世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
世界で最も狭いダンジョン──
──の中は、確かに狭かった。
入り口こそ広いものの、通路は進むに連れて狭くなり、ついにはチチェーラの説明通り、人ひとり通れるくらいの幅しか無くなった。
天井も低く、百七十センチちょっとの僕の頭がギリギリだった。
パーティは勇者キンジェラを先頭に、尼僧チチェーラ、魔法使いアハーレ、そして戦士の僕の順番で、電車ごっこをしながら進んでいく。
行く手は魔法で浮かぶカンテラが照らしていた。
「ちょっと! お尻押さないでよ!」
アハーレが怒った。
「仕方ないだろ。好きで触ってるんじゃないんだから」
「あらそう? 実は楽しんでるんでしょ? わかってるんだから」
むかつく……。
「ペースを乱すな。ニン、ロープを落とすなよ」
アハーレの尻だけでなく、肩も石壁にぶつかるようになってきた。
石造りの地下建造物だから涼しいはずなのだが、体同士を近づけているせいでだんだん暑くなってくる。
前を行く女たちの「はあはあ」という息遣いもはっきり聞こえる。
エルフは暑さに弱いのだ。
次第に、こめかみから汗が滲み出てきた。
「あ、何か落ちて来た?」
チチェーラが言った。
僕の頭にも何か触った。
よく見ると前方から何か小さなものがいくつか飛んできていた。
その一つが目の前、アハーレの肩に落ちて──
僕を見た。
「魔蟲だ!」
「いやん!」
アハーレは羽の生えた大きなクモのような虫を肩から払い落とし、踏み潰した。
たちまちあたりは、舞い飛ぶ魔蟲の羽音でいっぱいになった。
魔蟲は、噛まれると魔毒によって狂気に陥ることもある危険な虫だ。
僕たちのような冒険者パーティはあらかじめ解毒薬を飲んでいるので、大した心配はない。
しかし──
「急ぐぞ! 魔蟲の巣を抜けるんだ!」
キンジェラがペースを上げた。
それがまずかった。
僕は潰された魔蟲の死骸を踏んで足を滑らせ、尻餅をついてしまった。
ロープが落ち、たちまち四人の距離が広がる。
その時──
ズズズズズ……。
鈍い音を立てて、あたりの壁や床が動き出した。
「しまった!」
巨大な積み石が通路の中に飛び出し、僕たちの間を塞ごうとした。
「離れろ! 潰されないように……」
キンジェラの命じる声が積み石によって遮られる。
僕とアハーレのいる場所も、飛び出してきたブロック状の岩によってどんどん狭くなっていった。
そして──
ズン……!
という最後の音と共に、全てが静止した。
僕とアハーレは、向かい合って体を触れ合わせたまま、数十センチ四方の空間に取り残された。
周りの岩は蓄光塗料が塗ってあるように、ほのかな暖色系の光を放っていて完全な闇にはならなかった。
「まったく! 何やってんのよ! ドジ!」
「仕方ないだろ! アクシデントだよ!」
それも最悪のアクシデントだ。
こんな狭い空間で、高慢エルフの罵倒に晒されるなんて。
チチェーラは、この状態が続くのはせいぜい一時間と言っていた。
その間、僕は我慢できるだろうか?
いろんな意味で……。
「はあ……はあ……」
アハーレの息遣いが荒くなってきた。
暑い。
魔法使いの褐色の肌には、玉の汗が滲み出ている。
岩が放つわずかな光も、その色が劣情を煽り立てる。
薄物の衣装に包まれたアハーレの体に、僕は思わず唾を飲み込んだ。
狭い空間でゴクリという音が耳を打つ。
「ちょっと……変な気を起こさないでよね」
アハーレが上目遣いで警告した。
「変な気……って、なんだよ」
「決まってるでしょ。あたしに手を出したらタダじゃ済まないんだから」
僕はフッと皮肉な笑いを漏らした。
エルフの綺麗な前髪が僕の息で揺れる。
「こないだと態度が百八十度変わったな。男だったら襲ってみろとか言ってなかったか?」
冗談のつもりだった。
だが、あまりにもエロい肉体と触れるか触れないかの距離に立って、僕の中で凶暴な何かが膨れ上がっているのはどうにもできなかった。
アハーレの方にも、別の感情が湧き出ているようだった。
濡れた瞳にはっきりと表れていたのだ。
僕に対する恐怖の感情が──