってると、ちょっと落ち着く」

ミクリオの身体がまた僅かに固まった。

「……ザビーダ」

「何」

「そういうことを簡単に言うな」

「何で」

「僕が喜ぶからだ!」

あまりにも正直で、ザビーダは数秒黙ったあと、大笑いした。

「お前、そこまで言う?」

「笑うな!」

「いや、だって!」

「僕は真面目に――」

「分かってる、分かってるって」

笑いながら、ザビーダはミクリオの袖を掴んだまま離さない。

「でも」

「何だ」

「お前が喜ぶからやってんじゃねえよ」

ミクリオが黙る。

ザビーダは少しだけ目を細めた。

「俺様が触りてえから触ってんの」

今度こそ。

ミクリオは何も言えなくなった。

「……何だよ」

「少し待ってくれ」

「何を」

「今のを整理している」

「研究じゃねえんだから」

「仕方ないだろう!」

ザビーダはまた笑った。

 

***

 

そのまましばらく過ごしているうちに、ミクリオは再び資料へ意識を戻した。ザビーダは肩を借りたまま、ぼんやりと窓の外を見る。日が少し傾いている。

 

「なあ、そろそろ休めよ」

「あと少し」

「それ今日何回目?」

「今度こそ」

「昼にも聞いた」

「今回は本当だ」

「信用ねえなあ」

ミクリオは筆を動かし続ける。

 

ザビーダは少し呆れて、その横顔を見た。真面目。頑固。放っておいたら、たぶん夕食までこのままだ昔なら、こういう奴には勝手にさせていただろう。けれど今は、少し気になる。

 

「ったく」

ミクリオの肩へ頭を乗せたまま、ザビーダは何気なく口にした。

「ミク坊はしょうがねえな」

筆が止まった。

 

ザビーダも止まった。静かになった。

 

「……」

「……」

ミクリオがゆっくりと顔を向ける。

「今」

「何」

「何と呼んだ?」

ザビーダは目を逸らした。

「知らね」

「ミク坊と言った」

「言ってねえよ」

「言った!」

「気のせいじゃね?」

「そんな特徴的な呼び方を聞き間違えるか!」

ザビーダはつい笑ってしまう。

「何でそんな嫌そうなんだよ」

「嫌というか……僕は子供じゃない!」

「俺様から見りゃ十分坊やだろ」

「年齢差を持ち出すな!」

「だって千年単位で違うぜ?」

「それでも坊はないだろう!」

「じゃあ何がいい?」

「ミクリオでいい!」

「普通すぎ」

「僕の名前だ!」

ザビーダは肩を揺らして笑う。

けれど、少しして、ふとミクリオを見る。

「……嫌?」

ミクリオが止まった。

「何?」

「ミク坊って呼ばれんの。本気で嫌ならやめるけど」

さっきまでの冗談とは違う声だった。

 

ミクリオもそれが分かったらしい。少し考えてから答える。

 

「……嫌というほどではない」

ザビーダの口元が上がった。

「じゃ、採用」

「待て!」

「よろしくな、ミク坊」

「人の話を聞け!」

「嫌じゃねえんだろ?」

「嫌ではないと言っただけだ!」

「同じ同じ」

「違う!」

ザビーダは楽しそうに笑って、またミクリオの肩へ頭を戻した。

 

ミクリオは何か言いたそうだったが、結局それ以上は抗議しなかった。しばらくして、また筆が動き出す。

 

「なあ、ミク坊」

「……何だ」

返事をした。

それがおかしくて、ザビーダは笑う。

「呼んだだけ」

「用がないなら呼ぶな」

「いいじゃん」

「よくない」

「でも返事するじゃん」

「君が呼ぶからだろう!」

「そっか」

ザビーダは少しだけ笑った。

 

自分でも、なぜその呼び方が出たのか分からない。考えて決めたわけではなかった。ただ、気づいたら口から出ていた。ミクリオ。ミクリオ様。所有者サマ。どれとも違う。近くて、軽くて、少しからかえて、今の距離には、妙に馴染む。

 

「……ミク坊」

もう一度今度は小さく呼ぶ。

「今度は何だ」

「何でもねえよ」

「なら呼ぶな」そう言いながらも、ミクリオは肩を貸したままだった。

ザビーダも離れなかった。

 

誰かに触れられるのではなく、自分から触れる。誰かに呼ばされた名前ではなく、自分から呼びたいように呼ぶ。そんな小さなことが、今は、ひどく楽しかった。

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