昼間に南のメトロポリスから出たカーチとユラ、サガタは修理したてのホバーバイクに乗って封鎖区域ポイントへ移動している。道中にフォージの少ない道を選びなるべく遭遇しないようにする為静かに走行していた。フォンフォンとホバーバイクが反重力装置を展開、静音走行モードに徹している。
「ユラ、お前は封鎖区域に何度か足を運んでるから分かってると思うが、カーチはまだこの事を知らないと思うから説明しておく。バベルの連中が決めてる封鎖区域という呼称はな、大なり小なりフォージの群れや特殊個体がそこを縄張りにしているか否かで決まる。要するにめちゃくちゃ危険な場所って感じだ」
「封鎖区域がとんでもなくヤバい所なのは理解してると思うけど…何故そういう場所にスウェイラーや政府の人間が向かうのにはちゃんとした理由があるの。主にそういう場所のほうが未踏だったりするから。だからまだ周辺に手付かずのジャンクや大昔の貴金属だったりがあるのよね、あと未踏区域のデータはよく売れるの。安全なルートを開拓したら特に…ね」
カーチに封鎖区域の説明をするユラとサガタ。
身の危険があるというのにわざわざリスクを冒して向かうスウェイラー達を考えるその顔は、まさに理解不能といった感じだ。
「わざわざ危険なのに向かうんですか…?死ぬかもしれないのに?」
「ええ…そうよ。お金を稼がないと明日さえ怪しい世界だからね。そしてそういう所に稀に"遺物"が有ったりするから、人生を賭けて一山当てる為に目当てなのが大きいって所かしら」
「カーチも見たことあるだろ、指輪になってたりするアレの事だよ。遺物はもれなく特殊な能力を持ってることが多いし、なぜかバベルの連中がこぞって集めてるからな。法外な値段が付けられてるのもそれが理由さ」
「…なるほど、そういう事ですか」
実は、カーチも修行時代に遺物を見たことがある。
その時の遺物は装着者の筋力を増やす、なんていうものだったと覚えている。試しに装着した人間の腕がみるみるうちに筋肉を纏っていく光景は目に焼き付いている。
「(僕の父さんも、遺物を探しに出かけたままどこかへ行ってしまった…いったい、どんな遺物が必要だったの?父さん…)…ん?ちょ、ちょっと待って下さい!あれ…」
何もない荒野を走っている一行は、向かう道中に故障した警備アンドロイド2体を見かけた。道に倒れておりバチバチと火花を散らしているのを確認出来る。明らかに何かあったような状態であった。
「うわ、警備用のアンドロイドが倒れてるわね…完全に機能を停止してるっぽいけど、戦闘用のこいつらって結構強いはずなのに」
「こいつは…ちょっと調べてみるか」
三人はホバーバイクから降りて周囲を警戒しつつ、倒れたアンドロイドを調べ始めた。どうやら頭と胴体を高威力の弾丸か何かで撃ち抜かれたのか、5センチほどの大きな穴が空いているのをカーチは確認した。
「この警備アンドロイド、胴体と頭に大きな穴が…開いてますね。ログを見てみます…あ、まだ残ってる!映像ログは無いですけど、状態ログならありました」
腕のウェアラブル端末を使い映像ログの接続を試みるも、エラーと表示されてしまい一切の調査が不可能だった。しかし通知ログを見ると数分前までは稼働していたようで…読み進めてみるとどうやら急に破壊されたようで、恐らくこれが機能停止した原因だろうと察することが出来た。
「多分弾痕…ね。中の銅線や部品が焼き切れたような跡があるからプラズマ系の銃を使って襲撃したのかしら…フォージに倒された、ってのも否定出来ないけど内部武装を展開してないからその線は薄いかもしれない…」
穴をなぞるユラの手は、何か不安そうな顔をしていた。気になった彼女はアンドロイドの腕を確認してみると内蔵された武装を展開した痕跡が無い事が判明する。見た所プラズマ式の小銃だろうか砲身を触ってみるとひんやりと冷たい。射撃すら出来なかったようだった。
「おじさん、この2体のアンドロイド…武装を展開する間もなく破壊されてる」
サガタは顎に手を当て、うーんと唸って周囲を見渡した。
「となるとこのアンドロイドは…狙撃されたか、或いは武装を展開する間もなく何かに、若しくは誰かに壊されたって事か。やれやれ…どこのスウェイラーかスカベジの連中かは分からないが、命知らずな奴も居るもんだ…さて、ここまでにしよう。破損チェックのためにバベルの連中が来る可能性もある、見つかったら言い訳に困るぞ!」
「もし見つかったら厄介ね…行こう、カーチ君」
「は、はいっ!」
3人はせっせとホバーバイクに乗ると、その場を後にして封鎖区域へ向かって行く。…だがその遥か後方の朽ちたビルの屋上に、何やら人型のようなモノがゆらゆらと立っていた。
「■■■■■■■■」
おおよそ人型の存在は、四肢をぐねぐねと不定期に揺らしながら何かを求めているようにしている。紫色の光を宿したその相貌は、アンドロイドの残骸を後にして走り去るホバーバイクを目にしていた。
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3人は封鎖区域に入ると、中心部分を目指して運転していく。派手にエンジン音を聞かれるとフォージに勘付かれてしまう場合があるのでなるべく静かに移動していた。建物の間に吹く風は敵の唸り声のようにも聞こえるが、不思議なほどに敵を見かけることは無かった。
『オーナー、もう少しで封鎖区域の中心に入ります。しっかりと準備をしてから侵入してください』
「しっかりと準備はしてるわよ、エレ。今回は私だけじゃけておじさんとカーチ君まで居るんだし、大丈夫よ。この日のためにバッテリーマガジン沢山持ってきたんだから」
「ぼ、僕は戦闘面では役に立てませんが…なんとか頑張ります!」
緊張した面持ちのカーチは、初めての遺物探索に興奮と不安を覚えているのか声が震えていた。ユラは慣れているのか、ブレードに装着する為のバッテリーマガジンをチェックしている。運転していたサガタも
「一番良いのは戦闘にならずに遺物だけ回収してからさっさと立ち去ることだな。まあ大体は先客が存在したりそこを根城にしてるフォージと鉢合わせちまったりするんだが…」
と、多少心配事はあるようだがそこまで気にしていないように思えた。
「で、でもここに来る時に全然見かけませんでしたね、フォージ。大きいのとか小さいのとか居るんじゃないかと思いましたけど…」
辺りを見渡すカーチは、どこにも敵が居ないことを確認する。念のために端末で周囲をスキャンしてみた結果、周囲の廃ビル内に鮨詰めの如く反応が重なったのが見えた。ざっと数十匹のフォージが建物内部に存在しているのをモニター越しに確認したカーチは、背中に悪寒が走るのを感じた。
「うわっ…!?」
それを横から見ていたサガタが、結果を見て唸る。
「ふむ、こいつは…多分休眠中だ。フォージは機械と生き物の間みたいな奴と聞いたことがある。コイツらも眠ったりするんだな…ますます気持ち悪いぜ。なぁユラ、ここを縄張りにしてる個体の名前は調べてあるのか?」
「ん?それはね─」
ユラが話すよりも早く、ブレードのインターフェースが起動してエレが会話を始めた。
『私が既に調べております。呼称:スナッチャーと呼ばれる人型のフォージがこの周辺一帯を縄張りとして活動しているようです。スナッチャーの特徴としては約2mほどの痩せた人型をしており、特徴としては両手両足の先にあたる部分に鋭い爪のようなものを宿している事です』
無機質な音量小さめの電子音声が3人の耳に入る。
『動作は俊敏であり目で追えるようなものではないとの事。鋭い爪は恐らく対象を引き裂くために用いられると予想します。捕食に使われる確率は低いでしょう。……さらなる情報を得ようとしましたが、政府のデータベースに侵入せざるを得ないので辞めておきました』
「…だってさ」
自分が説明しようとしていた事を先に述べられてしまった事でやや不機嫌そうにするユラ。エレは自信満々の顔文字を表示している。
「人型か…結構厄介な奴だな。ちょっと前にもキャラバンズがメトロポリス間を横断する時、真っ先に注意しなきゃならなかったのがコイツらみたいな小型の素早いフォージだ。人型タイプはまるで群れを成した蝗のように襲い掛かって来る…時々、輸送隊の荷物やメンバーを襲って来る事も多々あってな。追い払ったりしてたよ」
「…だが、それでも動きはまだ目で追える程度のものだった。エレの言う通り、ここの特殊個体は目で追えるようなもんじゃないだろう。ならなるべく出くわさないように警戒しながら探すぞ」
「も、もし出会ったらどうします…?」
弱気になってきたカーチが、サガタに尋ねる。
サガタは首を横に振ってただ一言
「勿論全員無事に逃げ出したいが、最悪の場合は誰かが犠牲になるしか無いな。やぶれかぶれになって倒そうという考えは無くしたほうが良い…何せ政府軍が討伐しあぐねてる奴だ、俺たちがどうのこうのできるような存在じゃないのは確かだ」
「でも、そんなのやってみなきゃ分からないじゃない?それに噂だと…どうも特異個体は持ってるって噂だよ?レ・ア・モ・ノ」
そう言うユラの目は楽しそうに爛々としており、サガタとは対象的に写っている。
「お前どっからそんな情報を──いや、この業界に生きてたらそりゃ知ってるのは当たり前か」
「どういう…事です?」
またも疑問が増えたカーチに、サガタはこう返した。
「奴ら特異個体の体内には、遺物と同じくらい貴重な体内器官があるらしくてな。そいつはどうやら本体と共に霧散したりせずに石みたいにその場に残るんだそうだ。宝石みたいな輝きを持つらしいが…オレもこの目で見た事は無い。市場じゃ遺物と同じような値段で取引されてるみたいな話も聞いた、きっと…研究機関に渡して調べるんだろうさ」
「あと、なんと特異個体を討伐した人には政府から謝礼が貰えたりするんだよね〜♪ちなみにここを根城にしてるスナッチャーの金額は40000ヤーラ。そこまで高くないけど、1週間くらいなら好きなもの食べれるって感じかな」
指を折って金額を数えるユラに、サガタは鋭い視線を向けた。
「だが、いいかユラ。今回の依頼はあくまで遺物の回収で、特異個体を討伐するって内容じゃないからな?まずは身の安全を最優先に行動してもらうぞ?」
釘を刺すように強めの言い方をされたユラは、わかりやすく獣耳と尻尾をぺたんと垂らして頭を俯けた。肩もがっくりと言う感じで落ちている。
「はぁ〜い…わかってるよぉ、おじさん。今日は無茶しないし、突っ走って勝手に応戦したりしないって約束するから…その、もし遺物を見つけて依頼を完遂したら、その取り分はちょっとくれない?」
提案に少し悩んだサガタは
「7:3でどうだ?オレが7、ユラが3だ」
「7対3…えっそんなに貰っていいの!?」
「しーっ、声がデケえ!」
と破格の報酬を提示してきた。驚くのも無理はない、そもそもこの依頼を仕入れたのはサガタ自身でありそれに乗っかるような形でユラとカーチは今この場所に存在しているのだ。正直な所ユラは貰えなくても仕方ないかな…いや、1割くらいならありがたいな、程度の認識で考えていた。
「あっごめんごめん…。嬉しいけどほんとに良いの?」
「その方がやる気出してくれるだろ?なぁに、危険はフォージだけに限った話じゃ無いんだしな…」
「ん?それってどういう意味で──」
「さ、サガタさんユラさんっ…!」
二人の会話に割って入るようにして、カーチが酷く焦った表情のまま顔を見てきた。まるで血の気が引いたような思いをしたばっかりといった様子だ。
「ん?」「…なんだ?どうしたカーチ」
一体どうしたのか、と顔面蒼白の理由を聞こうとした二人だったがまず先に反応したのはユラだった。獣耳を荒野の方角に向けて激しく動かしている。
「待って、ちょっと静かに。…エンジン、いやブースター音?それもかなり大きいし多い…ここに来るわよ誰か!」
「さ、さっき試しに遠くの方をソナーで探知してみたらこっちに向かってくる大勢の反応が出たんです!ものすごいスピードでこっちに向かって来てます、隠れなきゃ!」
慌てるカーチとユラを他所に、サガタはほんの少しだけ思考に時間を使っていた。ベテランとも呼べる彼が導き出した結論、それは相手がこんな危険な場所を物ともせず通過するような"破落戸達"だと言う事だった。
「此処らへんに来るようなヤバい連中だと、まずスカベジは寄って来ない…アイツらはハゲタカみたいなもんで自分から危険に晒されに行ったりはしない。それにユラの聞いた無数のエンジン音とカーチの探知した反応から考えると…ヤベェな、ディスペラの連中かもしれねえ!」
「まず近くの物陰に隠れましょ、早く!カーチ君は私と!」
「は、はいっユラさん!」
「俺はホバーバイクを奴らから見えない場所に片付けてくる!」
それぞれがやるべき事を行い、ユラとカーチは廃ビルから少し離れている建物の影に。カーチは走ってホバーバイクを物陰に移動させて人が通った痕跡を無くした後、二人の座標を追いかけてやや離れた岩場に隠れた。
三人がそうして物陰に身を隠していると、地面が僅かに揺れるような感覚と共に大気を揺らすような重なる音が幾度も聞こえてきた。それは反重力装置とは別に、燃料を燃やして航行する荒々しいロケットエンジンの音だった。
「ヒャッハァ!!行け行け行けぇ!!飛ばせ飛ばせ!!」
轟音を立てて建物の隙間を潜り抜けたり、わざと間を縫うようにしてロケットバイクで駆けるその姿はまるで走ることを心から楽しみにしているようだった。続く操縦者達も声を上げて次々と荒廃した道路の上をビュンビュンと高速で通り過ぎていく。その数は10、いや20は下らない人数だった。
彼らは皆、黒い人工革のジャケットを羽織っており背中には今にも噛みつきそうな獅子の絵が描かれている。所々にあしらわれた銀の装飾は太陽の光を反射させてキラキラと輝いていた。
だがそんな彼らの行く手を阻むようにして、廃ビルの高窓から二足歩行のフォージがワラワラと這い出てきた。休眠していたからなのか、やや動きが鈍い。先頭列の走り屋が止まると
「出たやがったな!フォージのバケモン!」
「俺たちの邪魔すんじゃねぇ!テメェら構えろ、ぶっ放してやれ!!ここは俺たちの道だ!退きやがれってなぁ!」
フォージに物怖じせず、それどころか怒ったように走り屋達が声を出すとバイクに乗ったまま4人ほど横にスライドし、囲い込む形で建物諸共フォージに搭載された火器を相手に浴びせた。
実弾のマシンガン、成形炸薬のロケットランチャーを交えた砲火がフォージの群れに雨霰の如く撃ち込まれていき、廃ビルごと爆発させて解体、中に居た休眠中のフォージもろとも破壊してしまった。コンクリートの砕ける音が周囲に響く。
「(うるっさ!?というかやり過ぎでしょ…!)」
「っ…!」
爆発物の発生させる音に耳を伏せて手をかぶせるユラと、あまりの迫力に目を閉じて身体を丸めるカーチ。
「ははははっ!!ざまあねえや!ってか、それなら此処らへんはコイツラの巣って事になんのか?」
「ならぶち壊しちまおうぜ、リーダー!!あんな奴ら百害あって一利なしってもんだ」
小柄な男がロケットバイクをふかし、リーダーと呼ばれた先頭列の者へ近寄る。だが返事の代わりに飛んできたのは拳骨だった。
「難しい言葉使うんじゃねえ!」
「あいてぇ!?」
顔を覆うフルフェイスのヘルメットを被ったリーダーは、力強く拳を上に突きだした。
「つーか今はダメだ!神聖な走りの途中だからな。終わったら帰り道でこの一帯をぶち壊してやろう!!フォージのクソ野郎を!俺たちの走りを邪魔した報いだぁ!!」
「ヒャッハァー!!」「流石リーダー!」「行くぞぉ!」
そう言いながら走り屋のような連中は、ロケットエンジンを点火して次々にその場を後にした。倒壊した廃ビルを残したまま。
「…あ、危なかった、もうちょっとズレてたら倒壊に巻き込まれてたかも」
「です、ね」
冷や汗を拭う二人の後ろから、様子を伺っていたサガタが寄ってくる。
「おう、無事だったか…!しっかしやっぱ怖ぇーなディスペラの奴らは」
「あれが、ディスペラって人達なんです…?」
「ああ、そうだ…ディスペラ。自分たちのレースを何よりも神聖なものとして、それを阻む全てに問答無用の破壊を行う、イカれた走り屋共だ。アイツラが戻るより早くここの遺物を見つけねえと全部おじゃんだ、急ぐぞ!」
焦りとほんの少しの恐怖を含んだ掛け声と共に、ユラとカーチ、サガタは依頼の示した座標へと足を運ぶのだった。