一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか? 作:ビジュゲイト推し
術が戻り始めてから、ザビーダは以前より任務へ同行することが増えた。正式な戦闘聖隷として再配置されたわけではない。書類上は相変わらずミクリオの所有聖隷で、必要に応じて調査協力者として名前が載る程度だ。それでも、遺跡や旧施設へ赴く時には、自分から「俺様も行く」と言うことが増えた。
理由も、以前とは少し違う。昔の記録が読めるから、古い施設を知っているから、自分の術式について調べたいから、それだけではなく、単純に、ミクリオと一緒に行きたい。そして最近はもう一つ。自分も戦える。そのことが、結構嬉しかった。
***
その日の任務は、ロウライネ郊外に残る旧聖寮施設の調査だった。地下区画で小規模な業魔反応が確認されたらしく、危険度そのものは高くない。ミクリオ一人でも十分処理可能と判断された任務だったが、施設の年代が古いと聞いてザビーダも同行を申し出た。
「本当に来る?」
出発前、ミクリオが確認する。
「何だよ。俺様じゃ邪魔?」
「そういう意味じゃない。戦闘がある可能性があるから聞いている」
「ウィンドランスもディバイドヒートも戻っただろ」
「ホライゾンストームまでな」
「じゃあ問題なし」
「ビジュゲイトは使う必要ないからな」
さらっと付け足された言葉に、ザビーダは一瞬だけ目を細めた。
「分かってる」
「ならいい」
ミクリオはそれ以上言わなかった。
「……なあ」
「何だ」
「お前、俺様がまた試そうとすると思った?」
「少し」
「信用ねえな」
「君は悔しいと言っていたから」
「まあ、悔しいけどさ」
ザビーダは腰へ手を当てて笑う。
「使えねえ術一個あるくらいで、任務できねえほど弱くねえよ」
「その通りだ」
あまりにも即答だったので、ザビーダの方が少し面食らった。
「……そこは否定しねえの?」
「なぜ否定するんだ。君は強い」
「ミク坊」
「何だ」
「お前、最近俺様褒めるの上手くなったな」
「事実を言っているだけだ!」
「はいはい」
でも嬉しい。
ザビーダは機嫌よく、ミクリオの隣を歩き出した。
***
施設は半分ほど地下へ沈んでいた。入口付近には苔が生え、壁面に残る聖寮印もかなり削れている。
「古いな」
ミクリオが壁を調べる。
「俺様が使われてた施設より前じゃね?」
「分かる?」
「何となく。扉の術式が古い」
ザビーダは壁へ手を当て、少しだけ霊力を流す。
薄く風が返ってきた。
「ほら。この辺、風通すための補助経路がある」
「本当だ」
ミクリオがすぐ隣へ来る。
近い。ザビーダは最近、この距離を自然に受け入れるようになった。むしろ少し嬉しい。
「開けられる?」
「やってみる」
霊力を流す。
以前なら、こういう場面でも出力不足で止まっていた。今は違う。風が古い回路を走る。重い石扉が、低い音を立てて開いた。
「おー」
「できたな」
「できた」
ザビーダは少し得意げに振り返った。
「褒めろ」
「すごい」
「素直」
「君が要求したんだろう!」
笑いながら、二人で内部へ入った。
***
業魔は地下二層にいた。小型が三体。想定範囲内。ミクリオが前へ出る。ザビーダも自然にその横へ並んだ。
「ザビーダ、右」
「任せろ」
一体が飛びかかってくる。
ザビーダは腕を振る。
「ウィンドランス!」
鋭い風が走り、業魔の身体を弾き飛ばす。
自分でも驚くほど自然に出た。術式を組む。霊力を流す。発動する。それだけ、昔なら当たり前だったはずのことが、今は一つ一つ嬉しい。
「もう一体!」
ミクリオの声。
「見えてる!」
背後から迫っていた個体へ、今度はディバイドヒート。
熱を孕んだ風が身体の周囲を薙ぎ、業魔を押し返す。ミクリオがその隙を逃さない。一気に距離を詰める。最後の一体。ザビーダは無意識に、ミクリオの背中を見ていた。危険はない。そう思った瞬間、床下から、黒いものが飛び出した。
「ミク坊!」
考えるより先に風を放つ。
術名を叫ぶ暇もなかった。ただ強く。横から、ミクリオの身体を狙った業魔を吹き飛ばす。ミクリオが振り返った。
「……ザビーダ?」
「前見ろ!」
「分かってる!」
戦闘はすぐに終わった。
本当にそれだけだった。
***
「怪我は?」
戦闘後、ザビーダはミクリオの腕を掴んだ。
「ない」
「本当?」
「ああ」
「見せろ」
「君、最近過保護じゃないか?」
「お前に言われたくねえ!」
袖を捲らせる。
傷はない。本当に何も、ザビーダはようやく息を吐いた。
「……よかった」
ミクリオが少しだけ目を細める。
「さっき」
「何」
「助けられた」
「……」
「ありがとう」
ザビーダはしばらく黙ったあと、少し照れたように鼻を鳴らした。
「そりゃ恋人なんだから、危なかったら助けるだろ」
「恋人じゃなくても助けただろう」
「まあな」
「なら」
「細けえな、ミク坊」
笑う。
でも、胸の奥が、少し温かい。助けた。自分がミクリオを。
「なあ」
「何だ」
「俺様、ちゃんと戦えてた?」
「かなり」
「昔くらい?」
「それは僕には分からない」
「エドナに聞くか」
「比べる必要ある?」
ザビーダが少し止まった。
「……ない?」
「僕は今の君しか知らない」
「うん」
「今の君が十分強い。それでは駄目?」
ザビーダは少し考えてから笑った。
「……いや」
「うん」
「それでいい」
二人で先へ進んだ。
***
調査を終えて施設を出る頃には、日が傾いていた。帰り道。ザビーダはいつものようにミクリオの手を取った。
「今日は機嫌いいな」
「分かる?」
「かなり」
「そりゃね」
「術が使えたから?」
「それもある」
ミクリオが横を見る。
「他には?」
ザビーダは少しだけ考えた。
「お前護れたから」
ミクリオの表情が変わる。
「……さっきの?」
「ああ」
「大した危険ではなかったけど」
「そういう話じゃねえよ」
ザビーダは繋いだ手を軽く振る。
「今までさ」
「うん」
「お前に護られてばっかだったじゃん」
「そんなことはない」
「いや、かなりそうだろ。最初なんか、俺様ほとんど術使えなかったし」
買われた日。
供用聖隷だった頃。あの時は、自分がミクリオを護る未来なんて想像もしなかった。
「お前が俺様のこと護って、他の奴に貸さねえって言って、嫌なら嫌でいいって言って」
「……」
「ずっとそっちだった」
ミクリオは何も言わない。
ザビーダは続けた。
「でもさ」
少しだけ笑う。
「今度から、俺様もお前護れるじゃん」
「……」
「何その顔」
「嬉しい」
「また?」
「ああ」
「最近すぐ嬉しいって言うな、ミク坊」
「君が僕も言っていいと言ったからだろう」
「そうだった」
少し笑って、ザビーダは前を向く。
「俺様さ」
「うん」
「いざって時に、お前の前に立てるくらいにはなりてえんだよ」
ミクリオが足を少し緩めた。
ザビーダも止まる。
「なぜ?」
「なぜって」
少し考える。
「好きだから」
今は、もう言える。
「お前が傷つくの嫌だし」
「うん」
「死ぬのなんかもっと嫌」
「……」
「だから」
ミクリオの手を握る。
「護れるなら護りたい」
ミクリオはしばらく何も言わなかった。それから静かに答えた。
「僕も同じだ」
「うん」
「君を護りたい」
「知ってる」
「でも」
少し間を置く。
「僕だけが君を護る、という関係でなくてもいい」
ザビーダが目を細める。
「お互い?」
「ああ」
「いいじゃん」
「ただし」
「何」
「無茶はするな」
「それお前もな」
「僕は――」
「ミク坊」
「……何だ」
「お互いって言ったばっか」
ミクリオが黙る。
ザビーダは笑った。
「俺様にだけ無茶すんなって言って、自分はいいとかなしな」
「……分かった」
「素直」
「君が正しいからだ」
「もっと褒めていいぜ」
「調子に乗るな」
笑いながら、また歩き出す。
***
家へ戻ったあとミューズに夕食を出してもらい、ミケルに任務の話を聞かれ、ザビーダは少し誇張して自分の活躍を話した。
「でさ、ミク坊危なかったから俺様がぶっ飛ばしてやったわけ」
「僕をぶっ飛ばしたみたいに聞こえる」
「違えよ、敵だよ!」
「ザビーダ、すごいね」
ミケルが素直に笑う。
「だろ?」
「術、かなり戻ってるんだ」
「ああ」
「よかった」
その言葉も以前より素直に受け取れる。
「ありがと」
食後。
いつものように書斎へ行った。ミクリオは今日の戦闘記録を書いている。ザビーダは長椅子へ寝転がっていたが、しばらくして身体を起こした。
「ミク坊」
「何だ」
「こっち来い」
「なぜ」
「いいから」
ミクリオが怪訝そうにしながら隣へ座る。
ザビーダは少しだけ迷ってから、腕を回した。抱きしめる。
「……ザビーダ?」
「何」
「今日はどうした」
「別に」
言って、すぐに笑う。
「いや」
少しだけ強く抱く。
「今日、お前護れたの嬉しかった」
ミクリオも腕を回してくる。
「僕も嬉しかった」
「そっか」
「でも」
「また無茶するな?」
「言おうと思った」
「しつけえなあ」
「心配なんだ」
「俺様もお前のこと心配」
「……そうだった」
「そうだよ」
ザビーダはミクリオの肩へ顔を預けた。
少しして、ぽつりと。
「昔さ」
「うん」
「俺様、誰か護るために何かしたことあったんだろうな」
ミクリオの腕が僅かに止まる。
アイゼン。名前は出さない。でも二人とも、多分同じことを考えた。
「多分」
ミクリオが答える。
「うん」
「ただ」
少しだけ声が低くなる。
「今日のことは、今日の君が選んだことだろう」
ザビーダが笑う。
「またそれ?」
「ああ」
「大事?」
「かなり」
「はいはい」
でも、その言葉は今の自分にはよく分かる。
今日、ミクリオを護った。命令されたからではない。役に立たなければならないからでもない。昔の誰かの代わりでもない。自分が護りたかったから。
「……なあ」
「何だ」
「そのうちさ」
「うん」
「もっとヤバい時でも、お前護れるかな」
ミクリオが少し眉を寄せる。
「そういう状況は来ない方がいい」
「それはそう」
「でも」
「うん」
ミクリオは少し考えてから言った。
「君ならできると思う」
ザビーダは顔を上げる。
「買い被ってねえ?」
「君の恋人だから多少は」
「多少あるんだ」
「でも」
ミクリオは笑う。
「今日、実際に護ってもらったからな」
ザビーダも笑った。
「そっか」
「ああ」
「じゃあ次も任せろ」
「次がない方がいい」
「はいはい」
もう一度肩へ顔を戻す。
自分の中には、まだ風がある。人を傷つけるためだけじゃない。自分を逃がすためだけでもない。誰かを護るためにも使える。そのことが、今夜は、少し嬉しかった。