※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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明日、ちゃんと

好きなんじゃないか。昨夜そう口にした時、思ったよりも違和感がなかった。むしろ、今までばらばらに転がっていたものへ名前がついたようだった。ミクリオのそばにいたい。自分から触りたい。手を繋いでいると落ち着く。他の女が触っていると面白くない。好きだと言われたことが嬉しかった。

 

並べてみれば、答えなんて最初から見えていたのかもしれない。だから翌朝、食卓でミクリオの顔を見た瞬間、ザビーダは思った。――ああ。やっぱ俺様、こいつのこと好きだわ。

 

「おはよう」

ミクリオは何も知らない顔で席についた。

「……おう」

「どうした?」

「何が」

「妙に僕の顔を見ている」

「見てねえよ」

「見ていただろう」

「朝から細けえな、ミク坊」

いつものように笑う。

 

笑えた。そこまでは、何も問題なかった。ミューズが焼いたパンを取って、ミケルが焦がしかけた卵の話をして、ミクリオが呆れる。それを眺めているだけでも、妙に気分がよかった。それなのに、「今日、中央に行くけど、君はどうする?」そう聞かれた瞬間、胸の奥が少し冷えた。

 

「……何しに?」

「追加検査の資料を受け取るだけだ。昼には戻る」

「俺様も行く」

ほとんど反射だった。

ミクリオが少し目を丸くする。

「分かった」

「何」

「いや。最近、君は本当に自分で決めるようになったなと思って」

「今さら?」

「嬉しいんだ」

またそういうことを言う。ザビーダはパンを齧りながら目を逸らした。好きだ。もう認めてもいい気がする。なのに、言おうとすると、喉の奥に何かが引っかかった。

 

***

 

中央聖寮へ向かう道は、人通りが多かった。ミクリオはいつもの制服姿で、ザビーダはその横を歩く。

 

「なあ」

「何だ」

「昨日の女」

「セリア?」

「今日いる?」

「いるんじゃないか」

「ふーん」

「また気になる?」

ザビーダは少し考えてから、素直に答えた。

「ちょっと」

「そうか」

「嬉しそうにすんな」

「してない」

「してる」

「少しだけだ」

「正直になったな、お前」

「君に言われたくない」

そんなやり取りをしながら歩いていると、昨日までならそれで終わっていた。

 

でも今日は、ふと別のことを考えた。ミクリオが怪我をしたら。任務で戻ってこなかったら。ある日突然、この手が触れられなくなったら。足が止まりかけた。

 

「ザビーダ?」

「……何でもねえ」

言ってから、すぐに訂正する。

「いや。ちょっと嫌なこと考えた」

ミクリオも足を止めた。

「話す?」

「今はいい」

「分かった」

それ以上は聞かない。

 

その優しさが、今日は少しだけ怖かった。

 

***

 

中央での用事は本当にすぐ終わった。セリアにも会った。

 

「昨日はすみません。急にお誘いして」

「いや」

ミクリオはいつも通りだ。

セリアはザビーダにも軽く会釈した。

「ザビーダさんも、研究うまくいくといいですね」

「ああ、ありがと」

昨日ほど腹は立たなかった。

それでも、セリアが去ってからザビーダはミクリオの袖を摘んだ。

「何だ」

「いや」

「……」

「触りたくなった」

ミクリオは少しだけ顔を赤くしたが、もう以前ほど固まらない。

「そうか」

「手も」

差し出された手を取る。

 

指を絡める。やっぱり落ち着く。だから、余計に怖くなる。ザビーダは繋いだ手を見た。昔も、こうしていた。アイゼンの手を勝手に取って、指を弄って、笑っていた。あの手も最後には、戻ってこなかった。

 

「……」

「ザビーダ?」

「なあ、ミク坊」

「何だ」

「お前さ」

続きが出ない。

ミクリオは待つ。

「……やっぱ何でもねえ」

今度は言い直せなかった。

 

***

 

夜、ザビーダは自室にいた。今日は珍しく、ミクリオの書斎へ行かなかった。ベッドに座って、自分の手を見る。昼間までミクリオと繋いでいた手。温度まで、まだ覚えている気がする。

 

「……好き」

口に出してみる。

 

嫌ではない。むしろ嬉しい。

 

「好きなんだよな」

もう一度今度もちゃんと言える。

 

だから、やっぱり問題はそこじゃない。ザビーダは目を閉じた。浮かんだのは、アイゼンの笑った顔ではなかった。

 

『逃げろ』

声。

 

風。ビジュゲイト。拘束が外された直後。約束は守られたのだと思った、その一瞬、そのあと。

《処刑》

 

文字。赤。落ちるもの。ザビーダは目を開けた。息が少し速い。

 

「……違う」

好きなのが怖いんじゃない。

 

ミクリオを好きだと認めること自体は、もうそんなに怖くない。怖いのは、好きになったあとだ。大事になって、失ったら。また。

 

「……あー」

両手で顔を覆った。

「俺様、失くすのが怖えんだ」

言葉にした途端、胸の奥で何かがほどけた。

 

それだった。アイゼンを好きだったことを後悔しているわけではない。あいつと笑った記憶は、思い出せて嬉しかった。触れたことも、自分から欲しがったことも、好きだったことも、全部。なかったことになんてしたくない。ただ、また同じように誰かを大事にして、その人がいなくなったら。

 

耐えられるのか。分からない。

 

「……」

しばらく座っていた。

 

それでも、結局。立ち上がる。廊下へ出て、ミクリオの書斎の前まで行く。ノック。

 

「ミク坊」

「起きている」

「入っていい?」

「ああ」

扉を開ける。

ミクリオはいつものように机に向かっていた。

「今日は来ないかと思った」

「何で」

「いつもより遅かったから」

「俺様来んの待ってた?」

ミクリオは少し迷ってから頷いた。

「ああ」

胸がまた。

 

きゅっとなる。嬉しい。それと同じくらい。怖い。ザビーダは机の前まで行った。

 

「ミク坊」

「うん」

「俺様さ」

言う。

今度は逃げない。

「お前のこと好きだと思う」

ミクリオの筆が止まった。

でも、ザビーダは手を上げる。

「待て。まだ続きある」

「……分かった」

ミクリオは筆を置いた。

ザビーダは椅子へ座る。

「昨日、ほぼ分かったじゃん。俺様、お前に触りたいし、そばにいたいし、他の女に触られんの嫌だし」

「うん」

「昔、アイゼンに対しても似たようなことしてた」

「うん」

「だから多分、もう答えは出てる」

「……うん」

ザビーダは膝の上で指を組んだ。

 

「でも」

少しだけ声が低くなる。

「言うの怖えんだ」

ミクリオの表情が変わる。

「僕が?」

「違う」

即答した。

「お前は怖くねえ」

むしろ、安全だから、ここまで来た。

「好きになるのも、そんなに怖くねえ。多分」

「なら」

「失うのが怖い」

 

ミクリオは黙った。

ザビーダは笑おうとしたが、できなかった。

「アイゼンみたいに」

「……」

「大事にして。そばにいて。触って。触られて。それで」

言葉が詰まる。

「いなくなったら」

ミクリオは何も言わなかった。

しばらくしてから、ゆっくり手を差し出す。

「触っていい?」

ザビーダは少し笑った。

「俺様が取る」

自分から、その手を掴んだ。

 

「お前さ」

「うん」

「俺様を安心させるために、絶対死なないとか言う?」

「言わない」

即答だった。

ザビーダが顔を上げる。

「言えないから」

「……だよな」

「僕だって、未来のことは分からない」

「うん」

「任務で何かあるかもしれない。君だってそうだ」

「うん」

「だから、絶対に失わないとは約束できない」

ザビーダは繋いだ手を見る。

 

少し痛いくらい。正しい。でも、聞きたかった答えでもある。

 

「ただ」

ミクリオが続ける。

「怖いから僕を選ばない、というなら、それも君の選択だ」

「……」

「でも」

少しだけ力が返ってくる。

「怖いままでも僕を選んでくれるなら」

ミクリオはまっすぐザビーダを見た。

「僕は嬉しい」

ザビーダはしばらく、その顔を見ていた。

それから、少しだけ笑った。

「……そっか」

今日はまだ。

それだけでいい。

「ミク坊」

「何だ」

「明日」

「うん」

「ちゃんと話す」

ミクリオは何も急かさなかった。

「分かった」

ザビーダはそのまましばらく手を離さなかった。

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