※この作品はR-18です。

一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか?   作:ビジュゲイト推し

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ビジュゲイト

風が集まった。最初はいつもと同じだった。霊力を引き上げ、術式へ流す。そこまでは何度やってもできた。問題はその先で、形が完成しかけるたびに身体の奥で何かが閉じ、行き場を失った力が崩れて戻ってくる。今回も、そこまで来た。ザビーダには分かった。あと一つ。ここを越えれば術になる。

 

そして同時に、身体の奥から別のものが這い上がってきた。風。怒鳴り声。拘束の外れた音。目の前に立つ背中。赤。落ちるもの。

 

『逃げろ』

指が震える。

 

喉が締まる。風が散りかけた。

 

「……っ」

駄目だ。

 

また閉じる。そう思った。別に、それでもいいはずだった。使わなくていい。一生使えなくてもいい。そう言ったのはミクリオだ。使えない自分でも、何も変わらないと。だから、これは克服しなければならない試練ではない。成功しないと価値がないわけでもない。誰にも求められていない。

 

それなのに怪物の腕がミクリオへ向かって落ちてくる。左脇を庇いながら、それでもミクリオは立とうとしている。自分を逃がすために、また、好きな男が自分を残して前に出ようとしている。

 

「……ふざけんなよ」

風が震えた。

 

誰に言ったのか、自分でも分からない。怪物か。昔の聖寮か。あの時のアイゼンか。それとも、今のミクリオか。

 

「俺様だけ逃がして、勝手に格好つけんな」

「ザビーダ!」

ミクリオが叫ぶ。

「下がれ!」

「嫌だ!」

即答だった。

 

怖い。それでも、嫌だ。今度はここにいる。

 

「俺様も――」

風を掴む。

 

閉じようとする経路へ、無理やり力を押し込むのではない。ただ、自分がしたいことだけを、強く思った。

 

「お前を護りてえんだよ!」

術式が、閉じなかった。

 

ザビーダ自身が、一番驚いた。身体の中で、ずっと通らなかった場所を風が抜ける。一気に視界が開けるような感覚。二つの風が走った。交差する。

 

長い銀髪が暴風に持ち上がり、緑がかった毛先が宙へ散る。見開いた琥珀色の瞳に、交差する風の光が映った。

 

「――ビジュゲイト!」

風が爆ぜた。

 

鋭い斬撃となった風が怪物とミクリオの間へ割って入る。振り下ろされかけていた腕が大きく弾かれた。一撃。二撃。風の刃が交差し、そのまま怪物の身体を深く抉る。中央核が露出した。

 

「……」

ザビーダは数瞬、動けなかった。

 

出た。今、確かに術が出た。

 

「ミクリオ!」

我に返る。

「核!」

ミクリオも呆然としていたが、すぐに顔を上げる。

「分かった!」

壁を蹴る。

痛みで顔を歪めながら、それでも一気に踏み込んだ。

「無茶すんなよ!」

「今だけは許せ!」

「後で説教だからな!」

「君もだ!」

ミクリオの一撃が、露出した核へ突き刺さる。

 

ひび。黒い光。怪物が絶叫する。それでもまだ砕けない。

 

「ザビーダ!」

「分かってる!」

もう一度今度は、術式の名前を思い浮かべても、身体は止まらなかった。

 

怖くないわけではない。胸の奥には、まだ赤い記憶がある。アイゼンの声も消えていない。それでも、今は、目の前にいる男を見る。

 

「幻影、双霊、蹂躙――踊ろうか! ビジュゲイト!」

二度目の風。

 

交差する刃が核を捉える。ミクリオの一撃と重なる。音がした。硬いものが砕ける音。怪物の胸部に走った亀裂が、一気に全身へ広がっていく。黒い身体が崩れた。今度こそ。終わった。

 

***

 

静かになった。あれほど濃かった霊力反応が、急速に消えていく。ザビーダはその場に立ったまま、自分の手を見ていた。指先には、まだ風が残っている。

 

「……出た」

声が自分でも間抜けなくらい小さかった。

「ザビーダ」

ミクリオの声。

振り向く。

「……俺様」

言葉がうまく出ない。

「今、使った?」

「ああ」

「ビジュゲイト」

「ああ」

「二回?」

「二回」

 

ザビーダは瞬きをした。

「……マジか」

「マジだ」

「ミク坊」

「何だ」

「俺様、使った?」

「今三回目だぞ!」

「いや、だって」

笑いそうになる。

でも、次の瞬間、ミクリオの身体が傾いた。

「おい!」

ザビーダが駆け寄る。

 

間に合った。腕を掴み、そのまま身体を支える。

 

「ミクリオ!」

またミク坊ではなかった。

「大丈夫」

「平気って言うな!」

「言ってない!」

「同じ意味だろ!」

「……痛い」

「どこ!」

「左の脇腹」

「他!」

「背中も少し」

「頭打った?」

「多分」

「多分じゃ分かんねえ!」

「今すぐ確認できないだろう!」

言い返せる。

 

意識はある。息もしている。ザビーダはそれでも手を離さなかった。

 

「歩ける?」

「ゆっくりなら」

「俺様に掴まれ」

「君も消耗してるだろう」

「今お前よりマシ!」

「でも――」

「ミクリオ」

名前を呼ぶ。

 

ミクリオが黙った。ザビーダはその顔を見た。

 

「今は、俺様に護らせろ」

数秒。

 

ミクリオは何も言わなかった。それから、少し笑う。

 

「……分かった」

「最初からそう言え」

「君もな」

「今それ言う?」

「言う」

ザビーダも少しだけ笑った。

 

***

 

施設を出るまで、かなり時間がかかった。怪物が暴れたせいで通路の一部が崩れ、来た道をそのまま戻れない。ザビーダが風で瓦礫を動かし、ミクリオが残った術式を確認しながら別経路を探した。途中、ミクリオが一度足を止めた。

 

「休む?」

「少し」

ザビーダはすぐに壁際へ座らせる。

自分も隣へ座った。

「痛む?」

「動くと少し」

「左脇腹だな」

「ああ」

「帰ったら絶対診てもらうぞ」

「ああ」

「嫌だっつっても連れてく」

「そこは命令?」

「……」

ザビーダは一瞬止まった。

ミクリオが少し笑う。

「冗談だ」

「今それやる?」

「君なら絶対引っかかると思った」

「怪我人のくせに余裕あるじゃん」

「少しは」

その笑顔を見て、ようやく。

ザビーダの中で張り詰めていたものが、切れた。

「……馬鹿」

「何が」

「お前」

「僕?」

「そう」

 

ザビーダは俯く。

「マジで」

声が震えた。

ミクリオが気づく。

「ザビーダ」

「死んだかと思った」

自分でも驚くほど、素直に出た。

「壁に飛ばされて、動かなくなった時」

「……うん」

「またかと思った」

ミクリオは何も言わない。

ザビーダは膝の上で拳を握った。

「また俺様だけ残るのかと思った」

「……ザビーダ」

「嫌だった」

「うん」

「怖かった」

「うん」

「ビジュゲイトも」

「うん」

「全部」

ようやく顔を上げる。

 

ミクリオはちゃんといる。怪我はしている。顔色も悪い。でも、生きている。

 

「……ミクリオ」

また名前。

「何?」

ザビーダは手を伸ばした。

 

頬へ触れる。温かい。

 

「いる?」

ミクリオは少しだけ目を細めた。

「ああ」

「ちゃんと?」

「ああ」

「触ってていい?」

「もちろん」

ザビーダはそのまま、ゆっくり額を寄せた。

「……知ってる」

「何が?」

「いるの、見りゃ分かる」

「うん」

「でも」

目を閉じる。

「触らせろ」

「分かった」

しばらく、二人とも何も言わなかった。

 

***

 

休憩を終え、再び出口へ向かう。ミクリオの腕を肩へ回し、ザビーダが体重を支える。途中で、小さな瓦礫が進路を塞いでいた。

 

「どける」

ザビーダが手を上げる。

 

風を起こす。普通の。小さな風。瓦礫が端へ転がる。

 

「……」

ミクリオが横を見る。

「何」

「いや」

「言えよ」

「ビジュゲイトの後でも、他の風術に問題ないな」

「研究者サマ」

「気になるだろう」

「今!?」

「今だから」

「怪我人は大人しくしてろ」

「はい」

「素直でよろしい」

少し歩く。

そして、ザビーダはふと気づいた。

 

「……なあ」

「うん」

「俺様さ」

「何?」

「ビジュゲイト使った時」

「うん」

「アイゼンのこと、思い出してた」

ミクリオは静かに聞いている。

「消えなかった」

「うん」

「怖かったし」

「ああ」

「でも使えた」

「……うん」

「何でだろ」

ミクリオは少し考えた。

「僕には分からない」

「研究者なのに?」

「分からないものは分からない」

「そっか」

少し残念。

 

でも、それでいい。ミクリオは続けた。

 

「ただ」

「うん」

「君は、怖くなくなったから使ったわけではなかった」

ザビーダが横を見る。

「……そうだな」

「使わなくてもいいと分かった上で、それでも使った」

「うん」

「僕を護るために」

「……うん」

言われると少し恥ずかしい。

「お前が死ぬ方が嫌だったから」

「ありがとう」

「礼言うなよ」

「なぜ」

「恥ずい」

「僕は嬉しい」

「そういうの今いいから!」

ミクリオが少し笑う。

 

ザビーダも結局、笑った。

 

***

 

施設の外へ出た時には、もう日が傾いていた。外の風が吹く。山の。冷たい風。ザビーダは立ち止まった。髪が揺れる。昔なら。風と一緒に、赤い記憶が来た。今も、来る。でも、それだけではない。ついさっき。自分が起こした風もある。ミクリオを護った風。

 

「ザビーダ?」

「ん」

「どうした?」

「いや」

少し笑う。

「風、気持ちいいなって」

ミクリオも空を見る。

「ああ」

ザビーダはその横顔を見てから。

「ミク坊」

今度は自然に戻っていた。

ミクリオが少しだけ目を見開く。

「何だ」

「帰ろうぜ」

「……ああ」

「ちゃんと診てもらって」

「うん」

「飯食って」

「食べられれば」

「食え」

「努力する」

「あと今日は絶対一人で寝かせねえ」

ミクリオが僅かに固まる。

ザビーダはそれに気づいて笑った。

「寝るだけだよ」

「分かってる!」

「何想像した?」

「何も!」

「ほんとかねえ」

「君は!」

笑い声が山道へ響く。

 

風が吹く。今度は逃げるための風ではなかった。誰かに使われるための力でもない。護りたい人を護るために自分で選んで使った風だった。

 

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