世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
ケダモノ──
「そうだな……ケダモノだよな。君をこんなふうに……ひどいと思ってるよ……な?」
僕は彼女から出ていきながら、落ち着きを取り戻していった。
わずかな毒の効果もすでに失せたようだ。
「ひどいよ……ホントにひどい。二百年も守ってきた私の純潔を……踏みにじって……」
僕は思わず彼女の顔を見た。
見た目だけならまだ二十代……いや、十代でも通じるくらいの瑞々しい横顔を。
エルフが長命種だとは知っていたが、いざ現実を突きつけられると驚愕せざるを得ない。
二百年……二百歳……。
ふつうエルフは一体、何歳くらいで初体験を済ませるのだろう?
「お前、チチェーラとアハーレにもこうしたのか?」
さっきのチチェーラの言葉で察したのだろう。
今さら嘘をついても仕方ない。
僕ははっきりと頷いて見せた。
なじられると思ったが──
「どっちが……よかった? 私と、あの二人……と」
「えっ?」
僕は意外な問いに思わず息を呑んだ。
だが、正直に答えた。
本当にそう思っていたから。
「君の方が……よかった。すごく……よかったよ」
「
「見た。夢かと思った、けど……君も見たの?」
エルフの女戦士は宙空を見上げたまま答えた。
「いや。でもエルフ=プレの処女を抱いた者が何を見るかは知っているから……」
そう言ってキンジェラは首をひねって僕を見た。
「ニン、お前初めて女を抱いたのはいつだ?」
「え? ええと……勘定に入れていいのかわからないけど……二十二の時、かな? 出張先で上司に無理やり誘われて行った風俗で。おばさんのソープ嬢と、した……けど。そんなにいいもんじゃなかったな。払いも自分もちだったし」
キンジェラは笑った。
嘲笑ったようだが、それでも僕はうれしかった。
「よくわからんが、商売女とってことか? 恋人を抱いたことはないのか?」
「ないよ。君が……」
君が初めて……と言おうとして僕は口を止めた。
キンジェラは好きだったが、まだ恋人と呼べるものではない。
しかもその前に、パーティの仲間を二人も犯したとあっては、とても恋人ヅラなどできはしない。
彼女は真顔になって言った。
「私が好きか?」
シンプルな質問にシンプルな答え。
「うん。それは本当だよ」
「じゃあ、悲しいことだな。あの秘密さえ知らなければ、好きなままでいられたかもしれないのに……」
「秘密? さっきアハーレが言ってた? 魔生に堕ちる……ってどういうこと?」
今更ながらの質問に、キンジェラは冷たく答えた。
「すぐわかる。ダンジョンが元通りになったらな。その時が終わりだ。私たちの……」
僕たちの終わり──
何の終わりだ?
関係か?
パーティとしての?
それとも、僕とキンジェラの男と女としての?
それ以上詳しく聞く勇気も出ないまま、時が経ち──
ダンジョンはまた動き出した。
今度はただ集まるだけでは済まない。
生き残りのオークたちが待ち受けているのだ。
チチェーラたちとの間の岩が消え、僕たちは速やかに合流した。
当然、二人は僕を厳しい表情で睨め付ける。
僕も言い訳はしなかった。
その前に、とにかくここを脱出しなければならないのだ。
僕はキンジェラに聞いた。
「さっきと同じ攻撃で進むのか?」
「いや……その前にやることがある」
キンジェラは僕から目を逸らして、尼僧に声をかけた。
「チチェーラ、あたりが開けたら
含みを持たせたリーダーの言葉に、チチェーラは一瞬戸惑いの表情を見せた。
「キンジェラ……いいんですね?」
「ああ。仕方ないだろう」
何が仕方ないのか?
聞こうとしたその時、周辺の岩が一気に動き出して列柱が元の形になっていった。
潰されたオークの肉と血が、あちこちから腐臭を放つ。
そして生き残ったオークたちが動く音も聞こえてきた。
「来るぞ! 帷!」
オークたちの姿が目に入ると同時にチチェーラが呪文の詠唱を終え、帷が下りた。
だが、僕だけはその外にいた。
「キンジェラ! 僕が入ってない!」
振り返った僕を、三人のエルフたちは帷の中で黙って見つめるだけだった。
キンジェラはつぶやいた。
「ニン、すまない。こうするしかないんだ」