※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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あの背中

北西の旧施設は、山の斜面を半ば削るように造られていた。遠目には岩肌と見分けがつかないほど古く、入口に刻まれていたはずの聖寮印も、今では輪郭が辛うじて残っている程度だった。

 

「思ったよりでけえな」

ザビーダが見上げる。

「地下が三層あるらしい」

隣でミクリオが資料を広げた。

「ただ、現存する図面は二層目までしかない。三層目は後から増設された可能性が高い」

「嫌な言い方するねえ」

「僕もそう思う」

今回の任務は、地下封鎖区画の異常調査。

 

数日前から周辺で小規模な霊力振動が観測されていた。施設そのものは長く放棄されているが、内部には古い隔離設備が残っているらしい。何を隔離していたのかは、記録が欠けている。ザビーダは入口の前で少しだけ鼻を鳴らした。

 

「こういうとこ、大体ろくなもん残ってねえよな」

「同感」

「帰る?」

「君は?」

「行く」

「僕も」

「じゃ、行くか」

二人で中へ入った。

その直前、ザビーダは無意識にミクリオの袖を掴んだ。

「何?」

「いや」

少し考えてから、ちゃんと言い直す。

「離れんなよ」

ミクリオが小さく笑った。

「君も」

「おう」

 

***

 

一層目は驚くほど静かだった。廊下には壊れた照明器具と、錆びた運搬用の台車が残っている。居住区だったらしい部屋もいくつかあったが、中には崩れた家具があるだけだった。

 

「反応は?」

ザビーダが聞く。

「まだ下」

ミクリオが携帯型の測定器を見る。

「かなり強くなってる。単純な業魔一体とは思わない方がいい」

「了解」

奥へ進む。

 

途中、閉ざされた扉があった。ザビーダが手を当てる。

 

「風経路生きてる」

「開けられそう?」

「やってみる」

霊力を流す。

 

以前なら、それだけでも何度か途切れていた。今は違う。風が内部の術式を走り、古い錠を順番に外していく。鈍い音を立てて扉が開いた。

 

「ほい」

「早くなったな」

「だろ?」

ザビーダが得意げに笑う。

「最近俺様、便利だぜ」

「便利という言い方は好きじゃない」

「自分で言ってんのに?」

「君が自分の術を便利だと言うのと、他人が君そのものを便利だと言うのは別だろう」

「細けえ」

「大事だ」

「はいはい」そう返しながら、ザビーダは少し笑った。

そういう細かさに助けられてきた。

 

今では分かる。

 

***

 

二層目に入ったあたりから、空気が変わった。重い。霊力だけではない。古い血や薬品の匂いなど、とっくに消えているはずなのに、何かが染み込んでいるような感覚がある。ザビーダは足を止めた。

 

「ここ」

「嫌?」

ミクリオがすぐに聞く。

「……ちょっと」

「戻る?」

「いや」

ザビーダは周囲を見る。

 

壁。扉。拘束具。見覚えはない。少なくとも、自分がアイゼンといた施設ではない。

 

「知らねえ場所だ」

「うん」

「でも雰囲気が似てる」

「それだけでも十分戻る理由になる」

「分かってる」

ザビーダは一度息を吐いた。

「でも行く」

「理由は?」

「お前と一緒だから」

ミクリオが少しだけ目を見開く。

「あと、普通に何がいるか気になる」

「そっちが先じゃないのか」

「両方」

二人で先へ進んだ。

 

***

 

最初の襲撃は、二層最奥だった。壁の一部が突然崩れ、その奥から黒い塊が飛び出した。

 

「右!」

ミクリオが叫ぶ。

「見えてる!」

ザビーダが腕を振る。

「ウィンドランス!」

風の槍が一体目を壁へ叩きつける。

 

続けて二体。人型に近いが、身体の一部が異様に膨張している。古い対業魔実験の残滓か、隔離中に変質した業魔か。考えている暇はない。ミクリオが前へ出る。ザビーダがその背中を追う。

 

「左、来る!」

「任せる!」

「ディバイドヒート!」

熱風が走り、二体まとめて動きを止める。

 

ミクリオが止めを刺す。連携は、以前よりずっと自然になっていた。誰かが誰かを使うのではなく、見えたものを伝えて、任せるところを任せて、危なければ助ける。

 

「ミク坊、後ろ!」

振り向きざまに風を放つ。

 

今度は詠唱すらほとんど要らなかった。業魔が吹き飛ぶ。

 

「助かった!」

「あとで褒めろ!」

「今褒めてる!」

「足りねえ!」

「戦闘中だ!」

こんな時でも少し笑える。

 

それだけ余裕があった。

 

***

 

敵を片づけ、さらに奥へ進むと、三層目へ続く階段が見つかった。図面にはない。階段脇の壁に、辛うじて文字が残っている。ミクリオが灯りを近づける。

《封鎖区画》

 

その下は削れている。ザビーダが眉を寄せた。

 

「帰るなら今じゃね?」

「僕も同じことを考えた」

「お」

「ただ、霊力振動の中心はこの下」

「だよなあ」

二人で階段を見下ろす。

 

暗く、底が見えない。

 

「行く?」

ミクリオが聞く。

 

ザビーダは少し考えた。怖い。でも、逃げたいほどではない。

 

「行く」

「僕も」

「じゃあ、今度こそマジで離れんなよ」

「分かってる」

今度は袖ではなく、手を取った。

 

階段を降りる間だけ、それで十分だった。

 

***

 

三層目はほとんど一つの巨大な空間だった。中央に円形の隔離槽。周囲には何重もの術式。ただし、その大半が壊れている。ザビーダは入った瞬間、嫌な予感がした。

 

「ミク坊」

「うん」

「これ、生きてる」

「僕もそう見える」

隔離槽の中央。

 

黒い塊が脈打っている。一つではない。いくつもの霊力が無理やり重なっているような、異様な反応。ミクリオの表情が険しくなる。

 

「融合実験体かもしれない」

「千年前の?」

「もっと古い可能性もある」

「で、今まで寝てた?」

「多分」

「最悪」

その瞬間、隔離槽に亀裂が走った。

「下がれ!」

ミクリオがザビーダの前へ出る。

「ミク坊!」

爆発。

 

防護術式の破片と黒い霧が、部屋中へ広がった。ザビーダは咄嗟に風を起こす。

 

「ホライゾンストーム!」

暴風が黒い霧を押し返す。

 

同時に隔離槽の中央から、巨大な何かが起き上がった。

 

***

 

それは、辛うじて人の形をしていた。四肢がある。頭もある。だが、身体の表面を複数の顔のようなものが浮かんでは消え、腕の一部が異常に長い。

 

「趣味悪っ」

ザビーダが吐き捨てる。

「来る!」

ミクリオの声。

 

一撃。床が砕けた。二人が左右へ飛ぶ。

 

「ザビーダ、距離取って!」

「お前もな!」

「僕は近接で崩す!」

「だから前出すぎんなって!」

言った直後、怪物の腕が伸びる。

 

ザビーダが風で軌道をずらす。ミクリオが懐へ潜り込み、術式核らしき部分を狙う。通る。しかし。

 

「再生してる!」

ザビーダが叫ぶ。

傷が塞がる。

「核が一つじゃない!」

「面倒くせえな!」

「同時に潰すしかない!」

「何個?」

「三――いや、四!」

「増えんな!」

それでも、戦える。

 

ザビーダはそう思った。怖い。でも、身体は動く。ウィンドランス。ディバイドヒート。ホライゾンストーム。全部出る。全部、自分の風。

 

「右二つ、俺様やる!」

「左を僕が!」

「合わせろ!」

「三、二――」

同時に攻撃。

 

二つ。三つ。核が砕ける。怪物が大きく揺らぐ。

 

「あと一個!」

ミクリオが叫ぶ。

 

中央。胸部の奥。一番深い。ザビーダが術式を組む。

 

「ウィンドランス!」

届く。

 

だが、直前で怪物が身体を捻った。外れた。

 

「くそ!」

「もう一回!」

ミクリオが前へ出る。

「待て、ミク坊!」

「今なら入れる!」

「一人で行くな!」

聞こえている。

 

それでも、ミクリオは止まらない。特等対魔士。強い。だから、必要なら前に出る。ザビーダは舌打ちして後を追った。

 

***

 

中央核へ攻撃が届いた。ミクリオの一撃が、深く刺さる。怪物が絶叫した。

 

「入った!」

ザビーダが叫ぶ。

 

次の瞬間、嫌な音がした。怪物の背中から、新しい腕が生えた。

 

「ミクリオ!」

今度は間に合わない。

 

巨大な腕がミクリオを横から薙ぐ。身体が飛んだ。

 

「――っ!」

壁へ叩きつけられる。

 

音。ザビーダの頭が真っ白になる。

 

「ミクリオ!」

走る。

 

倒れている。動かない。

 

「おい!」

しゃがみ込む。

肩へ触れる。

「ミクリオ!」

「……ザビーダ」

返事。

息が戻る。

「生きてる!?」

「生きてる……」

「どこ怪我した!」

「左脇腹、たぶん打った……」

「たぶんじゃねえ!」

「今は――」

怪物が動く。

 

ザビーダが振り返る。まだ終わっていない。中央核は損傷している。でも生きている。ミクリオが壁を支えに立とうとする。

 

「やめろ!」

「まだ動ける」

「脇腹打ってんだろ!」

「ここで止めないと――」

「俺様がやる!」

「ザビーダ」

「やるって言ってんだろ!」

風を集める。

 

ウィンドランスを撃つ。核を狙った一撃は怪物の腕に弾かれた。もう一度、風を集める。

 

「ウィンドランス!」

外される。

 

距離も角度も悪い。敵がミクリオを見た。ザビーダの背後。傷ついている。動きが鈍い。狙いやすい。

 

「……おい」

怪物が方向を変える。

「こっち見ろよ」

ザビーダが前へ出る。

風を放つ。

「俺様が相手だ!」

効かない。

怪物はミクリオへ向かう。

「ザビーダ、退け!」

「退くか!」

「僕が引きつける!」

その言葉。

 

胸の奥で、何かが軋んだ。

 

***

 

『お前はいいから逃げろ!』

 

***

 

ザビーダの呼吸が止まった。一瞬、そこにいるのが、ミクリオではなくなった。大きな背中。風。拘束を解かれた男。自分を見て、怒鳴る。

 

***

 

『俺はいい、逃げろ』

 

***

 

「……やめろ」

声が震えた。

 

ミクリオは聞こえていない。怪物へ向かおうとしている。自分を逃がすために前へ。

 

***

 

風が吹く。赤いもの。落ちる。首。

 

***

 

「やめろ!」

ザビーダが叫んだ。

ミクリオが振り返る。

「ザビーダ!?」

違う。

 

違う。今は、あの時じゃない。ここはあの施設じゃない。目の前にいるのはアイゼンじゃない。

 

「俺様を逃がすな」

「何を――」

「俺様だけ逃がそうとすんな!」

怪物が腕を振り上げる。

 

ミクリオへ間に合わない。ウィンドランスでは、ディバイドヒートでも、距離がある。ホライゾンストームでは、ミクリオまで巻き込む。頭の中に一つだけ、術式が浮かんだ。風の経路。二つの刃。交差。完成直前で、いつも閉じる。

 

「……」

身体が拒む。

 

胸が縮む。指が震える。使わなくていい。そう言われた。一生使えなくてもいい。ミクリオはそう言った。だから、今、これは誰にも命令されていない。

 

***

 

怪物の腕が振り下ろされる。ミクリオがこちらを見る。

 

***

 

「ザビーダ、下がれ!」

 

***

 

『逃げろ』

 

***

 

違う。ザビーダは踏み込んだ。

 

***

 

今度は自分が決める。

 

***

 

「――ミクリオ!」

 

***

 

風が集まった。

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