世界一狭いダンジョン 〜で、最悪高慢エルフたちへの復讐が始まった件〜 作:菜種K
僕たちは、巨大な魔蛇の巣になっているトンネルの中にいるのだった。
魔蛇とは、魔力を持ち人を幻惑したり狂わせたりして、丸呑みにする魔獣だ。
しかも呑まれると、恐ろしくゆっくりと時間をかけて消化される。
獲物そのものと、その苦しみを何よりも滋養としているタチの悪い化け物なのだ。
太さ数十センチはある魔蛇の体は、トンネルの内壁に螺旋状に張り付いていた。
床も通っているので、気をつけないと踏んでしまう。
「どっちが頭かしら?」
チチェーラが言った。
「鱗の向きからすると……入り口の方が頭だな。横穴に首を突っ込んで眠っているんだろう。でなければ、トンネルに入ったところで襲われてたはずだ。とにかく、先に進むぞ」
キンジェラは指示したが、僕たちには気をつけるべきことがあまりに多かった。
お互い離れないよう注意しつつ、魔蛇の体に触れたり踏んだりしないように。
そして、急斜面のぬるぬるした床で足を滑らせることなく、できるだけ早く進まなければならないのだ。
しばらく行くと、魔蛇の体を避けるのが難しくなってきた。
動いている。
やがてはっきりと、巨大な魔物は鱗に包まれた体をトンネルの入り口へと移動させていった。
入り口から通路の方へ出て行ったのでなければ、体は折り返して──。
「こっちに来るかもしれない。後ろに気をつけろ」
キンジェラの懸念は当たった。
振り返ると、トンネルの入り口側の暗い闇に赤い目が二つ、はっきりと見えてきた。
「来たわ!」
チチェーラが叫んだ。
その声に答えるように、魔蛇が「シャー」という耳障りな音をたてながら一気に距離を詰めて来た。
「迎え討て!」
チチェーラとアハーレは、反射的に動いた。
リーダーの勇者を先頭に、魔法使い、尼僧の順に並んだ戦闘フォーメーション。
戦士である僕は、セオリー通りキンジェラをサポートするため彼女の横に並ぶ。
役に立たないのは分かっていたが──
アハーレが呪文を詠唱して先制の攻撃魔法をかけた。
だが、彼女の杖から走った閃光は魔蛇の頭をそれ、トンネルの壁に弾けた。
「しっかり狙え!」
キンジェラの叱責にすかさず第二射が放たれる。
今度は魔蛇の鼻面に生えた角を破壊することに成功した。
魔法使いは、まだ下半身が落ち着いていないのかもしれない。
迫り来る手負いの魔蛇を十分引きつけて、キンジェラが剣を構えた。
剣呑な毒牙を避け、目と目の間に強烈な突きを喰らわせる。
魔蛇は断末魔の咆哮をあげ、そのままトンネルの床に沈んだ。
案の定、僕の出番はなかった。
が──
巨大で恐ろしく長い魔蛇の体は、まだ死んでいなかった。
トンネルをかき回すようにメチャクチャに暴れ出し、僕たちを弾き飛ばそうとした。
「手をつなげ! 離れないように早くここから……!」
ここから走って逃げたいところだったが、僕たちは濡れた斜面に足を取られ、手を繋いだまま滑り落ちていった。
「ぎゃん!」
魔蛇の体に吹っ飛ばされたアハーレが、僕の手を離してしまった。
たちまち僕らはバラバラになり、またしても岩が動き出した。
ズズズズという腹に響く震動が、トンネルを揺るがす。
あちこちから岩のブロックが飛び出し、そのいくつかが魔蛇の体を押しつぶした。
生臭い匂いと大量の血が、僕たちに襲いかかってくる。
岩を避けながらトンネルを転がり落ちていった僕はチチェーラの体にぶつかり、その直後、真下に現れたブロックに激突した。
その上からチチェーラの体が落ちてきて、僕は意識を失いかけた。
ようやく岩の動きが止まり、パーティはまたしてもバラバラに閉じ込められた。