世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
「アハーレ、
キンジェラの指示で、またあの小さなエルフが呼び出された。
「はいはーい、皆さんお疲れさま……って、うわあ……すごいことになってたみたいだね!」
どうやら妖精官は僕らをひと目見ただけで、潜り抜けた苦闘が見抜けたらしい。
キンジェラは一瞬、僕の方を見てから妖精官に向き直った。
「西の三十二は攻略した。だが難易度は遥かに想定以上だった。点数は一級扱いで勘案してもらいたい」
「うーん……まあいいでしょ! 五百ポイント追加……っと」
妖精官は杖をふるって、空中の見えないノートか何かに書き込みをした。
キンジェラは親指で僕を指して言った。
「あと、パーティから魔生堕ちが出た。こいつをどうするか決めたいから、情報をくれ」
「ちょっと待ってくださいよぉ。まずは中で何があったかを見とかないと、ね!」
妖精官はどこからか水晶玉を取り出した。
玉から光が広がり、立体映像のようにダンジョンでの過去の情景が空中に映し出される。
それは、僕が
僕の防具も服も弾け飛び、全身が黒く硬い皮膜に覆われ、オークの蛮刀を難なく握り潰す。
オークに襲いかかって引き裂いた僕は、恐ろしい咆哮を上げ──
その体が巨大化した。
身長が三メートルはありそうだ。
硬い皮膜は頭の上半分を覆い隠し、下半分は鋭い牙が並ぶ巨大な顎となった。
さらに、背中から腰にかけて無数の太くて黒い触手が伸びていた。
触手は一本一本の先端がまるで亀頭のようになっていた。
しかもそこには牙を持った口があり、長く伸びてオークたちに襲いかかった。
首筋に噛み付く触手もあったが、多くは防具の下から急所を狙ってそれを噛みちぎっていった。
オークの群れはあっという間に無力化され鉤爪に引き裂かれるか、股間を押さえてのたうち回りながら失血死した。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
映像の中で三人のエルフは身を寄せ合い、しゃがみ込んだままひたすら震えていた。
周囲に動くものがなくなると、怪物はエルフたちの方を向いた。
全ての触手が、いきり立ったモノのようにそちらへとにじり寄る。
三人は絶望的な表情を浮かべて、なんとかしようと剣や杖をかざした。
だが、そこで怪物は人間の姿……僕の姿を取り戻していた。
「なるほどー、これは面白いね!」
「面白いで済むか。こっちは死ぬかと思ったんだぞ」
憮然とするキンジェラに、妖精官はニヤニヤ笑いながら近づいた。
「こうなった原因は……まあ、一つしかないけど」
頬を染めて顔を背けるキンジェラ。
なんだかんだいって、やっぱり可愛い……と思ってしまう。
「あの魔物は何? オークでもトロルでもないし、書物で見たこともないよ?」
アハーレの疑問に、妖精官は答えた。
「たぶん、魔将鬼ゼルグルですね。滅多に現れる魔物じゃないから、知られていないのも当然でしょう。ご覧のように戦闘力もすごいけど、あの触手はアレの役割もしていて、女の人にいけないことをしたりもするんですよー」
三人のエルフは息を呑んだ。
あの時、僕が元に戻らなければ、ゼルグルの触手に犯されていたかもしれないということだ。
魔物、すなわち魔生の分類は僕も訓練所で学んでいた。
大きく分けて四種類。
ありふれて危険の小さいものから、魔霊、魔獣、魔鬼、魔神となっている。
魔神は、現れたらこの世の終わりとされるくらいレアで恐ろしい存在だから、むしろ普段から気にする必要もない。
オークやトロルのように知恵を持ち、頻繁に脅威となるものたちが魔鬼。
さっき襲ってきた魔蛇や魔蟲が魔獣。
魔霊は物理的な脅威ではなく、弱い呪いなどで精神的な攻撃を仕掛けてくるものだ。
魔将鬼は、魔鬼の中でも最上級の危険な怪物だという。
それが僕の
チチェーラが言った。
「わからないのは、それがどうして人間に戻ったのかということです。一度、魔生に堕ちた人間が回復するなんて聞いたことがありません」
「あー、それはですねー……」
妖精官は僕の頭へ飛んでくると、小さな杖でコンコンと叩いた。
「この人は、この世界の住人でないからでーす」
三人のエルフは驚愕の表情を浮かべた。
ついに僕の出自が問題となる時が来たのだ。