世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
黄色い目を爛々と光らせ、青白い手に持った得物を僕たちに突きつけながら威嚇する
それが四方だけでなく頭上からもにじり寄ってくる。
こういう状況にまだ慣れていない僕は、パニックに陥りそうになるのを必死に堪えていた。
三人のエルフたちはまだ、冷静さを保てているようだった。
「チチェーラ、アハーレ、炎波攻撃で切り抜けるぞ。合図する。ニン、私の斜め後ろから付いてこい。斬れる奴は斬れ。いくぞ! ハッ!」
キンジェラの合図で一瞬
奇声をあげながら後退する前方のオークたちに向かってキンジェラが前進する。
僕とあとの二人も続く。
キンジェラは斬れるだけのオークたちを斬りながら前進し、行き詰まったタイミングで再びチチェーラがバリアーを張る。
「もう一度! ハッ!」
その攻撃を繰り返しながらパーティは少しずつ前進したが、後から湧いてくるオークがあまりにも多く、進む距離は次第に短くなっていった。
チチェーラが呟いた。
「オークの数が資料の追加情報より多すぎます。更新が滞っていたのでしょう。このダンジョンは一級案件ですよ」
「とにかく進むしかない! がんばれ!」
キンジェラは励ましたが、アハーレの術には疲れが見え始めていた。
炎の波が勢いを失くしかけていたのだ。
僕は少し後ろめたさを感じながら、どこかに起死回生の策はないかと頭を捻り──
不確かな打開策が、一つだけ見つかった。
「キンジェラ。一度ばらけよう」
「何? どういう意味だ」
「僕たちの間に距離を取って、岩を動かすんだ。ここの柱と床が動けば、潰される奴もいるだろう。元に戻ったらまた攻撃しながら前進する。これを繰り返せば……」
「そんなの、時間がかかり過ぎますよ!」
「あたしたちだって潰されるかもしれないじゃない!」
尼僧と魔法使いは抗議した。
「他にいい手があるのかい? 岩の移動さえうまく切り抜ければ、少なくとも一休みはできるぜ」
キンジェラは決断した。
「よし、やってみよう。このままでも埒が開かん。みんな合図で四方に動け。二、三歩ですぐ戻ってくるんだ。やるぞ! 一! 二! 三! 行け!」
僕たちは僕の背丈の距離をだっと一歩踏み越えて離れ、またすぐ集結した。
「何も起きないわ!」
アハーレは叫んだ。
だが、何か仕掛けてくると見ていったん退いたオークたちが、再びにじり寄ってきたその時──
ズズズズズという震動があたりを包んだ。
動き出しが遅かったのは、移動する岩の範囲が広いせいだろう。
「気をつけろ!」
キンジェラの声に反応したように、床がめくれ上がり、柱がブロック状に分解されて動き出した。
上から来ていたオークたちが次々に落下し、床から飛び出した岩に激突して潰されていく。
列柱の間を形作っていた巨大な岩の群れは、僕たちを中心に渦を巻いて動いているように見えた。
さながら岩の嵐だ。
岩同士が火花を散らしながらぶつかる音と、オークたちの悲鳴が耳を弄する。
やがて岩は床に積み上がって、壁を造っていった。
僕たちを包囲していたオークたちは、かなりの数がその下敷きになったようだ。
「危ない!」
叫んだチチェーラのすぐ背後に岩が落ちてきた。
僕たちの居場所も、どんどん狭くなっていく。
目の前にいたキンジェラは、真上から落ちてきた岩に気づいていなかった。
「キンジェラ!」
僕は彼女を突き飛ばして、壁と壁の間に身を投げた。
その上から降って来た岩が狭い空間に蓋をする。
ズン! ズン! ズン! ズン!
轟音と震動はやがて収まり──
僕はまたしても、岩の密室に閉じ込められた。
突き飛ばしたまま押し倒したキンジェラと共に。