※この作品はR-18です。

世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜   作:菜種K

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18.最悪の変化(へんげ)

 僕は愕然とした。

 

 見捨てられたのか?

 オークの待ち受ける帷(バリヤー)の外に。

 これは彼女たちの復讐なのか?

 自分たちの体を弄んだ人間への。

 

 エルフたちと対峙した僕の背後から、オークの群れが迫る音が聞こえる。

 僕はそちらを向くこともできないまま、剣の柄に手をかけた。

 だが無駄だ。

 僕ごときの技量では、何人ものオーク戦士(レン)を相手になどできない。

 死ぬんだ。

 ここで死ぬんだ。

 キンジェラも、アハーレも、チチェーラも、哀れな生贄となった人間を何の感情もこもっていない目で見つめている。

 息遣いが聞こえるほど、オークたちが近づいて来た。

 自分のまわりがこれ以上なく濃い死の予感に包まれた、その時──

 

 それが起こった。

 

 僕は突然全身を襲った衝撃と熱に、思わず膝をついた。

 

「ぐっ! ああぁあぁあ!」

 

 体が引き裂かれるような、内側から熱いものが溢れるような。

 経験したことのない苦悶に僕は身をよじった。

 耐えきれずに石の床に身を投げ、もがき転がる。

 

「ぎっ! ぎぎぎぎぎぃいぃいぃ!」

 

 エルフたちは顔に恐怖の色を浮かべて、奇声を上げてうめく僕を見下ろしている。

 僕のそばまで来たオークの一人が、蛮刀を振り上げる。

 

 死にたくない!

 

 僕は振り下ろされた蛮刀に向かって思わず手を挙げた。

 刃は僕の手のひらを切り裂……かなかった。

 僕は幅広の段平をしっかりと握りしめていた。

 その手は真っ黒く硬い、キチン質のようなもので覆われていた。

 刃を握った指は長い鉤爪になっている。

 少し力を入れたら、蛮刀は手の中で粉々になった。

 驚き後ずさるオークに向かって、僕は飛びかかった。

 凶暴な衝動が吹き出して僕の意識を支配する。

 黒い鉤爪を伸ばしてオークの体につかみかかり──

 そのまま引き裂いた。

 僕は人間離れした声で咆哮した。

 

「ぎしゃぁあぁああぁああぁっ!」

 

 その後のことを僕はよく覚えていない。

 

 気がつくと、列柱の間は凄惨なことになっていた。

 引き裂かれ、食いちぎられたオークたちの肉体が飛び散り、床といわず柱といわずあちこちに張り付いていた。

 これは……僕がやったのか?

 衝動に飲み込まれ自分を見失って、その後……ひたすら殺戮に走った……?

 では、あの三人は?

 まさかキンジェラたちも手にかけたのでは。

 焦ってあたりを見回した僕は、すぐ柱の下に身を寄せ合ってしゃがみ込み、震えているエルフたちを見つけた。

 アハーレが呟いた。

 

「人間に……戻っ……た……?」

「まさか……あり得ません……」

 

 そう言ったチチェーラの横で、キンジェラは自分のマントを脱ぐと恐る恐る僕の方へ放ってよこした。

 その時、僕は初めて自分が全裸であることに気づいた。

 自分の服もアーマーも、どこかに消えていた。

 そして、ひどく疲れていた。

 

「な……なあ……」

 

 キンジェラのマントに身を包んで彼女たちの方へ近づくと、三人は身を寄せ合ったままゆっくり立ち上がり、僕を避けるようにして歩き出した。

 何が起こったのか聞きたかったが、とてもそんな雰囲気ではない。

 エルフたちは僕を蔑んでいた時以上に、僕に近づくことを恐れているようだった。

 三人はしっかりと寄り添って、広間の出口と思しき方向へとよろよろ歩いていく。

 そういえば、なぜ岩は動き出さないのだろう?

 僕は彼女たちから、僕の身の丈どころか十メートル以上離れようとしていた。

 なのに、床も柱も動き出す気配がない。

 

 わからないことが多すぎる。

 とにかく、ダンジョンを出てから全てを解き明かそう。

 

 列柱の間の出口は、そのままダンジョンの出口になっていた。

 暮れかけた陽光に目を細めながら、僕たちは外に出た。

 

 とにかく、世界一狭いダンジョンの踏破は終わった。

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