一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか? 作:ビジュゲイト推し
その夜も、ザビーダはミクリオの書斎にいた。最近では、特に理由がなくてもここへ来るようになった。ミクリオが仕事をして、その隣でザビーダが本を読んだり、酒を少し飲んだり、何もせずぼんやりしたりする。
「ミク坊」
「何だ」
「手」
「……またか?」
「嫌?」
「嫌ではない」
「なら貸せ」
当然のように差し出された左手を取る。
以前なら、ミクリオはこれだけで露骨に緊張していた。今も少し意識しているのは分かるが、それでも大人しく手を預けてくれる。ザビーダは指を絡め、掌を重ねた。
「やっぱでけえな」
「前にも言っていたな」
「ああ」
そこで、指が止まった。
前にも、ミクリオに、ではない。もっと昔。同じように、大きな手を両手で弄っていた。傷のある指。少し硬い掌。呆れたような低い声。前に戻った記憶より、もう少しだけ先へ行けそうな気がした。
「……ミク坊」
「何だ」
「ちょっと思い出しそう」
ミクリオは何も尋ねなかった。
ただ、手を引かない。ザビーダは目を閉じた。その温度を握ったまま、古い感触の方へ意識を沈めた。
***
夕暮れだった。どこだったのかは、まだ思い出せない。宿なのか、誰かから借りた部屋なのか。窓が開いていて、外から風が入ってくる。テーブルには飲みかけの酒。その向こうで、アイゼンが何かの道具を手入れしていた。ザビーダはその隣に座っている。もっと正確には、アイゼンの手を勝手に取って、指を弄っている。
「お前、手ぇでけえな」
「さっきから何なんだ」
「いや、でけえなって」
掌を合わせる。
やっぱり、自分の方が小さい。
「お前が小さいんだろ」
「俺様のどこが小せえって?」
アイゼンが露骨に嫌そうな顔をした。
「……そういう言い方をするな」
「何想像したんだよ」
「お前がそういう意味で言ったんだろうが」
「ははっ、バレた?」
「離せ。手入れが終わらない」
アイゼンが手を引こうとする。
ザビーダは離さなかった。
「もうちょいいいじゃん」
「さっきからずっと触ってるだろ」
「嫌?」
そう聞くと、アイゼンは一度こちらを見た。
「嫌ならとっくに振り払っている」
「そっか」
それならいい。
何となくその手を自分の頬へ持っていった。アイゼンが僅かに眉を上げる。
「何だ」
「何となく」
「お前は何となくが多いな」
「細けえこと気にすんなよ」
掌に頬を預ける。
暖かい。それだけで妙に気分が良くて、ザビーダは目を細めた。アイゼンの親指がごく自然に頬を一度撫でる。
「……」
今度はザビーダの方が、少し黙った。
「何だ」
「いや」
「今度は何も言わないのか」
「ちょっといいなって思っただけ」
「そうか」
「反応薄くね?」
「何を言えっていうんだ」
「俺様可愛いとか」
「自分で言うな」
「言ってくれねえからだろ」
笑いながら、ザビーダはアイゼンの手を離した。
代わりに肩へ寄りかかる。これも、覚えている。いや、今、思い出している。自分から近づいた。アイゼンがそこにいるから、触りたかったから、相手の都合を読んでいたわけではない。命令されたわけでもない。役に立つためでもない。ただ、そうしたかった。
「重い」
「嘘つけ」
「重い」
「じゃあどける?」
そう言いながら、ザビーダは動かない。
アイゼンも押し返さない。
「……そのままでいい」
「素直じゃねえなあ」
「お前に言われたくない」
その言葉に、ザビーダは笑った。
酒の匂い。風。肌に触れる服。アイゼンの肩。そのどれもが、不思議なくらい穏やかだった。
「なあ」
「何だ」
ザビーダは顔を上げる。
近い。少し考えてから、自分から頬へ手を伸ばした。アイゼンが動きを止める。
「ザビーダ?」
「何」
「いや」
今度はアイゼンが言葉を探している。
それがおかしい。
「何だよ、その顔」
「お前が急に」
「嫌?」
「そればかり聞くな」
「大事だろ」
アイゼンは小さく息を吐いた。
「嫌じゃない」
「じゃあ」
ザビーダはそのまま、距離を詰めた。
唇が触れる。ほんの短く。一度。離れると、アイゼンが少し驚いた顔をしていた。
「……何その顔」
「お前から来ると思わなかった」
「俺様だってするだろ」
「するが」
「じゃあ何だよ」
「今日は妙に甘えるな」
「悪い?」
「悪いとは言ってない」
ザビーダは笑って、今度は服の襟元を掴んだ。
「なら、もう一回」
「お前な」
文句を言いながらも、アイゼンは逃げなかった。
二度目はさっきより長かった。触れたかった。触れ返してほしかった。相手が自分を欲しがっているのが嬉しかった。自分も欲しいと言いたかった。そんな感覚を知っていた。ずっと昔に唇が離れたあとも、ザビーダはアイゼンの服を掴んだままだった。アイゼンがこちらを見る。
「ザビーダ」
「何」
「……今日は、この先もいいのか」
ザビーダは瞬きをした。
それから笑う。
「何だよ、急に真面目な顔して」
「確認してる」
「さっきまで散々くっついてたじゃん」
「それとこれは別だろう」
「あー」
そうだった。
こいつは、こういうところが、少し面倒だった。でも、嫌ではなかった。むしろ、その面倒さを知っていて、好きだった。
「いいよ」
「本当に?」
「何回聞くんだよ」
「後で嫌だったと言われても困る」
ザビーダは少し考えて、それからアイゼンの首へ腕を回した。
自分から。
「俺様がしたいの」
アイゼンが黙る。
「これでいい?」
「……分かった」
「遅え」
「お前が軽すぎるんだ」
「じゃあ分かりやすく言ってやろうか?」
「何を」
ザビーダは耳元へ顔を寄せる。
「俺様、お前としたい」
アイゼンの肩が僅かに強張った。
「お前ので埋めてほしい」
「……お前な」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあ」
ザビーダは自分からアイゼンの膝の上へ跨った。服の上からでも、熱が伝わってくる。
「触っていい?」
「お前から聞くのか」
「大事だろ」
アイゼンは小さく息を吐き、ザビーダの腰へ手を回した。
「いい」
その一言で、ザビーダは笑った。
服を脱がせる手つきも急がない。一枚ずつ脱がせ、肌が触れるたびに温かさを感じる。アイゼンの胸へ手を這わせると、心臓の音が少し速かった。
「お前、興奮してんじゃん」
「お前がいきなりそんなこと言うからだ」
「俺様のせい?」
「そうだ」
ザビーダは笑い、自分から唇を重ねた。今度は深く、舌を絡め、息を混ぜる。アイゼンの手が背中を撫で、腰を掴んだ。嫌な力ではない。欲しいという熱だけが伝わってくる。
下着を下ろすと、すでに濡れていた。指が触れた瞬間、小さく息が漏れる。
「……熱い」
「お前のせいだろ」
「俺のせいなのか」
「ああ」
アイゼンの指がゆっくりと中へ入る。一本、二本と丁寧に広げられる感触に、ザビーダは腰を揺らした。
「んっ……いい」
「痛くないか」
「痛くねえ。もっと」
「焦るな」
「お前が遅いんだよ」
文句を言いながらも、声は甘い。アイゼンが、珍しく柔らかい笑い方をした。
「お前、本当に……」
「何」
「可愛いな」
「……今さら」
耳まで熱くなった。それでも離れなかった。
やがて、アイゼンが自分のものを取り出す。硬く、熱い。先端が入口に触れた瞬間、ザビーダは自分から腰を落とした。
「あっ……」
ゆっくりと奥まで埋まり、満ちていく。痛いわけではない。ただ熱くて、大きくて、愛しい。
「……全部、入った」
「ああ」
アイゼンの額がザビーダの肩へ寄りかかる。息が荒い。
「動いていいか?」
「ああ」
腰がゆっくりと動き出す。奥を擦るたび、甘い声が漏れた。
「んっ……あっ……アイゼン……」
「痛くないか」
「痛くねえ。……いい」
ザビーダも求めるように、自分から腰を合わせる。アイゼンの手が腰を支え、時に強く掴んだ。嫌な力ではない。欲しがられている実感だけが胸を満たす。
「ザビーダ」
「何」
「……お前が、したいって言ってくれて」
「ん?」
「嬉しかった」
その言葉に、ザビーダは目を細めた。
「俺様も」
唇を重ね、腰を動かしながら何度もキスをする。部屋に響くのは、肌の音と甘い吐息だけだった。外の風が時折カーテンを揺らし、夕暮れの光が二人の肌を優しく照らしている。
「もっと、奥」
「こうか」
「んっ……そこ……」
アイゼンが角度を変える。奥を突かれるたび、視界が白く霞んだ。
「あっ……あっ……アイゼン……」
「俺も、もう……」
「出して。……中に」
「いいのか」
「いい。お前の、欲しい」
最後の一突きで、熱いものが奥深くに注がれる。ザビーダは小さく喘ぎ、腕に力を込めて抱きついた。アイゼンも彼女を強く抱き返す。二人はしばらく、繋がったまま動かなかった。やがて息が少しずつ落ち着いていく。
「……幸せだな」
ザビーダがぽつりと呟く。
「何が」
「こういうの」
「曖昧だな」
「細けえこと気にすんなよ」
笑いながら額を合わせる。アイゼンの手が背中をゆっくり撫でた。
「ザビーダ」
「ん」
「俺もだ」
「何が」
「幸せだ」
その言葉に、ザビーダは目を閉じた。風、酒の匂い、肌の温もり、中に残る熱。すべてが優しかった。命令ではない。金のためでもない。ただ互いに欲しがり、触れ合い、満たされる。それがどれほど幸せなことだったか、当時のザビーダは知っていた。
「……もう一回、していい?」
「貪欲だな」
「嫌?」
「嫌じゃない」
アイゼンが微笑み、ザビーダも同じように笑った。夕暮れの部屋で、二人はもう一度ゆっくりと身体を重ねた。
***
そこで、記憶が切れた。ザビーダは目を開ける。書斎。机。灯り。自分の手の中にある、ミクリオの手。しばらく、何も言えなかった。
「……ザビーダ?」
ミクリオが静かに呼ぶ。
「ああ」
「戻った?」
「うん」
「大丈夫か」
ザビーダは少し考えた。
大丈夫。平気。そういう言葉で終わらせず、自分の中を確かめる。痛い記憶ではなかった。むしろ、温かかった。少し恥ずかしくて、少し寂しい。でも、思い出せて嬉しい。
「……大丈夫」
今度の言葉には、自分で納得できた。
「いい記憶だった」
ミクリオの表情が柔らかくなる。
「そうか」
「アイゼンとさ」
「うん」
ザビーダは繋いだ手を見る。
「やっぱり俺様から触ってた」
ミクリオは黙って聞いている。
「手ぇ触って、くっついて。俺様からキスして」
そこで、少しだけ笑った。
「その先も、俺様からしたいって言ってた」
ミクリオの目が僅かに泳いだ。
「……そこまで思い出したのか」
「嫉妬した?」
「……少し」
正直だ。
ザビーダは思わず笑った。
「ミク坊かわいいな」
「そういう反応を期待して言ったんじゃない!」
「分かってるって」
笑いながらも、ザビーダは手を離さなかった。
やがて笑いが落ち着くと、少しだけ真面目な顔になる。
「俺様さ」
「うん」
「客に何されても平気だったのと、全然違った」
ミクリオが何も言わず、続きを待つ。
「アイゼンには俺様から触りたかったし、向こうから触られんのも嬉しかった。……そういうの、ちゃんと知ってたんだな」
「忘れていただけ?」
「多分」
ザビーダは少し考える。
「いや。忘れたっていうより、後から上に色々積もりすぎたのかもな」
何百年。
誰でもいい。何でもいい。嫌じゃない。平気。慣れている。そんなものを積み重ねて、その下にあった感覚が見えなくなった。でも、消えていたわけではない。
「……ミク坊」
「何だ」
ザビーダは絡めた指をもう一度握り直した。
「俺様、お前にも自分から触ってるな」
ミクリオが固まる。
ザビーダもその事実を口にしてから黙った。
「……」
「……」
しばらくして、ミクリオが慎重に言う。
「今、その先まで考える?」
ザビーダは天井を見た。
答えの形は、もうかなり見えている。けれど。
「……今日はやめとく」
「分かった」
「逃げたって言わねえ?」
「言わない」
「そっか」
ザビーダは再び、ミクリオの肩へ頭を預けた。
「じゃあ、今日はこれでいいや」
「ああ」
「手、離すなよ」
「君が離したくなるまで離さない」
「……それ」
ザビーダは小さく笑った。
「結構好き」
ミクリオがまた固まったので、今度は声を上げて笑った。