※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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面白くない

その日は、中央聖寮への報告だけで終わるはずだった。ザビーダの追加検査について、現在までの結果を提出する。それだけの用事で、ミクリオも長居するつもりはなかったらしい。

 

「終わったら肉食いに行こうぜ」

廊下を歩きながらザビーダが言うと、ミクリオは持っていた書類から顔を上げた。

「また肉か」

「何だよ、悪い?」

「悪いとは言っていない。ただ最近多いなと思っただけだ」

「俺様が俺様の金で食うんだからいいだろ」

「それもそうだな」

「ミク坊も奢ってやるよ」

「なぜ君に奢られなければならない」

「嫌?」

「嫌では――」

そこまで言って、ミクリオが少し嫌そうな顔をする。

ザビーダはすぐ笑った。

「今の俺様みてえ」

「君のせいで言葉を意識するようになったんだ!」

「いいことじゃん」

そんな話をしていた時だった。

 

「ミクリオ特等」

前方から声がかかった。

ミクリオが足を止める。

「ああ、セリア」

歩いてきたのは若い女性対魔士だった。

ザビーダにも見覚えはある。何度か中央へ来た時にすれ違った程度で、名前までは知らなかった。

「先日の報告書、拝見しました。例の高霊力聖隷の件」

女性の視線が一瞬ザビーダへ向く。

「この方ですよね?」

「そうだ。ザビーダ」

「初めまして。お話は聞いています」

「ああ、どーも」

 

悪い感じはしない。

むしろ普通に礼儀正しい。

「それでミクリオ特等、少しご相談があって」

「今?」

「お時間がなければ後でも、ただ、次の休暇についてなんですけど」

ザビーダは何となく二人の会話を聞いていた。

「休暇?」

「はい。この前の件のお礼もありますし、もしご予定がなければ食事でもどうかなって」

ミクリオが少し考える。

「予定を確認しないと分からないな」

「ですよね」

女性が笑う。

 

その時、何気ない動作でミクリオの腕へ触れた。ほんの一瞬だった。袖についた糸くずでも取ったのかもしれない。ただ、それだけ、なのにザビーダの胸の奥で、何かがひどくざらついた。

 

「……」

何だ、これ。

女性は気づかず、そのまま話している。

「じゃあ、また日程分かったら教えてください」

「ああ」

「楽しみにしてます」

「分かった」

笑って去っていく。

ザビーダはその背中を少しだけ長く見ていた。

「ザビーダ」

「ん?」

「行くぞ」

「ああ」

歩き出す。

少しして、ザビーダが口を開いた。

「さっきの女、誰?」

「言っただろう。同僚だ」

「セリア?」

「ああ」

「仲いいの?」

ミクリオが少し不思議そうな顔をする。

「普通だと思うが」

「ふーん」

「何だ」

「別に」

言ってから、自分で止まった。

 

ミクリオも気づいたらしく、横目で見る。ザビーダは少し黙ってから、眉を寄せた。

 

「……いや。ちょっと面白くねえ」

「何が?」

「それが分かんねえんだよ」

ミクリオの顔が、少しだけ真剣になる。

「さっきのこと?」

「多分」

「食事に誘われていたこと?」

ザビーダは少し考える。

「……ちょっと嫌」

「僕が話していたこと?」

「それは別に」

「彼女が僕の腕に触れたこと?」

「それは嫌だった」

即答だった。

自分でも驚くくらい早かった。

 

「……」

「……」

今度はミクリオが黙る。

ザビーダも自分の言葉に困った。

「何だよ」

「いや」

「何」

「かなりはっきりしているなと思って」

「うるせえな」

ザビーダは少し歩く速度を上げた。

ミクリオが隣についてくる。

「ザビーダ」

「何だよ」

「僕が他の女性に触れられるのが嫌?」

「……そうみたい」

「なぜ?」

「それを今考えてんだよ!」

思わず声が大きくなる。

 

通りすがりの人間が少し振り返った。ザビーダは舌打ちして、声を落とす。

 

「こないださ」

「うん」

「昔の客に手掴まれて嫌だっただろ」

「ああ」

「で、お前には俺様から触りてえって思った」

「うん」

「アイゼンのこと思い出して、好きな奴には昔も自分から触ってたって分かった」

「……ああ」

「で、今」

ザビーダは頭を掻いた。

「他の女がお前に触るのは嫌だった」

 

ミクリオは何も言わない。

言わないせいで、余計に答えが見えてくる。

「……何だよ」

「何も」

「絶対何か思ってんだろ」

「思っているが」

「言えよ」

「僕から言うことではないと思っている」

「そういうとこだけ妙に慎重だな、ミク坊!」

「君が自分で決めたいと言ってきただろう!」

「そうだけど!」

言い返して、ザビーダは黙った。

 

確かにそうだった。自分で決めたい。自分の気持ちは自分で知りたい。だからこそ、今、かなり困っている。

 

***

 

肉は食べた。予定通り。ただしザビーダはいつもほど上機嫌ではなかった。向かいのミクリオが何度かこちらを見る。

 

「何」

「いや」

「言えよ」

「本当に何も言うつもりはない」

「むかつく」

「なぜ僕が怒られるんだ」

「お前が冷静だから」

「僕が取り乱せばいいのか?」

「それもやだ」

「ではどうすればいい」

「知らねえよ」

ザビーダは肉を一切れ口に放り込んだ。

 

うまい。うまいけど、頭の中に、さっきの光景が残っている。あの女がミクリオに触れた。それだけ、たったそれだけなのに嫌だった。

 

「なあ」

「何だ」

「お前、あの女と飯行くの?」

ミクリオが少し目を瞬く。

「まだ決めていない」

「ふーん」

「……」

「何だよ」

「行かない方がいい?」

ザビーダの手が止まった。

「それ」

「うん」

「俺様に決めさせんの?」

「決めさせるつもりはない。君がどう感じるのか聞いている」

「……」

また聞かれる。自分がどうしたいか。昔なら、そんなもの考えなかった。今は、考えなければならない。

 

「……行ってほしくねえ」

ようやく言った。

ミクリオが静かに頷く。

「分かった」

「でも」

「うん」

「俺様、お前の恋人じゃねえじゃん」

「そうだな」

「まだ返事してねえし」

「うん」

「なのに、行くなって言うの変じゃね?」

ミクリオは少し考えた。

「変ではないと思う」

「何で」

「付き合っていなければ嫉妬してはいけない、という決まりはないだろう」

 

その単語。

ザビーダは一瞬止まった。

「……嫉妬」

「違う?」

「……」

言われてみれば、あまりにも、しっくり来た。

だから腹が立つ。

「……多分」

「うん」

「そう」

「そうか」

「何だよ、その冷静な返事!」

「僕が喜ぶと君が嫌がるかと思って」

「……喜ぶんだ?」

「そりゃ」

ミクリオは少しだけ目を逸らした。

「君が僕のことで嫉妬したなら、嬉しい」

ザビーダが黙る。

「でも」

ミクリオはすぐ続けた。

「だからといって、その感情を急いで恋愛だと決めなくていい」

「……」

「君が自分でそう思った時でいい」

またそれだ。本当にずるい。

 

「ミク坊」

「何だ」

「お前、俺様が逃げやすいようにしてる?」

「逃げたいなら逃げてもいいと思っている」

「甘やかすなあ」

「違う。急がせたくないだけだ」

ザビーダはしばらくミクリオを見ていた。

それから、少しだけ笑った。

「……やっぱ好きかもなあ」

ミクリオの動きが止まった。

 

ザビーダも今、自分が何を言ったのか。一拍遅れて理解した。

 

「……」

「……」

「いや」

「ザビーダ」

「待て」

「何も言ってない」

「顔が言ってる!」

ミクリオは口元を押さえた。

明らかに嬉しそうだった。

「笑うな!」

「笑ってない」

「嘘つけ!」

「……少し」

「少しかよ!」

ザビーダは頭を抱えた。

 

そのまましばらく顔を上げない。ミクリオも今度は何も言わなかった。

 

***

 

帰宅後、ザビーダは一人で部屋にいた。ベッドへ横になり、天井を見る。

 

「……あー」

声が出る。

 

アイゼン。昔。好きだった。自分から触りたかった。触れられると嬉しかった。一緒にいたかった。そして、今、ミク坊のそばにいたい。自分から触りたい。手を繋ぎたい。他の女に触られると嫌。他の女と食事に行くのも、少し嫌。

 

「……」

一つずつ並べる。

どう考えても。

「あー……」

もう一度顔を両手で覆った。

「これ、駄目じゃね?」

誰もいない部屋で、呟く。

 

駄目。というのは、嫌だ。という意味ではない。もう。逃げ道が、かなり少ない。いや、ほとんどない。

 

「俺様」

ぽつり。

「ミク坊のこと、好きじゃね?」

口にした。

 

心臓が跳ねた。嫌ではない。むしろ、妙にしっくり来る。だからこそ。恥ずかしい。

 

「……マジかよ」

千年。

 

誰でもいい。何でもいい。そうしてきた。その自分がまた誰か一人を選びかけている。怖くない。と言えば、嘘になる。でも、嫌ではない。それより、少し嬉しい。

 

「……」

ザビーダは起き上がった。

 

しばらく迷ってから、部屋を出る。ミクリオの書斎へノック。

 

「ミク坊」

「起きている」

「入っていい?」

「ああ」

扉を開ける。

ミクリオが机から顔を上げた。

「どうした?」

ザビーダはしばらくその顔を見る。さっきまで、他の女に触られたことを思い出して、少しむかつく。だから、机まで歩いていった。

 

「手」

ミクリオが差し出す。

ザビーダはその手を取った。

「……これは?」

「俺様の」

「僕の手だが」

「今は俺様が握ってんだから俺様の」

「理屈がおかしい」

「うるせえ」

ミクリオは笑った。

 

ザビーダはその手を握ったまま。少しだけ息を吐く。

 

「ミク坊」

「何だ」

「俺様」

言いかける。

 

でも、止めた。まだ今日はそこまででいい。

 

「……やっぱ、これ好き」

「手を繋ぐこと?」

「お前と」

ミクリオがまた。

 

嬉しそうな顔をした。ザビーダは今度は、怒らなかった。

 

「そういう顔すんなよ」

「嫌?」

少し考えて。

「……いや」

ザビーダはむしろ。

繋いだ手を少し強く握った。

「今日は、いい」

その答えだけで、ミクリオは十分らしかった。

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