一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか? 作:ビジュゲイト推し
恋人になった日の夜、ザビーダはいつものようにミクリオの書斎へ来た。何かが劇的に変わったわけではない。ミクリオは机に向かって研究資料を整理しているし、ザビーダは長椅子に座って、その横顔を眺めている。ただ、今日から恋人。そう思うと、同じ部屋なのに少しだけ落ち着かなかった。
「ミク坊」
「何だ」
「俺様たち、付き合ったんだよな」
ミクリオの筆が止まる。
「……ああ」
「何で確認しただけで緊張すんの」
「君が改めて言うからだ」
「恋人になったんだから言うだろ」
「そういうものなのか?」
「俺様も久々だから知らねえよ」
口にして、少しだけアイゼンのことを思い出す。
胸は痛まなかった。いや、少し寂しい。それでも今は、悲しい記憶だけではなくなっている。ザビーダはそのことに気づいて、少しだけ笑った。
「でさ」
「うん」
「今夜、する?」
今度こそ、ミクリオの筆が机から落ちた。
「……何を」
「その反応で分かってんだろ」
「一応確認している!」
「セックス」
「そこまではっきり言わなくていい!」
ザビーダは声を上げて笑った。
「何だよ、恋人なんだから別にいいじゃん」
「恋人になったことと、今夜そうすることは別だろう」
「そう?」
「そうだ」
ミクリオは落ちた筆を拾い、妙に丁寧に机へ置いた。
「ザビーダ」
「ん?」
「君は今、僕としたいのか」
来た。
ザビーダは思わず笑う。
「やっぱそれ聞く?」
「聞く」
「ミク坊、ほんっと変わんねえな」
「大事だからな」
ザビーダは長椅子の背に身体を預けた。
今夜、ミクリオと寝る。想像してみる。嫌ではない。むしろ、少し興味はある。好きな男だし、自分から触りたいと思うし、もっと近くなりたいという気持ちもある。でも。
「……絶対今夜したいかって言われると」
「うん」
「そこまでじゃねえな」
ミクリオが頷いた。
「なら、しなくていいだろう」
「恋人になった初日なのに?」
「初日に性交しなければならない規則があるのか?」
「ねえけどさあ」
「なら問題ない」
あまりにも当然のように言うので、ザビーダは少し拍子抜けした。
昔なら。恋人ならするもの。客ならするもの。求められればするもの。そんなふうに、最初から答えが決まっていることの方が多かった。でも今は。
「……俺様がしたくなった時でいい?」
「もちろん」
「ミク坊がしたくなった時は?」
「言う」
「へえ」
「ただし、君が嫌ならしない」
「そこも変わんねえな」
「変える理由がない」
ザビーダは少し笑った。
その返事が嬉しい。そして、その嬉しさをちゃんと分かる自分も悪くなかった。
「じゃあ」
「何だ」
「キスは?」
ミクリオが止まる。
「……キス」
「うん」
「君はしたい?」
ザビーダは一度だけ、自分の中を確かめた。
これは分かる。
「したい」
ミクリオの顔が赤くなる。
「……そうか」
「何でお前の方がそんな緊張してんだよ」
「君は平然としすぎだ!」
「俺様から言い出したんだからしょうがねえだろ」
ザビーダは長椅子から立ち上がって、ミクリオの前まで歩いた。
近づくと、ミクリオの方が少しだけ姿勢を正す。
「ミク坊」
「何だ」
「していい?」
「……ああ」
「目閉じる?」
「君はどうしてほしい」
「質問返しすんなよ」
笑いながら、ザビーダはミクリオの襟元へ指をかけた。
それだけで、昔の記憶が一瞬よぎる。アイゼンの服を掴んで、自分から引き寄せた時、でも、違う。同じではない。今、自分の前にいるのはミクリオで、今、この人に触れたいと思っているのは、今の自分だ。
「確認長えよ」
「まだ何も――」
言い終わる前に、ザビーダは少しだけミクリオを引き寄せた。
唇が触れる。本当に、短いキスだった。触れて、離れる。それだけ、なのにザビーダ自身が少し驚いた。
「……」
「……ザビーダ?」
ミクリオが恐る恐る呼ぶ。
ザビーダは自分の唇へ指を当てた。嫌じゃない。平気、でもない。もっとはっきりしている。
「……これ、好き」
ミクリオの顔がさらに赤くなる。
「キスが?」
「ミク坊とすんのが」
「……」
「おーい」
「少し待ってくれ」
「また整理してんの?」
「今のは急すぎる!」
ザビーダは笑った。
「好きって言っただけじゃん」
「僕にとっては十分だ!」
「じゃあもう一回言おうか?」
「やめろ!」
「何でだよ」
「嬉しすぎて困る!」
あまりにも真面目に言うから、ザビーダはまた笑ってしまう。
それから、少しだけ考えて。
「もう一回していい?」
今度は、ミクリオもすぐに頷いた。
「ああ」
「お前からは?」
ミクリオが一瞬迷う。
「僕からしてもいい?」
「いいよ」
その答えを聞いてから、ミクリオがゆっくり距離を詰めた。
今度は、ザビーダの方が目を閉じる。唇が触れる。さっきより少しだけ長い。でも、それ以上は何もしない。離れたあと、二人とも少し黙った。
「……どう?」
ミクリオが聞く。
「何が」
「嫌じゃなかった?」
ザビーダは思わず顔をしかめた。
「ミク坊」
「何だ」
「そこ、『嫌じゃなかった?』じゃなくて」
少し考える。
「俺様がしたかったか、じゃね?」
ミクリオが目を瞬く。
ザビーダは笑った。
「俺様、最近それ覚えたからさ」
「……そうだったな」
「で、答え」
ミクリオが待つ。
「したかった」
「うん」
「嬉しかった」
「……うん」
「もう一回くらいならしてえ」
ミクリオが少し笑った。
「僕も」
「そっか」
「でも」
「何」
「今日はそこまでにする?」
ザビーダは少しだけ首を傾げた。
「何で?」
「君が最初に、今夜はそこまでしたいわけではないと言ったから」
「……ああ」
「キスしたから、そのまま先へ進まなければならないわけでもないだろう」
ザビーダは数秒黙った。
それから、ゆっくり笑った。
「うん」
「今日は?」
「キスまで」
「分かった」
「あと手」
「手?」
「繋ぐ」
ミクリオが手を差し出す。
ザビーダは当然のように取った。指を絡めて、長椅子へ並んで座る。
「恋人初日にセックスしないどころか、キスして手繋いで終わりか」
ザビーダが笑う。
「不満?」
「いや」
ミクリオの肩へ頭を預ける。
「結構好き」
「これが?」
「こういうのが」
しばらくして、ミクリオが静かに聞いた。
「ザビーダ」
「ん?」
「恋人になったら、何か変えなければいけないと思ってる?」
「……ちょっとは」
「僕は」
ミクリオは繋いだ手を見る。
「君がしたいことが増えたなら、それを一緒にしたい」
「うん」
「でも、恋人になったから何かをしなければならないとは思っていない」
ザビーダは目を細めた。
「そっか」
「ああ」
「じゃあ俺様がそのうち抱いてほしいって言ったら?」
ミクリオの身体が一瞬固まった。
「……その時、改めて話す」
「ははっ、真面目」
「君が聞いたんだろう!」
「分かってるよ」
少し笑ってから、ザビーダは繋いだ手を持ち上げた。
「でも、そのうち」
「……うん」
「したいって思うかも」
「その時でいい」
「ミク坊も?」
ミクリオは少しだけ迷ってから、正直に答えた。
「僕はしたいと思っている」
ザビーダが目を丸くする。
「お前、言うようになったな」
「君が、僕も嫌だとかしたいとか言っていいと言ったんだろう」
「そうだった」
少し嬉しい。ミクリオも自分に合わせるためだけに欲望を消しているわけではない。したい。でも待てる。その二つが同時にある。
「……いいな、それ」
「何が」
「お前がしたいって思ってんの」
「なぜ」
「俺様が好きだからしたいんだろ?」
ミクリオは少し赤くなりながら頷いた。
「ああ」
ザビーダはその答えを聞いて、もう一度ミクリオへ顔を寄せた。
「じゃあ」
「何だ」
「今日はもう一回だけ」
「キス?」
「ああ」
少し笑う。
「俺様がしたいから」
今度は、どちらからともなく距離を詰めた。
恋人になったからではなく、するべきだからでもなく、二人とも、そうしたかったから。