女神様に【真の】願いを叶えてもらいました。やったね!(ヤケクソ) 作:かりん2022
親友の家で食事をしていたら、薬を盛られている事に気づいた。
何故? どうして?
混乱する。
毒じゃない。
眠り薬だ。しかも僕に効かせるには少し弱い。
僕が気づかないとでも思ったんだろうか。
清照を見る。
いつも通り食事をしている。
いや。
少し緊張している?
僕の様子を気にしている。
でも罪悪感はなさそうだ。
何だ?
誰かに脅されている? いや、清照はそんな簡単に脅されるようなタマじゃない。
それとも、何らかの術を掛けられている? そんな、まさか……。
「どうしたの、柘榴」
「いや」
清照が笑う。
いつもの顔だ。
分からない。
突然の裏切りと、信じたい気持ちと。
清照が理由もなく僕に薬を盛るとは思えない。
でも、最近の清照は妙だった。ファミリーハウスの体制も変わったし、縛りを強要するようになったという。清照も何かを強要されてる側なのか。
ひとまず、僕は眠くなったフリをすることにした。
「ごめん、ちょっと眠いかも」
「そう? 疲れてるんじゃない?」
「かも……」
白々しい。
お前が入れたんだろ。
でも、もう少し様子を見る。
僕は用意されていた布団に横になった。
清照が毛布まで掛けてくれる。
「おやすみ、柘榴」
「……ん」
目を閉じる。
気配は消さない。
清照も動かない。
僕が眠るのを待っている。
しばらくして。
「……柘榴?」
返事をしない。
「寝た?」
返事をしない。
清照の顔が近づく。
息まで確認している。
なんなんだ。
僕を殺すつもりなら、もう少しマシな薬を使うだろ。
そもそも清照なら、僕を殺すためにこんな回りくどいことをする必要が――。
「今だよ、瑠璃!」
「しー! 草葉さん、静かに!」
…………。
瑠璃?
何故?
足音がする。
何人かいる。
敵意はない。
というか、小さい。
子供?
「本当に寝てます?」
「寝てる寝てる」
「神矢さん相手にその自信どこから来るんですか」
「神矢は私の用意するものなら無警戒に食べてくれるからね」
「それ本人に聞かれたら殺されません?」
「大丈夫だって」
おい。
聞いてるぞ。殺さないけど、今のところは。
「じゃあ神矢さん、ちょっと失礼しますねー」
瑠璃の声が近づく。
僕の腕を掴んだ。
何をする。
思わず反応しそうになるのを堪えた。
「重っ」
「そりゃ成人男性だからね」
「こっちに腕やりたいんですけど」
「こう?」
「そうそう!」
僕の腕が勝手に動かされる。
なんだこれは。
「琥珀、こっちおいでー!」
「はーい!」
「日長も!」
「はーい!」
キャアキャアと楽しそうな声。
布団が沈む。
僕の隣に小さな気配。
反対側にも。
「草葉さんも早く!」
「はいはい」
清照まで横になった。
…………。
本当に何をしてるんだ?
「もうちょっと神矢さんに寄って!」
「こう?」
「もっと!」
「近くない?」
「近い方がいいんです!」
「わかったよ」
清照の体温が近づく。
子供たちがその間でキャアキャア笑っている。
「琥珀は神矢さんの隣!」
「はーい!」
「日長は草葉さんの隣ね!」
「うん!」
「よし!」
何がよしなんだ。
「うわー……」
瑠璃が妙に感動した声を出した。
「草葉さん」
「うん」
「家族です」
「家族だね」
何が?
「やばい。すごい。めちゃくちゃいい。二人とも顔がいいから子供に挟まれてると破壊力がすごい」
「瑠璃、早く撮って」
「撮ります! 激写! 激写! いいよいいよー! かわいいよー!」
フラッシュ。
…………。
写真?
僕に薬を盛って?
写真?
「もう一枚!」
フラッシュ。
「琥珀、もうちょっと神矢さんにくっついて!」
「ぎゅー!」
小さな体が僕にくっつく。
「うおおおおおお!」
「瑠璃、静かに!」
瑠璃がこんなに興奮してるなんて初めて。
一体何をしているのだろう。
「草葉さんも日長ぎゅーして!」
「こう?」
「最高!」
フラッシュ。
キャキャキャキャキャ。
子供達の笑い声。
…………。
僕は今、とんでもなく警戒していた自分が馬鹿らしくなってきた。
裏切り。
暗殺。
脅迫。
術。
敵襲。
色々考えた。
全部違った。
こいつら。
家族写真撮りたくて僕に薬盛ったの?
というか、誰だよ琥珀と日長。
「もういいかな?」
「あと二十枚」
「撮りすぎだよ」
「選別するんです!」
「なるほど」
なるほどじゃない。
「よし! じゃあ神矢さんねんねするから、撤収しようね!」
「はーい」
「おやすみ、柘榴」
さーっと去っていった。
…………。
静かになった。
僕は目を開けた。
天井を見る。
「…………何がしたかったんだ、あいつら」
別に恥ずかしい写真を撮られたわけではない。
普通に寝っ転がっているところだけだ。
清照もいた。
子供もいた。
それだけ。
それだけのために。
僕に。
薬を。
「…………」
瑠璃はやっぱりよく分からない。
今日なんて全然様子が違った。
清照も最近ちょっとおかしい。
しばらく待ってみる。
どうせ起きたことはバレていない。
何か続きがあるかもしれない。
気配を探る。
清照と瑠璃は離れた。
子供たちも――。
いや。
一つ戻ってくる。
もう一つも。
小さな足音。
ぱたぱた。
「神矢おとーさん?」
…………。
何?
めちゃくちゃかわいい声がした。
僕は思わず目を開けた。
小さい頃の自分がいた。
「!??」
僕は跳ね起きそうになった。
寸前で止める。
何?
僕?
いや、子供。
四歳、五歳くらい?
髪も。
目も。
顔立ちも。
幼い頃の僕に、びっくりするほど似ている。
しかも肩には小さなドラゴン。
式神?
いや、何か違う。
「神矢おとーさん、起きてるよね?」
僕の顔を覗き込んでくる。
近い。
かわいい。
「…………」
「あっ」
目が合った。
「あっ、やっぱり寝たふりだった」
バレた。
「今日はありがと」
そう言って。
ポスッ。
胸に抱きついてくる。
…………。
何。
この。
可愛い生き物。
「君……」
「琥珀!」
「琥珀?」
「うん!」
琥珀。
さっき瑠璃が呼んでいた子か。
「僕のこと知ってるの?」
「知ってるよ。神矢柘榴! 琥珀のおとーさん!」
「…………」
待って。
お父さん?
僕が?
何故?
子供を作った覚えはない。
というか。
誰と?
「ダメだよ、琥珀。ねんねの邪魔いけないんだー」
もう一人が入ってきた。
僕はそちらを見る。
「…………」
清照。
小さい清照がいる。
何これ。
髪も顔も清照にそっくり。
こっちの頭の上にもプチドラゴン。
琥珀の肩からドラゴンが飛んで、清照似の子供の頭へ。
二匹のドラゴンは顔を合わせると、当たり前のように尻尾を絡ませた。
仲がいいらしい。
子供たちも当然のように隣り合って手を絡ませる。
僕と。
清照?
「君は?」
「日長」
「日長君」
「うん」
「清照の……?」
「草葉おとーさんの子!」
…………。
なるほど。
いや。
なるほど?
僕そっくりの琥珀。
清照そっくりの日長。
二人は一緒に暮らしている。
同じくらいの年齢。
仲がいい。
お揃いのドラゴン。
「君たち、兄弟?」
「きょうだい!」
「仲良し!」
二人揃って答える。
兄弟。
「…………」
僕と親友のよう。
いや待て。
なんだこれは。
「琥珀のお父さんは僕?」
「うん!」
「日長君のお父さんは清照?」
「うん!」
「…………君達は兄弟?」
「うん!」
二人同時に答えた。つまり両親は僕たち。そういうこと?
つまり、えっ どういうこと。
僕たち男同士だし、そもそも僕、清照とそういうことしていない。
式神? そんなバカな。いくらなんでも式神と人間の区別くらいつくぞ。
つまり……
どういうこと?
いや。
ファミリーハウスには色々な事情の子がいる。
清照が引き取った子供も多い。
その延長だ。
じゃあ本当の母親は?
琥珀の母親。
日長の母親。
兄弟というなら、同じ母親?
そういう可能性もある。そうだよな。だって僕たちは男同士だ。
つまり僕と清照が同じ女性との間に、それぞれ子供を作った?
…………。
いや。
ない。
僕には心当たりがない。
そもそも琥珀くらいの年齢の子供が生まれるような時期に――。
「神矢おとーさん」
「ん?」
「ぎゅーして」
「…………」
思考が吹き飛んだ。
「いいよ」
「わーい!」
ぎゅー。
小さい。
柔らかい。
あったかい。
なんだこれ。
めちゃくちゃ可愛い。
「お父さんいい匂い」
「そう?」
「大好き!」
胸を射抜かれた。
死ぬ。
何これ。
僕の子?
作った覚えないけど。
僕の子なの?
いや、こんなに僕に似てるんだから僕の子だろ。
僕の子でいい。
「琥珀だけずるい」
日長が寄ってくる。
「日長君も?」
「ぎゅー」
「おいで」
反対の腕で抱き寄せる。
こっちは清照に似ている。
すごく似ている。
小さい頃の清照を思い出す。
「…………かわいい」
「えへへ」
「神矢おとーさん、日長も好き?」
「好きだよ」
「やった!」
二人とも笑う。
かわいい。
なんだこの空間。
天国?
「さっき、なんで眠り薬入れたの?」
「ごめんね」
琥珀がしゅんとする。
あ。
そんな顔しないで。
怒ってない。
全然怒ってない。
「神矢おとーさんと草葉おとーさんと日長と四人で家族写真撮りたかったの」
「家族写真」
「うん」
「瑠璃ママが、絶対かわいいって!」
…………瑠璃?
「瑠璃はママなんだ?」
「そうなの。瑠璃はままですよーって言いながらミルクくれるの」
「そう」
やっぱり瑠璃はわからない。さっきの撮影の時といい、別人になってないか?
「草葉おとーさんもやりたいって!」
…………清照。
お前まで何やってるんだ。
「でも神矢おとーさんにお願いするのは申し訳ないって」
「だから薬?」
「うん……」
「薬盛る方が申し訳ないって思って欲しかったな……」
「草葉おとーさんと瑠璃ママめっする?」
「そうだね。勝手に薬を盛るのは良くないね」
二人はへにょんとする。
子供は悪くない。
悪いのは大人二人だ。
「ごめんなさいしたら許してくれる?」
「ちゃんとごめんなさいしたらね」
「ほんと?」
「ほんと」
「よかった!」
また抱きついてくる。
あまりにも可愛すぎた。
許す。
全部許す。
「神矢おとーさん」
「ん?」
「また遊びにきてね」
「…………」
「琥珀、おとーさん好き」
決めた。
絶対また来る。
というか。
何故僕が「遊びに来る側」なんだ?
僕の子なんだろ?
僕そっくりだし。
僕をお父さんと呼んでいる。
なのに清照が囲っている。
僕には存在すら教えずに。
しかも日長までいる。
清照そっくりの。
ものすごく可愛い子供。
「…………」
清照。
お前。
こんな宝物を二人も独り占めしてたの?
許せない。
僕は琥珀をぎゅっと抱き締めた。
日長もまとめて抱き締める。
二人がキャアキャア笑う。
かわいい。
欲しい。
僕の子供を作った覚えはない。
だが、どうやったかはさておいて、僕と清照の愛の結晶が二人、腕の中にいる。
僕は心に決めた。
宝を独り占めする極悪非道の清照から、僕の宝物を必ずや取り返してみせる。
親権は僕のものだ。
子供を作った覚えはないが、いるのだから奪うのだ!
マシュマロ
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