※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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護るための風

術が戻り始めてから、ザビーダは以前より任務へ同行することが増えた。正式な戦闘聖隷として再配置されたわけではない。書類上は相変わらずミクリオの所有聖隷で、必要に応じて調査協力者として名前が載る程度だ。それでも、遺跡や旧施設へ赴く時には、自分から「俺様も行く」と言うことが増えた。

 

理由も、以前とは少し違う。昔の記録が読めるから、古い施設を知っているから、自分の術式について調べたいから、それだけではなく、単純に、ミクリオと一緒に行きたい。そして最近はもう一つ。自分も戦える。そのことが、結構嬉しかった。

 

***

 

その日の任務は、ロウライネ郊外に残る旧聖寮施設の調査だった。地下区画で小規模な業魔反応が確認されたらしく、危険度そのものは高くない。ミクリオ一人でも十分処理可能と判断された任務だったが、施設の年代が古いと聞いてザビーダも同行を申し出た。

 

「本当に来る?」

出発前、ミクリオが確認する。

「何だよ。俺様じゃ邪魔?」

「そういう意味じゃない。戦闘がある可能性があるから聞いている」

「ウィンドランスもディバイドヒートも戻っただろ」

「ホライゾンストームまでな」

「じゃあ問題なし」

「ビジュゲイトは使う必要ないからな」

さらっと付け足された言葉に、ザビーダは一瞬だけ目を細めた。

「分かってる」

「ならいい」

ミクリオはそれ以上言わなかった。

 

「……なあ」

「何だ」

「お前、俺様がまた試そうとすると思った?」

「少し」

「信用ねえな」

「君は悔しいと言っていたから」

「まあ、悔しいけどさ」

ザビーダは腰へ手を当てて笑う。

「使えねえ術一個あるくらいで、任務できねえほど弱くねえよ」

「その通りだ」

あまりにも即答だったので、ザビーダの方が少し面食らった。

「……そこは否定しねえの?」

「なぜ否定するんだ。君は強い」

「ミク坊」

「何だ」

「お前、最近俺様褒めるの上手くなったな」

「事実を言っているだけだ!」

「はいはい」

でも嬉しい。

 

ザビーダは機嫌よく、ミクリオの隣を歩き出した。

 

***

 

施設は半分ほど地下へ沈んでいた。入口付近には苔が生え、壁面に残る聖寮印もかなり削れている。

 

「古いな」

ミクリオが壁を調べる。

「俺様が使われてた施設より前じゃね?」

「分かる?」

「何となく。扉の術式が古い」

ザビーダは壁へ手を当て、少しだけ霊力を流す。

薄く風が返ってきた。

「ほら。この辺、風通すための補助経路がある」

「本当だ」

ミクリオがすぐ隣へ来る。

 

近い。ザビーダは最近、この距離を自然に受け入れるようになった。むしろ少し嬉しい。

 

「開けられる?」

「やってみる」

霊力を流す。

 

以前なら、こういう場面でも出力不足で止まっていた。今は違う。風が古い回路を走る。重い石扉が、低い音を立てて開いた。

 

「おー」

「できたな」

「できた」

ザビーダは少し得意げに振り返った。

「褒めろ」

「すごい」

「素直」

「君が要求したんだろう!」

笑いながら、二人で内部へ入った。

 

***

 

業魔は地下二層にいた。小型が三体。想定範囲内。ミクリオが前へ出る。ザビーダも自然にその横へ並んだ。

 

「ザビーダ、右」

「任せろ」

一体が飛びかかってくる。

ザビーダは腕を振る。

「ウィンドランス!」

鋭い風が走り、業魔の身体を弾き飛ばす。

 

自分でも驚くほど自然に出た。術式を組む。霊力を流す。発動する。それだけ、昔なら当たり前だったはずのことが、今は一つ一つ嬉しい。

 

「もう一体!」

ミクリオの声。

「見えてる!」

背後から迫っていた個体へ、今度はディバイドヒート。

 

熱を孕んだ風が身体の周囲を薙ぎ、業魔を押し返す。ミクリオがその隙を逃さない。一気に距離を詰める。最後の一体。ザビーダは無意識に、ミクリオの背中を見ていた。危険はない。そう思った瞬間、床下から、黒いものが飛び出した。

 

「ミク坊!」

考えるより先に風を放つ。

 

術名を叫ぶ暇もなかった。ただ強く。横から、ミクリオの身体を狙った業魔を吹き飛ばす。ミクリオが振り返った。

 

「……ザビーダ?」

「前見ろ!」

「分かってる!」

戦闘はすぐに終わった。

 

本当にそれだけだった。

 

***

 

「怪我は?」

戦闘後、ザビーダはミクリオの腕を掴んだ。

「ない」

「本当?」

「ああ」

「見せろ」

「君、最近過保護じゃないか?」

「お前に言われたくねえ!」

袖を捲らせる。

 

傷はない。本当に何も、ザビーダはようやく息を吐いた。

 

「……よかった」

ミクリオが少しだけ目を細める。

「さっき」

「何」

「助けられた」

「……」

「ありがとう」

ザビーダはしばらく黙ったあと、少し照れたように鼻を鳴らした。

「そりゃ恋人なんだから、危なかったら助けるだろ」

「恋人じゃなくても助けただろう」

「まあな」

「なら」

「細けえな、ミク坊」

笑う。

 

でも、胸の奥が、少し温かい。助けた。自分がミクリオを。

 

「なあ」

「何だ」

「俺様、ちゃんと戦えてた?」

「かなり」

「昔くらい?」

「それは僕には分からない」

「エドナに聞くか」

「比べる必要ある?」

ザビーダが少し止まった。

「……ない?」

「僕は今の君しか知らない」

「うん」

「今の君が十分強い。それでは駄目?」

ザビーダは少し考えてから笑った。

「……いや」

「うん」

「それでいい」

二人で先へ進んだ。

 

***

 

調査を終えて施設を出る頃には、日が傾いていた。帰り道。ザビーダはいつものようにミクリオの手を取った。

 

「今日は機嫌いいな」

「分かる?」

「かなり」

「そりゃね」

「術が使えたから?」

「それもある」

ミクリオが横を見る。

「他には?」

ザビーダは少しだけ考えた。

「お前護れたから」

ミクリオの表情が変わる。

「……さっきの?」

「ああ」

「大した危険ではなかったけど」

「そういう話じゃねえよ」

ザビーダは繋いだ手を軽く振る。

「今までさ」

「うん」

「お前に護られてばっかだったじゃん」

「そんなことはない」

「いや、かなりそうだろ。最初なんか、俺様ほとんど術使えなかったし」

買われた日。

 

供用聖隷だった頃。あの時は、自分がミクリオを護る未来なんて想像もしなかった。

 

「お前が俺様のこと護って、他の奴に貸さねえって言って、嫌なら嫌でいいって言って」

「……」

「ずっとそっちだった」

ミクリオは何も言わない。

ザビーダは続けた。

「でもさ」

少しだけ笑う。

「今度から、俺様もお前護れるじゃん」

「……」

「何その顔」

「嬉しい」

「また?」

「ああ」

「最近すぐ嬉しいって言うな、ミク坊」

「君が僕も言っていいと言ったからだろう」

「そうだった」

 

少し笑って、ザビーダは前を向く。

「俺様さ」

「うん」

「いざって時に、お前の前に立てるくらいにはなりてえんだよ」

ミクリオが足を少し緩めた。

ザビーダも止まる。

「なぜ?」

「なぜって」

少し考える。

「好きだから」

今は、もう言える。

「お前が傷つくの嫌だし」

「うん」

「死ぬのなんかもっと嫌」

「……」

「だから」

 

ミクリオの手を握る。

「護れるなら護りたい」

ミクリオはしばらく何も言わなかった。それから静かに答えた。

「僕も同じだ」

「うん」

「君を護りたい」

「知ってる」

「でも」

少し間を置く。

「僕だけが君を護る、という関係でなくてもいい」

ザビーダが目を細める。

「お互い?」

「ああ」

「いいじゃん」

 

「ただし」

「何」

「無茶はするな」

「それお前もな」

「僕は――」

「ミク坊」

「……何だ」

「お互いって言ったばっか」

ミクリオが黙る。

ザビーダは笑った。

「俺様にだけ無茶すんなって言って、自分はいいとかなしな」

「……分かった」

「素直」

「君が正しいからだ」

「もっと褒めていいぜ」

「調子に乗るな」

笑いながら、また歩き出す。

 

***

 

家へ戻ったあとミューズに夕食を出してもらい、ミケルに任務の話を聞かれ、ザビーダは少し誇張して自分の活躍を話した。

「でさ、ミク坊危なかったから俺様がぶっ飛ばしてやったわけ」

「僕をぶっ飛ばしたみたいに聞こえる」

「違えよ、敵だよ!」

「ザビーダ、すごいね」

ミケルが素直に笑う。

「だろ?」

「術、かなり戻ってるんだ」

「ああ」

「よかった」

その言葉も以前より素直に受け取れる。

「ありがと」

食後。

 

いつものように書斎へ行った。ミクリオは今日の戦闘記録を書いている。ザビーダは長椅子へ寝転がっていたが、しばらくして身体を起こした。

 

「ミク坊」

「何だ」

「こっち来い」

「なぜ」

「いいから」

ミクリオが怪訝そうにしながら隣へ座る。

 

ザビーダは少しだけ迷ってから、腕を回した。抱きしめる。

 

「……ザビーダ?」

「何」

「今日はどうした」

「別に」

言って、すぐに笑う。

「いや」

少しだけ強く抱く。

「今日、お前護れたの嬉しかった」

ミクリオも腕を回してくる。

「僕も嬉しかった」

「そっか」

「でも」

「また無茶するな?」

「言おうと思った」

「しつけえなあ」

「心配なんだ」

「俺様もお前のこと心配」

「……そうだった」

「そうだよ」

ザビーダはミクリオの肩へ顔を預けた。

少しして、ぽつりと。

「昔さ」

「うん」

「俺様、誰か護るために何かしたことあったんだろうな」

ミクリオの腕が僅かに止まる。

 

アイゼン。名前は出さない。でも二人とも、多分同じことを考えた。

 

「多分」

ミクリオが答える。

「うん」

「ただ」

少しだけ声が低くなる。

「今日のことは、今日の君が選んだことだろう」

ザビーダが笑う。

「またそれ?」

「ああ」

「大事?」

「かなり」

「はいはい」

でも、その言葉は今の自分にはよく分かる。

 

今日、ミクリオを護った。命令されたからではない。役に立たなければならないからでもない。昔の誰かの代わりでもない。自分が護りたかったから。

 

「……なあ」

「何だ」

「そのうちさ」

「うん」

「もっとヤバい時でも、お前護れるかな」

ミクリオが少し眉を寄せる。

「そういう状況は来ない方がいい」

「それはそう」

「でも」

「うん」

ミクリオは少し考えてから言った。

「君ならできると思う」

ザビーダは顔を上げる。

「買い被ってねえ?」

「君の恋人だから多少は」

「多少あるんだ」

「でも」

ミクリオは笑う。

「今日、実際に護ってもらったからな」

ザビーダも笑った。

「そっか」

「ああ」

「じゃあ次も任せろ」

「次がない方がいい」

「はいはい」

もう一度肩へ顔を戻す。

 

自分の中には、まだ風がある。人を傷つけるためだけじゃない。自分を逃がすためだけでもない。誰かを護るためにも使える。そのことが、今夜は、少し嬉しかった。

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