世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
「チチェーラ! ニン! 無事か!」
キンジェラの声が聞こえた。
開けたトンネルの中で、パーティは
アハーレは、彼女の視線を逸らすチチェーラの様子に、何があったか目ざとく感じ取ったらしい。
僕を責めるような目で見た。
キンジェラだけは相変わらず、僕の所業に気づいていないようだった。
女として、この鈍さは不思議ですらある。
あとの二人にとっては、ありがたいことなのかもしれないが。
この女戦士に手を出すと、恐ろしいことになる?
僕はチチェーラの言葉を反芻しながら考えた。
魔法なしでも強い彼女には、密室で二人きりになっても手など出せそうもないが──
キンジェラは言った。
「チチェーラ、ここは傾斜路の底だ。この先はどうなってる?」
魔法も回復し落ち着きを取り戻していた尼僧は、古文書を出して確認した。
「ええと……通路の先は『列柱の間』ですね。たくさんの柱で仕切られた広間です。問題はそろそろオーク
「襲撃があるかもしれないってことか。皆、ひと塊りになって四方に注意しながら進もう。私は正面。アハーレは右。チチェーラは左。ニンは後方から目を離すな」
「え? 僕は後ろ向きに歩けってことかい?」
キンジェラはロープを取り出すと、自分と僕のベルトに結びつけた。
「私が引っ張ってやるから、後ろ向きについて来い。離れずにな。オークを見たらすぐ報せろ。行くぞ!」
一行は短い通路を抜けて、列柱の間に足を踏み入れた。
そこは天井が高く、果てが見えないほどの広間だったが、ぼうっと光る石積みの柱が林立していて、通れるところの狭さはさっきまでとあまり変わらない。
オークに襲われても、一人ずつ相手にすることになりそうだった。
僕は疑問を口にした。
「なあ。オークどもは離れて行動できるのかい? 僕たちみたいにしていなくても、岩が動いたりしないのか?」
チチェーラが答えた。
「ダンジョンには、その中で生まれた者たちには無効の罠というものがあります。ここの仕掛けも恐らくそういう風にはたらくのでしょう」
なるほど。
自由に動ける敵に襲われたら危ないが、狭さというハンデはこちらと同様だろう。
それに高慢極まりないとはいえ、彼女たちなら並のオーク
「ここにも魔蟲がいるわ」
アハーレが受け持ちの右側を指差して言った。
列柱の間を、黒く小さい影が舞い飛んでいる。
「そこに巣があるぞ」
キンジェラの声に振り返ると、前方の柱に開いた穴から魔蟲が湧いて出てきていた。
解毒薬のおかげで毒は怖くないが、噛まれれば怪我をする。
近づきたくはない。
「念の為、焼いておくか。アハーレ、魔法で火槍を出してくれ。巣の奥まで届くようにな」
魔法使いが呪文を詠唱して印を結ぶと、その手に炎でできた小ぶりな槍が現れた。
エルフ以外のものを焼くようにできているのだろう、キンジェラはそれを難なく受け取り、魔蟲の巣に向けて構えた。
槍はその手を離れ、生きている炎のように虫を焼きながら巣穴の奥へと入っていった。
そして──
あたりからザワザワと不吉な音が響いてきた。
「魔蟲が!」
チチェーラが頭上を指さした。
見ると、あちこちの柱から魔蟲の群れが雲霞の如く湧き出している。
「しまった……巣穴が繋がっていたんだ!」
魔蟲は渦を巻くように舞い飛び、あたりを豪雨のような音で埋め尽くした。
アハーレが不吉な予感を滲ませながら言った。
「これは……気づかれるわ」
次の瞬間、僕の頭をかすめて弓矢が柱に突き立った。
それを追って、次々と矢が襲いかかってくる。
「チチェーラ! 防御魔法! 帳を張れ!」
僕たちは魔法のバリヤーに包まれ、弓矢の脅威から逃れた。
「逃げるぞ!」
こうなっては見張りの必要もない。
僕たちは全員前を向いて走り出した。
やがて、何者かが柱の間を追ってくるのが見えた。
オーク
「見て! 上からも来る!」
アハーレの声に見上げると、天井からもオークたちがわらわらと現れ、柱を這い下りてくるところだった。
すごい数だ。
「前からも来た!」
キンジェラが足を止め、剣を構えた。
左右、後方からも灰色の邪鬼どもが迫ってくる。
僕たちは完全に包囲されつつあった。