一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか? 作:ビジュゲイト推し
翌朝、ザビーダはいつもより早く目を覚ました。眠れなかったわけではない。むしろ、久しぶりによく眠った気がする。窓を開けると、朝の風が入ってきた。弱い。自分の風より、ずっと自然で、気持ちいい。風が長い銀髪を持ち上げ、緑がかった毛先が明るい褐色の肩を撫でる。ザビーダは琥珀色の目を細めた。
「……よし」
誰に聞かせるでもなく呟く。
昨日まで考えた。もう十分だ。分からないことはまだある。ミクリオと恋人になったらどうなるのか。身体の関係を持ちたいと思う日が来るのか。研究が終わり、術が戻ったあと、何年、何十年と続く残された時間を一緒にいられるのか。全部は分からない。けれど、今分かることもある。ミクリオが好きだ。
そばにいたい。自分から触れたい。他の誰かではなく、ミクリオがいい。それで十分だった。
***
朝食を終えても、ザビーダは何も言わなかった。ミクリオがちらちらこちらを見ている。ミューズが気づいているのかいないのか、普通にお茶を淹れている。ミケルだけが妙に楽しそうだ。
「ミクリオ、落ち着かないね」
「父さん」
「何かあるの?」
「ない」
「ありそうだけど」
「ない!」
ザビーダは吹き出した。
「ミク坊、分かりやすすぎ」
「誰のせいだと思っている!」
「俺様?」
「君以外に誰がいる!」
「仲いいねえ」
ミケルが笑う。
ミクリオが本気で嫌そうな顔をした。その顔すら好きだと思う。もう逃げなくていい。
「ミク坊」
「何だ」
「あとでちょっと時間くれ」
ミクリオの動きが止まる。
「……分かった」
耳が赤い。
ザビーダは笑った。
***
話す場所は、結局いつもの書斎になった。特別な場所へ行こうとも思わなかった。ここがいい。一緒に研究して、手を繋いで、肩を借りて、初めてミク坊と呼んだ。この部屋で、ミクリオは机の前に座っている。ザビーダは向かいの椅子。妙に改まっていて、おかしい。
「何でそんな緊張してんの」
「君が話があると言ったからだ」
「昨日何の話するかほぼ言ったじゃん」
「それでもだ!」
「はいはい」
ザビーダは少し笑った。
それから、深く息を吐く。
「ミク坊」
「うん」
「俺様さ」
もう。
回り道はいらない。
「お前のこと好きだわ」
ミクリオが固まった。
ザビーダはその顔を見て、少し笑う。
「多分じゃねえ」
「……」
「昨日まで多分だったけど、もう分かった」
「……うん」
「触りてえし、そばにいたいし、他の女に触られんの腹立つし」
「全部言うのか」
「証拠」
ミクリオの口元が僅かに緩む。
「あと」
ザビーダは続ける。
「お前が俺様にいてほしいって言うと嬉しい」
「……うん」
「お前の顔見たい時あるし、手ぇ繋ぎたい時もある。肩も借りたい」
「うん」
「他の奴じゃなくて、お前がいい」
そこまで言った時、ミクリオが息を止めた。
ザビーダも少しだけ胸が苦しくなる。でも、嫌ではない。
「だから」
ザビーダは笑う。
「好き」
ミクリオはしばらく何も言わなかった。
「……何か言えよ」
「待ってくれ」
「何で」
「今」
顔を片手で覆う。
「かなり嬉しい」
「知ってる」
「顔を見るな」
「見せろよ」
「嫌だ!」
ザビーダは声を上げて笑った。
「告白されて顔隠す奴いる?」
「君が急に直球で言うからだろう!」
「昨日予告したじゃん」
「予告されても無理なものは無理だ!」
それでも、少しして、ミクリオは顔を上げた。
まだ赤い。でも、笑っている。
「ザビーダ」
「何」
「僕も君が好きだ」
「ああ」
「……そこはもう少し何かないのか」
「知ってたし」
「それでも!」
ザビーダはまた笑う。
「嬉しいよ」
今度はちゃんと言った。
ミクリオの表情が柔らかくなる。その顔を見て、やっぱり。好きだと思う。
***
「で」
ザビーダが言う。
「これ、付き合うってことでいい?」
ミクリオが一瞬止まる。
「君はそうしたい?」
「そういうとこ!」
「大事だろう!」
「分かってるけどよ」
ザビーダは少し考える。
恋人。久しぶり。多分、千年ぶり。怖くないと言えば、まだ嘘になる。でも。
「したい」
ちゃんと言う。
「お前と付き合いたい」
ミクリオはゆっくり頷いた。
「僕も」
「そっか」
それだけ、なのに胸の奥が妙に温かい。
「じゃ」
ザビーダが手を出す。
「何だ」
「恋人一発目」
「何をするんだ」
「手」
「いつもと同じじゃないか」
「いいだろ」
ミクリオも笑って、手を差し出した。
ザビーダは指を絡める。恋人になる前と何も変わらない。同じ手。同じ温度。でも、少しだけ違う。
「ミク坊」
「何だ」
「これからもミク坊な」
「そこは変えないのか!?」
「何で変えるんだよ」
「せめて恋人になったならもう少し――」
「ミクリオ様?」
「違う!」
「所有者サマ?」
「もっと違う!」
「じゃあミク坊」
「……もういい」
「諦め早」
二人で笑う。
ザビーダは繋いだ手を少し見てから、ふと真面目な顔になった。
「なあ」
「うん」
「昨日の話」
ミクリオも少しだけ表情を改める。
「失うのが怖い?」
「ああ」
「……今も?」
ザビーダは考える。
アイゼン。大事だった。失った。今も悲しい。多分、これからもっと記憶が戻れば、もっと辛くなることもある。ミクリオだって、いつか失うかもしれない。自分が先にいなくなるかもしれない。未来は、分からない。
「怖いよ」
ザビーダは答えた。
「まだ」
「うん」
「でも」
繋いだ手を見る。
「怖いからお前選ばねえ方が、今は嫌だ」
ミクリオが黙る。
「俺様さ」
少しだけ笑う。
「アイゼン好きだったこと、後悔してねえんだよ」
「うん」
「死んだのは最悪だし、あいつらがやったことも許せねえ。でも」
昔の。
大きな手。酒。風。笑い声。自分からしたキス。
「好きだったことまで、嫌な記憶にしたくねえ」
ミクリオは何も挟まない。
「だから」
ザビーダはミクリオの手を握り直した。
「お前のことも、好きでいる」
少し言い方が変だ。でも、それが今の自分には一番近かった。
「怖いままでも」
「ああ」
「俺様が選ぶ」
ミクリオの目が少し揺れた。
「僕を?」
「お前を」
今度は迷わない。
「ミクリオを選ぶよ、俺様が」
いつもはミク坊と呼ぶ名前をその時だけ、ちゃんと呼んだ。
ミクリオはしばらく黙っていた。それから、とても静かに、「ありがとう」と言った。
「何で礼」
「選んでくれたから」
「……そっか」
悪くない。
むしろ、かなり嬉しい。
***
しばらく手を繋いでいた。やがてザビーダが少しだけ身体を近づける。
「ミク坊」
「何だ」
「肩借りる」
「どうぞ」
頭を預ける。
ミクリオも少しだけ寄る。それで終わる。キスは、まだしなかった。しようと思えば、できる。でも、今日は、これがいい。好きだと言った。好きだと言われた。自分でこの人を選んだ。それだけで、胸の中がいっぱいだった。
「なあ」
「何」
「俺様たち、恋人になって最初にしてんのが肩貸すだけって地味じゃね?」
「嫌なら何かする?」
ザビーダは少し考える。
「……いや」
笑う。
「今日はこれでいい」
「そうか」
「ああ」
それから少しして、小さく付け足す。
「そのうちな」
ミクリオの身体が僅かに固まった。
ザビーダはすぐ気づいて笑う。
「何想像した?」
「何も!」
「嘘つけ、ミク坊」
「うるさい!」
笑い声が書斎に響く。
恋人になっても、今のところあまり変わらない。けれど、それでいい。自分で選び、好きな人のそばにいる。それが今は、何より嬉しかった。