一人称が「俺様」の褐色爆乳美女は好きですか? 作:ビジュゲイト推し
翌日は、ほとんど何もしなかった。ミクリオは左の脇腹と背中を軽く打撲していた。幸い重症ではなかったものの、念のため今日は安静にするよう言い渡された。本人は「書類整理くらいならできる」と主張したが、ミューズに取り上げられ、ザビーダにも睨まれ、結局おとなしく寝室へ戻された。
「特等対魔士って、みんなこんな往生際悪いの?」
「僕は仕事を――」
「寝ろ」
「まだ昼だ」
「昼でも寝ろ」
「眠くない」
「じゃあ横になってろ」
「ザビーダ」
「何」
「君、昨日から僕への扱いが雑じゃないか?」
「生きてるから雑にできんだよ」
ミクリオが黙った。
ザビーダも言ってから少しだけ止まる。でも、訂正はしなかった。
「……そっか」
ミクリオが小さく笑う。
「何笑ってんの」
「嬉しい」
「怪我人のくせに余裕あんな」
「それは関係ないだろう」
ザビーダは呆れながら、ベッド脇の椅子へ座った。
昨夜は、ほとんど眠れなかった。施設から戻ったあと、治療を受けるミクリオのそばにずっといた。傷の程度が分かって、命に別状はないと言われて、それでも何度も呼吸を確認した。眠ったあとも、胸が上下している。息をしている。それを確かめてからでなければ、目を閉じられなかった。
今は、朝も越えた。昼になった。ミクリオは相変わらず文句を言っている。
「腹減った?」
「少し」
「何食う?」
「軽いもの」
「具体的に」
ミクリオが少し考える。
「スープ」
「了解」
ザビーダは立ち上がった。
「持ってくる」
「ありがとう」
扉まで行って、少しだけ戻る。
額へ軽くキスした。ミクリオが目を瞬く。
「何?」
「したかった」
「……そう」
「何だよ」
「いや」
ミクリオが少しだけ笑う。
「僕もしたい」
ザビーダは一瞬考えた。
それからもう一度近づく。
「じゃあ一回」
「いいの?」
「俺様もしたいから」
短く。
唇を重ねる。昨日。死ぬかもしれないと思った人と今日、普通にキスをしている。それだけのことが、妙に嬉しかった。
***
夜になっても、ザビーダは自分の部屋へ戻らなかった。ミューズも何も言わなかった。ミケルだけが何か言いたそうな顔をしていたが、妻に肘で小突かれて黙った。寝室。ミクリオは先にベッドへ入っている。ザビーダは椅子へ座り、その横顔を眺めていた。
「何だ」
「別に」
「また見てる」
「見てる」
「なぜ」
「生きてんなって」
ミクリオが少しだけ困った顔をする。
「何度確認するつもり?」
「俺様が飽きるまで」
「それはいつ」
「知らね」
ザビーダは笑った。
でも、胸の奥にあるものは、昨日とは少し違った。昨日は、怖かった。失うのが、いなくなるのが、触れられなくなるのが、今日は、触れたい。ただそれだけが、昨日よりずっと強い。
「ミク坊」
「何?」
「今日さ」
一度言葉を止める。
昔なら。こういう時、相手の顔を見て、相手が何を望んでいるか探した。何を言えば喜ぶか。何を差し出せば機嫌が良くなるか。そういうことばかり考えていた。今は、自分へ聞く。俺様は何がしたい。答えは、もう分かっている。
「今日、したい」
ミクリオが止まった。
「……何を」
「またそこから確認すんの?」
「いや」
顔が少し赤い。
「分かってる」
「じゃあ聞くなよ」
ザビーダは笑った。
でもミクリオはすぐにいつもの表情へ戻った。
「昨日のことで気持ちが高ぶってるだけじゃない?」
「違う」
「本当に?」
「ああ」
今度は迷わない。
「昨日は、したくなかった」
ミクリオが黙る。
ザビーダは続けた。
「昨日は、お前が生きてるか確認したかっただけ」
「うん」
「触って、息してんの見て、一緒に寝て」
「うん」
「それで十分だった」
ミクリオは静かに聞いている。
「でも今日は」
ザビーダは椅子から立ち上がった。
ベッドのそばへ行く。
「お前に触りたい」
「……」
「もっと」
ミクリオの喉が小さく動く。
「恋人だから?」
「違う」
即答。
「昨日死にかけたから?」
「それだけでもねえ」
「じゃあ」
ザビーダは笑った。
「俺様がお前を欲しいから」
ミクリオが目を閉じた。
「何でそこで目閉じんの」
「少し整理させてくれ」
「まだ整理する?」
「する!」
「ほんっと真面目」
ザビーダはベッドの端へ座った。
「嫌?」
「嫌なわけない」
「したい?」
少しだけ意地悪く聞く。
ミクリオは目を開けた。そして、今度は逃げなかった。
「したい」
「そっか」
「かなり」
ザビーダが笑う。
「お前、言えるようになったな」
「君が僕も言っていいって」
「言ったな」
嬉しい。
本当に自分だけが選ぶのではない。ミクリオも欲しいと思っている。でも、それを命令にはしない。
「じゃあ」
ザビーダは手を伸ばした。
「キス」
「うん」
「して」
ミクリオがゆっくり身体を起こそうとする。
「待て」
「何」
「怪我」
「あ」
「忘れんな」
「……ごめん」
「謝んなくていいけど」
ザビーダは笑い、今度は自分から近づいた。
唇が触れる。短く。もう一度少し長く。それだけで、胸が熱くなる。
「……ミク坊」
「何」
「これ」
「うん」
「やっぱ好き」
「僕も」
「あと」
少し迷って、ミクリオの手を取る。
自分の頬へ触れさせた。
「ここ」
「……いいの?」
「ああ」
指が頬を撫でる。
優しい。ザビーダは目を閉じた。昔。アイゼンにも、こうして触れられたことがある。その記憶は、もう邪魔ではなかった。大事なもの。自分が一度。ちゃんと誰かを好きで、ちゃんと欲しいと思って、ちゃんと愛された記憶。だから、今も分かる。これは違う。客とは、命令とは、所有とは、全然違う。
「ザビーダ」
ミクリオの声。
「何」
「今も、このまま触ってほしい?」
ザビーダは目を開ける。
「ほしい」
ミクリオが少し笑った。
「続けたい?」
「したい」
「うん」
「だから触って」
「分かった」
今度はもっと自然に手が頬から髪へ移る。
ザビーダはその手に自分から擦り寄った。
***
しばらく二人はキスと抱擁だけで過ごした。ミクリオが怪我をしているせいもある。無理に進める必要もない。でも、ザビーダの中に少しずつ。
「もっと」が増えていく。
「ミク坊」
「何」
「俺様」
言葉にする。
ちゃんと。
「抱いてほしい」
ミクリオの表情が変わった。
「……本当に?」
「ああ」
「途中で嫌になったら」
「止める」
「僕も止める」
「うん」
「何か嫌だったら」
「言う」
「分からなくなったら」
「分かんねえって言う」
「……うん」
ザビーダは笑った。
「確認終わり?」
「多分」
「多分かよ」
「あと一個」
「何」
ミクリオがまっすぐ見る。
「これは、僕が君を所有しているからじゃない」
ザビーダは数秒黙ってから答えた。
「知ってる」
「うん」
「でも言っとく?」
「ああ」
「じゃあ」
ザビーダはミクリオの手を握る。
「俺様はお前の所有物じゃねえ」
「うん」
「恋人」
「ああ」
「で」
少し笑う。
「今日は俺様がお前に抱いてほしいって言ってる」
ミクリオの目が少し潤んだ。
「……分かった」
「泣く?」
「泣かない!」
「泣きそうじゃん」
「君がいちいち大事なことを自然に言うからだ!」
「俺様悪くねえだろ」
「悪くない」
二人で笑った。
緊張が少しほどけた。