※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

40 / 43
明日の朝も

その夜、ザビーダは自分の部屋へ戻らなかった。別に、最初からそうすると決めていたわけではない。夕食のあと、いつものようにミクリオの書斎へ行き、長椅子に寝転がっているうちに夜が深くなっただけだ。ミクリオは机に向かって明日の任務資料を確認していて、ザビーダは途中から本を読むのにも飽き、横向きになってその背中を眺めていた。

 

「ミク坊」

「何だ」

「明日、結構遠いんだっけ」

「ああ。北西の旧施設まで半日くらい」

「帰りは?」

「順調ならその日のうちに戻れる。調査が長引けば一泊」

「ふーん」

今回も、旧聖寮施設の調査だった。

 

ただし前回より規模が大きい。地下区画の一部で封鎖術式が不安定になっており、中に何が残っているか分からないという。危険度は、まだ確定していない。

 

「ザビーダ」

「ん?」

「明日、本当に来る?」

また聞かれた。

ザビーダは長椅子に頬杖をつく。

「行く」

「即答だな」

「行きたいからな」

「そうか」

それだけでミクリオは頷いた。

 

昔だったら、危険だから連れていく、使えるから連れていく、所有聖隷だから同行させる、そんな理由が先に来たのだろう。今は違う。行きたい。だから行く。それで話が終わる。

 

「でもさ」

ザビーダは少し笑った。

「何かあったらちゃんと下がれよ、ミク坊」

「それは君もだろう」

「俺様は風術戻ってきてるし」

「僕だって特等対魔士だ」

「知ってるよ」

「なら」

「だからこそ言ってんの。強い奴って、強い分だけ前出るじゃん」

ミクリオが黙った。

 

図星らしい。ザビーダは身体を起こす。

 

「この前言っただろ。お互い」

「ああ」

「俺様だけ下がれ、お前は前に出る、はなし」

「分かってる」

「ほんと?」

「多分」

「多分かよ」

ザビーダは笑いながら立ち上がり、ミクリオの後ろまで歩いた。

 

肩へ腕を回す。ミクリオが少し振り返る。

 

「どうした」

「別に」

言ってから、すぐに訂正する。

「いや、ちょっとくっつきたい」

「そう」

「何だよ」

「いや」

ミクリオは少しだけ身体の向きを変え、ザビーダが抱きつきやすいようにする。

最近はこういう動きも、前より自然になった。

「ミク坊」

「何だ」

「明日、ちゃんと帰ってこような」

ミクリオの表情が僅かに変わった。

「もちろん」

「俺様も」

「ああ」

「二人で」

「うん」

その答えを聞いて、ザビーダはようやく少し安心した。

 

***

 

そろそろ寝る時間になっても、ザビーダは書斎から動かなかった。ミクリオが机を片づけ、灯りを落としても、長椅子に座ったままだ。

 

「ザビーダ」

「んー?」

「寝ないの?」

「寝る」

「自分の部屋で?」

「……」

少し迷う。

 

別に怖いわけではない。明日の任務が嫌なわけでもない。ただ、今日は一人で寝る気分ではなかった。

 

「ミク坊」

「何だ」

「今日、一緒に寝ていい?」

ミクリオが止まった。

「……一緒に?」

「その反応やめろって」

「いや、意味を確認しているだけだ」

「同じベッドで寝るだけ」

ザビーダは念を押す。

「今日は、本当に寝るだけ」

「……分かった」

「何でちょっと残念そうなんだよ」

「残念そうじゃない!」

「顔赤いぞ」

「君が急に言うからだ!」

笑いながら、ザビーダは立ち上がった。

「嫌ならやめるけど」

「嫌ではない」

「じゃあ決まり」

そうして二人で寝室へ移った。

 

***

 

一緒のベッドに入るのは、初めてだった。思ったより狭い。というより、ミクリオが妙に端へ寄っている。

 

「ミク坊」

「何だ」

「落ちるぞ」

「落ちない」

「もっとこっち来いよ」

「近くないか?」

「一緒に寝るっつっただろ」

「そうだけど」

「じゃあ来い」

ザビーダが腕を引くと、ミクリオは少しだけこちらへ寄った。

それでも遠い。

「まだ」

「これ以上?」

「まだ」

「ザビーダ」

「何」

「本当に寝るだけなんだよな?」

「お前、俺様を何だと思ってんの」

「いや、君が近いから」

「寝るだけでも近くていいだろ」

ザビーダは笑って、自分からミクリオの胸元へ身体を寄せた。

 

腕を回す。ぴたりとくっつく。ミクリオの身体が少し固くなった。

 

「ほら」

「何が」

「これで落ちねえ」

「僕を固定具にするな」

「恋人サマなんだからちょっとくらい役に立てよ」

「そういう用途なのか」

「用途って言うな」

二人とも少し笑った。

 

そのまま静かになる。近い。服越しに体温が伝わる。呼吸も胸の上下も、心臓の音も、ザビーダは目を閉じた。

 

「……生きてんな」

ぽつりと出た。

ミクリオが少しだけ身体を動かす。

「何?」

「お前」

「生きてるよ」

「うん」

「当たり前だろう」

ザビーダは答えなかった。

 

当たり前、そう思えていた時もあった。明日もいる。次の朝も会える。そういうことを疑わなかった頃が、でも、突然いなくなることもある。約束したのに助かると思ったのに目の前で、風が吹いて、赤いものが見えて。

 

「ザビーダ」

ミクリオの声が近い。

 

今、ここ。

 

「……何」

「苦しい?」

「ちょっと」

正直に言う。

「明日のこと?」

「分かんねえ」

「うん」

ミクリオはそれ以上聞かなかった。

 

ただ腕を回す。ザビーダが逃げられるくらいの強さで。

 

「ミク坊」

「何だ」

「お前さ」

「うん」

「絶対死なねえって言える?」

ミクリオはすぐには答えなかった。

 

その沈黙で、ザビーダは少し安心した。軽々しく「死なない」と言わない。

 

「言えない」

やっぱり。

「だよな」

「僕だって、君だって、何があるか分からない」

「うん」

「でも」

ミクリオが少しだけ抱く腕を強める。

「明日の朝も、僕は君の隣で起きたい」

ザビーダは目を開けた。

近くに、ミクリオの顔がある。

「……それ、約束?」

「違う」

「違うの?」

「未来を保証する約束じゃない」

ミクリオは静かに言った。

「僕がそうしたい、という話」

ザビーダはしばらく黙った。

それから、少し笑う。

 

「そっか」

「ああ」

「じゃあ俺様も」

「うん」

「明日の朝、お前の隣で起きたい」

「うん」

「その次も」

「僕も」

「帰ってきてからも」

「ああ」

「何回くらい?」

「数えるの?」

「研究者サマなら得意だろ」

「そういうものは数えなくていい!」

ザビーダは吹き出した。

笑った拍子に、胸の奥にあった重いものが少しだけほどける。

「ミク坊」

「何だ」

「キスしていい?」

「うん」

「眠る前に一回だけ」

「分かった」

ザビーダは少し身体を起こし、ミクリオへ軽く口づけた。

 

短い。いつものキス。でも、今夜は少し違った。離れてからも、近いまま。

 

「……もう一回したい」

「一回だけって言っただろう」

「今増えた」

「したいことが?」

「うん」

ミクリオが笑う。

「なら」

今度は向こうから、軽く唇が触れた。

 

二度目。それで終わり。ザビーダは満足して、また胸元へ戻った。

 

「やっぱ今日、これでいいわ」

「何が?」

「寝るだけ」

「……そう」

「また残念そう」

「してない!」

「ははっ」

でも、ミクリオがもっと先へ進みたいと思っていることを、ザビーダは知っている。

 

それが嫌ではない。むしろ嬉しい。ただ、今夜は、抱きしめてもらって、キスをして、隣で眠る。それでいい。

 

「なあ」

「うん」

「そのうちな」

ミクリオの身体がまた少し固くなる。

「何を想像した?」

「君が言わせようとしてるだろう」

「当たり」

「寝るぞ!」

「はいはい」

ザビーダは笑いながら目を閉じた。

 

***

 

しばらくして、ミクリオの呼吸がゆっくりになった。眠ったらしい。ザビーダはまだ少しだけ起きていた。胸元へ耳を寄せる。心臓の音。一定の。生きている音。

 

「……ミク坊」

小さく呼ぶ。

 

返事はない。それでいい。眠っているだけだと分かる。ザビーダは服を少し掴んだ。昔。誰かの隣で、こうして眠ったことがあったのだろうか。ある。多分、断片的に思い出せる。アイゼンの大きな身体。自分が勝手に寄りかかって、嫌ならどけ、と言って、どけられなかったから、そのまま眠った。

 

それは悪い記憶ではない。むしろ、大事なものだった。だから、失ったことが怖い。また誰かを好きになることが怖かった。でも、好きにならなかったら。今こうして、ミクリオの心臓の音を聞くこともなかった。

 

「……怖えけど」

小さく呟く。

 

それでも、今は、この人を好きでいたい。ザビーダは目を閉じた。

 

***

 

朝。先に目を覚ましたのはザビーダだった。窓の外はまだ薄暗い。少しだけ身体を動かす。腕が重い。ミクリオが寝たまま、ザビーダを抱いていた。

 

「……」

思わず笑う。

起きている時よりよっぽど近い。

「ミク坊」

返事なし。

「お前、寝てる方が素直じゃね?」

聞こえていない。

 

多分、ザビーダはそのまま少しだけ眺めた。それから、起こさないように、額へ軽くキスする。

 

「おはよ」

小さな声。

ミクリオが僅かに眉を動かした。

「……ザビーダ?」

「起きた?」

「……うん」

まだ半分寝ている。

「朝」

「……朝?」

「おう」

ミクリオが数秒ぼんやりして、ようやく状況を理解したらしい。

「……近い」

「お前が抱いてんだよ」

「え」

腕を見る。

 

固まる。ザビーダは笑った。

 

「別に嫌じゃねえよ」

「……そう」

「むしろ」

少しだけ身体を寄せる。

「結構好き」

ミクリオがまた赤くなる。

「朝からやめてくれ」

「何で」

「心臓に悪い」

「ちゃんと動いてる証拠じゃん」

言ってから、ザビーダは一瞬だけ静かになった。

 

胸へ手を置く。ミクリオの心臓。動いている。

 

「……うん」

ミクリオがその手を見る。

「ザビーダ?」

「何でもねえ」

今度は本当に何でもない。

 

今ここにいる。それだけでいい。

 

「ミク坊」

「何だ」

「今日も帰ってこような」

「ああ」

「二人で」

「うん」

ザビーダは笑った。

「よし」

そして、二人とも起き上がった。

 

この日の任務が、いつも通りには終わらないことをまだどちらも知らなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。