※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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怖いままでも

翌朝、ザビーダはいつもより早く目を覚ました。眠れなかったわけではない。むしろ、久しぶりによく眠った気がする。窓を開けると、朝の風が入ってきた。弱い。自分の風より、ずっと自然で、気持ちいい。風が長い銀髪を持ち上げ、緑がかった毛先が明るい褐色の肩を撫でる。ザビーダは琥珀色の目を細めた。

 

「……よし」

誰に聞かせるでもなく呟く。

 

昨日まで考えた。もう十分だ。分からないことはまだある。ミクリオと恋人になったらどうなるのか。身体の関係を持ちたいと思う日が来るのか。研究が終わり、術が戻ったあと、何年、何十年と続く残された時間を一緒にいられるのか。全部は分からない。けれど、今分かることもある。ミクリオが好きだ。

 

そばにいたい。自分から触れたい。他の誰かではなく、ミクリオがいい。それで十分だった。

 

***

 

朝食を終えても、ザビーダは何も言わなかった。ミクリオがちらちらこちらを見ている。ミューズが気づいているのかいないのか、普通にお茶を淹れている。ミケルだけが妙に楽しそうだ。

 

「ミクリオ、落ち着かないね」

「父さん」

「何かあるの?」

「ない」

「ありそうだけど」

「ない!」

ザビーダは吹き出した。

「ミク坊、分かりやすすぎ」

「誰のせいだと思っている!」

「俺様?」

「君以外に誰がいる!」

「仲いいねえ」

ミケルが笑う。

 

ミクリオが本気で嫌そうな顔をした。その顔すら好きだと思う。もう逃げなくていい。

 

「ミク坊」

「何だ」

「あとでちょっと時間くれ」

ミクリオの動きが止まる。

「……分かった」

耳が赤い。

 

ザビーダは笑った。

 

***

 

話す場所は、結局いつもの書斎になった。特別な場所へ行こうとも思わなかった。ここがいい。一緒に研究して、手を繋いで、肩を借りて、初めてミク坊と呼んだ。この部屋で、ミクリオは机の前に座っている。ザビーダは向かいの椅子。妙に改まっていて、おかしい。

 

「何でそんな緊張してんの」

「君が話があると言ったからだ」

「昨日何の話するかほぼ言ったじゃん」

「それでもだ!」

「はいはい」

ザビーダは少し笑った。

それから、深く息を吐く。

「ミク坊」

「うん」

「俺様さ」

もう。

回り道はいらない。

 

「お前のこと好きだわ」

ミクリオが固まった。

ザビーダはその顔を見て、少し笑う。

「多分じゃねえ」

「……」

「昨日まで多分だったけど、もう分かった」

「……うん」

「触りてえし、そばにいたいし、他の女に触られんの腹立つし」

「全部言うのか」

「証拠」

ミクリオの口元が僅かに緩む。

「あと」

ザビーダは続ける。

「お前が俺様にいてほしいって言うと嬉しい」

「……うん」

「お前の顔見たい時あるし、手ぇ繋ぎたい時もある。肩も借りたい」

「うん」

「他の奴じゃなくて、お前がいい」

そこまで言った時、ミクリオが息を止めた。

 

ザビーダも少しだけ胸が苦しくなる。でも、嫌ではない。

 

「だから」

ザビーダは笑う。

「好き」

ミクリオはしばらく何も言わなかった。

「……何か言えよ」

「待ってくれ」

「何で」

「今」

顔を片手で覆う。

「かなり嬉しい」

「知ってる」

「顔を見るな」

「見せろよ」

「嫌だ!」

ザビーダは声を上げて笑った。

「告白されて顔隠す奴いる?」

「君が急に直球で言うからだろう!」

「昨日予告したじゃん」

「予告されても無理なものは無理だ!」

それでも、少しして、ミクリオは顔を上げた。

 

まだ赤い。でも、笑っている。

 

「ザビーダ」

「何」

「僕も君が好きだ」

「ああ」

「……そこはもう少し何かないのか」

「知ってたし」

「それでも!」

ザビーダはまた笑う。

「嬉しいよ」

今度はちゃんと言った。

 

ミクリオの表情が柔らかくなる。その顔を見て、やっぱり。好きだと思う。

 

***

 

「で」

ザビーダが言う。

「これ、付き合うってことでいい?」

ミクリオが一瞬止まる。

「君はそうしたい?」

「そういうとこ!」

「大事だろう!」

「分かってるけどよ」

ザビーダは少し考える。

 

恋人。久しぶり。多分、千年ぶり。怖くないと言えば、まだ嘘になる。でも。

 

「したい」

ちゃんと言う。

「お前と付き合いたい」

ミクリオはゆっくり頷いた。

「僕も」

「そっか」

それだけ、なのに胸の奥が妙に温かい。

「じゃ」

ザビーダが手を出す。

「何だ」

「恋人一発目」

「何をするんだ」

「手」

「いつもと同じじゃないか」

「いいだろ」

ミクリオも笑って、手を差し出した。

 

ザビーダは指を絡める。恋人になる前と何も変わらない。同じ手。同じ温度。でも、少しだけ違う。

 

「ミク坊」

「何だ」

「これからもミク坊な」

「そこは変えないのか!?」

「何で変えるんだよ」

「せめて恋人になったならもう少し――」

「ミクリオ様?」

「違う!」

「所有者サマ?」

「もっと違う!」

「じゃあミク坊」

「……もういい」

 

「諦め早」

二人で笑う。

ザビーダは繋いだ手を少し見てから、ふと真面目な顔になった。

「なあ」

「うん」

「昨日の話」

ミクリオも少しだけ表情を改める。

「失うのが怖い?」

「ああ」

「……今も?」

ザビーダは考える。

 

アイゼン。大事だった。失った。今も悲しい。多分、これからもっと記憶が戻れば、もっと辛くなることもある。ミクリオだって、いつか失うかもしれない。自分が先にいなくなるかもしれない。未来は、分からない。

 

「怖いよ」

ザビーダは答えた。

「まだ」

「うん」

「でも」

繋いだ手を見る。

「怖いからお前選ばねえ方が、今は嫌だ」

ミクリオが黙る。

「俺様さ」

少しだけ笑う。

「アイゼン好きだったこと、後悔してねえんだよ」

「うん」

「死んだのは最悪だし、あいつらがやったことも許せねえ。でも」

昔の。

 

大きな手。酒。風。笑い声。自分からしたキス。

 

「好きだったことまで、嫌な記憶にしたくねえ」

ミクリオは何も挟まない。

「だから」

ザビーダはミクリオの手を握り直した。

「お前のことも、好きでいる」

少し言い方が変だ。でも、それが今の自分には一番近かった。

 

「怖いままでも」

「ああ」

「俺様が選ぶ」

ミクリオの目が少し揺れた。

「僕を?」

「お前を」

今度は迷わない。

「ミクリオを選ぶよ、俺様が」

いつもはミク坊と呼ぶ名前をその時だけ、ちゃんと呼んだ。

 

ミクリオはしばらく黙っていた。それから、とても静かに、「ありがとう」と言った。

 

「何で礼」

「選んでくれたから」

「……そっか」

悪くない。

 

むしろ、かなり嬉しい。

 

***

 

しばらく手を繋いでいた。やがてザビーダが少しだけ身体を近づける。

 

「ミク坊」

「何だ」

「肩借りる」

「どうぞ」

頭を預ける。

 

ミクリオも少しだけ寄る。それで終わる。キスは、まだしなかった。しようと思えば、できる。でも、今日は、これがいい。好きだと言った。好きだと言われた。自分でこの人を選んだ。それだけで、胸の中がいっぱいだった。

 

「なあ」

「何」

「俺様たち、恋人になって最初にしてんのが肩貸すだけって地味じゃね?」

「嫌なら何かする?」

ザビーダは少し考える。

「……いや」

笑う。

「今日はこれでいい」

「そうか」

「ああ」

それから少しして、小さく付け足す。

「そのうちな」

ミクリオの身体が僅かに固まった。

ザビーダはすぐ気づいて笑う。

「何想像した?」

「何も!」

「嘘つけ、ミク坊」

「うるさい!」

笑い声が書斎に響く。

 

恋人になっても、今のところあまり変わらない。けれど、それでいい。自分で選び、好きな人のそばにいる。それが今は、何より嬉しかった。

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